第113話 新たな戦力、三閻羅と六大守護聖魔の紹介


 僕と、三閻羅さんえんらと、六大守護聖魔の九名は、執務室に向かった──が、何か……執務室が大きくなってない?


 前の二倍はあるぞ。

 ピノネロ……大増税はいいけど、何でもかんでも大きくすれば良いというものでは無いぞ……。


「フハハハ! ピーターよ。これはまた立派な執務室だな」


 ザルエラだった。


 というか、九名とも、僕と同じぐらいの背丈になっていた。

 逆に何と言う違和感……。


 中に入ると会議室まで大きく──いや、何だか前よりも、少し豪華になってないか? 円卓の椅子は木材だったのに、皮の椅子になっているし。

 だが、まだ誰も来てないな。のんびり待つか──っと、その前に。


 「所でさザルエラ、お前って四獣四鬼しじゅうしき六怪ろっかいのこと知ってるの? ピノネロが四獣四鬼や六怪の名前を出した時に、何だか知ってるような顔付きだったから」


 「当たり前であろう。四獣四鬼と言えば、2000年前の魔王が従えた魔獣と魔人ではないか。それに六怪は、竜機戦争の際に活躍した六体の竜のことだぞ」


 「そ……そうなんだ。物知りだね」


 「これぐらい、我らは誰でも知っている常識だ」


 おい……あのエンシェントドラゴンの奴……何が六怪は自分で考えただ……。


 思いっきりパクってんじゃねーか!

 しかも、あの時かなりドヤ顔で言ってたぞ!


 今度また会った時に問い詰めてやる。


 ザルエラはさらに続けた。


 「しかし、驚いたぞ。まさか魔王竜の側近である、三閻羅と六大守護聖魔の名を、我らに付けるとはな」


 「え? あ、ああ。お前ら強いから……」


 や、やべえ。僕も知らない内にパクってた。

 これじゃあ、エンシェントドラゴンと同じじゃん。

 

 で、でもエンシェントドラゴンは知っててパクったのに対し、僕は知らずにパクっていた。この差はかなりデカい。そう! これは偶然なのだ。


 そんな事を考えていると、ぞろぞろと全員集まって来た。


 今回はテネブリスに、新たな仲間も含めて、総勢36名。


 いや〜、我が精鋭たちも大所帯になりましたな〜。


 僕は皆が席に座るのを見届けると、さっそく──さっそく──ビビってるし……。


 【伝えます。新たに仲間にした九名は、全員が星創級せいそうきゅうなので、この場にいる伝説級や神代級の魔獣や、魔人や、ドラゴンが怯えています】


 おいおい、またかよ。

 まあ、星創級の悪魔二人こと、ソルとルーナは──いつも通りか。


 てか、また権能を行使するのかよ。


 だが仕方ない。こんな状態では紹介も出来ないし。


 久々にあの権能を使うか。絶対命令の権能を。


 そんじゃ──この場にいる全ての魔獣や、魔人や、ドラゴンは新たな仲間の九名に怯えず、普段通りにしろ。


 すると、星創級以外の、魔獣や、魔人や、ドラゴンの怯えが消えた。


 しかし、前から思っていたが、何でエルだけ怯えていないんだ?

 六怪のドラゴンは全員怯えているのに。


 【伝えます。個体名エルダードラゴンは、星創級のドラゴンです】


 ま、マジで……。かなり昔の事だが、そんな凄いドラゴンに、よく勝てたな。


 まあ、あの時は、大宮殿さんに助けてもらいながら、なんとか勝ったんだけど。


 エルって、ただの食い倒れドラゴンじゃなかったんだな。


 それは、そうと──新たな仲間を紹介しないと。


 「皆、三年間も国を留守にしてすまなかった。そして新たに仲間になった九名を紹介します。まずは三閻羅からだ。読み方は……えっと……」


 するとアグニスが口を開いた。


 「ちょっとピーター。三閻羅って言ったら魔王竜の側近でしょ。誰だって知ってるわよ。ガルズの神話に必ず登場するんだから」


 「あっ……そうなんだ……」


 知らなかったの、僕だけかよ……!

 ってことは──六大守護聖魔も知ってるのか。


 「それでは改めまして。まず、三閻羅のザルエラです」


 「フハハハ! 私の名はザルエラだ。宜しく──ん? 貴様は、闇の悪魔か?」


 ザルエラの問いにテネブリスが返す。


 「ええ。私は闇の悪魔です。お久しぶりですね、ザルエラ殿」


 「確かに久しいな。天使と悪魔の戦争以来か。して、なぜお前がここに?」


 「今はピーター様の配下となり、テネブリスと言う名を頂きました」


 二人の会話に思わず僕は口を挟んだ。


 「ちょっと待って! 二人って知り合いだったの?」


 「ええ。私とザルエラ殿は戦った者同士です」


 「は? 一緒に戦ったんじゃなくて、お互いに戦い合ったのか!?」


 「フハハハ! ピーターよ。私は元天使であり、その後、悪霊を束ねる死神となったのだ」


 うーむ……何かよく解らないけど、元天使だったのか……あの顔で……。

 そうだ、丁度いいからテネブリスの事も紹介しておこう。


 「皆に、三閻羅とは別に、また淵源えんげんの悪魔の仲間が増えたから、紹介します。このザルエラと会話しているのは闇の悪魔で、名前はテネブリスです」


 「そんな事よりもピーター様! 私は毎日、思念伝播でピーター様の安否を確認したいとピノネロ殿に伝えたら、却下され、心配で心配で──」


 話しが長くなりそうだったので、テネブリスの会話を無視して先を続けた。あと、よくやったピノネロ!


 「ま、まあそんな感じで、ザルエラでした〜。次の三閻羅は、テュポーンです」


 「ゲハゲハ。俺がテュポーンだ。天地を逆転させたい時は、いつでも頼んでくれ」


 『……』


 何か、会議室の空気が……。


 「え、え〜と。テュポーンでした。最後はハーデスです」


 「私がハーデスだ。貴様らが冥府に来た時は、冥府の支配者の権限で、地獄の刑罰を無しにしてやろう」


 『……』


 だから! 会議室の空気が……!


 「えっと……三閻羅の皆様たちでした。皆、拍手!」


 すると、会議室内に小さな拍手が鳴り、皆が困惑した表情をしている。

 だが一人だけ、盛大に拍手をする者がいた。


 「おいピーター! スゲーじゃねーか! こんな強い奴らを仲間にするなんてよ! 俺の名は太陽の悪魔こと、ソルって言うんだ。宜しくな!」


 「そうだよピーター! やるじゃん! 三閻羅の皆、宜しくね。アタシは月の悪魔で、ピーターからルーナって名前を付けてもらったんだ〜!」


 その声の主はソルとルーナだった。

 何だか、凍りついた会議室の空気を、ソルとルーナに助けられてしまったぞ。


 「因みに、三閻羅の役職は、僕の直属護衛です」


 僕の発言に大きな声で、異議を唱える者がいた。

 テネブリスだ……。


 「ピーター様! 護衛でしたら私が!」


 「お前には大事な仕事があるだろ! てか、三年ぶりで、皆とゆっくり話したいけど、まずは新たな仲間を紹介したいから、続けるