第119話 アランとの剣術稽古と、十刹流の奥義


 アランは剣神覇気けんしんはきを放ち、威圧しながら、距離を詰めてくる。


 僕とアランの距離は10メートル以上離れてるのに、後少し近づかれたら、真っ二つに斬られるイメージが、脳内を駆け巡った。


 まあ、アランも剣神覇気を解放してるから、僕も魔竜覇気を解放するか。瞬間、僕の周りには大地を震わすほどの紫色のオーラーが侵食している。


 ──あれ? 魔竜覇気を解放した瞬間、アランが地面に片膝をついたぞ。


 「ピーター君。私の方から剣神覇気を使っておいて、こんな事を言う権利はないが。出来れば、お互い、覇気無しで稽古しないか? キミの覇気は強すぎて、立っていられないんだ」


 マジで? 僕の魔竜覇気は、アランが立っていられない程の力になったのか。


 まあ、今回の稽古は権能での勝負では無く、シンプルな力と力の勝負だからな。僕もスキルは使わずに剣術の稽古をしたかったから、魔竜覇気を消すか。


 「はぁ……まさか私が地面に片膝をつくほどの覇気を使うなんて。ピーター君もこの三年間で、相当実力を上げたんだね」


 飄々とした口調だが、かなり息が苦しそうだ。


 「それじゃあ、改めて行くよ!」


 アランの声に、柄を握りしめる両手から、ジワリと汗が出る。


 さて、権能無しで、どこまで行けるか……。


 その時、今まで青眼の構えだったアランの構えが変わった。地面に溶けるように、肉体が地面に触れるぎりぎりまで、構えを落とした。


 いや、これはもう構えと言っていいのだろうか……。


 確か……前にも似たような構えをしていたが──ッ!


 な、なんだ? 10メートル以上離れてるのに、一瞬で僕の間合いの中に入ってきた。


 すかさず僕は後方に、飛び退る──が、なんだ? アランの動きが止まらない。


 何度も後方に飛び退っても、間合を詰めてくる。


 「やるねぇ、ピータ君。私は本気で懐に入ろうとしているのに、直前で避けられる。まさか肉体面でも、この三年間で向上しているとは、思わなかったよ」


 まあ、全ステータスが200倍になったからな。

 敏捷性も200倍になって、避けられたのだろう。


 だが……敏捷性が200倍になっても、アランの攻撃を避けるのが精一杯だなんて。


 少しアランを舐めていたな。


 くっ! またアランが懐に入ろうと──あれ? なんだろう? 少しアランの動きが鈍ってるような……。


 だったら、すかさず突きあるのみ!

 渾身の力を込めた刺突だったが、アランの大剣で防がれ、お互いの刀と大剣から火花が散った。


 「うっ! ピーター君。体力も向上したようだね。私は何度も間合に入ろうとして、少し息を切らせた瞬間に突きの攻撃とは」


 確かにアランは数十回は、僕の間合に入ろうとしているが、その度に僕は後方に避けている。


 流石のアランも少し体力が減って来ているのか。


 だがまぁ。体力も200倍だろ? 全然僕は疲れないんだけど。


 これも加護のおかげかな。ありがたや〜。


 あれ? またアランの構えが変わったぞ。


 大剣なのに、居合の構えをしている。しかも今度は、20メートル以上も距離をとっているんだが。

 まさかとは思うが、大剣で──うおおお! 何とか寸での所で避けたが、あと数十センチ近ければ切られていた。


 まさか、20メートル以上の距離を、一瞬で縮めてくるなんて……。


 アランの身体能力は化け物か?


 「これもダメか。私の居合を避けたのは、ピーター君とギルガメッシュぐらいだよ」


 褒められた──のか? でもなぁ……肝心なのは僕が攻撃することなんだけど。剣術に関しては素人だからな。


 と言うか……アランさん? なぜ……自分の大剣を宙に投げるんですか?


 余りに突拍子もない光景に、ただアランの動きを観察している事しか出来ない。


 すると、アランが大地を蹴り、宙に飛ぶと、先ほど宙に投げた剣を掴み、地割れが起こりそうな程の勢いで、大剣を地面に突き立てた。


 アランが大剣を地面に突き立てた瞬間、地揺れの衝撃に僕は少し体幹がよろめいた──その隙をアランは狙っていたのだ。


 突き立てた大剣の柄を握り、またしても地面に触れそうな程、姿勢を落とすと──僕の懐に入って来た。


 無理だ! これは避けきれない! 僕はアランが振るう大剣を天魔刀で受け切った時──アランの大剣だけが火花を散らし、天魔刀は火花を散らさず妖しく輝いた。


 すると天魔刀の刀身は、漆黒の色から赤と紫の色に変化し、アランの大剣に強烈な振動を与えたのだ。


 無論、その振動はアランが握ってる柄まで届いている。


 「ぴ、ピーター君。今の技は、私でも見たことないが、一体何をしたんだい?」


 そんな事を質問されても、答えられないだろ。

 だって、自分でも何が起こったのか理解できないんだもん。


 「まあ、自分の奥の手は言えないか。だったら、私も久々に十刹流じゅっせつりゅうの奥義を使うとしよう」


 は? 奥義? ま、待ってくれ!


 「一応、手加減はするが。覚悟はしてくれ」


 覚悟って死ぬ覚悟ですか?


 僕がアホな事を考えていると、すでにアランは奥義の構えを取っていた。


 居合に似ているが、余りに腰が深く下がっている。


 「十刹流奥義。壱之業いちのわざ──羅炎刹らえんせつ!」


 アランの奥義が炸裂した。


 深く下がった腰は、地面を斬りつける居合いであり、その想像を絶する摩擦熱で、炎炎の空間を作り上げたのだ。


 くそっ! 炎で前が見えない──来た! 前! なんて瞬発力だ!


 僕が懐に入ろうとするアランの斬撃を受けようとする──が、感触が無い。


 「それは私の炎の幻影だよ、ピーター君」


 え? 後ろ?


 気が付いた時には遅かった。

 炎炎の渦の中で、僕は全くアランの気配を、感じとる事が出来なかったのだ。

 炎の幻影の中から、本物のアランの大剣が、僕の首元に触れた。


 「よし! 今日はここまで! 私も久々に奥義を出したから、昔よりも少々腕が鈍ってしまった」


 腕が鈍っていて、これだけの力量とは──完全に敗北を認めるしかない。


 【伝えます。能力複製により、個体名アラン・サンドロスの十刹流奥義、羅炎刹を獲得しました】


 剣術の技は、サージスキルじゃないのか……。


 って! どさくさに紛れて、アランの奥義を獲得してしまった。


 でも、この技はありがたく、天魔刀で戦う時に使わせてもらおう。


 「いや〜。まさかピーター君が、ここまで成長していたなんて。今後は、剣術で相手を倒す技を教えないとね」


 「そ、そうだね。その時は、頼むよ……」


 ごめんよアラン。アランの奥義を獲得しちゃったんだ。

 まだ、使いこなせて無いけれど。


 「じゃあ私はまた、皆の訓練に戻るから、稽古がしたい時はいつでも来て構わないよ」


 そう言ってアランは、軍都レギオンにいる500万人の猛者たちの軍事訓練に戻って行った。


 つ、疲れた。


 剣術って権能で戦うよりも難しいんだな。


 そして僕も、すぐさま転移魔法陣を使い、首都モンテスにある教皇宮殿に戻った。

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