第3話 脱出
僕は感じたことのない恐怖に
瞳孔が開き、呼吸ができなくなるほど、歯はガチガチと嚙み鳴らす。
それを察したKが心配な面持ちで僕を正面から見つめる。
とめどなく溢れる涙を指で拭って、そっと抱きしめてくれた。
彼女の甘い香りに包まれていく。
僕は泣いていた。怖くて、悔しくて、こんな情けない僕を見せたくはなくて……
ない交ぜの感情は、入り乱れる心の雨を加速していく。
彼女の心音が、鼓動が、身体の同じ位置で伝わってくる。
Kも怖いに違いない。それなのに……
でもKは僕を守ろうと、努めて優しい声で包み込む。
「私を信じて。私があなたを守るから」
僕はその言葉を聞いて、彼女を特別な人として意識するようになった。
さっきまでの恐怖の色は、彼女へ
「煙草を吸っている時は、ガードが甘くなる。その隙にダッシュで逃げるよ」
涙を拳で払って頷くと、彼女のまっすぐで純真な目を、じゅわっと瞳の奥に焼き付けた。
「1・2……3!」
ドアを跳ね除け、Cたちとは反対方向へ全速力で駆けていく。
「あっ! コラ! 待ちなさい!」
後方で何やら叫び声が聞こえる。付き人の声だ。
「
足早に追ってくる草を踏み鳴らす音。
次第に近づいてくる予感。
タバコの処理で時間を要したはずなのに、その差は縮まっていく。
リュックが重い!
スピードが出ない!
怖くて絶対に振り向けない!
必死に恐怖を抑え込んでいた、その時だった。
突如、背後からピストルの乾いた
――その数、五発。
僕たちは耳を疑った。
「う、うそだろ⁉」
「正気じゃない‼」
幸い当たらなかったけど、僕たちの走る近傍の森からバサバサと鳥が羽ばたいて泣きながら逃げていく不気味な音へと変わっていく。
「振り向いたらダメ‼ 一気に駆けるよ‼」
先導するK。
僕はついていくので必死だった。
銃口から立ち上る
「チッ……ガキめ……」
女は諦め、元の来た道を辿りランドの敷地内へ戻ると、そこには恐ろしい形相の魔女が迎えるように立っていた。
「ヒィィッ‼」
「取り逃がしおって……こうなったら二人の水晶を介して制裁を与えるしかない」
「水晶をですか⁉ そうなればあのガキたちが……」
「構わん! やれ!
Cたちは執務室へ戻ってはドアの内側から鍵をかける。
クリスタルの制裁管理盤の中からアルファベットキーの【K】と【L】の遠隔ボタンを押して念を飛ばした。
――死体になっても、探し出して、売り飛ばしてやる――
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