第2話 生死
【
【天国に一番近い場所】との異称があり、心の中で強く思う願いごと一つだけを持って、天泣が舞い降りているその場所を訪れた時、願いは叶うという言い伝えがある。
ドナーランドにおける外出禁止の絶対の
「なんだか、ワクワクするね」
僕たちは調理場の倉庫にこっそり侵入して当分の間の食料と飲料とをKと一緒に無作為にリュックサックへ突っ込んでいた。
「これって泥棒なんじゃ……」
彼女は人差し指を口の前に立てて、周りを見てから僕の耳元で
「ランドにあるものはみんなのもの。だから大丈夫」
僕は一瞬寒気を覚えて、彼女の綺麗に汚れた顔を
気丈に振る舞う彼女はニッと不敵に笑って不揃いな白い歯を見せた。
そして私たちは姿を消すように調理場の裏側に身を隠す。
「ねぇ、これからどうやって脱出するの? 外の壁は高くて登れないから無理だよ」
僕は消え入るように弱音を吐くと、Kはここぞとばかりにチャンスを
「私にいい考えがあるの。もうじきCがこの近くを通って煙草を吸いに外へ出るわ。
その隙に逃げましょう。丘の途中で通る森なんだけど、夜は危ないから明るいうちに行くわよ」
その時、十五時を告げる鐘の音がランド全域に響き渡る。
それに引き合わせるように調理場から
付き人の若い女性一人を従えている。
きた! 本当に来た‼︎
思わず僕たちは顔を見合わせる。
ポケットに忍ばせたライターと葉巻とを手で
壁面に耳を傾けながら半分開いているドアへ視線を送っていると、そこから
空気の一部として吸い込んでしまった僕は、気管が締め付けられて
鼻と口とを左手で覆うと二人の会話が鼓膜を揺らす。
「あぁ、なんて忌々しい子どもたちなのかしら。今すぐにでも売り飛ばしてしまいたいわよ」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ。来週にはレアな腎臓を献上できるのですから。そうすれば多額の資金が流れてきますよ」
「フン、あたしゃもうここを引退する身だからね。みんなこの土地ごと焼かれて滅んでしまえばいいのさ」
付き人は怯えるように語を継ぐ。
「そ、そんな怖いこと言わないでくださいよ。レシピエント側がこれまでで過去最高額を拠出するっていう話なんですから、この案件だけは必ず成功させましょうよ……ね?」
鼓動が早くなる。
僕は思わずぶるっと震えあがった。
Kの言っていた話の内容が脳裏をよぎる。
やっぱり、僕たちは来週、この身をドナーとして捧げられて、死んでしまうんだ。
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