第134話 ナインスの正体、怨嗟の影


 ダミアンヘイズの帝都の中にある、管制室では以前として、その場にいる全員が前線での戦いが映し出されたモニターを、凝視していた。


 フェニックスの不可解な攻撃も、もちろん確認済みである。

 その攻撃に総統閣下のエドガーは、頬を歪め、笑っているのか判断がつかない表情で語り始めた。


 「どうやら敵も馬鹿では無いようだな。ナインスの正体に少しづつだが、気がついている」


 エドガーはそう言いながら、満足気にチーズたっぷりのピザを食べている。

 そんな冷静なエドガーとは真逆に、焦りを感じる男がいた。

 エドガーの側近であるドクトルだ。


 「総統……先ほどの話しですが、頭を潰された場合、我々は……」


 片手にピザを持ち、そのピザを口に運び、咀嚼しながらエドガーがドクトルに説明する。


 「頭を潰された場合か? 決まっているだろ。我々の敗北だ。それよりも、このピザも美味いな! 益々テレサヘイズが欲しくなってきた。きっとテレサヘイズのあの青年は、食に対するこだわりが異常に高いのだろう。うむ、賞賛する。教皇などやめて料理人になった方がいいと思うのだが、ドクトルはどう思う?」


 ドクトルはエドガーの質問に呆れてしまった。

 ナインスが敗北すれば、この帝国が滅亡すると言う一大事に、あろう事か前線での戦いではなく、食事の話しを始めるとは……。


 「そ、総統。一つだけ質問させて下さい。なぜ、ナインスが負ければ帝国が滅びると言う局面で、そこまで冷静でいられるのですか?」


 「ドクトル。私が先ほど言った言葉を忘れたか? ナインスは負けない。頭である呪師が潰される前に、他の影が呪師と一つになり、怨嗟の塊になるからだ。この世のどの呪いよりも強い呪いの塊。やがて、その塊はテレサヘイズ全てを呑み込むだろう。楽しみだ」




 ────────────




 準備は全て整った。

 アランは、アレキサンダーを主軸にし、自分とセラフィムとマディーンで、一体だけ他の八体とは違う動きをする巨躯の影に、一斉攻撃を仕掛けた。


 まずはアランが軍馬で駆け抜け、先陣を切る。


 まだ先ほどのアレキサンダーの聖なる熱線で、ダメージを負い動きが鈍っている所に、すかさずアランのアルティメットスキルである、剣神之加護の権能の一つが炸裂した。


 「百花剣舞ひゃっかけんぶ!」


 アランの神聖属性の域にまで達した、プラチナの大剣から繰り出される、力強くも鮮やかな剣の舞。


 宙を舞い地を駆ける、上段、中段、下段の全てを切り裂く、艶やかな剣技。

 見るものを虜にするほどの、美しき舞の斬撃が、巨躯の影を襲う。


 「おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお」


 底気味悪い怨霊の呻き声が、戦場を呪う。


 さらに後続から、マディーンが無数の光り輝く聖なる砲弾を飛ばし、セラフィムが聖なる炎で浄化された剣で、上空から巨躯の影を突き刺した。


 「おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお」


 全てを恨み続けたドス黒い声が、吐き出される。


 連携攻撃が終わり、三人は一斉に戦場から離れた。

 アレキサンダーの広範囲攻撃である聖なる熱線から避ける為だ、


 「ここまで来れば、大丈夫だろ。アレキサンダー! 後は頼んだ!」


 アランが戦場から逃れ、アレキサンダーの元まで行き、直接アレキサンダーに伝えた。


 「うむ。解った!」


 アレキサンダーが言うなり、広範囲の聖なる熱線が、巨躯の影に凄まじい熱線を浴びせる。


 「おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おおおお。おお…………」


 呪われし呻き声が戦場から消えた。

 と、同時に、今まで巨大化していた体が縮んでいく。

 また、他の八体の巨躯の影も縮み、最初に現れた時の大きさまで戻っていった。


 アランはすぐさま一斉攻撃した、一体の巨躯の影に軍馬で向かった。倒したのか確認する為である。


 そして、アランは一斉攻撃をした巨躯の影を見遣る。


 動きは完全に無い。

 声も出していない。

 そして、その巨躯の影の手の甲には、9という数字が刻まれていた。


 (どうやら、こいつが他の八体を操っていたようだ。かなり巨大化した他の八体も、最初の大きさに戻っている)


