恋人いない歴=年齢の俺が、恋人をつくるため奮闘する話。

春風雨水

第1話 恋人がほしい!

 「あの……大和! これ、チョコ。何? なんで急にって? ……わかんないの!? 今日、大和の誕生日でしょ。だから、それで……その。おめでとう、ってこと! 手作りなのはお店で買うと高いから、安く済ませるため! あー、私をからかった! 俺のこと好きなの? ……ってバカじゃないの! 別にそんなんじゃないからっ。──って、何で落ち込んでるの? 今日、嫌なことあった? 大丈夫? ……大丈夫ならいいけど……。もし嫌なことがあったら、話聞くから。え? 何か言った? 私が好き……? 急に、どうして? ずっと、好きだったの? 気付かなかった……。あのね、本当は私も好きだよ。大和のことが! うんっ。付き合おうっ! やったー! 大和、大好き!」


 と、ここで問題だ。


 靴箱で靴を履き替えようとしていた俺に気付かず、告白に成功し、生まれたてのホヤホヤカップルになった2人の男女の会話を聞いていた俺の今の心情を答えよ。


 答えは決まっただろうか?


 正解は「超羨ましい!!」である。

 正直、深い嫉妬にも駆られるが、カップルに向けて、そんな顔をしたりはしてない。……たぶん。


 まぁ、とにかく、カップル誕生の瞬間を見届けた俺としては、このまま黙って家に帰るのが妥当だろう。


 「え? 大和、この前の日曜に遊んでた子とはどうなったんだ?」と、口を挟もうと一瞬考えたが、さすがに人としてどうかと思うのでやめておいた。


 というか、どうして靴箱で告白するんだろうか。もっと他にいい場所があるだろ。

 それに、俺もいるんだぞ? 人前で告白するのは平気なのか? ……もしかして、俺に気付いてない? 2人の世界を築いているからだ。決して、俺の影が薄い訳ではない。


  俺は、なぜか帰り道が同じだった、あのカップルを後ろから眺めながら家に着いた。

 羨ましかった。


 「──ってことが学校であったんだよ。どう思う?」


 家に着いて、すぐさま自分の部屋に駆け込んだ俺は、ベットに寝転がりながら電話をしていた。


 『いい話だね。告白の現場を見れたなんてラッキーじゃん。なかなかないよ?』


 電話の相手は朝霧桃乃あさぎりとうの。こいつは俺の幼馴染みで、少し複雑な事情と家庭環境を抱えている。


 桃乃は、体と心の性が違う。

 本人曰く、「体は男性だけど、心は両性。でも着る服は女性のもの」らしい。

 幼い頃、どうして女性の服を着るのか質問したところ(今思えばかなり不躾だった)、「ボクは何を着ても似合うから♪」と返答が返ってきた。


 桃乃は女性の服の方が可愛くて好きなようだ。

 まぁ、そんな事情もあってか、両親との仲は「火山が噴火しそうなぐらい悪い」と言っていた。


 桃乃の紹介をしたところで、話に戻る。

 「俺の望んでいる反応じゃない」

 『せっかく答えてあげたのに失礼な。どういう反応を期待してたのさ』

 「ラブラブしているのを見せつけてくるなんて酷いね、とか?」

 『……前から思ってたけど、性格悪いよね。それを直さないと、恋人なんて出来ないよ?』


 桃乃の言葉にダメージを受けた俺は、天井を仰ぐ。

 「で、でも桃乃も恋人出来たことないだろっ」

 なんとか反撃すると、それはあっさりとかわされた。

 『ボクはみんなのアイドルだから。付き合っちゃうと、誰かが悲しんじゃうでしよ?』

 忘れていた。こいつは超ポジティブな奴だと。自称・みんなのアイドルを名乗る桃乃には怖いものなんてない。


 「俺だって、みんなの王子様になりうる素質を持ってる……!」

 『王子様にはなれないと思うけど、性格が悪いことを除いたら、重大な欠点はないね』

