表面張力

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表面張力

字引には導き得ぬ名 何よりも「正しい」画が淡くふるえる


わたしにも惜しみなく散る星屑よ たわんだ弓と張り詰めた糸


ゆらり、のぞく襟足、伏せたまつ毛、のべた指先で撫でるララバイ


境界線刻むチョークを欠いたまましとどに濡れた肩の半分


自販機も億劫そうに涼を吐く あなたが透ける翼を持つ日


眼差しの揺らぎを盗む ティラミスと、ショートケーキの苺をあげる


肩に掛けるブレザーの重みと、小鳥のさえずりを、秤にかける


あなたがず、と啜る、啜った、もちもちとした、もちもちとしたタピオカ


雪だるまが溶けたこと、しゃぼん玉が割れたことにも、気付かせないの


不可逆はカーペットに染みた珈琲 真白の頬に知らしめぬよう


観て聴いて侵されるんじゃなく侵して流れていくの、ゆるさないで


白昼夢縫い舞うひとを人形と呼ばないために檻に戒む


一面のひかり、を踏み躙ることを正当化する数式はない


お砂糖とスパイス、その他(がらくた) 川原の小石のように削れた


シンプルな文は誰にも届く武器 夜たくさんの文字を殺した


レンジでチンした「おはよう」も自己流の押し花もすこし足りない


紫陽花は青でピンクで わたくしが植わりたいのはあなたの土壌


もし仮にあなたが陳腐を望むなら、月を尊ぶ言葉も紡ぐ


オブラートより真綿より沈黙に近くなるまでくるむ真心


永遠にしたかったもの 花びらが1枚欠けた桜のピアス

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