ある戦争の話
幸原。
ある戦争の話
私の住む
横にいる兵士が胸を貫かれて死んだ。
奴は不運である。なぜなら本来の運命から外れた死に方をしたからである。
私の住む
前方にいる兵士が宙に浮き、砕けた。
奴は幸運である。なぜなら予定通りの運命のレールを通り、死んだからである。
私の住む世界は平和である。
向こうの陣地でも敵兵が宙に浮き、砕け散る。
奴も天命を全うし、幸せだろう。
私の住む世界は平和である。
正面の要塞には「くだばれキノコ頭達」の横断幕。
何とも悪趣味だ。
私の住む世界は平和である。
響く「とんがり頭はすべて敵!殺せ!」というよくわからないプロパガンダ。
こちらも同類か。頭以外に着目できないらしい。
私の住む
テレビからは「2月14日未明、連邦国が“軍事作戦”と称し隣国への侵攻を開始し───」というアナウンサーの無機質な声が聴こえてくる。
あちらと比べてこちらはとても平穏だ。
私の住む
何も知らない子供たちの純粋な笑い声が聞こえる。
どうかお前たちは汚い戦争など知らずに、生きてくれ。
私の住む世界は平和である。
後方では敵兵の処刑される断末魔。
意味のない死、見せしめのために殺された命。
反吐が出る。
私の住む世界は平和である。
無駄な戦いを繰り返し、無駄な犠牲を増やし続け、無駄に大切なものを壊し、無駄に大切なものを失った。
誰がこんな争いを望もうか。
私の住む世界は平和である。
こちらの「
「こちらが正しい」と。
私の住む世界は平和である。
あちらの「
「こちらが正しい」と。
私の住む世界は平和である。
何も知らない「
「どちらも正しい」と。
私の住む世界は平和である。
何も知らない「
「どちらも正しくない」と。
私の住む世界は平和である。
私は言った。
「正しいとは何か」と。
私の住む世界は平和である。
お前は言った。
「間違いとは何か」と。
私の住む世界は平和である。
未だ、答えは見つからない。
私の住む世界は平和である。
この先、答えは見つかることはない。
私の住む世界は平和である。
私たちは考える。
「いったい私たちは何をしているのか」と。
私の住む世界は平和ではない。
しかし、誰かが平和にしようと、自らの身を砕き、世界は一歩ずつ平和へ向かう。
私の住む世界は平和ではない。
しかし、誰かが身勝手に、誰かの身を砕き、世界は一歩平和から遠ざかる。
私の住む世界は平和だろうか。
この先答えが見つかることはあるのだろうか。
私の住む世界は平和である。
胸を銃弾が穿つ。
私は不幸だったろうか。
私の住む世界は平和である。
自分へ問う。
定められた運命とは何なのかと。
私の住む世界は平和である。
一つ、最後に願う。
「世界が平和でありますように」と。
それが世界の平和に、効力がなく、意味のないことでも。
私の住む世界は平和である。
そっと、目を閉じ、意識を手放す。
─終─
ある戦争の話 幸原。 @take_tanutake321
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