第129話 ナインスの登場、そして神話を超えた死闘の始まり
四機の残されたデストロイ・バーラーがディクテイターの完全な消滅を確認しても、感情を露わにする事はない。
さらに言うなら五機の中で唯一、命令を聞かないバーラーであるディクテイターの消滅に安堵する、一機のデストロイ・バーラーがいた。
それはウォーパーソンである。
五機のバーラーの中でウォーパーソンだけは、
そしてウォーパーソンは、今現在、消滅したディクテイターの実の父親である。
だが、悲しみなどない。
バーラーに脳みそを移植される前から、ディクテイターは自分だけが世界一だと考え、何度もウォーパーソンの殺害を狙っていたからだ。
ウォーパーソンは思っていた。もしこの戦いの最中に、自分の命令を聞かず、ディクテイターが自分の命を狙ってくることがあれば、それはもう戦い所ではなくなる。
だからこその安堵であり、ウォーパーソンは残りの四機に思念伝播で命令を伝える。
本当は、眼前の七体のドラゴンを相手にしたい。
しかしながら、地上の七体のドラゴンにも匹敵する脅威が存在している事を。
ウォーパーソンは苦渋の決断を下し、上空に二体、地上に二体のデストロイ・バーラーの編成を余儀なくされた。
まず上空の二体は、ウォーパーソンとマスマーダー。
地上の二体はファナティックとラスターである。
その編成を見て、七体のドラゴンたちが鼻で笑った。
『舐めれらたものだ、貴様ら二体だけとは』
しかし、決してウォーパーソンの編成は、ドラゴンたちを舐めた編成では無かったのだ。
マスマーダーは、スピードと攻撃力に関しては、五機のデストロイ・バーラーの中で、最高を誇る。
加えて、五機のデストロイ・バーラーを束ねるリーダ的存在である、ウォーパーソンの力を、ドラゴンたちは見くびっていた。
ウォーパーソンは戦いの構えを取るが──その時、ウォーパーソンに僥倖とも言える通信が届く。
ダミアンヘイズでも、まさに最強たるナインスと呼ばれる、九体の機械兵が現地に後、数分で到着することだ。
ウォーパーソンは直ちに地上の殲滅を任せた、ファナティックとラスターを上空に呼び戻した。
これで、存分に戦える。ウォーパーソンの思考の中では、どのような戦術にするか、すでに計算できている。
さらに、先ほどのディクテイターと二体のドラゴンのデータも計算に入れての戦いだ。
(散ったディクテイターには感謝せねばな。まさかこれほどの、データーを集められるとは)
ウォーパーソンは内心でそう考えながら、まずは疲弊した二体の、ファフニールとバハムートを戦闘不能にさせるため、動いた。
ディクテイターとは、魔力量が桁外れに違うウォーパーソンが仕掛けた攻撃は、完全自動追尾の掌から放たれる、高圧縮された超魔力弾である。
ウォーパーソンは近距離戦と遠距離戦の二つの攻撃を得意とし、近距離戦においてはディクテイター以上の攻撃力を誇る、バーラーなのだ。
そして、ウォーパーソンの作戦に一番不信感を持ったのは、地上の者たちである。
先ほどまで、ファナティックとラスターが、殲滅を仕掛けようとした矢先に、上空に舞い戻って行った。
これには何かの策があると、ピノネロは瞬時に判断し、
すると、前線の奥から二メートルを超える巨躯の、漆黒のフルプレートアーマーに黒い髑髏面を付けた、九人の──いや、九体の機械兵であるネバーダイの身体能力を遥かに超越した、不気味な影のような存在が現れたのだ。
さらに、それぞれ左手の甲に、1から9までの数字が刻まれていた。
この九体こそが、ダミアンヘイズの最も恐ろしい機械兵、ナインスである。
だが、魔力量が解らない。
一つだけ理解できるのは、この九体の機械は、途轍もなく危険な存在であると言うことを、四獣四鬼も六大守護聖魔も本能で理解していた。
そんな事を考えていると、上空から、ファフニールとバハムートが落下してきた。
