第8話 10月14日
あわただしく伝令がすっ飛んできてから何日経っただろうか。玉座であるわが身に日付を知るすべは一つしかない。
つまり宰相が、謁見の間を開いて、本日の日付を言うのを聞くしかないのである。
なお、謁見の間を使わない日は使わないので前回の日付と今回の日付を照らし合わせて何日経ったのかを推し量るしかない。ちなみにひと月が何日かを自分は知らない。
自分、ただの玉座なので。
旅装も解かずひょろっとした黒い鳥みたいな伝令が謁見の間で跪いて魔王が来るのを待っている。
この間廊下をすっ飛んできた伝令と同じかどうかは分からない。なんかうるさいな、と思っただけなので。近くで掃除をしていたメイドさんたちが伝令だ伝令だというから、伝令だと分かっただけだ。
「10月14日。これより謁見を執り行う」
宰相様が入ってきて、そう告げる。その後ろから億劫そうに魔王様がやってきて、玉座へと腰かけた。
謁見がなくても、この部屋には毎日。多分毎日誰かが来る。掃除をしたり、ペラペラになった緋色のクッションを取り換えてくれたり。今度はみどりです。房飾りは、金色。
「面を上げよ」
「は」
伝令が動くたびに埃が舞う。謁見の間の埃ではなくて、おそらく伝令の服からだと思う。あの、もうちょっと、綺麗にしてからここに来てくれない? 普段玉座である自分しかいないとはいえ、ここ、魔王様の謁見の間だからね?
メイドさんたちが後で綺麗にしてくれるんだろうけどさ。
「ブラーハのツチラト様より伝令です。
大願たる賢者の石はいまだ生成ならずとも、その前段階である秘石・月影の雫の生成に成功。つきましては、聖者の
伝令は一礼すると小さく息を吐いて、拳を胸に当て腰を折った。
聖者の腸て。はらわたて。
そんなものどうやって入手するのさ。
何に使うのかとかどうやって使うのとかそのレシピが間違ってるんじゃないのかとかいろいろ突っ込みたいところはあるけれど、玉座には口も舌もないので突っ込めないのがつらいところ。突っ込めたところで、伝令が知っているとは思えないし。
「ボフミール」
「はい。先だってピェラより献上されております。それをツチラトへと回しましょう」
「ああ。ツチラトを皮切りにヒトの勇者が数を頼りに押し寄せて来てはたまらんからな」
これまでの謁見を振り替えるに、勇者は少数で荒野を越えようとしている。越えられずに半ばで撤退を繰り返してるみたいだけれど。
ああ、そういえば半数に減ったんだっけ。その中に聖者がいたってこと? そのはらわたなの?
そう、取って置くもんなの……そう。
いやいいのか、取っておいてくれたから。取っておかなかったら、自分で聖者の腹を掻っ捌きに行くつもりだったの。そう。
賢者の石、なんか怖いなあ!
知恵持つ玉座はハイゴブリンの夢を見るか 稲葉 すず @XetNsh
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます