第13話 続・桐花の学校案内ツアー

★前回までのあらすじ

 前回何書いたっけ。毎回その場のノリと勢いで書いているので、書いた内容を忘れるのは仕方のないことなのであった。そう、それは自然の摂理なのだった。

 前回の話を確認したところ、前回は桐花がユーフラテスに学校を案内していた。さらに二人のボケに対して茨がツッコミを入れたところで終了しているようだった。だんだんと思い出して来たのだった。ところがネタ切れが頂点に達したため、しばらく放置している間にまたすっかり忘れてしまったのだった。


~本編~

 司書教諭・三上春子は激怒した。必ず、この傍若無人な生徒たちを除かねばならぬと決意した。

 春子は図書室の秩序を乱す三人の生徒たちの顔を眺め見た。立て続けに大声を上げた生徒の顔には見覚えがあった。確か何度か本を借りに来たこともあったはずだ。その時の印象は地味で大人しい生徒という印象で、とても図書室で大声を上げるような生徒には見えなかった。

 その隣にいる茶髪の生徒は、見るからに素行のよろしくなさそうな風体をしている。目立つ格好ではあるものの、その顔に見覚えはない。恐らく今まで図書室に訪れたことなどないのだろう。もしも過去に出会っているのなら顔ぐらいは覚えているはずだ。先の大声を上げた生徒とはまるっきち正反対のタイプだ。そして春子の苦手とするタイプだった。

 もう一人もまた特徴的だった。手品の本を手にしているその生徒は大きな丸い目と小さな鼻で、アラブともヨーロッパとも中央アジアともつかない特徴的な顔立ちをしている。

(日本人……? それとも留学生……? いや……それよりも……)

 春子はその生徒に猛烈な違和感を抱いた。その生徒の頭の上に、真っ黒なとんがり帽子が鎮座していたからだ。おとぎ話に出てくる魔女がかぶっている帽子にそっくりだ。そしてそれ以上に奇妙なのは周りの反応だ。制服と帽子という奇妙な組み合わせにも関わらず、周りの生徒たちがそれを気にしている様子はない。今時はこういうのが普通なのだろうか?

「えー? でもちゃんと『これであなたも魔法使い』って書いてますよー? つまりこれは魔法の指南書ということに……」

「魔法は魔法でもマジックの方だよ! その前に『簡単マジック入門』って書いてあんだろ!」

「そうでしたかー、それは残念ですねー。ここに書いてある『人体消失マジック』というのは転移魔法を完成させるヒントになると思ったのですが―」

「そんなこと書いてあんの!? マジック入門にしてはレベル高ぇな!」

 春子が考え事をしている間も、帽子の生徒と地味な生徒の二人は騒ぎを続けている。

「あなたたち! これ以上騒ぐのなら出て行きなさい!」

 春子は図書室の秩序を守るために意を決して叫んだ。


「いやー、まさか追い出されるとはねぇ」

 両腕を頭に回しながら他人事のように桐花がつぶやく。三人は司書教諭の怒りを買い、問答無用で図書室から叩き出されたのだった。

「しかし有意義な時間でしたよー。あれだけ多くの書物があれば、何か手掛かりに繋がる情報が見つかるかもしれませんからねー。それにこれも手に入りましたしー」

 そう言うとユーフラテスは例のマジック入門の本を桐花に見せた。

「あっ、結局その本借りたんだ」

「手始めにこの本から解読を進めてみようと思いましてー」

「……だからそれは手品の本で、魔法のことなんか書いてないって」

 覇気のない茨のつっこみにユーフラテスはやんわりと反論する。

「そうは言いますが、今は少しでも多くの情報が必要ですからねー。それに何が手掛かりになるかは分かりませんよー? 一見何の関係もない何気ない会話がヒントになることだって考えられますしー」