それを見たフェニックスは、すぐさま二体のドラゴンに治癒の炎で回復させようとしたが、回復しない。
フェニックスはすぐに理解した。
この攻撃は、単なる攻撃ではなく、カーズスキルの攻撃であると。
なぜならば、フェニックスの回復は、カーズスキルでの攻撃に対しては、回復させることが出来ないからだ。
ウォーパーソンの繰り出した、超魔力弾は呪いの力も込められており、ただの回復では、どうすることも出来ない。
地面に落下したファフニールとバハムートは、すでに体の自由が奪われ、呪われた場所は黒く変色し、その激痛に悶え苦しんでいる。
だが、マディーンとセラフィムが、その呪いを浄化させ、フェニックスの治癒の炎を再び浴びせると、空中戦での傷が癒えていく。
『すまない、またしても助けられた』
ファフニールとバハムートは、そう言うと、上空に戻って行った。
『ほう。まさかあの超魔力弾の呪いを食らい、まだそれほどの生命力があるとはな。しかも呪われた箇所が回復している──なるほど、地上には上位聖属性の者がいるのか。ならば!』
ウォーパーソンの速さは、先までのディクテイターの数倍はある。
いくら魔王竜之加護を授かったとはいえ、ファフニールとバハムートはウォーパーソンの動きに翻弄されていた。
瞬間──刹那とも思える速さで、バハムートの上方にウォーパーソンが現れ、無数の踏み蹴りをお見舞いした。
その余りの威力に、バハムートは驚愕の念を隠すことが出来ない。
咄嗟に防御の構えは取ったが、無数の踏み蹴りの一撃一撃が、異常なほど重いのだ。
(クッ! この化け物だけなら、まだ七体で何とかなるが、残り四体とは……)
バハムートの焦りは尋常でない。
なぜなら、攻撃の隙がないのだから。
この情報を常に思念伝播で共有している、他の六体のドラゴンも、ウォーパーソンが、ディクテイター以上の強者だと知った。
さらに絶望は続く。
ウォーパーソンが、残りの四体に攻撃命令を下したのだ。
万全な状態で待ち構える、ヒュドラ、リンドブルム、ニーズヘッグ、ティアマト、エルダードラゴンに残りの四体の、デストロイ・バーラーが襲いかかる。
魔王竜之加護がどれほどの力を誇るのか、十全である五体のドラゴンは知らないが、戦わなくてはならないのは確かだ。
まさに、この激戦は9000年前の竜機戦争以上の戦いになるだろう。
これから始まる、敵のデストロイ・バーラー。
ファナティック、マスマーダー、ラスター。
そして、一番の脅威である、ウォーパーソンを相手にしなくてはならない。
9000年と言う余りに長き月日の果てに、まさか過去を超える異次元レベルの竜機戦争の続きが待っていようとは……。
ここで唯一の勝機があるとしたら、七体のドラゴンが常に思考を共有していることだ。
この思考の共有で持って、連携技で残り四体のデストロイ・バーラーを倒すしかない。
七体のドラゴンは、地上でも不気味な存在を感じていたが、今は目の前のバーラーが優先である。
地上での不気味な存在である敵は、四獣四鬼や六大守護聖魔やアランに頼むしかない。
ディクテイターという、デストロイ・バーラーを倒したことに浮かれていた、自分たちが恥ずかしいとさえ思えてしまった。
なぜなら今、眼前にいる四体のデストロイ・バーラーは完全に統率が取れていて、虎視眈々と七体のドラゴンを排除する事だけに、全てのエネルギーを使おうとしているからだ。
確かに、加護を授かり強くはなった。
だが、未だに眼前で相対するデストロイ・バーラーの魔力量の底が知れないのである。
これは神話の再来などでは無い。
後に語り継がれる事など無いであろう──だが、神話以上の激烈な死闘が今、ドラゴンとデストロイ・バーラーがお互い睨み据える上空の戦場で、始まろうとしていた。
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