第1話 猛獣使いは語るに足りぬ
猛獣使いは語る
俺は全てを見ていたわけではない。
だから俺は悪くない。
あの小娘が馬鹿だったのが全ての原因なんだ。
そもそも団長が拾ってきた捨て子、それの扱いに対し文句の言える人間がこの場所にいると思うか?
信じすぎたんだ。
あの小娘も、俺も…
年齢も不確かな小さな小娘…
初めて見た時は俺も驚いたもんだ
服と呼ぶには、あまりに見窄らしい布っきれ
爪楊枝みたいに、ちと触ったら折れそうな手足
ぼっさぼの伸びきった髪に薄汚れた肌
だが、前髪の隙間から垣間見える瞳は何故か澄んでいて綺麗で、絶望を知らない眼をしていた
あぁコイツァ化ける
俺はそう思った。
きっと、多分、団長も同じ事を思ったに違いない。
だからこんな薄汚い小娘を拾ってきたんだ。
「ほら、挨拶をしてみなさい」
団長が優しく小娘に話しかけているのを見て、俺は確信した。
あぁやっぱりこの小娘に何かを見出したんだ。
こんどこそ、愛情を与えるんだ
「…は、はじ、はじ、め…はじめ、まし、て」
小娘は辿々しく話し出した。
聞き取るのがやっとな小さな声はあまりに弱々しく死にかけの子猫みたいに見えてきた。
「おう。よろしくな」
俺が笑いかけてやると、少し驚いたようにパッと顔を上げて、首が千切れちまうんじゃないかってくらいにコクコクと頷いてみせた。
これからこのサーカスで仲間になる。
家族になる。
もしかすると、こいつがウチの看板になるかも知れねぇな何て笑うと団長もそれは良いと笑った。
なぁ?こんなん信じるだろ?
明るい未来を
楽しい日々を
素晴らしい人生を
小娘はこれから全部手に入れられるんだと
ここで、このサーカスで花の様に笑う日々を送ると。
だが、俺は忘れていたんだ。
団長の“悪癖”を。
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