第8話 未来の宝島
マナティとミオは、未来の姿が段々明らかになって来ると、二人で解読を進めるのが少しずつ苦しくなっていた。
そこで、ミオにも声をかけて三人で進めることにした。
まだ余力のあるハルは、元気のない二人に念のため確認した。
「17章・18章は、以前に確認した多くの水の上に座っている大淫婦 すなわち 拝金資本主義 に対する裁きに関する内容だからもういいよね?」
「そうだね。じゃあみんな一息ついてから、次の19章に移ることにしよう。」
マナティがコーヒーを淹れながら答えた。
第19章
『この後、私は天の大群衆が大声で唱えるような声を聞いた、[ハレルヤ、救と栄光と力とは、われらの神のものであり、その裁きは、真実で正しい。神は、姦淫で地を汚した大淫婦を裁き、神の僕たちの血の報復を/彼女になさったからである]。
再び声があって、[ハレルヤ、彼女が焼かれる火の煙は、世々限りなく立ちのぼる] と言った。
すると、二十四人の長老と四つの生き物とがひれ伏し、御座にいます神を拝して言った、[アァメン、ハレルヤ]。
その時、御座から声が出て言った、[全ての神の僕たちよ、神を畏れる者たちよ。小さき者も大いなる者も、共に、我らの神を讃美せよ] 。
私はまた、大群衆の声、多くの水の音、また激しい雷鳴のようなものを聞いた。
それはこう言った、[ハレルヤ、全能者にして主なるわれらの神は、王なる支配者であられる。
私たちは喜び楽しみ、神を崇めまつろう。小羊の婚姻の時がきて、花嫁はその用意をしたからである。彼女は、光り輝く、汚れのない麻布の衣を着ることを許された。
この麻布の衣は、聖徒たちの正しい行いである]。
それから、御使いは私に言った、[書き記せ。小羊の婚宴に招かれた者は、幸いである] 。
また私に言った、[これらは、神の真実の言葉である] 。
そこで、私は彼の足元にひれ伏して、彼を拝そうとした。
すると、彼は言った、[そのようなことをしてはいけない。私は、あなたと同じ僕仲間であり、またイエスの証人であるあなたの兄弟たちと同じ僕仲間である。
ただ神だけを拝しなさい。
イエスの証しは、すなわち預言の霊である]。
また私が見ていると、天が開かれ、見よ、そこに白い馬がいた。
それに乗っているかたは、[忠実で真実な者] と呼ばれ、義によって裁き、また、戦うかたである。
その目は燃える炎であり、その頭には多くの冠があった。
また、彼以外にはだれも知らない名がその身に記されていた。
彼は血染めの衣を纏い、その名は[神の言] と呼ばれた。
そして、天の軍勢が、純白で、汚れのない麻布の衣を着て、白い馬に乗り、彼に従った。
その口からは、諸国民を打つために、鋭い剣が出ていた。
彼は、鉄の杖をもって諸国民を治め、また、全能者なる神の激しい怒りの酒ぶねを踏む。
その着物にも、その腿にも、「王の王、主の主」という名が記されていた。
また見ていると、ひとりの御使が太陽の中に立っていた。
彼は、中空を飛んでいるすべての鳥に向かって、大声で叫んだ、[さあ、神の大宴会に集まって来い。
そして、王たちの肉、将軍の肉、勇者の肉、馬の肉、馬に乗っている者の肉、また、すべての自由人と奴隷との肉、小さき者と大いなる者との肉を食らえ] 。
なお見ていると、獣と地の王たちと彼らの軍勢とが集まり、馬に乗っているかたとその軍勢とに対して、戦いを挑んだ。
しかし、獣は捕えられ、また、この獣の前でしるしを行って、獣の刻印を受けた者とその像を拝む者とを惑わしたにせ預言者も、獣と共に捕えられた。
