第117話 吸血鬼強化作戦、再び集まる例の三人組
次なる戦争に向けての作戦は、30万人の吸血鬼軍団の強化である。
やはり、吸血鬼の軍団も我が国にとって、大きな戦力として機能しているのだが……今後の戦争に控えて、より強くさせる必要があるのだ。
そんな事を考えながら、教皇宮殿にある食事の間で、僕はハンバーガーとホットドッグを食べていた。
いや〜ジャンクだね〜。ジャンク最高!
ついでにクリームソーダも飲んでいる。
三年前の祭りの時は、大忙しで屋台の食べ物をゆっくり食べられ無かったからな。
しかし、こんなに美味いとは。空腹は最高のナンチャラだな。
でもなぁ……三年前の屋台の時に、ホットドッグ作りが間に合わなくて、レシピだけしか作って無かったのに、バルルマヌルに行く前、ピノネロにホットドッグの作り方のレシピを渡して、モンテスの街の料理人にホットドッグを作ってもらうように頼んだが……。
ここまでの完成度とは……完璧に前世で食べたホットドッグだ。
ケチャップとマスタードも作り方のレシピを渡して、必要な材料の作り方もレシピに書いておいた。
本当はケチャップとマスタードはすぐに作れないから、僕が物質創造の権能を行使して、具現させようと思ったが……恐るべし料理人魂だ。
ケチャップもマスタードも完璧だぞ。
と言うか、巨大城郭都市モンテスは最初、人口2000万人が住める都市だったが。ピノネロの大増税が成功し、財政がかなり潤い、なんと……そのままの勢いでモンテスの街を大拡張工事して、人口3000万人が住める超巨大都市にしたのだ。しかも僕が国を留守にしている間に、勝手に拡張工事をしていた。
まあ、僕が留守の時に、勝手に拡張工事をしていた事は置いといて。何が言いたいのかと問われれば、人が増えれば様々な分野に特化した人材が増える。つまり料理人の数も増えるし、ケチャップやマスタードの材料を作る人材も増えるわけだ。
だから、最初は無駄に人口を増やしただけだと思ったが、ピノネロは優れた人材確保の為に、人口を1000万人も増やす拡張工事をしたのだろう。
しかし美味いな。だが食べ過ぎは注意だ。腹八分目にしておこう。
「ああ! ちょっとピーター! ちゃんと野菜も食べなさいよ!」
アグニスに怒られてしまった。
てか、何でアグニスが教皇宮殿の中にいるんだ?
しかも食事の間に……。
その前に、アグニスは僕に注意すると、そのまま何処かに行ってしまった。この三年間で、教皇宮殿って誰でも簡単に入れる場所になったのか?
でも……まさか吸血鬼のアグニスに野菜を食べろなんて、言われると思わなかった。
つーか、そんな事より、ゴハンも食べたし吸血鬼強化作戦を開始するぞ。
内容は簡単である。
僕が30万人の
その前に、魔力を与えただけで、正真祖になるのかな?
【伝えます。准真祖に膨大な魔力を与えることで、正真祖に進化させることは可能です。しかし、その魔力の中に、正真祖の魔力も含まれていないと、准真祖の吸血鬼に膨大な魔力を与えても、正真祖に進化しません】
マジかよ……。じゃあ僕一人で、全ての准真祖を正真祖にすることは出来ないのか。
つまりまた、あの大転移魔法陣を作った時の二人が、必要と言う事になる訳か。
ボデガスはともかく、アグニスは何か物で釣らないと動かないからな……。
その前に、まずはアグニスが教皇宮殿を自分の家のように、歩き回っていた事を訊かなくては。
僕は思念伝播を使い、アグニスに訊きたい事があると伝え、食事の間まで呼び出した。
「訊きたい事って何よ。ピーター」
「お前さぁ。この場所が教皇宮殿だって知ってるよな?」
「当たり前でしょ」
「じゃあ、何で自分の家みたいに、教皇宮殿の中を歩き回ってるんだ?」
「私の部屋があるからに決まってるじゃない」
僕はその言葉を聞いて、唖然とした。
「は? いつから住んでるんだ?」
「ピーターが国を留守にしてる時だけど」
「え? じゃあ三年間も、この教皇宮殿に住んでるのか? 誰も何も言わないのか?」
「言わないわよ。それに、ここは凄く広いんだし別にいいじゃない」
いや……良くないだろ……。その前にピノネロとかに頼んで自分の家を──ん? 自分の家?
