第127話 神話の再来、第二次竜機戦争の始まり


 その度外れた、異常な魔力を持つ五機のデストロイ・バーラーを前にして、七体のドラゴンはすぐさま思念伝播で戦術会議を開いていた。


 このデストロイ・バーラーは全て星創級せいそうきゅうであるが、なんと驚くことに、あの悪名を世界中に轟かせる四凶よんきょうの中の二人、巨人王ダエージュと深淵王グドルーに比肩する星壊級せいかいきゅうの力に届きそうなバーラーまでいるのである。


 しかし七体のドラゴンは理解していた。ここで、この化け物たちを食い止めねば、ピーターたちがいる、マギアヘイズの前線の背後を突かれてしまうのだ。


 それだけは阻止しなくてはならない。


 さらに、自分たち七体だけでは、確実に絶命は免れないのも理解していた。


 ならば、四獣四鬼しじゅうしきと六大守護聖魔の力も借りなくてはいけない。が、四獣四鬼も六大守護聖魔も地上の前線での戦いがある。


 つまり、六怪ろっかいのドラゴンとエルダードラゴンの七体で、確実にデストロイ・バーラーを倒さなくてはいけない。


 そして、七体のドラゴンは、眼前に立ち塞がるデストロイ・バーラーを備に観察するが、その魔力量の底が知れないのだ。


 唯一解るのは見た目だけである。


 エドガーが準備していた、デストロイ・バーラーはこの世界を支配するために作られたと言っても過言では無い。


 ディクテイターは全身が血に染まるような真紅の装甲に、人間で言えば長身痩躯の巨大人型兵器。


 ウォーパーソンは漆黒に染まる装甲に、コウモリのような翼を持つ巨大人型兵器。


 ファナティックの見た目はかなり特殊で、両腕が無く、頭の左右から、翼と表現するには、余りにも大きな青い翼が特徴的な、純白の装甲をした巨大人型兵器。


 マスマーダーは悪魔の姿を模したようなバーラーで、装甲は妖しく光る金色であり、その両手は長いブレードの形状をしている。ディクテイターと同じ長身痩躯の外観で、背中には悪魔のような鋭い翼を持つ巨大人型兵器。


 ラスターは、人間で言うなら筋骨隆々のバーラーであり、五機の中で一番の長身の体格を誇る。全身の装甲は青い空を思わせる青碧で、背中には二つの巨大ロケットエンジンを搭載している巨大人型機械兵。


 だが、見た目だけ解っても、この魔力量がどこから供給されているのか、解ら無い。


 ここで、このデストロイ・バーラーの一番の特徴をあげるなら、搭乗者がいないことだ。


 いや、搭乗者と一体化していると言っていい。


 搭乗者である人間の脳みそを移植させ、その脳みそが核となり命令を理解し、常に搭乗者抜きで行動可能なバーラーなのだ。


 さらに、このバーラーの魔力に関しては、喰らうことである。


 これは文字通り、バーラーが魔力量を維持する為に、なんと生物を喰らい、そこからエネルギーを補充している。これはまさに人間のような仕組みであり、機械の概念が無いバーラーなのだ。