そして、この両者とも、生きながら、硫黄の燃えている火の池に投げ込まれた。
それ以外の者たちは、馬に乗っておられるかたの口から出る剣で切り殺され、その肉を、すべての鳥が飽きるまで食べた。』
みんなが19章を読み終えると、マナティが質問した。
「19章は『小羊の婚姻』について記されているよね。これは何を意味しているんだろう?」
「『小羊』とはイエスキリストを意味してるわよね。そして、イエスキリストはソロモン王の仮の姿だとしたから『ソロモン王の結婚式』じゃない?」
ミオがアンディの持論を引用して答えた。
「そうだよね。だから、『その口からは、諸国民を打つために、鋭い剣が出ていた。』わけだ。四国徳島の剣山とはそういう意味か。じゃあ、その花嫁は誰なの?」
マナティが剣山のことを思い浮かべながら質問した。
「19章には明確には記されていないけど、伝説の通りだとすれば、私は『シバの女王』だと思うわ。」
今度はハルがアンディの持論を付け加えて答えると、マナティはさらに四国徳島の言い伝えを引用しみんなに時空を超える質問を投げかける。
「四国徳島には『卑弥呼』の墓があるという言い伝えもあるよね。ひょっとすると、『卑弥呼』と『シバの女王』は同じ人物なのかな?」
「私にはわからないけど、そうかも知れない。そして、彼らの霊が私たちに新しい歌を歌うよう導いているんじゃないかしら?」
ミオは否定することもなく、時空を超越した存在に見えた。
「そういうことか。だから、君が波照間島で『第二の創造』だと言ったんだね。」
「私はあの時自分では意識していなかったけど、自然に口からその言葉が出て来たの。そう言えば、安藤先生だって、エジプトでソロモン王になった夢を見たって言ってたわよね。」
「そうだね。安藤先生にしろ、ミオやマナティだって・・・、私たち神の摂理によって集められたのかも知れないね。」
ハルがそう言って相槌を打った。
「もう一つ聞いていい? 太陽の中に立っている御使いが、中空を飛んでいるすべての鳥に向かって、『さあ、神の大宴会に集まって来い。そして、王たちの肉、将軍の肉、勇者の肉、馬の肉、馬に乗っている者の肉、また、すべての自由人と奴隷との肉、小さき者と大いなる者との肉を食らえ』と叫ぶけど、これってどういうことかなあ?
まさか猛禽類などに人間の肉を食わせることはしないと思うけど。」
マナティの更なる質問は続くが、ミオは的確にアドバイスする。
「そうね。これも何かの比喩だろうね。まず、『鳥』と『肉』が何を指しているかだよね。」
「『馬に乗っておられるかたの口から出る剣で切り殺され・・・』と書いてあるから、言葉で殺されるということだよね。」
「マナティ、感が冴えてるね。私もそう思うよ。キリスト教の信者は皆いい意味でイエスキリストの言葉に切り殺されたんじゃないのかな。」
ハルが答えた。
「じゃあ、その殺された信者が鳥に食べられる肉とは何?」
マナティの質問に対して、今度はミオが逆に質問を返す。
「人間、肉が無くなったら何が残る?」
「骨じゃない?」
やはりミオのアドバイスがマナティを導いてくれる。
「そうだよね。骨 つまり スケルトンだよね。だから、ガラスの海と同様ガラス張りになっちゃうんじゃないかしら。」
「それって、この前話してたような拝金資本主義の対極にあるやつかな?」
ハルも気づいて答えた。
「そう、その通り。
名付けると正直資本主義みたいなものかな?
