ぷにっ

東「・・・んんっ!!・・んんんっ!」


廃墟となったボーリング場はあちらこちらにピンが転がっており、壁にはスプレーの落書きが書かれている。東博一は椅子に縛られ身動きをとれなくなっており、目や口元が腫れ、血が流れている。


宮田「ん-ん-じゃねぇんだよなぁ・・はよはっきりしゃべれよなぁ・・?」


眉間に当てられた銃口は冷たく、丸い跡がつくほど強く押し付けられている。宮田は続けた。


宮田「あぁ・・口ふさいでるからそりゃなんも言えねえわな」


東「はぁ・・・はぁ・・・」


宮田「もーいいからさぁ、早く吐けよ?お前なんやろ?うちらの組の情報漏らしたの?」


東は沈黙を決め込む。


宮田「いやな?殴るほうだって痛ぇんだよ?できりゃぁなぁコレは使いたくねぇしさ」


銃に目線を向け、頭をかいた。


三島「宮さんもう撃っちゃってもいいっすか?こいつに聞いても意味ないっすよ」


三島はあからさまにうずうずしている。


宮田「まあぁあせんなや、話せばわかるもんや。なぁ東?ゆっくりでええんやで東?」


東「・・・・」


宮田「・・・んあもいい!待たれへんわ。ちょい優しくしてるからって調子に乗りやがって・・・」


何回も殴ってきたくせに、と東は思った。だがそんな暢気なことを考えてる暇はない、もう撃たれて死ぬのだ。死ぬこと自体怖くなかったが、逆に何も未練を感じていないということが悲しかった。


三島「いつまで黙ってるんや!なんか言えやタコ!」


東(あー死ぬ死ぬ。ここまでかー。)


宮田「じゃあな東」


引き金が軋む。


東の視界には三島の膝があった。そして目を瞑った。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




母「ヒロー?どしたのその傷ー?」


一生懸命取り繕ったが、母親のやさしい声が聞こえるとすぐ涙目になってしまった。


母「あんた転んだんでしょー?あーもう泣かないのっ」


こけてしまったという恥ずかしさと、泣いてしまったという情けなさで東は、顔をあげれなかった。


母「まあぁ靴脱いで上がりぃ、夏休みやからってはめ外しすぎんのよ?」


幼少期 東「・・・」








居間は風がよく通り、風鈴が涼しげだった。コップに注がれた麦茶は、氷をカランと鳴らす。


東は擦り剝けた膝を見て、また泣きそうになった。












幼少期 東「・・・いっ」


母「ごめんごめん!でも消毒しないとだめなのよ?」


幼少期 東「・・・」


母「がまんしてね・・・はいこれでおしまい!すぐ治るから大丈夫よ」


ひざに貼ってもらったのは少し高めのバンドエイド。これを貼れば早く治るのを知っている。痛々しい傷を隠す人工の皮膚のように見えるそれは、ぷにぷにもちもちしており、何回も突っついてしまう。


幼少期 東「・・・ぷにぷにしてる」


母「そうね、でもあんまり触っちゃだめよ?」


ぷにぷにするたびに感じる柔らかさは、母親の愛情に直接触れているようで心地よかった。






ぷにっ








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








東は目を見開き叫んだ。


東「ちょ!ちょ!ちょ!ストップ!ストップ!!!」


宮田と三島は急に叫びだしたことに驚き、動きを止めた。


宮田「なんだよ急にっ、今更命乞いか」


東は顎をくいっくいっとして、三島の膝を指した。


東「それ!それ!!膝のやつ!!バンドエイド!!!」


三島「っえこれ?」


三島は困惑していた。宮田も。


東「触らしてくれ!!!!!お願い!!!!!!!そのバンドエイドっぷにぷにさせてくれよ!!!!」


東は自分がわからなくなっていたが、どうにでもなれって感じだった。


三島「おい落ち着けよ!」


東「触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!触りたい!!!!」


宮田「なんだよ!頭おかしいんじゃねぇの!?!?」


椅子をがたがた揺らし駄々をこねる。


東「お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!!!!!」


宮田「三島!こいつ頭おかしくなってもうた!はよ撃ってしまえ!」


三島「でもっ!」


宮田「はよ撃て!!!!」














その瞬間、東の椅子が倒れ三島に倒れ掛かり、銃が暴発した。銃弾はたまたま宮田の頭を撃ち抜き、三島は地面にむき出しだった鉄の棒に刺さった。二人とも即死だった。










東は倒れた拍子に拘束が解け自由となった。目線の先には三島のバンドエイド。














ぷにっ
















東「・・・あ、こんなもんだっけ」

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右手にイタリア(短編集) 一藤 @yuyuyo_entame

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