第131話 双方総攻撃、新たな神話が生まれた瞬間
場は恐ろしいほどの静謐に支配されている。
デストロイ・バーラーは残り三機。
ドラゴンは残り四体。
だが、先ほどのマスマーダー戦で疲弊した、ティアマトを含んでの四体である。つまり十全なのは三体であり、このままだと一騎討ちになるのだ。
ティアマトはまだ戦う気でいるが、渾身の一撃であるダークフレアを放った時に消耗した体力は大きい。
思念伝播でティアマトも後方に下がるようにと、残りの三体のドラゴンが決断するように伝えた。しかし、その提案には承諾しかねるとばかりに、ティアマトが吼えた。
「我ならまだ戦えるぞ! 我の力を疑うのか!」
誰も疑ってる訳ではない。
確かに、一撃必殺のダークフレアを放った後のティアマトは疲弊している。
しかし、敵から傷を受けた訳ではない。
戦おうと思えば戦えるのだ。
三体のドラゴンはすぐさま思考を巡らせ、ティアマトも戦線に入れることにした。
敵のデストロイ・バーラーは三機。
ファナティック、ラスター、そしてウォーパーソン。
対するドラゴンは四体。
ヒュドラ、ニーズヘッグ、ティアマト、そしてエルダードラゴンである。
そして静謐はウォーパーソンの一言で激戦に変貌した。
「総攻撃だ!」
ウォーパーソン、ファナティック、ラスターが同時に動き突撃した。
ドラゴンたちも、その動きに合わせるように、ヒュドラ、ニーズヘッグ、ティアマト、エルダードラゴンが敵のデストロイ・バーラー目掛けて突撃する。
まずファナティックがヒュドラとティアマトにぶつかり、ラスターはニーズヘッグとぶつかった。
そしてウォーパーソンはエルダードラゴンと戦う。
9000年の時を越えてウォーパーソンの総攻撃とともに、大空の覇者たる偉大なるドラゴンと、他国を掃討し支配する為に作られたバーラーが戦う、第二次竜機戦争が始まった。
ディクテイターとマスマーダーの損失は大きいが、ウォーパーソンはこの戦いに勝算があると疑わない。
ドラゴンたちも同じである。この戦い、決して負ける訳には行かないのだ。
もし負ければ、地上の不気味な九体の機械兵を相手にする味方が、地上からも上空からも攻撃を受けることになる。
もしそうなれば、前線は総崩れとなり、テレサヘイズが蹂躙されてしまう。
だがウォーパーソンも同じだ。
自分たちが負ければ、前線は地上の機械兵だけに任せることになる。
もしそうなれば、上空からの攻撃が出来ず、圧倒的な勝利は望めない。
双方ともに負けられないのだ。
ウォーパーソンはドラゴンたちを侮っていた。
ディクテイターだけで倒せると──しかし、現状はディクテイターどころか、マスマーダーまで失うことになったのだ。
ここに来て、やっとウォーパーソンは痛感する。
ドラゴンたちの底力を。
そして、戦いは始まる。
ファナティックとヒュドラとティアマトの攻防。
ファナティックの頭の左右から生えた、異常に長い翼。これは腕でもあったのだ。
その威力は凄まじく、本来の腕の長さの倍はあり、上から押し潰すような攻撃に、ヒュドラは苦戦している。
ヒュドラの不死の力で、疲労しているティアマトの分まで敵の攻撃を防御しているからだ。
だが防戦一方では無い、ヒュドラが九本の首でファナティックに絡み付き、純白の装甲を牙で噛み砕いていく。
ティアマトもまた攻撃しようとするが、ファナティックの性格は冷静そのものである。いかにして敵の急所を狙うかを、思考しているのである。
その思考が、弱ったティアマトを狙えと命じた。
瞬間、ファナティックの魔力量が急激に上昇し、ティアマト目掛けて突進した。その動きはヒュドラが絡み付いている状態での移動だ。
