???
街の外れに豪奢な屋敷がある。煌びやかで、金の延べ棒が森にツッ立っているよな屋敷だった。窓にはガラスが嵌まっている。が、その屋敷に付けば、そのガラスでさえ何か水晶のような、クリスタルを薄く伸ばした高価なものに見えた。
昼に、屋敷の重い扉が開く。
「あーあ、何か面白いこと。おきませんかねぇ」
男だ。片メガネの男。切れ味の鋭い目に尖った顎を持ち、顔中が鋭角で構成されたような男が、屋敷から出てきた。主人だろうか? いや、服装から察するに執事だ。人に仕えている人間特有の、疲れた顔が浮かんでいる。「はぁ」 男はタメ息をついて、屋敷の門から外へ出て行った。
『俺も、いつまでこんななんだろ』
男はワックスで練られた髪を、神経質そうにピンピン指で弾いた。
『あぁ、先が暗いなぁ』
男の、唇の端は尖っている。それがうにょんと悲しそうに下がって、困り顔になった。
森には風が吹いていた。風は木の葉っぱを撫でつけて、森の声として音を奏でた。さわさわ、ササササ。ひゅるひゅるでもいいよ。昼間の心地と合わさって、転倒すればそのまま眠り落ちそうな陽気だった。
にも関わらず、男が暗いのには理由があった。
「お嬢様ってば、最近は全く仕事なさらない。小説家ってのはそんなに難しい仕事かねぇ」
思わず呟いてしまった。だが呟かずにはいられないほど、お嬢様と言うのは仕事をしていなかった。もう半年になるだろうか。最近は起きては飯を食らい、そそくさと寝床に戻ってしまう。没落を予感してか、最近は屋敷を抜ける者までいる。
「はぁ困った」
「困った? そうかい。そうかい」
執事はハッと飛び上がり、「誰だ!」 周囲を警戒した。
「はは、オレだよ」
茂みが動いた。やがて顔を出したのは…執事だった。
「!?」
「よぉ、オレ。困ってんだろ? チカラんなるぜ」
片メガネがキラリと光った。そのせいで片目の奥は見えないが、その容貌は確かに執事そのものであった。仮にニセモノと呼ぼう。
ニセモノは鋭角だらけの顔を歪めると、執事に近寄った。合わせて、執事は後ずさりする。『気味が悪い』 そう思っても、無理はないだろう。
「誰だ…イタズラにしてはタチが悪いぞ」
「おいおいおい、自分の言うことが信じらんねぇのか? オレ以上にダレを信じるってんだ」
『…』
もし、姿カタチが自分とそっくりな人間が、目の前にひょっこり現れたとして、マトモな人物なら取り合ったりしないだろう。しかし、執事はニセモノの前から立ち去ったりしなかった。誰でもいいから、愚痴をこぼしたかったのだ。その点で、目の前のニセモノは話しやすかった。鏡に話すような気がしたのだ。
「実は…」
執事はある程度のボカしも入れつつ、自分の身の振りを相談した。「うんうん」 ニセモノは適度に相槌を打ち、執事の話を聞いていた。
「なるほど、お嬢様がねぇ」
「あぁ、困ったもんだよ」
「まぁ小説家にスランプは付きモンだからよ。気長に待ってやんなよ」
「うーん。ただ待つだけなのもなぁ」
「じゃあ、こうすりゃいい」
ニセモノは話し出した。
「まず、オレが屋敷で働く。そんでアンタはその間、他にも良さげな屋敷がないか探す。今より良い屋敷がありゃそっちに行けばいいし、見つかんなかったら戻ってくればいい」
「名案だなぁ」
執事は快諾し、次の日には屋敷をたった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます