第133話 永遠の呪詛、ナインスの呪力
管制室のモニターから、テレサヘイズとダミアンヘイズの前線での攻防を、モニターで見ているエドガーが口を開き、ドクトルに質問した。
「人を恨んだことはあるか?」
エドガーの急な問いかけに、ドクトルは言葉が出ない。
「例えば、自分よりも優れた者や、努力もしていないのに運だけで名声を得た者に対して、ドクトルはどう思う?」
「自分よりも優れた者は、尊敬するかもしれませんが。努力もせず、運だけで名声を得た者は、死んだ方が良いかと」
エドガーはその発言に対して、待ってましたと言わんばかりに、瞳を見開き穏やかな口調で話し始めた。
「その通り。誰もがそう思う。だが実際に運だけで名声を得る者は、いつの時代にもいる。そんな者たちを恨み恨み恨み恨み恨み続けて、最後は何に対して恨んでいたのかすら解らなくなった、ドス黒い呪詛が完成する。人間が争いをやめない理由も、そこにあると私は思うのだ」
「はぁ……なるほど」
ドクトルは、一体何の話しなのか理解できずにいた。
しかしそれは、ドクトルに限った事ではない。このエドガー・ヴィンセントと言う男を理解できる者など、この世界には存在しないのだ。
「ところでドクトル。今まさに前線で戦っているナインスの正体を、知りたくはないか?」
それはドクトルが一番知りたい事だった。
なぜなら、エドガーはデストロイ・バーラー五機を失っても、平然と笑って、まだナインスがいると言っていたからだ。
つまり、エドガーはナインスの力に、絶対の自信を持っていることに他ならない。
「教えて頂けるのであれば、是非」
「宜しい。では、まずはホットケーキだ。バターと蜂蜜をありありで」
「は? 総統?」
「だから言っただろう。私は一日に、食事を六食とらなければ餓死してしまうのだ」
ドクトルはすぐに、ホットケーキの準備をする為に、管制室の外で待機している執事に、総統閣下のホットケーキの準備をするように命令してから、また管制室まで戻った。
「総統、執事にすぐ準備するように伝えてきました」
「宜しい。では続きを話そう。ナインスとはな、一人の呪師が八人の見習い呪師に、呪詛の力で永遠に現世に留まり他者を呪い続ける──そうだな、いわば一生死ねない呪い人形を作った訳だ。そして呪師も八人の呪詛の呪力に負けて、怨霊となった。だが、その八人を操っているのは呪師であり、こいつらは半霊半機の怨霊集団。それがナインスだ。改造手術はしたがな」
「聞く限りでは、絶対に死なない不死の最強集団のようですが……それだけで、あの化け物集団のテレサヘイズに勝てるのですか?」
その問いに、エドガーは豪語する。
「勝てる。少なくとも私はそう思う。まあ、頭を潰されない限りはな」
「頭……と、仰いますと……」
「八人の怨霊を操ってる、呪師の怨霊だ」
その時、管制室の扉を叩く音が鳴り、すぐにドクトルが扉を開いた。
すると、バターと蜂蜜がたっぷり乗っている、できたてのホットケーキを執事が持ってきたのだ。
ドクトルはそのホットケーキを受け取ると、すぐにエドガーに渡した。
「美味い! やはりテレサヘイズの食に対するこだわりは、底が知れないな! 人生も、これだけ甘ければ良いのだが」
ドクトルはエドガーの発言に、返す言葉が見つからなかったので、黙って前線の攻防が映し出されているモニターを見つめていた。
────────────
アランはすぐに、ピノネロがいる陣幕まで戻ると、ピノネロと戦術会議を始めた。
先ほどまで戦っていた時の現象について。
不可解な敵の能力について。
明らかに呪属性なのに自分の大剣が通用しない事について。
敵の手の甲に刻まれた数字について。
「ピノネロ君の意見を聞きたいんだ。ピノネロ君は戦闘をしたことが無いと思うが、私としては、この敵は非常に厄介な敵であると断言できる。だが、その先に進む為の方法が解らないんだ」
ピノネロは暫し思案すると、一つの考えを導き出した。
まず、アランが今、戦っている敵とは、これ以上の戦いは避けた方が良いと言うこと。
そして、呪属性なのは理解できるが、神聖属性にまで高めれたアランの大剣でも、通用しないと言うこと。
最後に、九体の同じ巨躯の影だが、まるで識別するように手の甲に数字が刻まれていると言うこと。
これらを総合的に考えると、まず無闇に敵と交戦すればするほど、敵がより強大になり、こちらが不利な状況になるので、交戦は一時的にやめて防戦に徹する事が重要になる。