「確かに色々やってみるのは大事だよねー」

 ユーフラテスの言葉に桐花は腕組みをしてうんうんと頷く。

「はぁ……」

 二対一の様相に茨はそれ以上の反論を諦め、深い溜め息を吐いた。

「ところでばらちーは何でそんなに元気ないの?」

「茨さんはいつも元気ないですよー」

「それはそれで心配になるけど……」

「……」

 ユーフラテスの聞き捨てならない発言にも茨は反応を示さない。そんな茨の様子に桐花は疑問を口にする。

「今までだったらなら『何でだよ!』とか「いや、おかしいだろ!」とかお決まりのワンパターンツッコミを決めてるはずなのに」

「そう言われればそうですねー」

「……誰がワンパターンだ」

 茨はツッコミを入れたが、やはりいつものキレがない。茨は図書室で騒いで追い出されたことを気にしていたのだ。優等生で通っている彼女が騒ぎを起こしたのは今回が初めてだ。この一件が内申点に響くのではないかと茨は危惧していた。彼女は良くも悪くも常識的な小心者だった。

「やっぱ変だよ! どうかしたの? 何か悩み事?」

「それでしたらちょうどいい魔法がありますよー。悲しみや苦しみといった負の感情をたちどころに消してしまう魔法なのですが、いかがですかー?」

「へぇ、いいじゃんそれ! かけてもらいなよ」

「いや、私は別に……」

「効果はバツグンですよー。これで、悩みとは無縁でいられますからねー。それではいきますよー」

「一生……? 一生ってどういうことよ?」

 その言葉に引っかかった茨はユーフラテスに尋ねる。

「大したことじゃありませんよー。ただ死ぬまで強制的に脳内麻薬を出し続けるだけの魔法ですからー」

「死ぬまで強制的に脳内麻薬を出し続けるだけの魔法って何だよ!? 激ヤバじゃねーか! 何が大したことないだ!」

「でも、この魔法をかけられた方は一様に幸せそうな顔をしていましたよー?」

「強制的に脳内麻薬を出し続けてるからだよ! 早い話が廃人じゃねーか!」

「そーいえばずっと気になってたんだけどさー、何で異世界から来たのに日本語が通じるの?」

「今の話を聞いてよく平然としていられるな!?」

 茨は動じずに質問をした桐花に猛然とツッコミを入れた。

「いや、ばらちーもいつもの調子に戻ったみたいだからいいかなって」

「よくねーわ!」

「まぁ、それは置いといてさっきの質問の続きだけど、何で言葉が分かるの? まさか異世界の言葉も日本語……ってわけじゃないよね?」

 キレを取り戻した茨のツッコミを意に介することなく、桐花は話を続ける。

「魔法で翻訳をしているんですよー」

「翻訳?」

「耳に入った言語を瞬時に私の母国語に変換しているんですよー。喋る時はその反対に私の言葉をこの世界の言葉に変えてるってわけですねー」

「じゃあユーちゃんの耳には私たちの話してることが異世界の言葉で聞こえてるってこと?」

「そうなりますねー」

「いや、都合良すぎでしょ……」

 茨のつぶやきにユーフラテスが答える。

「बोलल सीखे में हमरा बहुते दिक्कत भइल.」

「どうした急に!?」

「おや、失礼。ポージュプリー語になってしまいました」

「どこの言葉!?」

「手当たり次第に学習していったので、たまにभाषा मिश्रित बाड़ी सऽ」

「混ざってる混ざってる! 最後の方何て言ったんだよ!?」

「何と言っているのか興味のある方は、G〇〇gle翻訳で調べてみてくださいねー」

「誰も興味ないわ! あと相変わらず伏せ字の体を成してねーな!」

「そーゆーことね。完全に理解した。要は新しく手品を習いたいってことでしょ?」

「全然違ーよ! 話聞いてた!?」

「そういうことならいいがあるよ! 40秒で支度しな!」

 そう言うと桐花は茨のツッコミを完全にスルーして駆け出した。ユーフラテスもその後に続く。

「だから……話を聞けよッ!」

 一人その場に残された茨は渾身の声でツッコミを入れたが、遠ざかっていく二人の背中にその声が届くことはなかった。

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魔法少女ユーフラテス ニューマター @newmatter

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