「お前って、もしかして自分の家が無いのか?」
「有ったわよ。でも狭いから、ピノネロに頼んで教皇宮殿の中に私の部屋を作って欲しいって言ったら、すぐに作ってもらったから、ずっと住んでるの」
ピノネロ……あいつ何やってるんだよ。あれ? もしかしてピノネロって、アグニスのことが好きなのか?
いやいや、今は色恋など考えてる場合ではない。でも、これはチャンスかもしれない。
アグニスは家が狭いから、教皇宮殿に住んでるわけで……大きな家を上げて、上げる代わりに吸血鬼強化作戦を手伝わせる。
チョロキュリーナのアグニスなら、すぐに承諾するだろう。
「なあアグニス。お前は農林大臣として、良く働いてくれてるよ。本当にありがとう」
「な、何よいきなり……気持ち悪いわね……」
「いやいや、本当に感謝してるんだよ。そこで、アグニスに大きな屋敷を上げようと思う。もちろんメイドさんや執事さんも一緒にな」
その言葉を聞いて、アグニスは瞳を輝かせている。
「本当なの!? 後で冗談でした。なんて言ったら、許さないわよ!」
おっ。早速チョロキュリーナさんが釣られましたな。
「でも、お前に屋敷を上げたいんだが、その前にやるべき事があって、お前の力も借りたいんだ。屋敷を上げるのは、その後になっちゃうんだけど、お前の力を借りてもいいか?」
「もちろんよ! で、何をするの?」
はい完全に釣れました!
そして、僕はアグニスに吸血鬼強化計画に、正真祖の魔力も必要だと伝えた。さらに、正真祖にする理由は戦争に備えての事だとも言った。
「まあ、確かに戦争になった時に、30万人の正真祖がいれば、活躍してくれると思うけど……30万人よ? どれだけの魔力が必要なのかアナタ解ってるの? それに、前に頼まれた大転移魔法陣の時みたいに、魔力を使い過ぎて死にかけるのは嫌よ」
「そうか……残念だな……30万人が全て正真祖になれば、マラガール公も喜ぶし、お前に大きな屋敷も上げられたのに……本当に残念だなぁ……」
おや、アグニスの顔が紅潮しているぞ。
「ああ! もう解ったわよ! 手伝うわよ! でも、この作戦が上手く行ったら、マラガール公に私が一番頑張ったって、言いなさいよ!」
「大丈夫! ちゃんと伝えるから! これで、作戦が上手くいけば、お前はミストスの英雄になれるな」
その言葉を聞き、上機嫌になるアグニス。
本当にチョロキュリーナだな。
ではっと。次はボデガスだ。
僕はボデガスに思念伝播で、大事な用事があるから、すぐに教皇宮殿の食事の間まで来るように伝えた。すると、ボデガスは転移魔法陣で驚くべき速さで来てくれた。
「どうなさいましたか? ピーター様」
ボデガスの質問に、僕はアグニスに伝えた事と同じ事を言った。
「30万人の准真祖を全て正真祖に……ですか。准真祖と正真祖では、力の差が想像を超えるほど違うので、確かに戦争では活躍してくれると思いますが……。一番の問題は魔力量ですね」
やっぱり、ボデガスも大転移魔法陣を作った時に、魔力を使用し過ぎて、死にかけた事がトラウマになってる感じだ。
ボデガスの心情は、勘弁してくれと言いたいのだろう。
だが! やらなくてはいけないのだ!
「大丈夫だ! 膨大な魔力なら僕が与える。でも魔力を与えるだけじゃ、正真祖に進化しないんだよ。准真祖に魔力を与える時に正真祖の魔力が必要になるから、二人には少しだけ魔力を分け与えてもらいたい」
僕がボデガスに言うと、肩の荷が下りたのだろう。厳しい表情が消えていた。
それじゃあ、僕はマラガール公にこの作戦を伝えて、モンテスの街にいる10万人の吸血鬼たちを、ミストスの街に転移してもらうように伝えないと。
そういえば、ボデガスって今どんな家に住んでるんだろう。
「なあボデガス。お前ってどんな家に住んでるの?」
「家ですか……? 他の吸血鬼の皆さんと同じ居住区ですが」
おいピノネロ……何で大拡張工事をした時に、ボデガスの家を屋敷にしなかったんだ!