16章に『見よ、私は盗人のように来る。裸のままで歩かないように、また、裸の恥を見られないように、目をさまし着物を身に着けている者は、幸いである。』と記されていたよね。
だから、聖徒は肉を食べられてスケルトンにならないように『真実』という白い麻布の衣を身に着けているんだと思うわ。」
ミオの解説にさらにマナティの質問攻めは続く。
「なるほどね。だけど、『肉』を食べる『鳥』とは何を意味するの?」
「『鳥』と言えば一般的に空を飛んで鳴く存在よね。だから鳥のように空を飛ぶ電波で人々に告げる存在じゃないかしら? 以前に『アド・バード』という宣伝告知する人工鳥のSF小説を読んだことがあるわ。」
ミオがそう答えると、ハルがさらに付け加えた。
「それって、放送とかネットで伝えられるソーシャルメディアのことを言ってる?」
「そうかもね。でも、自分やどこかの利益のために伝えるんじゃ拝金資本主義と同じになっちゃうから、内部告発も含めて社会が認める正義のために真実を告げる存在でないとだめだと思うけどね。」
ミオはやっぱり正義の味方なのだ。
「そうだね。どこかの利益のための単なる圧力団体とかじゃだめだよね。でも、それじゃあ今とあんまり変わらないような気もするけど・・・。」
マナティが少し懐疑的にコメントすると、ミオも少し疲れたような顔をして言った。
「うーむ、確かに。じゃあ、もっとガラス張りにする仕組みを言っているのかもね。」
そんな具合で明確な結論にまでは至らなかったが、マナティたちは一応19章の解読を終えることにした。
第20章
『・・・イエスの証をし、神の言を伝えたために首を切られた人々の霊がそこに居り、・・・彼らは生き返って、キリストと共に千年の間支配した。・・・千年の期間が終ると、サタンはその獄から解放される。
そして、出て行き、地の四方にいる諸国民、すなわちゴグ、マゴグを惑わし、彼らを戦いのために召集する。
その数は、海の砂のように多い。
彼らは地上の広い所に上ってきて、聖徒たちの陣営と愛されていた都とを包囲した。
すると、天から火が下ってきて、彼らを焼き尽した。
そして、彼らを惑わした悪魔は、火と硫黄との池に投げ込まれた。
・・・また見ていると、大きな白い御座があり、そこに居ます方があった。
天も地も御顔の前から逃げ去って、跡形も無くなった。
・・・また、死んでいた者が、大いなる者も小さき者も共に、御座の前に立っているのが見えた。
数々の書物が開かれたが、もう一つの書物が開かれた。
これはいのちの書であった。
死人はその仕業に応じ、この書物に書かれていることに従って裁かれた。
・・・このいのちの書に名が記されていない者はみな、火の池に投げ込まれた。』
第21章
『私はまた、新しい天と新しい地とを見た。
先の天と地とは消え去り、海もなくなってしまった。
また、聖なる都、新しいエルサレムが、夫のために着飾った花嫁のように用意をととのえて、神のもとを出て、天から下って来るのを見た。
・・・乾いている者には、いのちの水の泉から価なしに飲ませよう。
・・・その都の輝きは、高価な宝石のようであり、透明な碧玉のようであった。
・・・都の門は、終日、閉ざされることはない。
そこには夜がないからである。・・・』
第22章
『御使いはまた、水晶のように輝いているいのちの水の川をわたしに見せてくれた。
この川は、神と小羊との御座から出て、都の大通りの中央を流れている。
川の両側にはいのちの木があって、十二種の実を結び、その実は毎月みのり、その木の葉は諸国民をいやす。
夜は、もはやない。灯りも太陽の光もいらない。主なる神が彼らを照し、そして、彼らは世々限りなく支配する。』
それから数日後、三人は再び気を取り直して、20章からの解読に挑んだ。
「私もキリスト教徒だけど、死んだ後に生き返ってキリストと共に千年を生きることが出来るのかしら? 」
ハルが、20章を読みながら、ふと呟いた。
「1000歳のハル? それって魔女じゃない? ちょっと怖い気がする。」
