机上の会話

白紙のノート。消しクズが散乱した机。「締切!」と書かれたカレンダー。













A「ねえ」


B「なに」


A「野球好き?」


B「あーやったことないかも」


A「そうなんだ、運動好きそうなのに」


B「そうか?」


A「僕結構好きなんだよ野球」


B「あんまりイメージないな、どれくらいやってたの?」


A「んー・・・どれくらい・・・か」


B「いや大体でいいんだけどさ」


A「どれくらいやってただろう・・・覚えてないけど結構うまいほうだと思うよ」


B「へー」


A「もともと球技全般が好きだからさ」


B「あ、そう」


A「運動とかしてなかったの?」


B「いやー苦手だなぁ、苦手というか・・・」


A「うん」


B「運動音痴過ぎて馬鹿にされてた・・・」


A「あぁそうなんだ・・・」


B「・・・気がする」


A「気がする?」


B「うーん・・・はっきり覚えていないんだよ、嫌な記憶過ぎて忘れてるのかも」


A「なるほどね」




B「そういえばなんでスポーツの話を?」


A「いやぱっと思いついたからさ」


B「あそう」


A「いいじゃん、雑談だよ雑談」


B「ま何もやることないしな」


A「友達とお話してるってだけで楽しいよ僕は」


B「急にきもいこと言うなぁ、でも友達か・・・うーん」


A「あれ友達じゃないの僕ら?あ、親友ってこと?」


B「友達も親友もあってるとは思うけど・・・」


A「けど?」


B「なんか早い気がする」


A「どういうこと?」


B「うーん、今は違うっていうか・・まだっていうか・・・」


A「???」


B「いやなんでもない、急に変なこと言ってゴメン、忘れて」


A「・・・いやでも、なんとなくそんな気がしなくも・・・」


B「いいよいいよ乗ってくれなくて!しょうもないことだったわ」


A「・・・」








B「それにしても暇だな・・・」


A「確かに・・何もやることがないね・・・」


B「何しよう・・・」


A「でもここじゃあ何もできないよね」


B「なんて殺風景な部屋なんだ!ここは!」


A「そうだよねー、なんで閉じ込められてんだろう僕ら」


B「変な部屋だよここ!床も壁も天井も真っ白だし、頭がおかしくなるわ」


A「映画のセットみたいだよね、もしくはドッキリ?」


B「しかもこういう閉じ込める用の部屋って普通立方体だろ」


A「?」


B「なんでちょっと細長い部屋なんだよ」


A「間取りはどうでもいいよ、映画の見過ぎだよ」


B「そ、そうだよな」


A「うん」


B「それより・・・」


A「そう、気づいた?この部屋、出口どころか窓すらないよ」


B「えええ、どうすんのこれ」


A「どうもできないね」


B「まじかよ・・・」


A「となると、僕たちってどうやってこの部屋に入れられたの?」


B「わかんねえよ」


A「うーん」


B「・・・冷静だな」


A「まあ焦ったって何もできないしね」


B「そうだけどさあ・・・」


A「気長に待とうよ、それこそ雑談とかしながらさ」


B「・・・そうだな」








A「僕らってつい最近まで小学生だったじゃん?」


B「え、おまえ小学生だったの!?」


A「この間までね、今は中学生。君も同い年だろ?」


B「ああ、俺もか」


A「そうだよ?もう」


B「・・・」


A「小学生の時の思い出とか聞かせてよ」


B「いやだよ」


A「えなんで?」


B「さっきも言ったろ、おとなしい性格だったんだよ」


A「あそうだったんだ、今と逆じゃん」


B「やめろよ」


A「中学デビュー?」


B「やめろって」


A「ははは」


B「だからうらやましかったよ、小学校のころお前のことが」


A「・・・?え、同じ学校だったの!?」


B「知らなかったのかよ、同じ小学校だぞ」


A「えー中学校で初めましてだと・・・」


B「ま無理もないさ・・・」


A「でも僕のことがうらやましかったってどういうこと?別に僕は今も昔もおとなしい性格だったよ?」


B「いやまぁそうなんだけどさ。お前運動神経よかったし、頭もよかったじゃん?そのくせかっこつけてなかったからミステリアスだったというか、天才オーラが出てたというか・・・」