ボデガスは、我が国の幹部だぞ! しかもミストスにいた時は、伯爵の位だったんだぞ! まあ、そんな事を言っては身分差別になってしまうが……。それでも酷い扱いだろ!
「そっか、解った! この作戦が成功した時は、アグニスに屋敷を上げると言ったんだけど、ボデガスにも屋敷を上げよう」
「え? 宜しいのですか?」
「もちろんだとも。ボデガス君は我が国の幹部だからね」
「有り難き幸せです」
そう言って、恭しく僕に一礼するボデガス。
まあ、いつも頑張ってくれてる、吸血鬼軍団のリーダーが、皆と同じ家と言うのも……それに。これは身分差別では無く、頑張った報酬のようなものである。
そして、僕はマラガール公に思念伝播で、吸血鬼強化作戦の内容を伝え、その後は、モンテスの街にいる10万人の吸血鬼たちに、ミストスの街に転移魔法陣で転移するように伝えた。
この作戦を言って、一番喜んでいたのはマラガール公だった。
准真祖でも珍しいのに、正真祖を30万人にすると言う事は、マラガール公も30万人の正真祖の長になるので、吸血鬼としての威厳が上がるからだろう。
僕たちも、転移魔法陣を作り、急ぎミストスの街に向かった。
ミストスに転移すると、すでに30万人の吸血鬼たちが僕らを待っていた。
「よし! それじゃあ今から、皆に魔力を与えて、准真祖から正真祖にするから! と言っても、皆は楽にしていて構わない!」
僕はアグニスとボデガスに、準備はいいかと尋ねると、いつでも大丈夫だと言われたので、三人で大転移魔法陣を作った時と同じく、30万人の吸血鬼たちに両手の掌を翳し、膨大な魔力を注ぎ込んだ。
幻想的な黒と紫の色が入り混じる、美しい魔力のオーラが、30万人の吸血鬼に注ぎこ込まれていく。
悪魔召喚の時とは違い、流石に准真祖を正真祖にするので、魔力量は悪魔召喚の時の二倍にした。が、中々、正真祖になる気配が無い。
正真祖になれば、准真祖の時と比べて魔力量が異常に増えるので、すぐに解るのだが……。
【伝えます。個体名ピーター・ペンドラゴンの魔力量は充分ですが、個体名ボデガス・ラフィットと個体名アグニス・ミルディアンの魔力量が足りません】
「二人とも悪い! もうちょっと魔力を注ぎ込んでくれ!」
「解ったわよ! もうちょっとね!」
「私も解りました!」
二人の掌から大量の魔力が放出された。
だが、まだ変化が無い。
「二人とも、悪い! もうちょっとだけ! もうょっとだけ魔力を注ぎこめ!!」
「ピーター! 結局、前と同じじゃない!」
「わ、私も同感です!」
「後もう少しだから、本当に頼む!」
余りの魔力量に、アグニスとボデガスの掌から放出されている、魔力のオーラの色が漆黒に変わった。
しかし、まだ変化がない。
「二人とも! 本当に悪いんだけど。全力で頼む! 頼むからもう少し魔力を注ぎ込んでくれ!」
「もうとっくに全力よ!」
「わ、私も、もう。これ以上の魔力は!!」
「頼む! もう少しだけ! 魔力を注ぎ込め!!」
「やっぱり断ればよかった!!」
「私もアグニスさんと同じ意見です!!」
「本当にあと少しなんだ! あと少しで──え?」
なんだ、急にミストスの街の中から、大気が震え上がるほどの魔力が溢れてるぞ……成功したのか?