さらに、手の甲の数字を確認して、聖属性で一体ずつ攻撃し、どのような反応をするか観察する事も重要なのだ。
これらを、アランに伝えると、アランはすぐに戦線で戦う仲間の全員に伝える為、陣幕に一番近い場所で戦っている、仲間を探した。
すると、上空から巨躯の影に攻撃を仕掛けている、セラフィムを見つけたので、アランはすぐにセラフィムを呼び、先ほどまでのピノネロとの会議の内容を話し、セラフィムが思念伝播で戦場で戦う全ての仲間に、攻撃を停止するように伝えた。
ここからが、勝負の分かれ目である。
前線で戦う、
だが、アランには考えがあった。
九体の敵を戦線で横一列に並ばせ、そこにアレキサンダーの聖なる熱線を浴びせれば、九体の動きが詳らかになる。
問題はそれを、どうやるかだ。
アランは思念伝播の権能を保有していないので、セラフィムに思念伝播の行使を頼み、四獣四鬼と六大守護聖魔の全員は、自分のすぐ近くに待機するようにと伝え、今度はピノネロ、アラン、セラフィムの三人の会議になった。
アランは先ほどの、アレキサンダーの熱線を使った作戦を提案すると、二人とも頷いている。
そして、アランが懸念していることも伝えた。それは、どうやって九体の敵を横一列に並べるかだ。
しかし案外、懸念していた事は早く解決し、アランの作戦はすぐに実行できる事がわかった。
それは、フェニックスの炎であった。
フェニックスの炎は攻撃と回復の二つの能力がある。
そして、フェニックスが敵と交戦中に解った事があり、それは攻撃の炎に対しては、相手にダメージを与える事ができないのだが、回復の炎で攻撃すると、その炎に近づかないことだ。
つまり、フェニックスの回復の炎で、敵である九体の巨躯の影を包み込み、その中に閉じ込めて、横一列に並んだ所をアレキサンダーの熱線で攻撃する。
作戦の内容は、これで決まった。
後は、セラフィムが思念伝播でフェニックスとアレキサンダーに伝えるだけである。
セラフィムが思念伝播でフェニックスとアレキサンダーに、作戦を伝えている最中、アランは戦場を見回した。
すると、やはり四獣四鬼や六大守護聖魔が交戦していた巨躯の影は、今では先ほどまでドラゴンたちが戦っていた、デストロイ・バーラー並に巨大化していたのだ。
思念伝播で防戦に徹するように伝えるのが、後数分でも遅れていれば、今以上に巨大化していただろう。
タイタンとサイクロプスの巨大さには、まだ遠く及ばないが、交戦が長引けばタイタンとサイクロプスの大きさにまで、届いていたかもしれない。
アランはそう考えると、少し安堵した。
さらに上空を見上げると、フェニックスが回復の炎を戦場の全体に、炎の壁のように広げ、その炎の壁を徐々に狭めていく。
そして、狭めた炎が九体の巨躯の影を横一列に並べた瞬間──アレキサンダーの聖なる熱線が、横一列に並んだ九体の巨躯の影を浄化の熱で燃やした。
その後の九体の巨躯の影の行動を、備に確認するため、アランは全神経を集中させ、戦場の呪われし九体を見遣る。
するとアランは見つけた。
一体だけ、他の八体とは明らかに違う行動を取る影を。
よく見れば、すぐに解ったことかもしれない。
だが乱戦の中で、敵がどんどん巨大化する戦場では、それを探せと言う方が、難しい話しだ。
結論から言うと、九体の中で、巨大化しない影が一体だけいたのだ。
だが、巨大化しないとは言っても、全く巨大化しないわけではない。
幾らかは大きくなる。だが、他の八体と比べて明らかに巨大化していないのだ。
ここでアランは考えた。
もし、今この戦場にいる聖属性の仲間を集めて、巨大化が著しく遅い、巨躯の影を攻撃したらどうなるのか?
試す価値は充分にある。
むしろ、それをしなければ、最初の戦いに戻り、永遠に終わらない呪われた影と戦い続けることになってしまう。
そしてアランは、自分の考えた作戦をセラフィムに伝えると、セラフィムも同感だと言い、思念伝播を全員に送り作戦を教えた。
この作戦でどうなるかは解らない。
だが、アランは今まで戦ってきた、あらゆる能力を持つモンスターとの戦いで、本能的に感じていた。
明らかに一体だけ巨大化が遅い巨躯の影に、聖属性の攻撃を一斉に仕掛ければ、戦局が一変すると。
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