首の行進
あげあげぱん
第1話
いくつもの首が夜の砂浜を行進をして居るのを見たと。我が社の雑誌の読者から投稿があった。
僕はこれを調べるために、後輩ちゃんと共に件の砂浜を訪れた。時刻は二十時。辺りはすっかり暗くなっている。
砂浜を歩きながら考える。いくつもの首が動き回る光景はきっと恐ろしい。もしその様子をカメラに写すことが出来たなら大スクープ間違いなしだ。
そんな来たいに胸を膨らませる僕に対して、後輩ちゃんは面倒そうだ。
「先輩。無数の首が砂浜を行進してただなんて本当なんすか? あたしたち騙されてません?」
「それは取材をして見ないことには分からないよ」
「これ悪魔の証明ってやつっすよ。存在を証明するには、余りにもオカルトすぎるっす」
「君はオカルトを信じないのかい?」
後輩ちゃんは「そりゃそうっすよ」と言って続ける。
「あたしたち南の島の観光雑誌を作ってるんすよ。夏だからって先輩が島のオカルトを特集しようって言い出して。学校の七不思議みたいな感じでやりたいんでしたっけ?」
「島の七不思議だ」
「どっちでも構わないっすけど、あたしはオカルトとか信じてないっすからね」
「そりゃ気が合うね。実は僕も幽霊とかのオカルトを本気で信じてるわけじゃないんだ」
「え?」
じゃあどうして、と言いたげな後輩ちゃんに僕は言う。
「火のない所に煙はたたないって言うだろ。幽霊やオカルトにも、タネや仕掛けはあるはずさ」
そんな話をしていた時、後輩ちゃんがなにかに気づいたようだった。彼女の方が僕よりずっと目が良いのだ。
「せ、先輩……あれ!」
後輩ちゃんは暗闇の向こうを指差している。僕は目をこらす。そして、僕にも見えた。
「首が……砂浜を歩いてる」
僕はゆっくり前に進んでいく。後輩ちゃんは脚が動かないようだ。前に進んで、僕の目にはその光景がはっきりと認識できるようになってくる。
それは、無数に存在した。たくさんの首。いや、首だけではない。
「あれは手、あれは足か」
砂浜を無数のパーツが行進している。人の形を構成するためのパーツが。
僕は恐る恐るその群れに近づいていき……群れの正体が分かった。
それは人形のパーツだった。首や手足といったパーツを何かの生物が被っている。僕はさらに群れへ近づいてみる。
パーツを被っている生物は……ああ、僕はこいつをよく知っている。よくイメージされるのは貝を被った姿だが、流れ着いたゴミなどを被っている姿も知っている。
「先輩! それ! それなんなんすか!?」
後方からの声に振り返った。怖がる後輩ちゃんに僕は説明する。
「ヤドカリだよ。ヤドカリが人形のパーツを被ってたんだ」
「ヤドカリがっすか?」
「ああ、誰かが捨てたものか、落としたものか、海でバラバラになった人形のパーツを、ここのヤドカリたちが被ってたんだ」
「それを見た人が、砂浜を首が行進してたと見間違えたってわけっすね」
「そういうこと」
でも、まあ。
「砂浜を首が行進してるってのはあながち間違いじゃあないな」
僕は砂浜のヤドカリたちを眺める。
その姿は遠目には人のパーツが行進しているように見えるのだ。
首の行進 あげあげぱん @ageage2023
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