【伝えます。ミストスの街にいる30万人の准真祖の吸血鬼は、個体名ピーター・ペンドラゴンと、個体名ボデガス・ラフィットと、個体名アグニス・ミルディアンから膨大な魔力を与えらた事により、30万人の准真祖の吸血鬼は、全て正真祖に進化しました】
「二人とも! 成功だ! ありがとう!」
あれ? 二人の声がしない。
僕が二人を見ると、声も出せないほど疲弊していた。
ヤバいヤバい! すぐにインベントリからエリクサーを出さないと。
僕はすぐにインベントリからエリクサーを出して、二人に飲ませた。
「ちょっとピータ! 前よりも魔力を使ったわよ! 本当に死ぬかと思ったんだから!」
「ピーター様。私も同感です」
「二人とも本当に悪かった! でも、30万人の准真祖は全て正真祖になれたよ」
この光景を見て、マラガール公も驚愕していた。
さらに、深々と頭まで下げられた。
マラガール公は、この奇跡を見て、また宴を開きたいと言ってきたが、今は戦争に備えて、出来るだけの国家戦力を強化したいと伝え、戦争が終わったら宴をしようと言い、納得してくれた。
そして、ミストスでのんびりしている時間も無いので、正真祖になれた吸血鬼たちから感謝の言葉をたくさんもらったが、すぐに次の戦争の準備をしなくてはいけない事を伝え、10万人の正真祖の吸血鬼たちを連れて、アグニスとボデガスと僕は、モンテスの街に蜻蛉返りした。
なんだか、転移魔法陣で転移する時に、ミストスの街の正真祖になった20万人の吸血鬼たちは、話し足りなくて寂しそうな顔をしていたが、今は一日だって無駄には出来ないのだ。
ミストスの街からモンテスの街の野外に転移した、僕ら三人と、10万人の正真祖になった吸血鬼たちは、その場ですぐに別れ、僕の周りに残ったのは、アグニスとボデガスだけになった。
うう……アグニスが僕を睨んでいる。
ボデガスも、話しが違うだろうと言いたそうな表情で、僕を見ている。
はっきり言って、二人の視線が痛いです。
まあ、でも。30万人の吸血鬼が全て正真祖になれたから、戦争の際にかなりの戦力強化になったぞ。
色々あったけど……全ての吸血鬼を正真祖にするぞ大作戦は成功した。
「二人とも本当にありがとう! 二人のおかげで、全ての吸血鬼が正真祖になれたよ」
「二人ともありがとう! じゃないわよ! ピーター! 何か忘れてるでしょ!」
何か? はて? 何か忘れてるか? ああ! まだやる事があったんだ……二人に屋敷を上げるって言ったから、物質創造の権能で屋敷を作らなくては。
「わ、忘れてないよ。屋敷でしょ?」
とは言っても……急にモンテスの街の中に、屋敷を作るのもなぁ。
それに、まだ夕方だから、人の数も多い。
いきなり屋敷が現れたら、皆を驚かせてしまう。
そうだ! 大きな屋敷だから、街の中に作れないと言って、モンテスの街の野外に作ろう。二人とも転移魔法陣を作れるから、思念伝播で呼べば、すぐに来てくれるし。
「所でさ、二人に話しがあるんだけど……。かなり大きな屋敷だから、モンテスの街に入らないんだ。だから、モンテスの街の近くの野外でもいいかな?」
「まあ、そんなに大きな屋敷なら、構わないけど。でもメイドさんと執事さんも頼むわよ!」
「私はピーター様から、お屋敷を頂けるなら。野外だろうと気にしません」
はぁ……何とか了承してくれたか。
それに、ここは丁度モンテスの街の外だし、ここに作るか。
今回はかなり頑張ってくれたから、凄く大きな屋敷にしないと。
「じゃあ。今から屋敷を作るから、二人とも下がってて」
二人が後ろに下がるのを確認し、僕は念じた。
そうだな──屋敷だけど、中世風の城みたいな感じで行くか。
僕が物質創造の権能で、強く念じると──教皇宮殿と同じ程の大きさの城が二つ具現し、広々とした庭園もある。
まあ、これなら文句無いだろ。
街の人たちは驚くと思うけど……まあ、いいか。
「ちょ、ピーター! この城、本当にくれるの? 後で返せって言われても、返さないからね!」
「私もこれほどとは思いませんでした。なんだか、私たちだけ、こんなに立派な城に住むなんて、他の吸血鬼の仲間たちに申し訳ないような……」
「まあ、いいんじゃない。それに、一人で住むのは寂しいと思うから、仲間の吸血鬼たちも呼んで住みなよ。でもまあ、今日の所はお疲れ様でしたって事で、僕はこのまま教皇宮殿まで戻るね。何か必要な物がある時は、思念伝播で伝えてくれ」
そう言うと、二人とも僕に一礼してから、自分の城の中に入って行った。
まさかアグニスにまで、一礼されるとはな。
あいつ相当気に入ったんだろう。
はぁ……でも今日は、かなり戦力強化できたな。
悪魔軍団に吸血鬼軍団の完成だ。
だが、まだまだ戦力強化をしなくてはいけない事が、山ほどある。
でもだ……今日は計画していた作戦が、全て上手くいったから、教皇宮殿に戻って、次なる作戦を考えるとしよう。
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