ミオが笑いながら答えた。
「そうね。1000年生きたらどうなるのかしら? それこそ、ミオの生き血を吸って若返えらないとね。ヒッヒッヒ。」
「やめてよ、気持ち悪い。怖い夢見そう。」
「君たちつまらないことばかり言ってないで、ちゃんと解読してくれる?」
マナティが大真面目な顔で二人の戯れ言を遮ったので、ハルが弁明した。
「ゴメンゴメン。つい想像しちゃって。でも、生き返るって言ってるから、生身の人間に戻るってことでしょ?」
「そうだよね。1000年以上生きるってことは、不老不死の技術が確立しているってことかな? IPS細胞なんかの技術がもっと進んで行ったらそんなことも夢じゃなくなるかもね。」
「ミオ、いいよ。その調子。でも、もう少し先の未来かな? でも、その前にどうやって生き返るの?」
マナティがミオを茶化しながらさらに質問した。
「それなんだよね? 死人を生き返らせる技術なんて、それこそ魔法とかだよね。」
ミオが少し困った顔をして答えると、マナティも持論を展開した。
「僕は仏教なんかにある輪廻の思想がその根底にあるような気がするんだけどなあ。」
「輪廻かあ。じゃあ、身体は朽ちても魂は生き続けるという考えなんだね。」
ミオが賛成すると、マナティはさらに続けた。
「そう、そして、ある時新しい命を貰って赤ん坊として誕生するってこと。」
「それ、生まれ変わりってやつね。それがキリスト教でいう『復活』を意味しているってことか。」
ハルが納得してそう付け加えた。
すると、マナティがまたしても時空を超えて発言した。
「じゃあ、そのうちにイエスキリストの生まれ変わりが誕生するわけだ。」
「そう、結構イケメンで芸能人になったりして・・・ハハハ。」
ミオが茶化し気味に応じると、さらにマナティが聞いて来た。
「でも、その1000年後にはサタンも生まれるってこと?」
「黙示録の記述だとそういうことになるのかな? いや、待って。サタンは御使いだからあくまで霊的存在でしょ。だから人間としては生まれて来ないんじゃない。」
ハルが真顔で答えると、マナティの質問攻めが続く。
「なるほどね。じゃあ、『新しい天と新しい地』っていうのはどういう意味だろう?」
「その前にサタンが招集した軍勢と聖徒たちが戦うんでしょ? そして、天から下ってきた火で焼き尽されるって書いてあるよ。」
ミオはマナティの質問を遮って、順を追って議論するよう促すと、マナティは新しい質問を繰り出した。
「そうだったね。じゃあ、その天から下って来る火とは何だろう?」
「巨大な隕石とかかなあ? アルマゲドンの映画みたいに・・・。」
ハルが答える。
「隕石かあ。なるほどね。それで、住めなくなって新しい星に移住するんじゃない? だから新しい天と地になるわけだ。」
マナティも納得。
「おう、そう来たか。」
ミオが笑いながら応じた。
「でも、地球だって太古の昔に恐竜が絶滅したのは隕石の落下で太陽光が遮られて寒冷化が進んだためだって聞いたことあるよ。
そして、その後に人類が登場する訳でしょ。だから、地球に住み続けていて、隕石落下の影響が収まった頃に新しい天と地が見えて来るということかも知れないよね。」
ハルがそう答えると、ミオが突っ込む。
「でも、海も無くなるって言ってるよ。」
「寒冷化で海も凍るわけよ。」
ハルが困った顔をして苦し紛れに答えると、ミオがさらに突っ込む。
「それならそう書くでしょ。」
「そうかあ、じゃあ、熱で蒸発?」
ハルが別の案を出すと、ミオがさらに答えた。
「違うよ。温暖化が加速するのよ。隕石の衝突熱であちこちに森林火災などが乱発して急激な気温上昇が発生し、海が蒸発して宇宙に水蒸気が逃げて行って金星みたいになっちゃうんじゃない?」
今度はハルが突っ込む。
「それ、寒冷化と逆じゃない?」
ミオは負けじと代案を提示する。
「いや、その後厚い雲に覆われて太陽光が遮断されるため寒冷化が急速に進むということ。つまり、2段階の過程を経るのよ。」
そこへマナティが再度持論を持ち出す。
