第9話

「あぁ…頭いてぇ…」


今日もまた”例の悪夢”にうなされた様子のルヴィンは、そのストレスからくる頭痛に頭を悩ませている様子。


「全く意味が分からねぇ…。こうも毎晩毎晩夢に出られたら、嫌いを通り越して逆に好きになってしまうかもな…」

ガシャーーーーン!!!!

「な、なんだっ!?」


ルヴィンがそう独り言をこぼしたその時、部屋の扉の外から何やら大きな音が轟いた。

ルヴィンは勢いよく椅子から立ち上がり、その音の正体を明らかにするべく部屋の扉を盛大にあけ放った。

…するとそこには、やや驚愕の表情を浮かべるリアクの姿があった。


「なんだリアクか…。珍しいな、持っていた物を落としてしまったのか?」

「ル、ルヴィン様、申し訳ありません…!そ、その……」

「…なんだ?はっきり言ってみろ」

「その…ル、ルヴィン様がリヒト様の事を好きだって声が聞こえてきたもので…」

「…はぁ?」


…一瞬、リアクの言っていることが理解できなかったルヴィン。

しかしその後すぐにその勘違いの理由を把握し、彼はその表情をやや赤くしながら、語気強めにこう言葉を発した。


「バカか!!あんなの嫌味に決まってるだろ!!どこにあれを本気にするやつがいるんだよ!!」

「そ、そうだったんですね、それならよかった!!」

「ったく…」

「♪♪」


誤解だったことが本当にうれしかったのか、リアクは心から安心したような表情を浮かべて見せる。

その表情はルヴィンにもまぶしく映ったようで、彼はその心の中でこうつぶやいた。


「♪♪」

「(こんなに喜んで…やっぱりかわいいなこいつ…)」


リアクのその姿を見て、にやにやとした表情を浮かべルヴィン。

そこにさきほどまでの頭痛を思わせる雰囲気は全くなく、リアクによって一つの悩みが吹き飛ばされたようであった。

しかし彼は次の瞬間にはその表情をキリっとしたものにし、こう言葉を続けた。


「それでリアク、俺に何か話があったんじゃないのか?」

「そ、そうだった!!!」


リアクは分かりやすくはっとした表情を浮かべ、自分がルヴィンに伝えようとしていた事項を説明に移る。


「ルヴィン様にお客様がお見えです!応接室にてお待ちいただいております!」

「客…?」


リアクの言葉に導かれるがままに、ルヴィンは客が待つという応接室に足を向かわせることとしたのだった。


――――


「邪魔してるぞ、ルヴィン」

「なんだリアードか。俺の屋敷に来るのは久しぶりなんじゃないのか?」


ルヴィンの元を訪れたのは、貴族家の仲間であるリアードであった。

歳はリアードの方が一回りほど上であるが、彼らは非常に仲のいい関係であるがために、ルヴィンはいつも砕けた口調でリアードに接し、リアードもまたそんなルヴィンの事を受け入れていた。


「相変わらずの表情だな。お前の眠りの悪さは貴族たちの間では有名だが、本当に大丈夫なのか?」

「なぁに、むかつく第一王子を蹴散らすまでの我慢だよ。それで、今日はどうしたんだ。王宮でなにか動きでもあったのか?」


ルヴィンのその言葉を聞いたリアードは、机の上に置かれたカップを口元まで運び、その味を一口味わう。

そしてカップを机の上に戻し、丸眼鏡の角度をくいッと手で調整した後、こう言葉を発した。


「単刀直入に聞こう。ルヴィン、お前、聖女アリシア様の事が好きなのか?」

「ぶっ!!!!!」

「わ、分かりやす…」


リアードにつられるようにカップを口にしていたルヴィンは、その言葉を聞いて口に含んでいた飲み物を盛大に噴き出した。

その姿が思った以上に面白く感じられたのか、リアードは楽しくて仕方がないといった表情を浮かべつつ、こう言葉を続けた。


「それならそうと素直に言えば」

「勘違いするな!綺麗な人で聖女らしく美しいとも思うが、好きではない!!」

「隠さずともよい。パテラの言っていたことは本当だったようだ」

「はぁ?パテラ?」

「パテラが言っていたんだよ。お前はアリシア様の事が好きで仕方がないのだとな」

「おいおい!!あんな奴のいう事を真に受けるんじゃない!違うと俺が言っているんだぞ!本人が言っているんだぞ!」

「はいはい。結構なことで」


リアードは適当にルヴィンの言葉を流し、机の上に置かれたクッキーを手につまんで口まで運び、その味を味わう。

その後、今度はやや冷静な口調でこう言葉を返した。


「しかしルヴィン、気をつけろ。アリシア様の周りには常に、リヒト第一王子がいる。妙なちょっかいを彼女に出せば、それこそ向こうに貴族を叩かせる大義名分を与えることになるからな」

「だから違うと言ってるだろーが!!」


大きな声でリアードの言葉を否定した後、ルヴィンは机の上のクッキーを乱暴に口の中に投げ入れる。

きちんと味わっているのかは分からないものの、食べ終えた後に彼はこうつぶやいた。


「お前の言っていることもパテラの言っていることも見当違いだが、確かにリヒトの思惑通りに言葉運ぶのは面白くないな…。あいつがアリシア様に心奪われているのだとしたら、これはなにかに仕えるんじゃないか…」


低くつぶやかれたその言葉。

その真意を理解できる人間は、果たして彼以外にいるのだろうか…?

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悪役侯爵は、嫌いな第一王子の夢を見る 大舟 @Daisen0926

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