第2話 天位十二戒


 少年が目覚めたところは街外れの教会だった。

「ようやくお目覚め? 極東の狩人さん」

「君は……誰だ」

 やれやれと首を振る銀髪碧眼の少女。

「私はレイン=コードス。あなたの身元は調べさせてもらったわ、日本の狩猟法典『虚空射手』の正当後継者、常盤従悟」

 従悟は狩猟法典という言葉に聞き覚えは無かった。しかし虚空射手という言葉は祖父から聞いた事があった。

「日本以外にも俺の力みたいなのが存在するのか」

「ええもちろん、私達の狩猟法典は『天位十二戒トゥエルブプリセプト』もしくはハインリヒ・コルネリウス・アグリッパ式とも呼ばれるものになるわ」

「長いな」

「まあ天位十二戒てんいじゅうにかいで覚えればいいわ」

 とりあえずそれを了承し話の続きを促す従悟。コホンと咳払いをしてレインは話を続ける。

「今、日本には殺生石の封印から解かれた災厄の獣『九鎖羅尾くさらび』が放たれているわ」

「くさらび?」

「つまりは九尾の狐、昨日倒したのはその眷属」

 なにかと世俗に疎い従悟でも九尾の狐くらい知っている。傾国の大妖怪、その一柱、日本を飛んで大陸にもその爪痕を残している。最後は安倍晴明によって封印されたとされている。だが今はその封印が解けたとこの少女は言っている。

「それが獣の哭き声か」

「鳴き声?」

「毎晩聞こえるんだ。そのせいで睡眠妨害されていた」

「ふぅん。狩猟法典継承者だし、そういうこともあるか」

「狩猟法典ってなんなんだ」

 するとレインの後ろから男が現れる。

「そこからは俺が説明しよう。俺の名はブラッド。彼女と同じ天位十二戒の継承者で彼女の上司だ」

「上司?」

「組織立って行動しているのだよ。我々『LAW』は」

「へぇ、それで?」

「まず世界に『獣』という呪いが存在する。それを取り締まるための法典が必要とされた。それは時に狩猟技術であったり、時に錬金術であったりした。それらを総じて『狩猟法典』と呼ぶようになった。説明に不足はあるかな?」

「いやない。納得した」

「それはよかった。

「それは納得してない」

「残念だが決定事項で拒否権はない。拒否するならば」

「ならば?」

「俺と戦って勝ってもらおう」

「ちょ!? この……ブラッドさんの実戦主義!!」

「いいね。そういうのは好きだ」

 戦闘体勢を取る男二人。

「虚空射手、装填――」

降臨い――マルキダエル、我が敵を裁定しろ」

 衝撃、屋外へ飛び出る。

 一人屋内へ取り残された少女、レインは。

「あーもう! また壁の修理代請求しなきゃー!!」

 と叫んでいた。

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BEAST LAW 亜未田久志 @abky-6102

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