第7話 これから起こること

マナティたちは、いよいよ14章の解読に着手する。


まず、アンディが示してくれた構成の鍵となる『新しい歌を歌った』ということの意味を探る必要があると考えた。


「ミオ、僕らが波照間島で体験したことと、14章の『新しい歌を歌った』という記述が関係あると安藤先生は言ってるけど、どう解釈したらいいんだろう?」


「鯨は『過去を俯瞰するんだよ』と言ったよね。すると、空にオーロラが出現して、そこに私たちの姿を含む過去を俯瞰する映像が映し出されたよね。

そして、それはこの前の解読で太平洋戦争を通して伝えた日本国民という証人の姿と重なっていた。

だから、私たちは過去を俯瞰しているんじゃないかと思われる黙示録の記述と私たちの観た映像の記憶とを照らし合わせながら解読してきたんじゃない?

そうして、12章で米国に新天地を求めたピューリタンの姿、13章でAIに代表される神の存在を否定し心を持たない指導者が作った機械に支配されようとする人間の姿を読み取ったわ。

そうなると、14章の『新しい歌』とは神を信じる心の通う指導者やそういう人が作った機械と共存する人間の姿を歌う歌と考えられないかしら?」


「つまり、僕らがそのような歌を謳ったらいいということかな?」


「そうね。でも、私たち10章の解読を飛ばしていない? 」


「そうか、災いの解読ができたから、一刻も早く未来を知りたくて省略してしまったかも知れないね。ミオ、悪いけど10章の最初の4節分を読んでもらっていい?」


「じゃあ読むわね。

『私はもうひとりの強い御使いが、雲に包まれて、天から降りて来るのを見た。

その頭に虹をいただき、その顔は太陽のようで、その足は火の柱のようであった。

彼は開かれた小さな巻物を手に持っていた。

そして、右足を海の上に、左足を地の上に踏みおろして、獅子が吠えるように大声で叫んだ。

彼が叫ぶと、七つの雷が各々その声を発した。

七つの雷が声を発した時、私はそれを書き留めようとした。

すると、天から声があって、[七つの雷の語ったことを封印せよ。

それを書き留めるな] と言うのを聞いた。』」


「ありがとう。ヨハネが10章で観たことは封印されたってことか。じゃあ、全ての預言が記されている訳じゃないんだ。」


「そうね。これから先の未来のことは封印されているのかも知れないね。続きを読んでみようか?」


「頼む。」


「読むわよ。

『それから、海と地の上に立っているのを私が見たあの御使いは、天に向けて右手を上げ、天とその中にあるもの、地とその中にあるもの、海とその中にあるものを造り、世々限りなく生きておられるかたを指して誓った、[もう時がない。第七の御使いが吹き鳴らすラッパの音がする時には、神がその僕、預言者たちにお告げになったとおり、神の奥義は成就される]。

すると、前に天から聞えてきた声が、また私に語って言った、[さあ行って、海と地との上に立っている御使いの手に開かれている巻物を、受け取りなさい]。

そこで、私はその御使いのもとに行って、[その小さな巻物を下さい] と言った。

すると、彼は言った、[取って、それを食べてしまいなさい。あなたの腹には苦いが、口には蜜のように甘い]。

私は御使いの手からその小さな巻物を受け取って食べてしまった。

すると、私の口には蜜のように甘かったが、それを食べたら、腹が苦くなった。

その時、[あなたは、もう一度、多くの民族、国民、国語、王たちについて、預言せねばならない] と言う声がした。』

以上。」


「この文章の後に例の11章の太平洋戦争のことが続くんだよね。『第七の御使いが吹き鳴らすラッパ』は何章だっけ?」


「その11章の戦争終結後の話よ。

そして、ラッパが吹かれた後に『天にある神の聖所が開けて、聖所の中に契約の箱が見え、稲妻と諸々の声と雷鳴と地震とが起り大粒の雹ひょうが降った。』と記されているわ。

これハルが言ってた契約の箱と一緒で、あなたたちが例の石板を掘り出そうとした剣山の磐座の話じゃない?