「君たち、ちょっと話が散漫になって来てるよ。やっぱり移住じゃない? 『いのちの書』に書かれている人だけ助かるみたいだから、移住できる人をいのちの書で選別するんじゃない?」
「おお、それ凄いね。SF映画みたいじゃない? でも、どこに移住するの?」
ミオが突っ込む。
「多分その頃は月や火星なんかに基地作ってると思うから、その辺かな?」
マナティがそう答えると、ミオの容赦ない追及の質問が飛ぶ。
「基地の中にそんなに多くの人を輸送したり居住できる空間を確保したりできるの?」
「そう言われればそうだね。じゃあ、どうすればいいの?」
マナティはあっさりと持論を取り下げてミオに質問した。
「私はやっぱり地球上に住み続けると思うわ。
巨大隕石の話だけど、以前にNASAが小惑星の軌道変更実験をやって成功したと思うけど。だから、将来的には隕石衝突は避けられるんじゃない?」
「そうかあ。じゃあ隕石落下の仮説は置いといていいかな?」
マナティがそう納得すると、ハルも同意した。
「そうね。聖徒が勝利する訳だから、さっきの『天から下ってきた火』が何を意味するかは取り敢えず置いといても大丈夫じゃない?」
ということで、隕石説は取り下げられ、次は海が無くなるという件についての議論となった。
「それより海が無くなるっていうのが大変だと思うの。
これってやっぱり今起こってる温暖化の延長線上の問題だと思うわ。
現在の温暖化ペースで対策を打たなかったら500年後には臨界点を越えて水蒸気が宇宙空間に放出されていくことになるっていう記事を見たことあるわ。
そうなると、少なくとも1000年後には海の水も干上がってしまうんじゃない?」
ミオがそう持ち出すと、マナティも応じた。
「隕石落下が無くても結局同じ道を辿るわけか。」
「そうね。だから今国連なんかも一生懸命脱炭素化を進めようとしている訳でしょ。」
ハルもそう応じると、マナティが海の無い未来を想像してみた。
「そうだね。でも、今のままだと結局金星みたいに二酸化炭素に覆われて、地上には住めなくなるんじゃない?
第一海が無くなったら世界はどうやって経済活動なんかを進めるんだい?
海産物は食べられないし、飲料水の確保もできるかどうか、世界中が砂漠化してしまうんじゃない?」
ミオもそれに賛同して次のように付け加えた。
「そうね。人間だけじゃなく動植物はみんな水が無いと生きられないしね。
黙示録の『新しい天と地』って逆説表現じゃない?
ソロモン王とイエスキリストが同一人物だとしたらこれも一種の逆説表現よね。
今のように拝金資本主義を継続していたら恐ろしい未来が待っているということを天国のように素晴らしい世界だと形容して表現しているんじゃない?
もし、黙示録に記された未来をそのままに実現しろというのなら、それは欧米の浪費文化の押し売りじゃない?
そんな宝島なら私は要らないわ。
いのちの書に載ってない人が火の池に投げ込まれるのはわかるけど、いのちの書に載っている人だって、そんな砂漠みたいな世界で欲しい人には対価なしに美味しい水や果実を提供してくれるわけないでしょ。
それに夜が無いというのは一日中人工太陽か何かで照らすのかも知れないけど、人間は夜に寝ないと睡眠不足でおかしくなっちゃうよね。
高価な宝石のようなという表現だって、以前のバブル経済たけなわだった頃に流行った24時間眠らないどこかの欲望の渦巻く街みたいだね。」
「そうだね。僕はやっぱり美味しい水や空気や食べ物に満たされて、美しい自然が織り成すかけがえのない地球に住みたいな。
いくらロボットやAIや乗り物が進化して、宇宙に出かけて行っても、未来の人だって同じことを望むんじゃない?」
「私もマナティの意見に賛成。やっぱり人間は人間らしい生活が一番よ。」
ハルもそう言ってみんなに同意した。
「ねえ、ちょっと待って。前に形容した『海』って各国間を輸送手段で繋ぐ流体媒体の他に流動的な物流やインターネット通信などを含む商取引市場全般を指すとかって言ってなかったっけ?
