第128話 デストロイ・バーラーの誤算と、加護の力
ダミアンヘイズ第三帝国がデストロイ・バーラーを開発した時のデータは、ドラゴンの里での強力なドラゴンのパワーを計算し、そのパワーを上回るバーラーを作る為のデータであった。
もちろんテレサヘイズの
それが、デストロイ・バーラーなのだ。
だが、そこには大きな誤算があった。
ピーター・ペンドラゴンが魔王竜に進化した時に、ギフトとして、人間と亜人以外に魔王竜之加護が授けられたことである。
それは
ピーターから加護を授けられ、六大守護聖魔に比肩するほどの権能の力を得ていたのだ。
しかし加護による権能の力だけでは無く、ステータス面も大幅に上昇している。
なんと、魔王竜之加護は全ステータスが20倍になるという、驚愕の力を有していたのだ。
つまり9000年前のドラゴン以上の力があることになる。
さらに言えば、そのデータをディクテイターは知らない。
今まさに己に迫り来る、バハムートのメガフレアの威力をディクテイターは知っていたので、防御の構えさえ無視した。
だが魔王竜之加護を授かった、果てしなく膨大なエネルギー量を持つ、バハムートのメガフレアはディクテイターの中でのデータには存在していいない。
つまりバハムートのメガフレアを防御もせず、直撃したディクテイターは一体どうなったのか?
それは想像に難く無い。
装甲は焼け剥がれ、ディクテイター御自慢の四肢にも甚大な被害が生じ、稼働に支障をきたしている。
『クッ……貴様の力……データには無かったぞ……』
先ほどまで、熾火のように双眸の奥が爛々と燃え盛っていたディクテイターであったが。今では、埋み火のように弱りきった、今にも消えてしまいそうな双眸の輝きに変わってしまった。
ここで一つの疑問がある。
先ほどまで防戦一方だった、ファフニールとバハムートであるが、ここに来て、形勢を逆転させたことだ。
これには、ファフニールとバハムートの様子見もあったが、ディクテイターの余りに禍々しく毒々しいオーラによる威圧に、最初こそ背筋が凍る気持ちだった。
しかし加護の力により、自分たちは五機の恐るべきバーラーと対峙して、勝てると言う慢心が多少なりともあったのだ。
故に、ディクテイターの猛攻に対して、舐めてかかってしまい。結果としてフェニックスに助けられることになった。
だが、慢心と手心の言葉を置き去りにした、ファフニールとバハムートの二体がディクテイターを相手に、苦戦することなど皆無である。
9000年前の再来かと思いきや、今のドラゴンは9000年前のドラゴンの遥か高みにいるのだ。
それは七体のドラゴンだけでは無い。
ドラゴンの里で、ピーターの配下だと思っているドラゴンたちにも、加護が授けられている。
ましてや、その加護が、この世界を誕生させた魔王竜の加護だ。
この世の全ての加護の中で、最も強大で偉大なる加護なのである。
しかし、トドメとばかりに襲いかかる、ファフニールとバハムートを無視して、ディクテイターは地上に降り立った。
さらにディクテイターは、先ほどまで激戦が行われていた、地上の戦線に無惨に横たわる機械兵ネバーダイを喰らっているのだ。
数にして数千の戦場で散った、ネバーダイを捕食した。
ディクテイターはネバーダイを喰らったことにより、受けたダメージを回復させたのだ。
ファフニールとバハムートは、そんなディクテイターを見て思考した。
いくら大ダメージを与えても、喰らうことで回復してしまうのであれば、一度の攻撃で、完膚なきまでのダメージを与えて、消滅させ無くてはならいと。
回復を終えたディクテイターが、再び上空に舞い上がって来る。
『データには無かったが、今の攻撃のデータは、もらった。貴様らを甘く見ていた、ここからは手加減抜きだ』
再び、双眸が盛んに燃え上がり炎のように輝くと、ディクテイターの音速を超えるスピードの攻撃が、またしてもファフニールとバハムートに向けられた。さらにフェニックスも攻撃対象に入っている。
しかしだ、手加減抜きなのは、ファフニールもバハムートも同じだ。
二体のドラゴンは、フェニックスを守るように、ディクテイターと互角以上に死闘を演じている。
『ありえん! 俺の動きについて来るなど、データには無かったぞ!』
今度はディクテイターが焦る番になってしまった。
だが同時に、ファフニールもバハムートも思うところがあった。
もし、ピーター様が魔王竜に進化し、ギフトとして魔王竜之加護を授かっていなかったら……きっと、瞬殺されていただろうと。
そんな思考の中で、ディクテイターをジリジリと追い詰める二体のドラゴン。
『本当は貴様ら如きに使う技では無いのだがな……。
その言葉とともに、ディクテイターが虚空を殴りつける。
すると、途轍もない衝撃波と黒い雷撃がファフニールとバハムートを襲った。