頭の左右の両翼から途轍もなく重い一撃と、間髪入れずティアマトの片方の翼を蹴り上げ、翼を引き裂いた。
引き裂かれた理由は、ファナティックの両足の先端は鋭い刃になっているからである。
ティアマトは片方の翼を失い、地上に落下し、戦闘不能になってしまった。
だが、ヒュドラの猛攻は続く。
噛みついた場所に牙から強力な酸を出し、純白の装甲を溶かしている。
『ソレ、無駄』
ファナティックの無感情な声とともに、ファナティックの純白の装甲が熱くなり蒸気を発した。
その蒸気は、異常な高温であり、灼熱のブレスよりも熱量が高かったのだ。
思わず、ファナティックに絡み付いていたヒュドラは、ファナティックから離れた。
ここでヒュドラは賭けに出た、自身の肉体は今、高温で熱せられて鱗が溶けてしまっている。
だが、ヒュドラの強みは猛毒だ。
機械に毒が通用するとは思えないが、ヒュドラの攻撃はブレスではない。
他のドラゴンと違って、不死ではあるが強力無比なブレスを吐くことができないのだ。
ならば、全力でファナティックに猛毒を食らわす他ない。
ヒュドラは、高温の蒸気がファナティックの純白の装甲から射出されているが、構うことなく突撃し、またもや九本の首で絡み付き純白の装甲に噛み付く。
しかし、このヒュドラの攻撃はファナティックにとって致命的だった。
なぜなら、ヒュドラは全身から猛毒を放つ。その全身が今、焼けただれ、ヒュドラの猛毒は垂れ流し状態になっていて、純白の装甲の隙間という隙間から猛毒がファナティックの内部を冒したからである。
デストロイ・バーラーは脳みそを移植されているバーラーだ。
その脳みそには、常にエネルギーを供給しなければならない。
だが、その供給されるべきエネルギーの中にヒュドラの猛毒が、ほんの僅かだが混ざり込んでしまった。
その結果は移植された脳みその壊死である。
ファナティックは、体をガクガクと震わせながら、地上に落下したのだ。
この勝負に勝ったヒュドラは奇跡に近いが、ヒュドラの諦めぬ気概の勝利と言ってもいい。
しかし、ヒュドラのダメージも尋常では無い。
捨て身で、灼熱のブレス以上の高温の蒸気に包まれながらの戦闘は、ヒュドラの鱗を溶かして、体中が焦げてしまっている。
ニーズヘッグかエルダードラゴンの、どちらかに加勢しに行きたかったが、体が限界だとヒュドラに伝えていた。
さらに蒸気で熱せられた翼すら溶けている。
上空に留まる事も困難になり、ヒュドラもまたファナティック同様に、地上に落下した。
──────────
五機の中で一番巨大であり、装甲も分厚く、背中には二つの巨大ロケットエンジンを搭載したラスターが、ニーズヘッグと戦っている。
両者とも近距離戦であり、ニーズヘッグもラスターに負けぬほどの巨体の持ち主なので、なんとか攻防戦を繰り広げているが、ラスターの重い攻撃に押されているのが現状だ。
ラスターの攻撃はそれだけでは無い。
背中に搭載したロケットエンジンの出力で、ニーズヘッグから高速で離れると、今度は、離れた時以上の超速で、ロケットエンジンの出力を全開にして、力任せの突進をしてきた。
余りの速さに避けきれず、ニーズヘッグがその突進を食らうと、ニーズヘッグはラスターの凄まじい威力の破壊力をまともに受け、大量の血反吐を吐いた。
だが力には自信があるニーズヘッグである。
血反吐を吐きながらも、突進してきたラスターを捕まえ、片腕を噛み砕いたのだ。
ニーズヘッグの大技はブレスではない。
その強大な顎の力による、噛み砕きなのだ。
『お、おのれ……』
片腕を失ったラスターは、怒りに任せて、二度目の突進をしてくる。