私たちが波照間島で観た光景も、黙示録には『ガラスの海』って記されていたわよね。
前にマナティとも議論したんだけど、つまり、澄み切った紺碧の海と、ガラス張りのインターネットや輸送手段でつながる商取引市場のことを重ね合わせて暗示しているんじゃない?」
ミオがそう言うと、マナティも続けた。
「そうかあ、そうかも知れないね。つまり、拝金主義的商取引市場から正直主義的商取引市場への転換ってことだね。」
「そうよ。その通りだわ。」
ハルもみんなの意見に賛同し、次のように質問した。
「そのためには私たち何をすればいいの?」
「まず地球環境を守るために脱炭素化の取り組みを加速する。
それと同時に地磁気逆転などの影響を最小限に留めるために、電力の地産地消を推進する。つまり、電力の分散化だよね。
衛星通信や携帯電話の基地局だって、その供給電源のバックアップや、無線通信障害のバイパス網を既存の有線・無線通信だけじゃなく、電磁的障害に強い光ファイバー通信なども使って整備する必要があると思う。
そして、権利者以外は商取引市場を触ることはできないとしても、SNSも含めて誰が情報やネット攻撃の発信源で、誰が売り手で、誰が買い手かなど公に一般の人がガラス張りで見えるようにすることだよ。
それに、来るべき巨大地震に備えてハード/ソフト両面での抜本的対策も急務だよね。」
マナティがそのように力強く語ると、ミオがエールを送ってくれた。
「そうね。やることは山積みなんだね。でも、マナティ技術分野に詳しいんだね。何か見直しちゃった。負けないで!」
「そりゃあ、僕だって理系大学出身の技術者の端くれだし、宝探しには結構雑学的技術知識が必要なんだよ。工学博士の安藤先生にはかなわないけどね。」
「ところで、安藤先生は最近アクセスが無いけどどうかしたの?」
ハルが質問すると、マナティが答えた。
「君たち知らなかったのか。先生は今具合が悪くて寝ているよ。熱が下がらないみたい。」
「そうなんだ。今度お見舞いに行かなきゃね。」
ハルとミオが顔を見合わせてそう言うと、マナティが応じた。
「今は行っても会えないかも・・・。」
それから数日後、ハルがミオとマナティに連絡してきた。
「先生結局入院したみたい。私たちの病院よ。どうも、新型コロナウイルスっていう新種のウイルスに感染しているみたいで、病院で隔離されているわ。」
それからさらに2週間が経った頃、晩秋の柔らかな日差しを受けてアンディの葬儀がしめやかに執り行われた。
喪主を務めた寛実夫人はもとより、葬儀に参列したマナティたちも、隔離された遺体を見るにつけ涙が止まらなかった。中でもハルの悲嘆ぶりは激しく、一日中泣き通していた。
「先生が拳銃で撃たれて入院した時、何としてでもこの人を助けなきゃと思ったのよ。元気になってくれて本当に喜んでいたのよ。なのにこんなに早く逝ってしまうなんて・・・。」
「そうだよね。ハルにとって先生は大切な患者さんだったものね。」
ミオがハルの気持ちを察して気遣ってくれると、ハルも少し元気を取り戻したようだった。
「でも、この本を書き上げてきっと天に召されたのね。ヨハネが観た甘くて苦い巻物とはこのことだったのかも知れない。」
彼が書き残した書物は遺言で全ての人に行き渡るように無償で配布するようにとのことであった。
マナティとミオ、そして、ハルはネットを通じて、内容を公開し、紙の書物が欲しい人のために配布の受付サイトも立ち上げ、欲しい人には好きなだけその言葉の泉の水を飲ませてあげることにした。
そして、アンディ亡き後、マナティたちは証人として日本中各地を旅しては公演して廻り、新しい歌を歌った。
それは誰もが見聞きしたことの無い全く新しい『ある愛の詩』だった。
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『ヨハネの黙示録』の要約と預言内容の推定年代
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【第1~5章】
