06 amazarashi「つじつま合わせに生まれた僕等」を聴いた勇者レーテシアは落涙する
ポカンとする勇者レーテシアを意に介さず、俺はスポティファイの画面でamazarashiの「つじつま合わせに生まれた僕等」をタップした。
「これは……」
冷たい牢獄の中に音楽がこだまする。
聞こえてくる音とその歌詞に、ドラグレシアとレーテシアは耳を傾けた。
「なるほど……この音楽、歌詞の内容こそ悲痛に満ちているが、奪われた者、傷つけられた者に対し、惜しみなどいっさいなくよりそっているように見受ける。カイトよ、これは何という歌なのだ?」
「はい、ドラグレシアさま。これはamazarashiというアーティストの、『つじつま合わせに生まれた僕等』という楽曲でございます。ドラグレシアさまがおっしゃるとおり、奪われた者や傷つけられた者が、みずからの苦難に向きあい、進むべき道を見出せるようによりそうナンバーなのです」
たずねるドラグレシアに、俺は例のごとく楽曲の解説をしてみせた。
「つじつま合わせに生まれた僕等か……ふふっ、ならばわたしは、さしずめ『つじつま合わせに生まれた勇者』だな」
レーテシアは自嘲気味に笑った。
しかし、そのまなこからは……
「……」
落涙。
あふれんばかりの涙をこぼしている。
だがそれは、悪い意味で泣いているのではない。
彼女の表情がそれを教えてくれる。
「アマザラシと言ったか、ドラグレシアに使える少年よ。生まれてはじめて耳にする音だが、この『音楽』というもの、まるで、わたしのことを言っているようだ。いや、わたしのために歌ってくれているような気すらする。こんなものが、この世には存在するのだな……」
レーテシアはまたもむせび泣いた。
涙が水たまりのようになってきている。
「レーテシアよ、おまえが背負ってしまった宿命、無用な言葉などかけるすべもない。しかし、しかしだ。このアマザラシという男のように、おまえのことをわかってくれている者もあるではないか。おまえがこの音楽に打たれているそのさまが、何よりもその証ではないのか?」
ドラグレシアはじゅうぶんに気を使いながらしゃべっているようだ。
「悔しいが、おまえの言うとおりだ、ドラグレシアよ。こんなことははじめてだ、わたしのことを理解してくれる者が現れるなど。救い……これが救いでなくてなんだ……」
ドラグレシアは間を置きながら、さらに語りかける。
「その涙に嘘などない。レーテシア、おまえは人形などではないのだ。人間、そう、人間だ」
「人間、か……」
ひとしきり嗚咽したあと、レーテシアは少しうつむいた。
「ドラゴンに村を滅ぼされたと言ったな? ひょっとしてそれは、漆黒をまとう赤い目をした龍ではなかったか?」
「なぜ、それを……」
ドラグレシアの言葉に、レーテシアは顔を上げてカッと目を見開いた。
「ふむ、どうやら間違いないようだ。それはガレイオンという邪悪な龍であり、どのドラゴン族にも属さない、ダーク・ドラゴンと呼ばれる唯一の存在なのだ。その暗黒の力で同じドラゴン族を根絶やしにしようとしたのだが、われら火を含む5つのドラゴン族が力を合わせ、太古の昔に封印したはずだった。それがまさか、復活を遂げていようとはな……」
彼女はあごに手を当て、戦慄を隠しているようだ。
「レーテシアよ、われはおまえからもっとくわしく話を聴きたい。やつがよみがえったのが事実だとすると、ドラゴン族、いや、全世界にとり由々しき問題であるからな。おまえとリウーはすぐに解放しよう。どうだ、どうかわれらの力になってくれぬか?」
「……」
レーテシアはうつろな目つきで考えこんでいる。
そしてスッとこちらを向いた。
「少年よ、君はどう思う? ドラグレシアの言うとおりにしたほうがよいと思うか?」
そうたずねてくる。
どう言葉をかけるべきか、俺の心は決まっていた。
「おそれながら、レーテシアさん。それはあなた自身が、あなた自身の考えによって決断することではないでしょうか? あなたは人形ではない、人間なのですから」
「……」
彼女はもう一度うつむいたあと、声を上げて高らかに笑った。
「ふっ、このわたしが、おまえたちのような者どもにしてやれるとはな」
何かのたががはずれたようにくつくつとしている。
最初の姿とはまるで別人に見えた。
「では、レーテシアよ」
「ああ、いいだろうドラグレシア。わたしの知っていることであれば、何なりと教えてやる。皮肉なものだ、この音楽を聴いた途端、不思議なことに、また生きたいと思えてきたのだ」
ドラグレシアに対し、レーテシアは凛として答えた。
俺はなんだかうれしくなって、ほほのあたりがむずがゆくなる。
「レーテシアさん……」
ドラグレシアも満足した表情だ。
「ふむ、決まったな。礼を申すぞ、
「礼ならその少年と、アマザラシに言うがいい」
こうしてレーテシアはリウーとともに解放され、ドラグレシアが催す酒席へと招かれることになった。
そしてそこで、おそるべきことが明らかになるのだった。
Spotify無双 ~ 異世界に転生した音楽ジャンキーの俺がチートアプリ「Spotify」で成り上がれた件 朽木桜斎 @kuchiki-ohsai
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