或る二人のうた

吾谷糸生

或る二人のうた

忘れ得ぬ寝ても覚めても浮かぶ笑みこの熱情にどうか名付けを

星月夜ほしづくよにわかに浮かぶそのまいこれこそ恋と云うのかしらん

手を引かれ一段飛びに駆け上がる昂る鼓動は何が所以か

手を引いて浮かれ心地の見晴台期待通りの真隣の表情かお

ただ二人三々九度の真似事を一天四海の幸よ我らに

卓上の醤油さしをば寄せんとすつがい手重なり染まる我が頬

まどろみの狭間で軋む床板に笑い隠して一声を待つ

薄明かり狸寝入りの脇を過ぐ我慢比べの真夜中零時

庭先へ慌てて走るにわか雨干し物抱えずぶ濡れの笑み

願わくば枕辺まくらべに立つ黄泉神よ我をば招き我のみを具せ

ふと見れば君の額に脂汗そっとぬぐいて夢の続きへ

人の世の理ならずやただ一人星となれずに地に残るのも

観光誌桜の名所見比べて鬼は笑えど春は恋しき

初旭これほどまでに焦がれるか長き夜照らす清き光を

届かぬと知れどもがなる有り丈をかそけきけぶとなりし君へと

我知らず二組揃え置きし箸そっと一組しまう虚しさ

大仰に雪風に揺れる千代見草千夜ちよをば独り生きよとばかり

幻かそれとも現か手を伸ばす十六夜の月目前に据え

いなこれは幻ではない嘘でない欲した君の声が姿が

蝉時雨生の限りを尽くす中隣の墓の枯れ果てた菊

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或る二人のうた 吾谷糸生 @itou1114

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