第2話 ピエロは嘲笑う

ピエロは笑う


僕はピエロだから皆んなを笑わせるだけさ

大事な大事なお客様達はもちろん

大切な大切なサーカスのメンバーもね?


毎日毎日、毎公演、拍手喝采、笑顔満載

お客様は僕が1番最初に笑顔にするんだ。

ピョンピョン飛び跳ねて走り回ってたまに転んで見せて、この会場を毎回この僕が温めるんだ


こんなにやり甲斐のあるお仕事他にあると思うかい?いやいや、あるはずないよ

最高のお仕事さ!僕の転職さ!

ありがとう大事なお客様、あなた方の笑い声が大きければ大きいだけ僕は褒めてもらえる。


ありがとう大切な大切なメンバー、キミらが準備をしている時間は僕の独壇場!

沢山のスポットライトと視線が僕を照らす。


新しい芸を覚えなきゃすぐに飽きられちゃうから、大変だけど頑張れるんだ

新しい芸を覚えなきゃ大っきな声で怒られちゃうから、大変だけど頑張らないとなんだ


でも大丈夫さ、だって楽しいもん

笑ってもらう為だもん

大好きな団長の為だもん


僕が一緒懸命に玉乗りをして、ジャグリングをして、バク転だって縄跳びだって笑顔の為には何だってやってきた!


だけどもさ?僕は思ってしまったんだ。

僕は笑わせてるのではなくて

笑われているんじゃあないかって


何故そう思ったか、僕だって、最初はよくわからなかった。

だってそうだろう?

僕がサーカスでピエロをやらせて貰って、スポットライトを浴びながら皆んなの前に立てるのは僕には才能があるからだって団長は言ったんだよ?


僕が皆んなを楽しませて笑顔にさせているんだって、サーカスの本当の主役は僕だって

大好きな団長がそう言ったから、言ってくれたから、頭を撫でてくれたから


僕はサーカスを支えるんだっ

僕が皆んなに幸せを本当の娯楽を提供するんだ

僕だからスポットライトに1人照らされる事に耐えられるんだ

僕だけが本当に団長に愛されているんだ


転んでも怪我しても、僕はニコニコ笑って

走り回ってピョンピョン飛び回って、お客様にもいっぱいサービスして笑わせてる


笑わせていたはず…なんだ

でも彼女が現れて、団長は僕に冷たくなった


団長は彼女ばかり構う様になって、メンバー達も彼女にばかり優しくする。


そりゃあ、ちょっとばかり彼女の方が器量好しかもだけどもさ?

僕だって、この真っ赤な丸い鼻を取って、変な模様のと真っ白なお化粧を拭っちゃえばそうとう可愛らしい顔していると思うんだ


器量好しなのは彼女も僕も一緒だよ?

違うのは僕は最初から可愛らしい顔だったけど、彼女は最初は汚らしかったのにだんだんと見違える様に可愛らしくなっていった事かな。


僕をママがココに連れてきてくれた時に言ったんだ。

「貴方は顔だけは私に似てとても良いから大丈夫絶対に気に入られるわ。

貴方がサーカスで1番人気になって名前が国中に轟いた時に迎えにくるわ?だから団長さんの言う事を良く聞いて頑張って」


団長もすぐに僕の事を気に入ってくれた。

可愛いって、まるで女の子のようだって、凄く凄く優しくしてくれた。


最初は僕が可愛いすぎて妬まれないように、お面をくれたんだ。

昼間はお面をつけて、皆んなのお手伝い

夜は色んな曲芸の練習をさせてくれたんだけど綱渡はお面が邪魔で足元が見えなくて落ちてばかり。

空中ブランコはお面が邪魔で飛び移る先も見えないし高い場所がとにかく怖くて泣いちゃった

猛獣使いは先輩がいて、僕みたいに小さな子供は餌になるのが落ちだって鼻で笑われた。


何をしてもうまくいかない僕を団長は

大丈夫、何かできる事があるさって頭を撫でてくれた。


綱渡も空中ブランコも猛獣使いも、サーカスの花形は僕には向いていなかったけど団長は僕は身体が柔らかいからピエロはどうだ?って言ってくれたんだ!

ピエロならお面じゃなくて、顔が分からないくらいにお化粧もできるからピッタリだって!


それから毎晩、ストレッチをして、玉乗りの練習をして、こうやったら身体がもっと柔らかくなるよって頭の先から爪先まで団長がマッサージしてくれて恥ずかしいけど嬉しくてくすぐったいけど白くてしなやかな僕の手足が魅力的で、小さな頭は握りつぶしてしまいたくなる程に愛らしいって褒めてくれた。


たまに痛いこともあったけども、団長が僕を大好きだから“特別”に時間を作ってくれているんだって幸せだった、愛を感じた。


それなのに今の団長は新しく来た彼女にかかりっきりで面白く無い…


初めて会った時の彼女は小さくて薄汚い野良猫の様な見た目だったのに、団長自ら丁寧に洗ってあげて、ボッサボサでみっともなかった髪を優しく梳き整えると彼女はそれだけでも別人の様になった。


薄汚かった身体は雪の様に白く細くしなやかで

ボサボサの髪は眩しい程に艶やかな黒髪

髪に隠れて見えていなかった顔には大きくてキラキラと光る瞳に風が吹いたら梵ぐような睫毛

栄養が足りていないだろうかさかさの唇だって形が整っていて、きっと少しご飯を食べたらプルプルの魅力的な唇になるだろう。


どれも今の僕には無い物


団長はニコニコと満面の笑みで彼女をサーカスのメンバーに紹介した。


「化けると思っていたんだ!

このサーカス始まって以来の売りになるぞ。

誰からも愛されるだろうこの子は“特別”だ」


だなんて…ひどいよ…酷いよ団長

“特別”は僕じゃなかったの?

僕だけが“特別”だって言ったじゃないか


段々と僕が大きくなるに連れて団長は前ほどマッサージをしてくれなくなった。

歳をとるに連れ『愛してる』と言ってくれなくなった。

愛らしいって言ってくれていた小さな頭がしっかりした大人の大きさに近づくと、撫でてくれる事も殆どなくなった。


ドジでも良い魅力だって言ってくれていたのに、お前は何時迄もドジが治らないな?だから笑われているんだ。客が笑うのはお前の芸に喜んでだと思っていたのか?

違うお前は笑わせているんじゃない、笑われているんだよ。何て言われた。


そんな時に彼女が来て、僕に触れてくれる事はなくなり僕に向けられていた“特別”は無くなった。


“特別”が無くなっても僕はニコニコ笑顔を振りまいて道化を演じる。

だって、僕はピエロだから。

笑われているのだとしても、僕が、僕だけが皆んなを笑わせていると信じれば信じ続けていれば僕は最高のピエロなんだ。

一流の特別なピエロでいられるんだ…


信じています。

大好きな団長、貴方のことを。


彼女の“特別”な時期が終わったらまた僕を見てくれるよね?


ねぇ、今キミはその幸せが“特別”が永遠に続くと信じているのかな?

ふふっ愚かだね愚鈍だね…僕と一緒だね


信じた物の歪さに勘付きながらも、僕は今日も彼女に負けじとスポットライトの下で皆んなの笑顔に包まれるんだ。

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小さな綱渡し 波崎はる @Namitome

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