だが、またしても同じ事が起こった。
ニーズヘッグがまた突進を食らい血反吐では無く、血のブレスと思うほどの吐血をしながら、もう片方の腕も噛み砕いた。
『ゆ、許さん! 貴様だけは許さん!』
三度目の突進をしようとしたラスターだが、今までとはスピードが全く違う。
余力を残しての二回の突進だったが、ラスターは余力など気にせず、ロケットエンジンを最大出力にして、怒りの大突進をニーズヘッグにした。
そのスピードは音速を超えたスピードの大突進で、ニーズヘッグがその突進を食らうと、意識を失いかけた──が、ニーズヘッグはこれで最後だと言わんばかりに、ラスターの頭部を噛み砕き、背中の二つのロケットエンジンまでも噛み砕いたのだ。
ラスターに移植された脳みそは、ラスターの頭部にあったので、そのままラスターは動きを止めて地上に落下した。
ニーズヘッグもまた、三度目の突進で体中の骨や臓器を損傷し、大量の血反吐を吐きながら気絶して、地上に落下していった。
──────────
エルダードラゴンと交戦中のウォーパーソンに、底知れぬ焦りが生まれた。
なぜなら、常に連絡を取り合って戦っていた、ファナティックとラスターの二機から完全に通信が途絶えたからである。
つまり二機ともドラゴンに敗北したことを、すぐさまウォーパーソンは理解した。
「どうした? 急に動きが止まったが──このまま負けを認めて逃げる気か?」
エルダードラゴンがウォーパーソンを睥睨しながら挑発する。
ウォーパーソンは安い挑発だと、心の中で鼻を鳴らしはしたが、焦燥感に駆られ歯噛みしていた。
なぜなら、今のウォーパーソンの思考は、眼前のエルダードラゴンを倒す事に専念したいが、ファナティックとラスターを倒したドラゴンが加勢に来ることを警戒していたからだ。
つまり二体とも地上に落下した事など知らないウォーパーソンは、周囲にまで集中しながらエルダードラゴンと戦うことを余儀無くされた。
動きが鈍ったウォーパーソンを放っておくエルダードラゴンではない。
強力な爪と牙で攻撃し、ウォーパーソンを確実に弱らせていく。
だが、ウォーパーソンとて、エルダードラゴンに攻撃を与える手を緩めない。
本気になったウォーパーソンの、無数の足蹴りの猛攻はエルダードラゴンに多大なるダメージを負わせる。
それを見て、後方に下がっていたリンドブルムが助けに入り、決死の体当たりをウォーパーソンにお見舞いした。
まさにリンドブルムの全生命力をぶつける体当たりだ。
この攻撃には、ウォーパーソンも体幹を崩した。
そこに透かさずエルダードラゴンが、大気を震わせ総身のエネルギーを全て口腔に集中させると──大口を開き極大ブレスを放った。
それは魔王竜之加護の権能の一つ、ギガフレアである。
「これで終わりだ! ギガフレア!」
エルダードラゴンのブレスに呑み込まれ、塵すら残さず消えるウォーパーソン──だと思ったが、まだ耐え抜いていた。
「この死に損ないが!」
またもや、リンドブルムの体当たりがウォーパーソンに命中したが、ウォーパーソンは、リンドブルムを掴んで離さない。
『死に損ないは貴様だ!』
なんとウォーパーソンは、両手でリンドブルムの両翼を引きちぎったのだ。
ウォーパーソンの攻撃で両翼を失い、今度はリンドブルムまでも地上に落下する。
そして、エルダードラゴンのギガフレアを耐え抜いたとは言え、機体中の装甲に甚大な欠損が多々あるウォーパーソンは、決断した。
半径50キロメートルに及ぶ大爆発。
全ての生物を容赦なく消滅させる死の爆炎。
そう、ウォーパーソンは自爆を決意したのだ。
『私も終わりだが、貴様たちも終わりだ! ドラゴンを舐めていたのは認める! だが、これで全て道連れだ!』