そして、この後起こった地震が戦後間もない頃に起こった南海トラフ地震だったよね。」


「じゃあ、ヨハネが受け取った巻物とはいったいどんなものだったんだろうか?」


「さあ、わからないけど、巻物だから次の11章から始まる物語のようなものかも知れないわ。でも、お腹に苦いって言ってるから、消化できないくらい複雑で厄介なストーリーだったのかもね。」


「そうか、まるで僕らの物語みたいだね。甘くて苦い物語・・・。」


「ヨハネが10章で観た『七つの雷の語ったこと』は封印されたと記されていたよね。

だから、これから起こる出来事を予言することは難しいと思ってたけど、10章に続く次の11章、12章、13章と我々は預言を解読できたじゃないか。」



マナティは最初未来の予言は無理だと思っていたが、10章の七つの雷の語ったことは別として、その後の章には未来の予言も記されているのではないかと考え直した。

そして、この10章の記述についても、何らかの示唆を与えるものではないかと思い直していた。



「ミオ、10章の描写も何かを語っているように思うんだけどどうだろう?

例えば『雲に包まれて、天から降りて来る頭に虹を頂き、顔は太陽のよう、足は火の柱、右足を海の上に、左足を地の上に踏み降ろし』という表現は、『太陽風とオーロラ、温暖化により異常な気温上昇と山火事が発生して激しい上昇気流により上層まで積み重なった積乱雲と竜巻と火災旋風』を指していないだろうか?」


「オーロラは太陽風という風でできるの?」


「そうだよ。

太陽風とは太陽からやって来るプラズマと呼ばれる電気を持った粒子の流れで、普段は地球の北極のN極と南極のS極を軸にした磁場で跳ね返されるけど、一部は回り込んで極地方で大気と衝突して光を発するのでオーロラができるらしい。

『頭に虹を頂き』という形容も、そのまま虹とも解釈できるが、オーロラも粒子の衝突速度で緑色以外にピンク色や赤色にも見えるようだからそれを虹と表現したのかも知れないしね。」


「そうなんだ。じゃあ、地球の磁場が無くなったらあちこちで虹のようにオーロラが観られることになるんだね。私たちが波照間島で観た大空のカーテンはやっぱりオーロラだったのかな?」


「そうかも知れない。

日本でも日本書紀や各地の古文書にオーロラらしき観測記録が記されているみたいだよ。

太陽風が強過ぎると磁気嵐という現象が起きて極地方だけでなく地球のあちこちでオーロラが観えるし、それに地磁気に影響を与えて通信障害や送電障害などの被害が起きるらしいよ。」


「じゃあ、現代のように通信や電力のインフラに依存している社会で地球の磁場が無くなったら大変なことになるね?」


「そうだね。

地球は星が誕生して46億年程経つみたいだけど、その間に何度も北極のN極と南極のS極が入れ替わったことがあるらしい。

その時には一旦磁場が無くなるかも知れない。

そのような地磁気逆転現象が起こると、磁気嵐くらいの影響では済まなくて、君の言うような大変な事態になる可能性があるね。」


「なるほどね。人類の歴史は長いようだけど地球の歴史から見ると本当に短いから地球環境がいつまでも変わらないという思い込みは危険だね。それと何だっけ、温暖化?」


「そう、今となってはみんなも知ってる通り地球温暖化の影響で年々地球の気温が上昇している。

温暖化により局地的に異常な気温上昇が発生すると自然発火でも山火事が発生することになる。

既にそのようなニュースが時々流れて来るよね。

大規模な山火事は竜巻に似た火災旋風を巻き起こす。

当然温暖化は空気中の飽和水蒸気量も増大するから大量の水を含んだ激しい上昇気流が上層まで積み重なって巨大な積乱雲となり、落雷と共に竜巻や大規模な降雨と大気の渦をもたらすことになる。」


「そのような温暖化の影響と、さっきの地磁気逆転の影響の両方がもたらす自然災害を描写したのが黙示録の記述だと言うのね? なるほど、そうかも知れないわね。」



マナティは10章の『七つの雷』の描写について、雷が言ったことは封印されているがその描写から彼らが何者かは想像することができ、11章以降もその預言は続くから未来の予想は可能ではないかとの見解をアップした。

