人殺しのアサルトフレア2
ガッ…ガッガッガッ! ガッッ!
怒炎! 灼檻の火が「暑い…」 女の身を焦がしている。「チッ、燃やすにゃ惜しい人材だったぜ」 炎の前、男が呟いた。周りを囲むモブ達も、ウンウン頷いている。
「メシ、行こう。やりきれねぇな。代わりの人材を探さなきゃいけない」
男が言った。モブは頷く。モブは、男と同じ顔をしている。
「ジャン負けで、おごりな」
「おい、そのジャンケン、私も参加していいヤツだろうな」
炎の中。女が言った。『ゴッ!』『ボオッ!』 「?」 違う…炎の声だ。薪やらがバチ折れて、空気中の酸素を消費する音だ。だって、炎の中で軽口叩く人間を、君は見たことがあるか? そんながいるとしたら、ソイツは炎熱の中から孵化したフェニックスの親類か、この物語の主人公かのどっちかだろう。
「私はグーを出すぜ。いつだってグーだ。絶対に」
また聞こえた! 「…」 今度はモブのうち「聞こえたか?」「いや? なんかあった?」「俺は聞こえたぜ…」 数人にも聞こえたらしい。聞こえたヤツらは眼を合わせて、ウンと確認を取るように頷いた。
「どうする? リーダー。賞味期限切れそうなヤツを突っ込ませようか」
「冗談だろ、オイ。ないない。アイツは死んだんだよ。見ろ。アイツが生きてんだとしたら、そこに転がってる真っ黒コゲのシルエットは、一体ダレのシルエットだってんだ? えぇ?」
モブは閉口し『確かに…』 と納得した。『リーダーの言う通りだ。まったく。疲れちまってんだな俺は』 モブは炎に背を向けて、チリチリと踊る熱を後ろに浴びながら、その場を後にした…いや、するハズだった!
『ビュオッ!』
廃工場。破れた工場の壁から、一切れの風が入ってきた! 『冷てぇ』 モブは凍えて、自分の手のひらにハァと息を吹いた。そうでもしなければ、今にも身が止まってしまいそうなほど、その夜は寒かった。だからこそ、モブは身を止めて、離れがたい炎の熱に心残りを感じた。
風は、炎に隙間を作った。その隙間から見えた焼死体は、どう見ても自分と同じ顔をしていた。
「リーダー!」
咄嗟に叫ぶ! リーダーの方を振り向いた! だが、振り返ってなお、そこには同じ炎があった。
「グーだよ、グー。私のグーは、なんてッたってパーに勝てるからな」
モブは、見た。
めらめらと盛る炎の中に、160cmくらいの女がいた。女の両手は炭キレのようにボロボロと崩れている…いやしかし、崩れ切ってはいない。まるで廃屋の石垣のように、かろうじて腕としての体裁を整えている。ほかの部分はともかく、その腕だけが印象的だった。
「か」
モブは、まるで後ろから喉をブッ叩かれたかのように、言葉を紡いだ。
「紙ですもんね。パーって」
「!」
女は飛び上がり、嬉しそうに「そーー! そう!」 と手を叩いた。「そうゆうジョークなんだよ! な!」 後ろに束ねてある、大きなボサボサのポーニーテール。手入れを怠った筆のようになっている。それが、炎を描くように揺れた。
「好きだなぁ! 私のジョークが分かる奴は、この世に2人と存在しないだろう!」
「そ、そうですか。ハハ」
「よし、燃やそう」
「なッ! なんで…」
「『2人と存在しないだろう』 って言ったろ、今」
モブは弱々しく頷いた。すると、「まだ分からないか」 と、女は半分呆れ気味に息を吐いた。
「私もいるだろ? 私のジョークを理解してるヤツ。だから…『いや、僕とアナタ合わせたら2人と存在するじゃないですか!』 とか、そうゆうツッコミ待ちだったんだけど…まだ分からない?」
「……………は?」
「残念! ボーイ、また来世!」
瞬間、モブの体を、耐え難い熱が包んだ! 「あ、アァアアアアアアッ、あっツぃ!! アツ…!」 悲鳴、怒声。生きているうえで出せるあらゆる狂騒、を、一音節に詰め込んだような声。
「なんだ、リアクションで湧かすタイプだったのか」
女は「悪い悪い」 と謝りながら、燃え盛る廃工場を後にした。
能力者目撃談 ポロポロ五月雨 @PURUPURUCHAGAMA
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