第10話 その後

先輩はその後しばらく不機嫌だった。


普段は先輩から飲みに行きませんかと声をかけてくれていたのに、メッセージがぱたりと止まったのだ。


不安になった僕は自分から誘うことにした。


「飲みに行きませんか?」


「僕くんが飲みたいなら、もちろんです」


こうして僕から誘うようになった。


でもいざセックスをしても、以前ほどの勢いが先輩にはなかった。


僕がいくと、


「もう終わり?」


と聞くだけ。


以前の先輩は


「まだできるでしょ?もっとやります?」


と積極性があった。


少し寂しくもあったが、僕はそのまま終えた。


先輩は明らかに不満気だった。


「もし嫌なら無理にやらないでもいいですよ」


なんとなく見透かされていた気がする。


僕は迷っていたのだ。


先輩がやりたいから付き合ってあげているのか、


はたまた僕もやりたいのか。


先輩がかわいそうだから一緒にいるのか、


僕も先輩と一緒にいたいのか。


ちょうどこの頃、後に付き合うメキシコ人女性と僕は知り合った。


知り合ったばかりの頃は付き合うとは思ってもいなかったから先輩との関係性はまだ続いた。


でも、メキシコ人女性とまた会うことになった時、僕は先輩に相談した。



「まだわからないですけど、今この子と少し良い感じになってます」


「僕くんはその子のこと好きなの?」


「正直、まだよくわかんないです。でも一緒にいて楽しいです。先輩といる時間も好きですけど、でも相手も僕のことを想っていてくれたら、先輩とはあまり会えなくなると思います。少なくともセックスはできなくなるかと…」


先輩は少し寂しそうな目で静かに頷いた。


「でも、そういう前提でしたもんね」


「…はい」


「なんだか、僕くんには申し訳ないことをしちゃったかな。私のこと、こんなおばさんといるのも嫌だったよね」


「いえ、そんなことは…。そういう風に思わせてしまったのでしたら、ごめんなさい」


そうはいっても、多分僕は同情心だけで先輩とお付き合いしていた。


最初は綺麗な先輩とやれてラッキーくらいに思っていた。そしてまさかこれほどこの関係が長く続くとは思っていなかった。


「僕くんはまだ若いんだから、その子といたほうがいいよ」


「ありがとうございます」


「じゃあね」


こうして、僕らの不思議な関係性は幕を閉じた。


それ以来、岡本先輩との連絡は途絶えた。


メキシコ人彼女と別れて一度連絡をとってみようと思ったりもしたが、躊躇した。


その後しばらくして、再び僕は海外に赴任したのだが、日本に一時帰国していた時、当時の同僚や同期から、たまたまランチに誘われた。


その時、先輩にも会う機会があった。


先輩は僕らの間柄に何もなかったかのように、平然としていた。


その後デートすることはなくなったものの、一度だけ、先輩の愚痴を聞いたり、僕の愚痴を聞いてもらったことがある。


なんだか不思議な関係だが、なんだかんだ友人のようなかたちで交友関係は続いている、そう言ってもいいのかもしれない。



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先輩と寝るまで @bluemusic

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