第126話 震える戦場、四獣四鬼と六大守護聖魔の無双


 戦場に一人残ったアランだったが、決して後ろを振り返る事はしなかった。

 否、する必要が無かったのだ。


 ピノネロが吹いた第三のラッパの音がした瞬間に、大地が震えたからである。


 (敵は残り、およそ400万ほどかな。彼らに任せるのもいいが、私も10万体ほどは倒したい所だ)


 アランが思案していると、迫り来る400万体の機械兵ネバーダイの先頭の動きが止まった。と言うよりも、氷漬けになっていたのだ。


 (さっそくシヴァが動いたか。だが私もキミたちに負けていられないのだよ。何せ軍都で鍛えてる500万人の兵士の教官だからね)


 「百花剣舞ひゃっかけんぶ


 アランのアルティメットスキル、剣神之加護の権能の一つ、百花剣舞が行使された。


 アランの剣の構えが次々に変わって行く中で、氷漬けになったネバーダイが、次々に粉砕されて行く。


 それは構えと同時に刹那の動きで相手を斬り倒す、美しき剣の舞だった。


 「本当は襲って来る機械兵を倒したかったんだけど、ここは彼らに場所を譲るか」


 アランは一人ごちて、そのまま戦場を後にした。

 後続に控えている、モノのために。


 そして始まった戦いは、まさに一方的なものだった。


 フェンリルが大竜巻を繰り出すと、イフリートがその大竜巻を地獄の炎で炎上させ、巨大な火災旋風を撒き散らした。


 その巨大な火災旋風に、呑まれる数十万のネバーダイたち。


 さらに強力なキングベヒーモスとケルベロスの突進で、敵側の斜線陣しゃせんじんの縦深はなんと50列も崩れたのだ。


 その崩れた縦深に、イクシオンの雷撃が容赦なく襲いかかり、またしても数十万のネバーダイが倒れ機能しなくなった。


 上空からはフェニックスの猛火で、前進を阻まれ、オーディンの斬撃は一太刀だけで数万のネバーダイを斬り倒していき、たった五回の斬撃で、およそ30万体のネバーダイが地面に倒れていく。


 マディーン、セラフィム、アレキサンダーが連携して、聖なる浄化の熱線を浴びせると、凄まじい威力を誇り、およそ100万体のネバーダイは灰となった。


 まだ、四獣四鬼と六大守護聖魔が戦場に躍り出て、数分しか経過していないのに、敵側の400万体いたネバーダイは、半数の200万体にまで減ってしまっている。


 さらに容赦のない、エキドナの金剛石のように硬く長い爪が、ネバーダイに襲いかかる。その猛攻で、またしても縦深が20列も壊滅させられた。


 サイクロプスの棍棒は一振りで、40万とも50万とも言えるほどのネバーダイを薙ぎ倒していく。


 最後にタイタンの踏み蹴りが完全な勝利を呼んだ。


 残った100万体ほどのネバーダイを無慈悲に踏み倒した。


 この戦いは、まさに一瞬のように過ぎ去り、気がつくと戦場には、四獣四鬼しじゅうしきと六大守護聖魔だけが立っていた。


 だが、これはあくまで保険であり、四獣四鬼と六大守護聖魔にはやるべきことがある。


 ピノネロはマギアヘイズの暗部を調べる時に、ダミアンヘイズの暗部も調べていたのだ。


 そして、このネバーダイと呼ばれる機械兵はもちろん、他のダミアンヘイズが持つ、暗部の力も知っている。


 つまり、これからが本当のダミアンヘイズとの戦いなのだ。


 それは百戦錬磨のアランも肌で感じ取っていた。


 まだこの奥に強敵が蠢いている危機感を。


 だが、まずは軍都の500万人もの負傷兵が先である。


 フェニックスによる治癒の炎で、負傷した兵は傷を癒すことが出来た。さらに、アランが一番心配していた戦死した兵だが、戦場で戦死した兵はいなかったのだ。


 これには、アランも胸を撫で下ろした。

 しかしアランは500万人もの兵士に代わって、戦わなくてはならない。


 なぜなら、これから待ち受けるダミアンヘイズの暗部は、兵士だけでは、どう足掻いても勝てないからだ。


 兵士を守りながら戦うよりも、自分一人の力で戦う方が、他に集中せず、自分の戦いだけに集中できるとアランは考えている。


 アランとしては、兵士にも活躍してもらいたいが、まだまだ戦力的には低いのが現状だ。


 なのでここは、兵士たちに休んでもらい。自分や、四獣四鬼や、六大守護聖魔や、六怪ろっかいの力で、対処しなくてはならない。


 そしてアランはすぐに、陣幕の外で、四獣四鬼と六大守護聖魔が暴れる姿を見ていた、ピノネロの元へ向かった。


 「ピノネロ君。現状としては前線にはもう敵はいないけど、キミの意見を聞かせて欲しい」


 「そうですね。確かに厄介だった機械兵のネバーダイは、これだけの数を倒したので、もうダミアンヘイズが温存しているネバーダイはいないと思っていいでしょう。ですが、問題はバーラーと暗部です。ダミアンヘイズが大波如きで壊滅するバーラーだけしか、保有していないとは考えずらいです。それと、申し訳ないのですが、私の調べでは暗部まで調べる事が出来ませんでした」


 そう言って、アランに頭を下げるピノネロ。


 「待ってくれピノネロ君。なぜ私に頭を下げるんだい? キミは充分過ぎるほど、働いたじゃないか」


 「そう言って頂き、感謝します」


 すると、またアランに一礼するピノネロだった。

 その姿を見て、微笑するアラン。 


 「ピノネロ君はいつも変わらないな。しかし、今は目の前のダミアンヘイズを、相手にしなくてはいけないが……。正直なとこ、ピーター君たちがいるマギアヘイズも気になる所だ」


 「アランさんもそう思われますか。実は私もです」


 アランは自分の名前に、さん付けをされるのは、おもはゆいのだが。ピノネロの性格を知っているので、黙っていた。


 それに自分と一緒に戦った、軍都の500万人の兵士たちに飯の準備をさせ、500万人の腹を満たす仕事もあるので、そのままピノネロに、また何かあったら来ると伝えて、500万人の兵士の元まで行ったのだ。


 そう、最初こそアランは、ただの軍事訓練の教官だけのつもりが、今では同じ釜の飯を食べる仲間になっていた。


 そしてアランが束の間の休憩時間と思い、500万人の兵士が待つ場所に行こうとした時だった。


 アランはすぐさま異常なまでの魔力を感じ取り、ピノネロがいる陣幕へと向かう。


 だが、その異常なまでの魔力を纏った何かは──音速で上空を飛び、気がつくと六怪とエルダードラゴンの前に、立ち塞がっていたのだ。


 それは、ダミアンヘイズの中でデストロイ・バーラーと呼ばれる、一機だけで一つの国を壊滅できるほどの威力を持つ、バーラーであった。


 アランは上空の異常な魔力を纏ったバーラーを眇め見たが、陽光が邪魔をして五機のバーラーが上空にいることしか確認できなかった。


 しかし、六怪とエルダードラゴンの七体は違う。


 その歪で禍々しい魔力を纏う五機のバーラーは、七体のドラゴンの眼前にいる。


 七体のドラゴンたちは、その五機のバーラーを見て背筋が凍りついた。が、明らかに敵意をむき出しにしている五機のバーラーは、自分たちの敵だと感じ取り、すぐさま臨戦態勢を取る。


 斯くして、9000年前の竜機戦争を彷彿とさせる壮絶な戦いが今、始まろうとしていたのであった。

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