ヨハネへ黙示があった経緯と7つの教会宛てへの指導教化内容
天に設けられた御座とその周りの光景描写、御座にいる方の持っている7つの巻物とその封印を解く権利が小羊に渡される
【第6章】 11世紀頃~? (根拠: 11世紀からの十字軍遠征と符合 1138年8月9日にシリアのアレッポ地震 サロス周期による推定で1140年11月頃に同地域で皆既日食)
小羊が第1~6の封印を解く
<第1の封印> 白い馬 <第2の封印> 赤い馬 <第3の封印> 黒い馬
<第4の封印> 青白い馬 <第5の封印> 白い衣が渡された神の僕
<第6の封印> 『大地震』 が起って、太陽は毛織の荒布のように黒くなり、月は全面、血のようになり、天の星が地に振り落される
【第7~8章】 16世紀頃~? (根拠: 大航海時代のイエズス会のキリスト教布教と符合 布教先にもあたる日本で1707年の宝永地震と富士山の宝永大噴火)
日の出る方(日本?)から御使いが現れ、神の僕の額に印を押すまで第7の封印を解くのを待つよう呼ばわる
別の御使が出てきて、金の香炉に祭壇の火を満たして地に投げつけると、多くの雷鳴と、もろもろの声と、稲妻と、 『地震』 とが起った
七つのラッパを持っている七人の御使いが、それを吹く用意をし、小羊が <第7の封印> を解くと、第1~4の御使いがラッパを吹いた
<第1のラッパ> 血のまじった音と火が地上に降って地の三分の一が焼け木の三分の一が焼ける
<第2のラッパ> 火の燃え盛っている大きな山のような物が海に投げ込まれ、海は血となり、海の中の生き物は死に、舟が壊される
<第3のラッパ> 松明のように燃えている大きな星「苦よもぎ」が空から川とその水源の上に落ち、水が苦くなり多くの人が死ぬ
<第4のラッパ> 太陽の三分の一と月の三分の一と星の三分の一とが打たれて、これらのものの三分の一は暗くなる
【第9章】 18世紀頃~? (根拠: 18世紀イギリスでの石炭工業化とその公害描写及びコークスによる鉄量産化に符合 19世紀の欧州の戦争と20世紀初頭の第一次世界大戦勃発)
<第5のラッパ> 一つの星が天から落ち底知れぬ所の穴から大きな炉の煙が立ち上り太陽も空気も暗くなる。
<第1の災い> は過ぎ去ったが、この後2つの災いが来る
<第6のラッパ> 大ユウフラテ川の畔につながれていた四人の御使が人間の三分の一を殺すために解き放たれる。2億の騎兵隊の馬の口から出て来る火と煙と硫黄とによって人間の三分の一は殺される
【第10~12章】 18世紀頃~? (根拠: 1776年米国独立 1941年日米中心の太平洋戦争 20世紀初頭共産主義の台頭と米国に逃れ育つ自由民主主義に符合)
頭に虹を頂き顔は太陽のようで足は火の柱のようなもうひとりの強い御使いが雲に包まれて天から降りて来て海と地との上に立ち大声で叫ぶと七つの雷が声を発したが、「七つの雷の語ったことを封印せよ。それを書きとめるな」と言う声がした。ヨハネがその御使いから巻物を受取り食べると口には蜜のように甘いが腹が苦くなり、「あなたはもう一度多くの民族、国民、国語、王たちについて預言せねばならない」と言う声がした
聖所の外の異邦人たちは、四十二か月の間聖なる都を踏みにじり、二人の証人に、荒布を着て千二百六十日の間預言することが許される。彼らは全地の主の御前に立っている二本のオリブの木、また、二つの燭台である彼らがその証を終えると、底知れぬ所から上って来る獣が、彼らと戦って打ち勝ち、彼らを殺す。彼らの死体は大いなる都の大通りに晒される
『大地震』 が起って都の十分の一は倒れ、その地震で七千人が死に、生き残った人々は驚き恐れて、天の神に栄光を帰した。 こうして <第2の災い> は過ぎ去ったが、すぐに <第3の災い> が来る(と記されている)
<第7のラッパ> 主とキリストの国となり、天にある神の聖所が開けて、聖所の中に契約の箱が見えた。また、稲妻と、諸々の声と、雷鳴と、 『地震』 とが起り、大粒の雹が降った