勝ったとばかりに高笑いするディクテイターだったが、それは束の間の出来事に過ぎ無い。
なぜなら、ディクテイターの黒殺を食らって、平然とする二体のドラゴンが眼前にいたからだ。その睨み据える鋭き双眸にディクテイターは寒気を感じた。
データには無い異常事態に、ディクテイターの高速演算が追いつか無い。
「「フェニックス! 地上に戻れ!」」
二体のドラゴンの言葉に、フェニックスはすかさず地上に舞い降りる。
その言葉の真の意味をフェニックスが、本能で感じ取ったからだ。
ファフニールもバハムートも、一撃必殺の技を繰り出そうとしている。
しかし、疑問な点もある。
なぜ、他の四機のデストロイ・バーラーは、ディクテイターを助けに入らないのか。
それは、四機のバーラーたちがディクテイターの性格を熟知していたからだ。
自分の戦闘に割り込むことに対して、ディクテイターは我慢ならない。
それは自分の圧倒的な力を誇示する為では無かった。
ディクテイターに移植された脳みその持ち主は、人間レベルではあるが、負けなしの残忍で冷酷な武人なのだ。
その武人の性格を知る四機のバーラーは、ただ見守ることに徹していた。なぜなら、もし割り込めば仲間と言えど、容赦なく攻撃してくる事を知っていたからである。
そしてディクテイターは感じていたのだ。この二体のドラゴンを相手にした、自分の愚かさを。
魔王竜之加護を授かった二体のドラゴンは、最初からディクテイターの敵では無かったのだ。
最初こそ狼狽した七体のドラゴンだが、魔王竜之加護の力が、これほど絶大だとは思っていなかった。
さらに魔王竜之加護の権能には、バハムートのメガフレアを超える、桁外れのブレスがある。
ファフニールとバハムートは、その権能でディクテイターを完全消滅させる気でいた。
だが、その権能のブレスには、多少の時間がかかる。
つまり、ディクテイターに攻撃を繰り出し、弱らせ動きが鈍った所にブレスを吐く必要があるのだ。
そうと決まれば、ドラゴン同士の完璧なまでの意思疎通でもって、ディクテイターを圧倒する攻撃を繰り出していく。
ディクテイターの音速を超えるスピードにも負けない敏捷性で、ファフニールがディクテイターの左腕に咬みつき、その強靭な顎の力でディクテイターの腕を噛み砕いた。
バハムートもその瞬間を狙い、両手の鋭い爪で装甲を抉っていく。
『お、おのれ……貴様ら……』
ディクテイターが、またしてもエネルギーを補充するために、地上に降りようとしたが、バハムートがディクテイターの背後を捕えると、そのまま力任せに上空に投げ飛ばした。
その機を狙っていたファフニールは、すでに魔王竜之加護の権能の一つである、ブレスを吐く準備を終えている。
天が震え、大地が天に吸い寄せられるほどの、超高密度に圧縮された熱エネルギーは、虚空が熱膨張により歪む。
その現象を引き起こしたのは、ファフニールの大口に集中する誰も推し量ることが不可能なエネルギーの塊だった。
地上に降りることが出来ず、バハムートから上空に戻されたディクテイターは、すぐにその異常なエネルギーを確認すると、ここに来て初めて防御の構えをとった。
しかしもう遅い。地上に舞い降りたバハムートも上空のディクテイターに向けて、ファフニールと同じブレスを吐くため、大口を開き地上の地面は、そのエネルギー量に耐えきれず、地面に亀裂が走っていく。
「「消滅しろ! ギガフレア!」」
魔王竜之加護の権能の一つ、ギガフレアが同時に行使されディクテイターに向けて放たれた。
その威力は、バハムートが誇るブレスのメガフレアを、圧倒的なまでに凌駕するブレスである。
二体のドラゴンの総身から溢れるエネルギーを、全てブレスに溜め込んだ一撃必殺の超極大ブレスが、ファフニールとバハムートの同時攻撃により、二重になって放たれたブレスがディクテイターを襲う。
『な、なんだこのエネルギーは! こんなものデータには! うおおおおおおおおお!!』
その破滅的な攻撃は、いくらデストロイ・バーラーといえど、耐えられるものではない。ディクテイターはそのまま上空で、自身が絶命する瞬間──最後の咆哮を上げ完全に消滅した。
9000年前ではあり得なかった、この超極大ブレスが、悠久の時を経て二体のドラゴンから放たれたのだ。
しかし、ディクテイターを倒したからと言って、まだ安堵することは出来ない。
なぜならば、未だ謎に包まれた力を有する、四機のデストロイ・バーラーが控えているからだ。
ファフニールとバハムートの超極大二重ブレスは、誰もが忘れるほど遠い過去の竜機戦争の比ではない、苛烈を極めた9000年前の神話を超える死闘の、合図でしかなかった。
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