そして、それはどうも近年問題になっている地球温暖化や、地球がこれまでに何度も経験してきた地磁気逆転の影響などがもたらす自然災害に関する警鐘が示唆されているのではないかとの意見も書き添えた。



マナティたちは再び14章に戻って解読を進めることにした。

そして、『戦争』や『温暖化』などの人災の影響に加えて、『巨大地震』や『地磁気逆転』などの天変地異とも言える自然災害の影響もキーワードに含めて解読を進めると、14章の描写が今までとは少し違って見えて来た。



第14章1節~5節

『なお、私が見ていると、見よ、小羊がシオンの山に立っていた。

また、十四万四千の人々が小羊と共におり、その額に小羊の名とその父の名とが書かれていた。

また私は、大水の轟きのような、激しい雷鳴のような声が、天から出るのを聞いた。

わたしの聞いたその声は、琴を弾く人が立琴を弾く音のようでもあった。

彼らは、御座の前、四つの生き物と長老たちとの前で、新しい歌を歌った。

この歌は、地から贖われた十四万四千人のほかは、だれも学ぶことができなかった。

彼らは、女に触れたことのない者である。彼らは、純潔な者である。

そして、小羊の行く所へは、どこへでもついて行く。

彼らは、神と小羊とにささげられる初穂として、人間の中から贖われた者である。

彼らの口には偽りがなく、彼らは傷のない者であった。』



「『彼らは、女に触れたことのない者である。彼らは、純潔な者である。』とは、一般的にキリスト教の異性への性的接触を禁じたストイックな信者を指すと考えられるけど、生身の人間だったら食欲と同様子孫継承のためには愛を伴えば性欲も肯定すべきで、人類がもしそれを断ったら人類の繁栄はなかったよね。

だから、単に必要悪と捉えるより、それとは別に性的に目覚める前の年端も行かない幼子をも暗示していないだろうか?」


「マナティ、真顔でエッチな話をするなんて、私返答に困るでしょ。

でも、確かに単なる禁欲主義を謳った記述じゃないかも知れないね。

これからの未来を生きていく新しい世代にとって、この地球環境変動の及ぼす影響は甚大だよね。」



第14章8節~12節

『また、他の第二の御使いが、続いてきて言った、[倒れた、大いなるバビロンは倒れた。

その不品行に対する激しい怒りのぶどう酒を、あらゆる国民に飲ませた者]。

他の第三の御使いが彼らに続いてきて、大声で言った、[おおよそ、獣とその像とを拝み、額や手に刻印を受ける者は、神の怒りの杯に混ぜものなしに盛られた、神の激しい怒りの葡萄酒を飲み、聖なる御使いたちと小羊との前で、火と硫黄とで苦しめられる。

その苦しみの煙は世々限りなく立ちのぼり、そして、獣とその像とを拝む者、また、だれでもその名の刻印を受けている者は、昼も夜も休みが得られない。ここに、神の戒めを守り、イエスを信じる信仰を持ちつづける聖徒の忍耐がある]。』