ウォーパーソンは自身のバーラー内に埋め込んである、時限爆弾のスイッチを押す為、自分の拳で自分の腹を殴り、風穴を開けた。そして、埋め込んでいた時限爆弾のスイッチを押す。
と、同時にウォーパーソンは動かなくなった。
つまり絶命したのだ。
絶命したウォーパーソンの内部から機械音声が流れる。
『起動確認。30秒後に爆発します』
エルダードラゴンは咄嗟に理解した。
ウォーパーソンは死んでも負けない切り札を持っていた事を。
そして、その切り札が時限爆弾であることも。
エルダードラゴンはすぐさまウォーパーソンを抱き、遥か上空まで一直線で急上昇した。そのスピードは音速を超えて空を切り裂き上昇する。
『爆発まで残り15秒』
エルダードラゴンは考えていた、このまま大気圏まで突入した後で、どうするか。
『爆発まで残り10秒』
そして、考えは決まった。エルダードラゴンは飛行中に口腔内にありったけのエネルギーを溜め込んでいる。
『爆発まで残り5秒』
溜め込んだ極大エネルギーが、今まさに暴発する寸前まで高まっていた。
エルダードラゴンは金属の塊と化したウォーパーソンを、大気圏に渾身の力で投げ飛ばす。
『爆発まで残り3秒──2秒──』
「爆弾ごと消えて無くなれええええ! ギガフレアーーーーーー!!」
エルダードラゴンは大口を開け、口腔内に溜め込まれた超極大エネルギーのブレスを、絶命し時限爆弾の機体となったウォーパーソンに全身全霊の力で吐いた。
大気圏での大爆発と、エルダードラゴンのギガフレアが混ざり合う。
だが、エルダードラゴンのギガフレアの熱エネルギーが、時限爆弾の熱エネルギーを凌駕し、混ざり合った膨大なエネルギー量は地上ではなく、宇宙に向かって爆発したのだ。
なんとか、地上の仲間たちを助ける事ができたエルダードラゴンは安堵した。が、ギガフレアと時限爆弾の超高熱エネルギーにエルダードラゴンが呑まれ、その圧倒的なまでの火力に大ダメージを負い、気を失い地上に急降下した。
そして、そのまま地上に落下し、地面に激突する衝撃で絶命する所を、地上にいたドラゴンたちが察知し、エルダードラゴンが落下する場所まで急いで向かいキャッチすると、ドラゴンたちは大地が裂ける凄まじい衝撃に耐えながら、なんとか持ちこたえたのだ。
すでに気を失ってしまったエルダードラゴンは、仲間のドラゴンに助けられ、絶命を免れた。
だが、ギガフレアと時限爆弾の激しい熱量に大ダメージを負ったエルダードラゴンは、仲間の誰よりも傷つきボロボロになっている。
だが、幸運なこともあった。
誰一人として、死んだものがいなかったことだ。
さらにエルダードラゴンが落下した場所が、ダミアンヘイズの前線から近かった事である。これがもし遠くの場所なら、翼を失ったドラゴンたちが、すぐさま駆けつける事など出来なかっただろう。
翼を失ったドラゴン。
鱗が溶け皮膚が焼けただれたドラゴン。
骨が砕け臓器を損傷したドラゴン。
黒き混沌のブレスを浴びて、尚も両翼を失うまで戦い続けたドラゴン。
大気圏で異常なまでの熱膨張の大爆発に呑まれたドラゴン。
七体のドラゴンは全員、血飛沫を撒き散らしながら満身創痍になっても、決死の覚悟で戦い続けた。
そして、全てのドラゴンが奇跡的に生きている。
一機だけで、国を壊滅させる強大な力を持つ、あの化け物のデストロイ・バーラー五機を相手にして。
まさに今、9000年前の竜機戦争を超えた、新たな神話が誕生したのだ。
斯くしてエルダードラゴンと
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