第14章 教皇国マギアヘイズへの侵攻と、暗部の襲撃

第136話 ピーターが恐れる兵器と、ダミアンヘイズへの真の要求


 管制室のモニターで、ナインスの戦いを見ていたエドガーは、なぜか胸が躍っていた。


 「おい見たかドクトル! あのナインスを倒すとはな! 益々テレサヘイズに興味が湧いた! ドクトル、急ぎ前線にいるアンドレフ大佐に電報を送れ」


 「そ、総統。まさか完全敗北の……」


 ドクトルの言葉を遮り、エドガーは続ける。


 「敗北だと? 我々に敗北など無い。しかし、今は少しだけ戦力増強の時間が必要だ。和睦をしよう。だがテレサヘイズの青年教皇は聡い。口だけの和睦はもう通用せんだろ。そうだな──我が国の領土の半分を割譲することを伝えろ。もし本当に噂通りの青年君なら、きっと領土の半分の割譲以外にも──アレの要求もすると思うがな」


 そう言って、管制室を後にするエドガー。

 だが、エドガーの足取りを止める男が一人、ドクトルである。


 「お、お言葉ですが総統、恐れ多くも具申します。和睦の条件に我が国の領土の半分を割譲するのは……」


 「解っていないな、ドクトルは。これぐらいの事をしなければ、すぐさま青年君が我が国を蹂躙する。私は今この場で敗北したが、次の戦争の準備はできている。戦争の配備はすでに始まっているのだ」


 エドガーは、もう話すことは充分だと言わんがばかりに、管制室を後にする──が、まだ納得できないのか、ドクトルがエドガーの足取りを止めて、言った。


 「総統閣下は、お怒りではないのですか? デストロイ・バーラ五機を失い。機械兵ネバーダイも失い。ナインスまでもが──」


 「いい加減にしろドクトル! 私が大丈夫だと言っているのだ。それに、腹が減って少し機嫌が悪い。私は急ぎ食事の間に行くから、ドクトルは急ぎ厚切りステーキの準備をしろ。このままだと餓死してしまう」


 そう言うと、エドガーは管制室を後にして、食事の間に向かった。

 ドクトルは溜め息を一度だけ吐き出し、急ぎアンドレフ大佐に電報を送ると、エドガーが向かった、食事の間まで向かう。




 ────────────




 電報を見たアンドレフ大佐は、完全にエドガーの無茶苦茶な考えに、吐瀉物を地面に撒き散らした。


 完全敗北ではなく、自国の領土の半分を割譲しての和睦。

 これは、まだ戦争を諦めていない表明だった。


 アンドレフ大佐は、クーデターには参加したが、まさかエドガーと言う人物が、ここまでの狂人だとは思わなかったのだ。


 アンドレフ大佐は、真っ白なダミアンヘイズが象徴する軍服を纏う、スキンヘッドの長身で筋骨隆々の男であり、戦略、戦術ともに、理解が深く、決して愚鈍な人間ではない。


 だが、このエドガー・ヴィンセンと言う自分物の思考に、ついていけないのだ。否、エドガーは人間の皮を被った、戦争狂の怪物である事を、今初めて理解した。


 しかし、伝えなかればならない。

 大佐は両腕を上げて、降伏の合図を送り、前線の前に出た。が、それを見た、四獣四鬼しじゅうしきや六大守護聖魔が黙っているはずが無い。


 すぐに攻撃しようとしたが、ピノネロがすぐさま第四のラッパを続けて、二回吹いた。


 二回吹くのは待機命令であった。四獣四鬼も六大守護聖魔もピノネロが参謀総長であり、全ての命令を聞くように、ピーターから言われていたので、大人しく待機する。


 これには大佐もピノネロも両者ともに胸を撫で下ろした。


 大佐は思う。これほどの統率ができた軍だとは、と。


 そして、大佐にピノネロが、戦争の和睦と、和睦条件の電報をピノネロに見せると、ピノネロは暫し思案した後で、教皇の意見に全てを委ねると報告した。


 大佐はその言葉を聞き、もうこちらに戦意がない事を伝えると、自国の野営地に戻っていく。




 ────────────




 一方、マギアヘイズの前線では、未だに暗部が現れていなく、お互い睨み合いが続いている。


 そんな中でピーターは、先ほどダミアンヘイズの前線でグドルーの大技を見て、そのまま、ピノネロの不思議な陣形を見ただけで、マギアヘイズの前線の後方に戻ってきたのだが。なんだか、ずっと魚の小骨が喉に刺さった不快感を感じていた。


 (あれから、一時間弱、僕はピノネロに大事な事を伝えに──いや、何かを渡そうと……)


 「ああああああああ!!」


 「ちょっとピーター! いきなり大声出さないでよ。びっくりしたじゃない」


 アグニスが不機嫌そうに、ピーターに怒鳴る。


 「あっ、悪い。でもちょっと急用を思い出したから、少しだけ、ダミアンヘイズの前線にもう一度だけ、言ってくる!」


 ピーターは、ダミアンヘイズの前線にすぐに行けるように、転移魔法陣を消していなかったので、すぐに、転移した。転移した理由は、ダミアンヘイズの前線に、この日の為に、ありったけのエリクサーを準備したのに、1本もピノネロに渡していなかったことだ。