A「あそう?そんな感じで思われてたんだ。へー」


B「まあ今もいまいちお前のことはつかめないけどな」


A「はは」


B「はは」


A「・・・」


B「・・・」


A「・・・それほんとに僕?」


B「・・・え?」


A「いや全然覚えてなかったからさ、昔のこと」


B「ええ、覚えてないの!?」


A「いや言われてから思い出したいうか・・・」


B「結構派手なことしてたじゃん!覚えてないの!?」


A「うーん・・・例えば?」


B「野球で変な打法でホームランしたり!」


A「あー」


B「サッカーで普通に手使っちゃったり!」


A「もういいよ、思い出した。そんなことしてたなぁ」


B「なんで忘れてんだよ、結構ブイブイ言わしてたじゃん」


A「ブイブイて・・・」


B「いや目立ってたよ?」


A「なんか、うーん」


B「ん?」


A「いや思い出しはしたけど・・・違和感が・・・」


B「違和感・・・?なに?」


A「思い出したというかなんというか」


B「??」


A「”それがあったことにされた”感じ」


B「はい?」


A「そんな記憶なかったのに、教えてもらった瞬間その記憶がすでにあったことにされているというか」


B「・・・」


A「急に過去の“設定”を植え付けられた感がある」


B「・・・」


A「うーん・・・」


B「・・・確かに・・・?」


A「そもそもさぁ」


B「?」


A「僕ら友達だっけ??」


B「ええ!?いや友達だろ?!」


A「これさ僕がさっき『友達とお話してるってーー』って言ったから、その瞬間に“設定”されたんじゃないの?君と僕が”友達”だってことを」


B「ええ、なんだよそれ、全然わかんねぇよ」


A「無理もないよ、だってテスト赤点とるくらい頭悪いもんね君」


B「ああ!?テストの点は関係ないだろ!?いくら俺が赤点をとっているからって・・・え?俺赤点とってるの?」


A「とってたじゃん、この前のテスト」


B「確かに、思い出した俺赤点とってたわ」


A「それ!」


B「!?」


A「ほら、忘れてたんじゃないよきっと。僕が『テスト赤点とるくらいーー』って言ったからそういう”設定”にされたんだよ」


B「えええ!!そういうこと!?」


A「たぶんそういうこと」


B「・・・これ夢か?夢の中か?」


A「違うとは思うけど、なんでも”設定”をいじれる世界だとしたら夢に近しいかもね」


B「すご!」


A「だとしても違和感は残るな・・・」


B「いやいやすごいことだろ!!やりたい放題じゃん!!」


A「放題かなぁ・・・」


B「放題だよ!だってお前の見た目、爆乳猫耳しっぽメイドだもんな!!!」


A「えっ・・・」


B「・・・」


A「・・・・」


B「なんも変わんないじゃん」


A「気持ち悪いな君、僕をそんな姿にしようとしたのか、がっかりだよ」


B「・・・いや待て!!お前猫耳としっぽ生えてるぞ!!!」


A「ええ!それはまずい!!!」


B「待ってました!!!こいこい!!」


A「やめてーーー」


B「・・・」


A「・・・・」


B「耳としっぽだけかい」


A「あぶなかった・・・」


B「なんだよ・・・」


A「でも何が条件なんだろう?自由に”設定”できるなら僕がメイドになってたはず・・・」


B「爆乳にもなってない」


A「・・・」


B「・・・ごめんて」


A「・・・お?」


B「ん?」


A「“設定”するにおいて猫耳しっぽは”採用”されて、その他は”却下”されたってことかな?」


B「???」


A「ちょっと難しいこと言うんだけどいいかな?」


B「おう、なに?」


A「『シミュレーション仮説』って知ってる?」


B「シュ趣味・・何??」


A「『シミュレーション仮説』。簡単に言うと”僕たちはシミュレーションゲームの中の存在で、僕たちの人知を超えた何かに管理されているかもしれない”みたいな仮説のことだよ」