 フォローしてくれているのか分からないが、俺は、桃乃の言うとおり大きな短所がないと思うのだ。性格も良くはないが悪くもない(はず)。

 それに、もし性格が悪くても、それは簡単に直せるものじゃない。


 遅くなったが、俺の話をさせてもらおう。

 俺は小岩田こいわだ高校に通う、2年生の松崎優人まつざきゆうとだ。桃乃も同じ高校に通っている。

 母親と父親、妹がいて、仲はいい方。

 こう見えても勉強が得意な俺は、テストの順位は毎回10位以内をキープしているし、運動神経だって悪い方じゃない。


 部活には入ってないが、委員会でそれなりに話せる後輩や先輩だっている。

 友達もいるし、どちらかといえば人見知りはしないタイプだ。

 容姿も悪くない気がする。親の顔を見る限り、そう思ったことはない。


 なのに何故、恋人が出来ないのか。


 そりゃ、俺だって、自分のことを完璧な人間だと思ってはいない。むしろ、霞んでしまう人間だと思っている。

 かくれんぼをする時はだいたい最後まで見つからなかったし、むしろ俺の存在を忘れたのか飽きたのか知らないが、俺を見つけないままみんな帰ってしまったこともある。


 『成績がいい人って噂になるのに、優人は噂になってなかったよね。他の成績優秀者は「すごい!」「天才!」って言われてたのに』

 「……べ、別に天才なんて言われなくてもいいし? 俺は秀才って言われたいし?」

 『モテないのはやっぱり性格のせいだよ。無駄にひねくれてるから、優人。頭良くてひねくれてるなんて一番面倒だよ? まぁ、存在感がないせいでもあると思うけど』

 

 性格が悪いせいで(あと、存在感がない)モテないなんて、ダサすぎる。

 ……俺がモテるには周りに俺の良さを分かってもらうのではなく、俺自身が変わるしかない!

 俺は改めて決心した。


 「桃乃、俺は恋人をつくることを諦めない!! そのために変わるんだ! そして、掴み取るんだ、青い春を!」

 『えぇ? まさか、モテたい理由って、青春したいだけ? しかも、暑苦し~』

 苦い顔をしている(気がする)桃乃の声には耳を傾けず、俺は宣言をする。


 「見ててくれ、桃乃! 1ヶ月、1ヶ月あれば俺はモテモテになって、恋人がいる状態に──って、聞いてるか?」

 スマホを見ると、電話が切れていた。

 話すのが退屈になったのだろうか。

 とにかく、宣言を誰にも聞いてもらえなかった俺は、誰かに伝えたくて、スマホに向かって叫んだ。


 「今に見てろ! 告白され過ぎて、恋人が選べないくらいモテモテになってやるんだからな!!」

 

 その時、俺の部屋のドアがバンと開けられた。

 いつの間に帰ってきたのやら、般若の顔をした妹──松崎優菜まつざきゆうなが仁王立ちで立っている。

 「さっきからうるさい! モテたいとか馬鹿なこと言ってないで、勉強でもしなよ。あと知ってる? お兄ちゃん、私の友達から『恋人にするのはなんかヤダ』 って言われてるんだから! もう諦めて、趣味にでも時間費やして!」 


 優菜は言いたいことが済んだのか、ドアを開けっ放しにして自分の部屋に戻っていった。

 「なんかヤダ……!?」

 優菜の言葉を反復した俺は、やっとその意味が理解出来た時、床にドサッと倒れ込んだ。

 なんかヤダ……とは、つまり、「理由はないけど嫌だ」ということ。そしてそれが意味するのは──。


 「理由がなくても嫌われるってことかよ!」

 現実に打ちのめされた俺は泣きたくなった。

 しかし、諦めるわけにはいかないのだ。

 

 「すべては青い春を掴み取るため!!」


 恋人とイチャつく未来のため──。


 これは欲望から始まる、男子高校生がただただ恋人づくりに奮闘する、どこかにあるかもしれない話。

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