 はっきり言って、度忘れであると言えば聞こえはいいが、ピーターの落ち度である。


 ちなみに準備したのは1000万本。ピーター自身も作りすぎたかと思ったが、大戦争になるのは明白なので、量が多いにこしたことはない。


 そして、転移した場所でみた光景は、見るも無惨なものだったのだ。


 ピーターはすぐに、ピノネロの陣幕まで行き、勝敗を聞いたが、なんとダミアンヘイズの全主力を打ち破って、相手は自国の領土を半分割譲する事を条件に、和睦まで申し出た事を知った。


 だが、安心はできない。ピーターはピノネロにエリクサーを渡し、先ほど渡すことを忘れたのを伝え謝った。


 「すまんピノネロ! 一番大事なことを忘れて!」


 「大丈夫です教皇様。私たちは今まで、教皇様の力ばかりに頼って来ました。ですが今回は、教皇様の力を借りずに、全員が一丸となって戦ったのです」


 ピータはピノネロの言葉を聞くと。ピノネロの双眸が熱く燃えている様に感じていた。


 「ですが教皇様。エリクサーは有り難く使わせてもらいます。出来れば、ピーター様も手伝って頂けると助かります」


 「もちろんだとも」


 そしてピーターとピノネロで、負傷した仲間全員にエリクサーを飲ませたが。ドラゴンたちは翼を斬られるものや、もぎ取られたものまでいたので、急いでピータの完全復元の権能を行使し、失った翼を元に戻した。


 ドラゴンたちは安堵して、感謝する。


 『まさか失った翼まで元に戻るとは! ピーター様! 感謝致します!』


 六怪ろっかいのドラゴンたちは、これで十全となった。


 ピノネロは、アランや四獣四鬼や六大守護聖魔にエリクサーを渡して、飲ませている。


 そして、ピーターはアランを呼ぶと、インベントリの中から、ありったけのエリクサーを出して、負傷した500万人の軍都の兵士たちに、飲ませるように伝え、アランは一言「助かった!」と言って、すぐに負傷兵がいる場所まで、駆けて行った。


 (ふぅ〜。危なかった。これで何とかなったな。しかし、ダミアンヘイズとの防衛戦は、どれだけ凄かったんだ? もし僕がエリクサーをピノネロに渡すことを思いだす前に、マギアヘイズとの大戦争になっていたら、もしかしてだが、負傷兵が戦死なんてことも──)


 『ピーター様! すぐに来てください!』


 六怪たちの声だった。


 ピーターはすぐに六怪の場所まで訪れると、エルダードラゴンのエルだけ、エリクサーを飲んだのに、吐血が止まらない。


 (至高者さん! エルに何があったのか、すぐに教えてくれ)


 【伝えます。高速解析の権能を使えば、すぐに判りますが、ステータスが上昇したので、高速解析と高速鑑定を統合し、以前より優れた超速解析鑑定の権能に進化できますが、統合進化させますか?】


 

(もちろんYESだ! それよりもエルは何でエリクサーが効かないんだ?)


 【伝えます。個体名・エルダードラゴンは被爆しています。この被爆を治すには、魔王竜之逆鱗の権能の一つ、存在乱喰そんざいらんじきの権能を行使する事により、個体名エルダードラゴンの体内にある放射能を全て喰らい尽くし、エルダードラゴンの被爆を治すことが出来ますが、行使しますか?】


 (当たり前だ。YES)


 すると、ピーターの右手が熱くなり、誰に言われるまでも無く、ピーターは右手の掌を、エルダードラゴンに向けていた──直後、ピーターの右手の掌から暴れ狂う漆黒のトルネードが放たれ、エルダードラゴンを包んだ。