「『倒れた、大いなるバビロンは倒れた。その不品行に対する激しい怒りのぶどう酒を、あらゆる国民に飲ませた者』とは何を指すのかな?」


「これも順を追って確認して行こうよ。」


「そうだね。じゃあ、まず『神の激しい怒りの葡萄酒』とは何だろう?」


マナティが思わず呟くと、これもミオがネットを検索して適切な答えを導いてくれた。


「ウイキペディアによれば『葡萄』とは神の怒りによって踏み潰される『人間』のことを意味すると一般に解釈されているらしいわ。

葡萄の一粒を人間に例えると、その房を足で踏み潰して造っていた『葡萄酒』は、人間たちを刈り取って踏み潰して造った血の色をした酒と捉えられたからかも知れない。」


「なるほどね。じゃあ、『激しい怒りの葡萄酒を飲ませた者』とは、『大いなるバビロン』ということになるね。」


「そうだね。

『大いなるバビロン』が何を指すかはまだよくわからないけどね。

ところで、『怒りの葡萄酒』を調べてたら、何かよく似た『怒りの葡萄』という本の話が見つかったよ。

ネットの情報を要約すると次のような小説みたい。」



怒りの葡萄

『1939年に米国の作家ジョン・スタインベックによる著作『怒りの葡萄』の初版が発行されている。

この本は聖書にその原点を見出した著者が描く、タイトルに象徴されるカリフォルニアの葡萄畑が多くの農民の苦悩によって生まれたことを示唆する物語である。

オクラホマの大平原で起きた猛烈な砂嵐という天災や大資本により長年かけて耕した耕地を奪われ、命からがら新天地カリフォルニアに移り住むが、そこでも同じく耕地を奪われた農民が溢れ、大地主に労働力を買い叩かれ苦難に満ちた苦しい生活を強いられながらもそれでも生き続けるジョード家の人々の生活が淡々と綴られ、その根底には資本主義社会の理不尽さが映し出されている。』



「17章にも『大いなるバビロン』という記述があるけど、『多くの水の上に座っている大淫婦』『地の王たちはこの女と姦淫を行い、地に住む人々はこの女の姦淫のぶどう酒に酔いしれている』『淫婦どもと地の憎むべきものらとの母』って書いてあるわ。

ねえ、『水』って、海や川や湖などにある水そのものを指すというより『流れ』を意味していない?

水で象徴される流れるものを介した輸送手段、つまり、物流、交通、インターネットや無線なども含む通信、送電などを広く意味していると考えると、そのインフラを介した商取引市場全体を指しているように思えてきたわ。」


「そうか、この小説が神の摂理に準じているとすれば、怒りの葡萄酒を飲ませた『大いなるバビロン』とはやっぱり商取引市場で底辺の人々を踏みにじって搾取した拝金資本主義を指しているってことか。」


「そうね。大淫婦 すなわち バビロン に象徴される拝金資本主義に、愛に基づく是正を加えて来るべき未来に備えないといけないとの警鐘を鳴らしていると捉えるべきじゃない?」


「そうだ ベイビー! 僕らは、将来を担うまだ俗世間に染まっていない純粋な子供たちと、この新しい歌を歌っていくべきではないだろうか?」


「そうね。

14章を終えて何となく私たちの証人としての役割が見えて来たわね。

そして、何と15章には『また私は、火の混じったガラスの海のようなものを見た。そして、このガラスの海のそばに、獣とその像とその名の数字とにうち勝った人々が、神の立琴を手にして立っているのを見た。』という私たちが波照間島で観た例の光景が記されているのよ。

だけど、その後にはいよいよ七人の御使いが七つの災害が入った金の鉢を携えて来るみたいよ。」


「何か解読するのが怖くなって来たな。でも、そうも言ってられないし、じゃあ、次の16章に移ろうか。」


二人は恐る恐る16章の扉を開けた。



第16章

『それから、大きな声が聖所から出て、七人の御使に向かい、「さあ行って、神の激しい怒りの七つの鉢を、地に傾けよ」と言うのを聞いた。


そして、第一の者が出て行って、その鉢を地に傾けた。すると、獣の刻印を持つ人々と、その像を拝む人々との体に、ひどい悪性のでき物ができた。


第二の者が、その鉢を海に傾けた。すると、海は死人の血のようになって、その中の生き物がみな死んでしまった。


第三の者がその鉢を川と水の源とに傾けた。すると、みな血になった。

それから、水をつかさどる御使がこう言うのを、聞いた、「今いまし、昔いませる聖なる者よ。このようにお定めになったあなたは、正しいかたであります。聖徒と預言者との血を流した者たちに、血をお飲ませになりましたが、それは当然のことであります」。

わたしはまた祭壇がこう言うのを聞いた、「全能者にして主なる神よ。しかり、あなたのさばきは真実で、かつ正しいさばきであります」。


第四の者が、その鉢を太陽に傾けた。すると、太陽は火で人々を焼くことを許された。人々は、激しい炎熱で焼かれたが、これらの災害を支配する神の御名を汚し、悔い改めて神に栄光を帰することをしなかった。