 然りとて、エーテルリアクターからの魔力供給も当初は計画されていたが、それでは、この膨大な魔力量がすぐに枯渇してしまう。


 そこで考えられた結果が──他者を食らい自分のエネルギーに変換することだったのだ。


 そして、五機のバーラーには、それぞれ特徴的な攻防を持ち、他のバーラーのような単調な動きはしない。


 脳みそを移植された事で、常に人間のように思考し戦うバーラー。その動きは、まさに巨人と戦うのと同義であり、複雑な稼働を実現させた。


 この巨大な悪魔と相対する七体のドラゴン。


 ファフニール、ヒュドラ、リンドブルム、バハムート、ニーズヘッグ、ティアマト、エルダードラゴン。


 傍から見れば、そうそうたる顔ぶれである。

 だが、今は9000年前では無い。


 9000年前は、今よりも強力なドラゴンが世界中にいたのだ。


 しかしながら、現在はその数が激減している。


 9000年後の今では、この七体のドラゴンでさえ、過去の神話に登場するドラゴンの足元にも及ば無いのだ。


 だが、戦わなくてはなら無い。七体のドラゴンの決心は揺るが無い。


 そして、早くも攻撃を仕掛けてきたのは、五機のデストロイ・バーラーの中でも、一番好戦的な全身が真紅の装甲のディクテイターだった。


 そう、脳みそを移植されたとは言え、全て同じ人間の脳みそでは無いのだ。


 それぞれ違う人間なのだから性格が異なる。


 唯一同じだと言えるのは、移植された脳みそは、全て常人の人間よりも優れた身体能力と思考力を持つ者が、選別され移植された事だ。


 このディクテイターの先手で始まった、9000年前の竜機戦争を連想させる死闘が始まる。


 ディクテイターが初めに攻撃対象にしたのは、なんと二体のドラゴンだった。


 ファフニールにバハムートである。


 先手を取るのは理解できる。

 なぜならば、ディクテイターの性格が、戦闘狂だからだ。

 しかし、一度に二体のドラゴンを相手にするのは、それだけ自分の力に絶対の自信を持っているからだろう。


 さらに言えば、ディクテイターは単純に強い。


 それは、魔力を使い、相手を翻弄すると言う、複雑な戦い方ではなく。まさにインファイトを好む、単純な肉弾戦を得意とする戦法である。


 そのディクテイターの音速を超える速さの拳が今、ファフニールの漆黒に輝く鋼の鱗を破壊し、肉体に致命傷とまではいかなくても、拳がファフニールの肉体を抉ったのは確かだ。


 その激痛に苦悶の表情を浮かべるファフニール。


 『フフフ。痛いだろうな。だが今すぐに楽にしてやる』


 ディクテイターの低く不気味な声がファフニールに届くと、なんと、縦横無尽に空中を飛び回り、演武のような動きをした。


 その動きに呼吸を合わせるようにして、ディクテイターは二体のドラゴンである、ファフニールとバハムートを襲う。


 無数の拳打に無数の蹴り、そのどれもが、確実に二体のドラゴンの生命力を奪っていく。


 熱い鮮血を上空から垂らし、ファフニールとバハムートは何とか、ディクテイターの攻撃を防御するだけで手一杯である。


 その様子を見て、すぐに動いたのはフェニックスだった。


 上空を舞うフェニックスは、二体のドラゴンに治癒の炎を浴びせ、今まで受けた攻撃のダメージを回復させたのだ。


 「「助かった、フェニックス」」


 二体のドラゴンが同時に、フェニックスに語りかけると、ディクテイターは、フェニックスまでも攻撃対象にした。


 しかし、回復のサポートをしてくれるフェニックスを、ここで失う訳には行か無い。


 ファフニールとバハムートの意思は同じだった。


 そして、攻防が逆転し、ファフニールの全身が赫赫と燃え上がると、その炎が上空で渦となり、うねっている。


 その炎は、ディクテイターからフェニックスを守るための、炎の壁であった。


 (やれやれ、こんな化け物が控えていたなんてな。さらに名乗りも上げずに攻撃して来るとは)


 ファフニールは内心で憤慨していた事がある。

 それは戦いにおいて、相手が名乗りを上げなかった事だ。


 しかし、これは騎士同士の誇り高き戦いでは無い。


 そう、戦闘では無く、相手は最初からドラゴンを排除する事だけしか考えていないのだ。


 そして、炎の壁の中に包まれ、視界を失ったディクテイターに、バハムートが渾身の一撃を繰り出そうとしている。


 それは絶対防御不可能の、バハムートが誇る強力無比の極大ブレスだ。


 バハムートが大口を開くと、余りの熱量にバハムートの口腔周辺の大気が振動し歪む。


 溜め込まれたエネルギー量は底が知れ無い。

 そんなブレスを今まさにディクテイターに放とうとしている。


 「灰も残さず消し去ってくれるわ! メガフレア!」


 バハムートが放った青白く輝く全身全霊の威力を込めた、全てを破壊する極大ブレスがディクテイターに襲いかかった。

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