第118話 レギオンの街の軍事訓練視察と、サージスキルの力


 今日も快晴か。それに朝っぱらから、僕の自室に飛び込んで来る奴もいないし、さっさと普段着に着替えて、今日すべき事をしないと。


 おっと、天魔刀を忘れた。

 僕がなぜ、刀を携帯するかと言うと、これからレギオンの街の軍事訓練の視察と、アランに三年ぶりの稽古をつけてもらう為である。


 流石に人間に魔力を与えても、強化はしないので、視察だけになるが。

 三年間もアランの下で、猛特訓したレギオンの街の500万人の精鋭を見たくて、これから向かうのだ。


 その前に朝食を取りたいが──食べている時間が勿体ないので、メイドさんに頼み、すぐにお弁当を作ってもらうと、僕はそのお弁当をインベントリに入れ、急ぎ転移魔法陣で巨大軍都レギオンまで転移した。


 転移すると、まだ朝っぱらだと言うのに、500万人の猛者たちの気合いの大声で、大地が震えている。


 まあ、一番の目的はアランに稽古をつけてもらう事だが、僕が有事の際に三大将軍にすると言った。アドム、ドリマ、プレースの三人がどれだけ強くなったのか見たかった。


 それに、これからの執務室での特別な会議の時は、三人も参加させないとな。


 え〜っと。三人はどこだ?


 「「「教皇様!」」」


 三人の方から、僕を見つけて声をかけてきてくれた。


 「いや〜三年ぶりですね。教皇様はお元気でしたか?」


 アドムの言葉に軽く元気だと返事をしたが、三人とも三年前と比べて体付きは変わらず、筋骨隆々なのだが、オーラというか……闘気が漲っている。


 「おはようピーター君。こんなに朝早くどうしたんだい?」


 アランだった。その前に、アランに聞きたい事があった。この三人の闘気のことだ。


 「アラン。ちょっと訊きたいんだけど。なんか、三人とも三年前よりも、何か雰囲気が変わったと言うか……何と言うか……」


 「おっ! 流石はピーター君。三人はサージスキル体得の為に、精神闘気を鍛える修行をしていたんだ。本来の名前は、精神思念法と呼ばれる波動思念だけどね。これは魔物は体得できない人間や亜人だけの……って、それぐらいピーター君なら知ってるか」


 「え? まあ、うん。でもさ、三年でここまで変わるか?」


 するとアランは、よくぞ聞いてくれたと言う表情で、語り出した。


 「最初はただの荒くれ者だと思っていたが、この三人は意外と根は真面目なんだよ。だから私も三人に対して、本気でサージスキルを体得させる為に修行させたんだ」


 うわ〜。アランの本気の修行とか考えたくない。


 「ピーター君。丁度いい。刀を持って来たんだね。じゃあ、アドムのサージスキルのお披露目ができるな。アドム! ちょっとピーター君と手合わせしてくれ!」


 「は、はい! アラン様!」


 え? おいおい。流石にそれは……アドムが死ぬんじゃないか?


 「まあ、手合わせと言っても、アドムのサージスキルを見せるだけ何だけど。きっとピーター君は驚くよ」


 アドムが僕の方に走ってくると、一礼した。


 「教皇様。宜しくお願いします」


 「あ、ああ。宜しくな」


 僕はゆっくりと、腰に佩刀している天魔刀を抜くと、アドムめがけて斬りかかった。もちろん手加減はしている。


 「では行きます。波動烈堅はどうれっけん


 僕がアドムに斬りかかったが、アドムは右手の腕で僕の刀を防御した。

 なんだ? 生身で防御とか腕が斬れて──無い。


 見ると、アドムの右手の腕が銀色に輝いている。

 まるで磨き上げられた鉄のようだ。


 「うん。そこまでだね。どうだった? アドムのサージスキルは?」


 「生身で刀を防御するなんて、考えられなかったよ」


 【伝えます。能力複製により、個体名アドムのサージスキルである、波動烈堅を獲得しました】


 マジかよ。まさかアドムからスキルを獲得する日が来るなんて。


 「ピーター君。何が起こったか解らないだろ?」


 僕は素直に頷くと、アランが懇切丁寧に教えてくれた。


 「今のサージスキルはね。肉体を鉄のように硬くするスキルなんだ。自分の肉体が硬い鉄だと、強く思い込む事で、思念が肉体を強化する訳だよ」


 まあ、アランの説明を聞くと簡単そうだが、実際に体得するには、相当厳しい修行が必要だろう。


 アドムには申し訳ないが、なんの苦労もせず、アドムが体得したサージスキルを獲得してしまって、すまない。


 「所で、今のサージスキルは三人とも体得してるの?」


 「ん? もちろんさ。他にも、たくさんのサージスキルを体得している。はっきり言って鍛え甲斐があるよ。この三人は」


 爽やかな笑顔で語るアラン。しかし、あの荒くれ者たちが随分と変わったものだ。きっとアランが訓練指導しているからだろう。


 まあ、三人の強さは、この三年でかなり向上した事が解った。

 問題は僕である。


 何せ、天魔刀を作ってもらったのはいいが、この三年間、全く刀の修行をして来なかったからだ。


 「あのさぁアラン。三年ぶりだけど、また少し剣術の稽古をしたいんだ。いいかな?」


 僕の言葉に満面の笑みで答えるアラン。


 「もちろんだとも! ただし、三年ぶりとは言え、容赦はしないよ」


 うお。急にアランからオーラが。これは剣神覇気けんしんはきか。


 て言うか、誰がアランに剣神之加護を授けたんだろう。

 オーディンは軍神だから違うんだろ……他に剣神なんているか?


 「ちょっとごめん。稽古の前に一つだけ質問があるんだけど。アランに剣神之加護を授けたのって誰?」


 するとアランはすぐに構えを解き、僕に教えてくれた。


 「ギルガメッシュだよ。私が修行時代に戦って、相打ちになって勝敗がつかなかったんだけど、その後になぜか意気投合して剣神之加護を授かったんだ」


 ギルガメッシュ……どこかで聞いた事があるような……。


 「ねぇ。もしかして、そのギルガメッシュって、顔に真っ赤な隈取りを施して、真紅の鎧を纏った奴か? しかも、体中にたくさんの武器を装備している奴なんじゃ……」


 「驚いたな……その通りだよ。まさかピーター君も、ギルガメッシュに出会った事があるのかい?」


 「いや、僕はまだ一度も……でもちょっと噂で聞いた事があるから、もしかしてと思って……てか、ごめん。剣術の稽古の最中に、余計な質問をしちゃって」


 本当はただの、前世でのゲームの記憶なんだけど……。


 しかし驚いた。この世界には本当にギルガメッシュが存在するのか。

 それも剣神として。


 まあ、いいや。アランが誰から加護を授かったのかも解った所で、剣術の稽古をつけてもらおう。


 僕は天魔刀の柄を強く握りしめ、構えを取ると──僕の呼吸に合わせて、アランも大剣の柄を握りしめ、再び構えをとった。


 さぁ、三年ぶりのアランとの剣術の稽古だ。


 しかしアランは、容赦はしないと言っていた。


 実際のとこ、僕は剣技について素人だ。いくら、スキルを増やし強くなったと言っても、熟練の剣士相手にどこまで立ち回る事ができるのか、解らない。


 だが、僕はさらに強くなる為に、アランに剣術の稽古をお願いした。


 理由は、僕もサージスキルを見つける為だ。

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