第五の者が、その鉢を獣の座に傾けた。すると、獣の国は暗くなり、人々は苦痛のあまり舌を噛み、その苦痛とでき物とのゆえに、天の神を呪った。そして、自分の行いを悔い改めなかった。


第六の者が、その鉢を大ユウフラテ川に傾けた。すると、その水は、日の出る方から来る王たちに対し道を備えるために、涸れてしまった。


また見ると、龍の口から、獣の口から、にせ預言者の口から、蛙のような三つの汚れた霊が出てきた。これらは、印を行う悪霊の霊であって、全世界の王たちのところに行き、彼らを召集したが、それは、全能なる神の大いなる日に、戦いをするためであった。

(見よ、わたしは盗人のように来る。裸のままで歩かないように、また、裸の恥を見られないように、目を覚まし着物を身に着けている者は幸いである。)

三つの霊は、ヘブル語でハルマゲドンという所に、王たちを召集した。


第七の者が、その鉢を空中に傾けた。すると、大きな声が聖所の中から、御座から出て、「事はすでに成った」と言った。

すると、稲妻と、諸々の声と、雷鳴とが起り、また激しい地震があった。それは人間が地上に現れて以来、かつてなかったようなもので、それほどに激しい地震であった。

大いなる都は三つに裂かれ、諸国民の町々は倒れた。神は大いなるバビロンを思い起し、これに神の激しい怒りの葡萄酒の杯を与えられた。

島々はみな逃げ去り、山々は見えなくなった。

また一タラントの重さほどの大きな雹ひょうが、天から人々の上に降ってきた。

人々は、この雹の災害のゆえに神を呪った。その災害が、非常に大きかったからである。』



「7人の御使いがそれぞれ鉢を傾けた時の描写は何を意味しているんだろう? そうだね、まず、一つずつ見て行こうか。」


「マナティ、その調子よ。」


「第一の者が傾けた鉢は『ひどい悪性のでき物』と言ってるから、梅毒などの性病や、同性愛などに起因するエイズなどの類、不健康な生活に起因する『癌』などの類とかかな?」


「そうね。性病は大航海時代からあるし、エイズは免疫が衰える結果できるでき物だし、『悪性』って言ってるから、私は『666の働きづめ』や過度のストレス、不健康な生活などで発症すると思われる悪性の『癌』を指しているような気がするわ。」


「なるほどね。じゃあ、第二の者が傾けた鉢『海は死人の血のようになって、その中の生き物がみな死んでしまった。』はどうかな?」


「海が血の色に染まるってことは、『赤潮』のことじゃない?」


「確かに赤潮が起こると魚とかが死滅するからね。じゃあ、第三の者が傾けた鉢『川と水の源とに傾けた。すると、みな血になった。』は?」


「何だろう? 公害の類かしら?

『血の色』じゃなくて『血』と言い切ってるし、『聖徒と預言者との血を流した者たちに、血をお飲ませになりました』とも言ってるから、『川と水の源』がさっきの商取引市場を指していると考えられない?」


「そうか、『血』は『赤字 つまり 損害』を意味してるってこと?」


「そういう気がするわ。」


「それってこれから起こること?」」


「いや、わからないわ。これまでにもオイルショックやリーマンショックなど世界経済に深刻な打撃を与えた市場暴落の事例はあるけど、ここに書かれていることが既に起こったことなのか、これから起こることなのかは、この先の章を見てからでないと判断できないわね。」


「そうだね。先生も言ってたように、焦らず一つずつ次を見ていくしかないね。じゃあ、第四の者が傾けた鉢『太陽は火で人々を焼くことを許された。』はどう?」


「太陽で焼かれるってことは一般的には紫外線を浴びて日焼けすることを意味すると思うけど、ここに書いてあるからにはそんな生易しいものではないよね。

最近は有害紫外線の影響で皮膚が炎症を起こしたり皮膚癌になったりするらしいから、そのようなことを言っているんじゃない?」


「なるほどね。確か有害紫外線が増えたのは、地球の周りを保護してくれているオゾン層が、フロンガスなどの拡散による影響で極地方上空を中心に壊されてオゾンホールと呼ばれる穴が開き、そこから有害な紫外線が降り注ぐようになったことが要因としてあるみたいだよ。」