大いなる印が天に現れ、鉄の杖で国民を治めるべき男子を女が産み、それを赤い龍が追いかけたが、女に2つの鷲の翼が与えられ神に用意された荒野に逃れて1260日の間養われる
【第13~14章】 20世紀頃~? (根拠: 戦後日本のエコノミックアニマルの犠牲で成り立った経済の高度成長と拝金資本主義に符合)
龍に権威を与えられた獣が海から上って来て、四十二か月の間全ての部族、民族、国語、国民を支配する権威が与えられ、小羊のいのちの書に名を記されていない者は皆この666という獣を拝んだ
小羊がシオンの山に立って十四万四千の人々が小羊と共におり、御座の前四つの生き物と長老たちとの前で、地から贖なわれた彼らの他はだれも学ぶことができない新しい歌を歌った
獣とその像とを拝み額や手に刻印を受ける者は、神の激しい怒りのぶどう酒を飲み、聖なる御使いたちと小羊との前で火と硫黄とで苦しめられ、昼も夜も休みが得られない
もう一人の御使いが鎌を投げ入れ地上の者たちが刈り取られた
【第15~18章】 21世紀頃~? (根拠: 悪性のでき物・・・癌 海は死人の血のよう・・・赤潮 川に傾けるとみな血・・・川に象徴される流通が赤字の比喩としての血 などに符合)
七人の御使が最後の七つの災害を携え、火の混じったガラスの海の傍に獣とその像とその名の数字とに打ち勝った人々が神の立琴を手にして立ち神の僕モーセの歌と小羊の歌とを歌う
七人の御使が神の激しい怒りの七つの鉢を順々に地に傾けると様々な災いが起こる
<第1の鉢> 地に傾けると獣の刻印を持つ人々とその像を拝む人々との身体にひどい悪性のでき物ができた
<第2の鉢> 海に傾けると海は死人の血のようになってその中の生き物がみな死んでしまった
<第3の鉢> 川と水の源とに傾けるとみな血になった
<第4の鉢> 太陽に傾けると太陽は火で人々を焼くことを許された
<第5の鉢> 獣の座に傾けると獣の国は暗くなり人々は苦痛のあまり舌を噛みその苦痛とでき物とのゆえに天の神を呪い自分の行いを悔い改めなかった
<第6の鉢> 大ユウフラテ川に傾けるとその水は日の出る方から来る王たちに対し道を備えるために枯れる
龍と獣とにせ預言者の口から、蛙のような三つの汚れた霊が出て、全能なる神の大いなる日に、戦いをするためにハルマゲドンという所に王たちを招集した
<第7の鉢> 御座から「事はすでに成った」と発せられて、かつて無かったような 『激しい地震』 が起きる
地の王たちが姦淫を行い姦淫のぶどう酒に酔いしれていた大淫婦≒大いなるバビロンに対する裁きがなされ倒れる
【第19~22章】 その先の未来 (根拠: 小羊の婚姻から始まる)
獣をもその像をも拝まず、その刻印を額や手に受けることをしなかった人々は生きかえって、キリストと共に千年の間支配する。悪魔でありサタンである龍、すなわち、かの年を経た蛇を捕えて千年の間つなぎおき、千年の期間が終ると、サタンはその獄から解放される。先の天と地とは消え去り、海もなくなって、新しい天と地に聖都エルサレムが現れる
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あとがき
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本物語は、『ホルスの宝島』の続編として投稿したものです。
極力歴史書や聖書等の内容に準じた形で忠実に構成してはおりますが、ストーリーは許す限り筆者の自由な発想を交えて読みやすいファンタジー小説となっております。
なお、『ヨハネの黙示録』の原文については、以下のサイトを参考にさせていただきました。
和訳 https://www.wordproject.org/bibles/jp/66/1.htm#0
英文との対訳 http://seisyodeeigo.web.fc2.com/je66all.html
続ホルスの宝島 ~潮の果て~ 育岳 未知人 @yamataimichi
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