 アランはそう確信して安堵した。


 だがアランは、念の為に自分の大剣で、手の甲に9という数字が刻まれた、巨躯の影を大剣で突き刺した──瞬間。


 他の八体の巨躯の影が、巨大な漆黒の球体になり、アランが大剣で突き刺した巨躯の影に吸い込まれていく。


 アランは咄嗟に飛び退り、その得体の知れない巨躯の影から離れた。


 そして遂に、怨念が真の正体を顕にしたのだ。


 『ああああ。ああああ。ああああ。ああああ。ああああ。ああああ。ああああ。ああああ。ああああ。ああああ。ああああ。ああああ』


 九体の怨嗟の声が入り混じった、悍ましい声を発し、二重、三重に黒いモヤがかかったような影を纏った──身の丈が数十メートルの、巨大なフルプレートアーマーの黒い髑髏面をつけた騎士。


 その大きさは、先ほどまでドラゴンたちが戦っていた、デストロイ・バーラーと同じであり。


 魔力量はデストロイ・バーラーなど比較にならない、異常なまでに桁外れの魔力を持つ怨嗟の塊だった。


 威圧というよりも、すぐにこの場から離れたくなるほどの言葉では言い表せられない、本能が語りかけてくる恐怖に、ただ萎縮するしかない呪力を放っている。


 しかし倒さなくてはならない。

 

 どのような攻撃をするのか?

 果たして、こちらの攻撃が通用するのか?

 全てが未知数の怨霊相手に、その場の全員が冷や汗をかく。


 『ああああ。ああああ。ああああ。ああああ。ああああ』


 恨み抜いた者でしか出せない、恐怖そのものである声を出し、戦場にいる四獣四鬼しじゅうしきと六大守護聖魔に、ゆっくりと近づいてくる。


 一歩、一歩、巨大な怨霊が踏みしめる大地は、踏んだ場所が黒く滲んでいた。


 そう、この巨大な影を纏う怨霊は、全身が呪われている。

 つまり触れれば、触れた者を呪うのだ。


 熾火のように盛んに燃え滾る双眸が一層、灼熱に輝くと、その巨大な怨霊は大地を強く踏みしめた。


 すると大地が蜘蛛の巣のような形で、漆黒に染まりながら、アラン、四獣四鬼、六大守護聖魔に襲いかかって来る。


 その技は、まるで闇の悪魔であるテネブリスの技を彷彿とさせた。


 その場にいる誰もが思う。

 この漆黒に触れれば、漆黒の中に呑み込まれると。


 漆黒の闇さえなければ、戦えると誰もが思う。


 と、その時。アレキサンダーとセラフィムとマディーンが戦う為の方法を考え出した。


 それは三位一体の大技である、神聖完全結界である。


 この結界さえあれば、敵は呪いの攻撃が使えず、物理だけの戦闘になるのだ。


 セラフィムはすぐに、結界を張る事と、その結界の効果を思念伝播で伝え、アランには直接、口頭で説明した。


 これで戦える。そう思った四獣四鬼と六大守護聖魔は、全員が総身を奮い立たせて魔力を高める。


 だが、この三位一体の神聖完全結界は、かなりの魔力を消費するので、時間にしておよそ五分が限界なことを、セラフィムは全員に伝えた。


 つまり五分間で倒さなければ、この巨大な怨霊はテレサヘイズ内の全てを、呪力で侵食することになる。


 まさにデストロイ・バーラーを遥かに超える、恐ろしき怨嗟の塊。


 ダミアンヘイズの総統である、エドガー・ヴィンセントが平静を保っていたことにも頷ける。


 そして、大攻防戦が始まろうとしていた。

 三位一体の結界を張っても、きっとこの巨大怨霊の力は推し量れない。


 だがしかし、これはテレサヘイズを守る為の前線での大勝負であることを、誰もが肌で感じ取っていた。


 「「「では行くぞ! 神聖完全結界!」」」


 アレキサンダー、セラフィム、マディーンが言い放つ。

 すると、三角形の巨大な光り輝くベールのような結界が、戦場を包み込んだ。


 この戦いがダミアンヘイズとの、前線攻防戦の最終決戦だと戦線の全員が疑わない。


 そして、誰に言われる訳でもなく、アラン、四獣四鬼、六大守護聖魔の大突撃が始まった。

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