「人災とは言え、これも地球を取り巻く環境の変動によるものなのね。」


「でも、このオゾンホールは1960年代に問題として大きく取り上げられてからは各国ともフロンガスの全廃と拡散の禁止措置を取ったため、徐々に修復されており最近の研究では21世紀中頃には完全に穴が塞がると言われているらしい。」


「そうなんだ。じゃあ、今後はあまり心配する必要ないのかな。」


「いや、ちょっと待って、ネットの情報に由々しき記事が掲載されているよ。

2019年の日本経済新聞の記事によると、太陽風のプラズマは大部分が地球の磁場で弾かれるが、何らかのきっかけで磁力線に沿って加速されたオーロラを輝かせる高エネルギーの電子が、地球の大気圏上層の電離層へ高速で降下し、さらに、その低層に位置するオゾン層のある成層圏近くまで降り注いでオゾン層を破壊していることが確認されたらしい。」


「ええっ、それってさっきの太陽風と地球の磁場の問題に似ていない?」


「そうだね。つまり、磁気嵐や地磁気逆転は、電波や送電の障害などに留まらず、オゾン層の破壊にもつながるってことだな。」


「じゃあ、フロンガスだっけ、それを制限するだけじゃ済まないってことじゃない?」


「ということは、16章は既に近未来のことにも触れているのかも知れないな。

何か大変な状況が見えて来たね。

でも、ここで立ち止まる訳にはいかないから次行くよ。『獣の国は暗くなり、人々は苦痛のあまり舌を噛み、その苦痛とでき物とのゆえに、天の神を呪った。そして、自分の行いを悔い改めなかった。』はどういうこと?」


「まず『獣の国』は民主国家以外を指しているよね。

『暗くなり』は経済的にも貧しくなったことを意味してるのかなあ?

『舌を噛む』は英語版では[gnawed their tongues]となっているけど、同じ『舌を噛む』という表現は[ bite one's tongue]とも書けるよね。

そして、慣用句として『言いたいことを我慢する』という意味もあるらしいから、この場合、後者の意味だとすると、『非民主的な獣の国は困窮して人々は言いたいことも我慢した』とも解釈できるよね。

つまり、貧しいのに言論が封じられている国々を指しているんじゃないかしら。」


「なるほどね。どこの国か思い当たるような気もするな。もう少しだね。それじゃあ、『大ユウフラテ川に傾けた。すると、その水は、日の出る方から来る王たちに対し道を備えるために、涸れてしまった。』とはどういうこと?」


「まず『大ユウフラテ川』が何を指しているかだよね。

これも単なる川を指しているというよりもさっきのように象徴的に『大きな流れ』を指すとすると、『涸れてしまった』とは『市場経済の破綻』みたいな意味が含まれているかも知れないね。

そして、『日の出る方から来る王たちに対し道を備えるため』と言っているよね。

『日の出る方から来る王たち』は、さっきのように日本も含む国々を指しているとすれば、後は韓国辺りかな。それと台湾? 民主化されれば中国も考えられるよね。」


「おう、そう来たか。何か凄い状況になってきたね。じゃあ、『蛙のような三つの汚れた霊が王たちを招集するハルマゲドン』とはどこを指しているんだろう?」


「私にもどこだかわからないわ。

そう言えば、以前に『アルマゲドン』というSF映画があったわよね。

あれは確か小惑星が地球に衝突するということでそれを回避するための任務を背負った隊員たちの物語だったと思うけど、やっぱりこの黙示録のハルマゲドンという言葉に由来してるはずよ。

英語だとアルマゲドンだけど、ヘブライ語だとハルマゲドンになるらしい。

でも、この名前はイスラエルのエジプトとアッシリアとメソポタミアとをつなぐ地中海に面した要衝に位置する『メギド山』のことらしいので、文章の流れからして涸れた『大ユウフラテ川』の先にあるものと考えられない?