B「ほーん?」


A「なんか今の状況って”キャラクター設定”近くない?」


B「まあ確かに・・・?」


A「だから僕たちのキャラクターを”設定”するにおいて、僕たちの上位存在的な何かが”採用”と”却下”を選択したんだよ」


B「だとしたら、なんで猫耳は採用されたの?」


A「わかんない。わかんないけどきっとお気に召したんだと思うよ。ほら、君にも尻尾と猫耳が生えている」


B「わ!!ほんとだ!!猫耳とか生えてきてる!!でもお前には生えるよう願ったけど、自分自身には願ってないぞ?」


A「いやたぶん猫耳としっぽに関しては”キャラクター設定”じゃないな」


B「といいますと?」


A「猫耳としっぽは”世界観の設定”だね。よっぽどこの設定が気に入ったんだろう、この世界は猫耳としっぽが生えていることが普通なんだ」


B「えええムズイって!!」


A「なんとなくわかってきたぞ・・・」


B「そもそも誰だよ上位存在って!!怖いよ!!」


A「上位存在というか”作者”かも」


B「”作者”!?作者ってどういう・・・」






A「・・・!!」


B「うわわわぁ!!!!!!なんだこれ!?!?!?!?何が起こってんだよ!?!?!?」


A「壁が動き出した!?なんでこの一面だけ動いてるんだ!?どんどん部屋が広くなっている?」


B「怖い!!!!!」


A「止まった。部屋が二倍ぐらいの広さになったぞ・・」


B「おいおい!これはどういうことだよ猫田!!!さっきのなんちゃら仮説が関係してるのかよ!?」


猫田「いや、これはわからな・・・今なんて言った?」


B「いやさっきのなんちゃら仮説が・・・」


猫田「いや名前・・僕の名前は・・・猫田・・・?」


B「確かに!!俺お前の名前を・・・・お、俺の名前はわかるか・・?」


猫田「み、みつ・・満植・・・?」


満植「そう!!そうだよ!!!俺は・・ん?みつうえ?・・うん!満植だ俺!!」


猫田「これは・・・設定が決まってきたのかな・・・?」


満植「うおお!!!!なんかいろいろ思い出してきた!!!」


猫田「筆が乗ってんね・・・”作者”」


満植「!?物が部屋に増えていく!?」


猫田「周りの”設定”も決まってきたね」





満植「うっ!!!!・・・・」


猫田「どうした?」


満植「・・・あ、ね、猫田君・・久しぶり・・・」


猫田「・・・え?」


満植「はは・・よろしく・・」


猫田「ああなるほどそういうことね、今は”まだ”だもんね」


満植「??」


猫田「いやいいんだ、何でもない」


満植「あ、はい」


猫田「じゃあそろそろだと思うんで僕はこれを持っていきます。君はその格好に着替えておいてくださいね」


満植「わ、わかりました」


猫田「じゃそろそろいきますか・・・」


満植「はい・・・・」








机には開かれたノート。開かれている2ページはイラストや文字で埋め尽くされている。











数週間後。


小学生向け漫画雑誌、月刊メラメラコミックで新連載が始まった。




天才少年てんさいしょうねんあらわる!?誰だれもがおどろく!?」


新連載しんれんさい一球いっきゅうニャーこん!マタタビくん!」




コミカルな二頭身のキャラクターである猫田マタタビと満植カンタロウ。アイデアから解放され、人生を与えられた彼ら。彼らは漫画のコマの中。

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