 そして即座に、その漆黒のトルネードはピーターの右手の掌の中に戻っていく。


 ピーターの直感が脳内で教える。


 今この瞬間、エルダードラゴンことエルの体内に溜まった、放射能を全て、漆黒のトルネードが喰らったのだと。


 さらにピーターは、またエリクサーをエルダードラゴンのエルに飲ませた。


 すると吐血は止まり、すぐさまエルダードラゴンのエルが回復した。


 「あっ! ピーター様!」


 いつもの明るく元気な声を聞き、ほっと胸を撫で下ろすピーター。


 だがしかし、ピーターは訊かなくてはならない。なぜエルダードラゴンのエルが、被爆したのかを。


 そして、バーラーとの戦いで、相手が最終手段である自爆の為に自らのバーラー内に取り付けた、絶大な威力の時限爆弾を使った事を聞き、すぐに理解した。


 ダミアンヘイズは核兵器である核爆弾を保有していると。


 それを知ると、ピーターは、すぐさまアンドレフ大佐の元に行き、和睦は認めるが、領土半分の割譲の他に、新たな条件を出した。


 ダミアンヘイズが保有する核兵器を全て、テレサヘイズに渡すこと。

 そして、原子力発電所を全て停止させる事である。


 もし、この条件が承諾できないのであれば、テレサヘイズは、ダミアンヘイズに総攻撃を仕掛ける。と言うことが条件だった。


 しかし、アンドレフ大佐は何の事だか、さっぱり理解できない表情を浮かべている。


 だが、ピーターは続けて言った。

 ダミアンヘイズの最高指導者に伝えれば解ると。


 その話を聞いていたピノネロは、ダミアンヘイズのトップは、総統閣下と呼ばれる、エドガー・ヴィンセントだと伝える。


 ピノネロの話しを聞き、改めてピーターは大佐に言った。


 「今、お前に述べた条件を、ダミアンヘイズの最高指導者である、エドガー・ヴィンセントに伝えろ」


 大佐は、何の事だかさっぱり解らないが、すぐさま、ピーターに言われた事を電報で伝えた。




 ────────────




 帝都ルーラーの食事の間で、厚切りステーキを食べている、エドガーの元に、電報の意味が理解できず、ただ総統閣下なら理解できるとだけ書いてあったので、ドクトルは走って食事の間に駆けつけた。


 その理由は、条件を承諾できなければ、総攻撃を仕掛けると言う、文面を読んだからだ。


 「そ、総統閣下! 大変です!」


 「相変わらず騒がしいやつだな。お前はあれか? 私の食事を邪魔する為に、参謀総長になったのか?」


 「い、いえ違います。私も理解できないのですが、領土の半分を割譲することに加え、不可解な条件を突き付けて来たのです。何でも、ダミアンヘイズが保有する核兵器を全て、テレサヘイズに渡す事と。ダミアンヘイズの原子力発電所を全て停止することが条件だと──もし、この条件が承諾されなければ、テレサヘイズはダミアンヘイズに総攻撃を仕掛けると……」


 それを聞くとエドガーは大笑いして椅子から転げ落ちた。

 そして、尚も床で笑いころげている。


 「あの……総統閣下?」


 「いや〜。すまんドクトル。まさかあの青年君が、核について知っているとはな。ただの若造だと侮っていたが、中々の知恵者じゃないか。よかろう。核を失ったところで、我々にはまだ奥の手がある。その青年君の言う通りにすると、大佐に電報ですぐに送れ。それと、もう前線を指揮する必要が無くなったので、大佐は帝都に帰還するようにと伝えろ。まあこれで、和睦は済んだな。では新たな戦争の準備をしようじゃないか」


 エドガーは食べていた厚切りステーキの事も忘れ、次の戦争に向けて熟慮を巡らせていた。


 さらにエドガーは、自身が青年君と呼ぶピーターについて思う。


 まさかピーターがドクトルさえ知らない、最上層部の者たちだけで情報共有していた、核の存在を知っていようとは夢にも思わなかったと……。


 だが思慮を巡らせている最中も、エドガーの眼光は全てを切り裂くような双眸で、頬を歪ませ微笑んでいる。


 そして、エドガーの命令を聞いたドクトルは、またしても前線を指揮する大佐に、電報を送った。




 ──────────




 その電報を見た大佐は、すぐにピーターの所まで駆けつけ、電報の内容を伝える。


 すると、ピーターは安堵し和睦が成立された。

 ピーターは思う。これで、ようやくテレサヘイズと憂いなく戦えると。


 しかし、まさかとピーターは思う。

 ダミアンヘイズが核兵器を保有していたなんて。


 だが、ピーターにとって、これから大きな戦争が待っている。

 ダミアンヘイズとの決着は一時的に終わった。


 残るは、本命のマギアヘイズである。

 ここでピーターは思うことがあった。


 ダミアンヘイズと和睦はしたが、この突然の戦争の始まりは、マギアヘイズとダミアンヘイズの両国の一方的な裏切りから始まったのだ。


 つまり、ここまでの条件を出し承諾したダミアンヘイズではあるが、また裏切る可能性が高い。それも、いつ裏切るのか解らない。


 ピーターはダミアンヘイズの前線を守ってくれた仲間たちに、すぐ自国に戻るように伝えたかったが、自身がマギアヘイズを滅亡させ自国の領土にし、首都モンテスに帰還するまで、念の為ダミアンヘイズと戦った仲間に前線で野営し待機するようにと、参謀総長のピノネロに伝えた。


 ピノネロは、確かにそうだと言う表情で頷き、ダミアンヘイズの前線で戦った仲間たちに事情を説明し、誰もが納得して前線で待機したのである。


 これで自身がマギアヘイズと戦っている最中に、ダミアンヘイズが急に裏切ったとしても、前線で頼もしい仲間が待機してくれているので、ピーターは憂い無くマギアヘイズと戦えるようになった。



 そしてピーターは、転移魔法陣でまた、マギアヘイズの前線に戻ろうとした。が、まさかと思える事態が待っていたのだ。


 ピーターがほんの数十分だけ、マギアへイズの前線を留守にしている最中に……マギアヘイズの暗部が大急襲して来ていたのである。


 そんな事など、知る由も無いピーターは、転移魔法陣でマギアへイズの前線に戻った瞬間に、眼前に広がる地獄を見たのだった。

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