だから、『ハルマゲドン』とは、やっぱり流通の要衝に当たる場所を指しているのかも知れないけど、それは物理的な位置を指すのか、抽象的な概念を指しているのかはわからないわ。」


「そうだよね。単に関ケ原みたいな決戦の場所を指している訳じゃなさそうだよね。

じゃあ、もう一ついいかな?

最後の第七の者が傾けた鉢『稲妻と、諸々の声と、雷鳴とが起り、また激しい地震があった。

それは人間が地上に現れて以来、かつてなかったようなもので、それほどに激しい地震であった。大いなる都は三つに裂かれ、諸国民の町々は倒れた。神は大いなるバビロンを思い起し、これに神の激しい怒りの葡萄酒の杯を与えられた。

島々はみな逃げ去り、山々は見えなくなった。また一タラントの重さほどの大きな雹が、天から人々の上に降ってきた。人々は、この雹の災害のゆえに神を呪った。その災害が、非常に大きかったからである。』

とは何を意味するの?」


「この描写はこれまでの地震の流れから行くと日本の可能性も否定できないけど、『日の出る方』も日本を含むとしたので辻褄が合わないね。それにこれまで『地震』は象徴的な意味では使われていないから、現実的な地震災害と捉えるべきだと思うし。」


「これって阪神淡路大震災や東日本大震災を指していない?」


「でも、『大いなる都は三つに裂かれ、諸国民の町々は倒れた』という記述はどう捉えるの?

大いなる都を東京と仮定した場合、東日本大震災では三つに裂かれてはいないよね。

それに東日本大震災だとしたら、福島原発の放射能汚染に関する記述もあるはずだよね。

阪神淡路大震災だと大阪と京都と神戸を分断したと言えなくもないけど雹が降るような季節じゃなかったし、島が沈んだりはしなかったよ。

でも、ちょっと待って。11章の太平洋戦争や地震の記述でも、否定的な面と肯定的な面が併記されていたよね。だから、『日の出る方から来る王たち』に道を開けることと、巨大地震発生の記述の両方が日本であっても矛盾はないわ。」


「そうか。じゃあ、『大いなる都』とはどこを指すんだろう? 東京? さっきのオゾン層破壊みたいにまだこれからも起こるってこと?」


「阪神淡路大震災や東日本大震災が該当しないとなれば、これから起こることを指している可能性は大いにあるよね。

東京かも知れないし、万博が予定されている大阪かも知れないし、被災すると東京と大阪を分断してしまう名古屋かも知れない。当然それ以外もあり得るけどね。」


「じゃあ、この描写はやっぱり日本の大災害の姿なのか?

『人間が地上に現れて以来、かつてなかったような激しい地震』と形容しているくらいだから、想定外の規模になることが予想されるよね。

そうなると、『大いなる都は三つに裂かれ、諸国民の町々は倒れた。』という記述は、そう遠くない未来に、南海トラフ地震、琉球海溝地震、首都直下地震などの単独もしくは連動による発生で、太平洋岸に大津波が押し寄せ、日本の大都市が災害に見舞われ、さらにインフラ網が分断されることを意味しているんじゃない?

そして、『島々はみな逃げ去り、山々は見えなくなった。』という描写は、僕たちが波照間島で観たあの光景を表していない?

もしそうだとしたら、あの想定外の大津波をもたらした東日本大震災でさえその比じゃないくらいの大災害になってしまうよ。

日本はまた証人になるっていうことを言ってる?

日本がまた大規模災害に見舞われて、世界中にその恐ろしさを示せと神は言ってるのか?」


「私たちが夜空のオーロラに映し出されたってことは、私たちが証人であると同時に日本がまた証人になってしまうかも? そうよ、だから黙示録には日の出る方からの御使いや王たちが登場するのよ。」


「でもこれは何らかの確証が得られるまでは僕たちの胸にそっと収めておかないと大変なことになってしまうよ。」


二人は今更ながら『証人』としての重圧を感ぜずにはいられなかった。


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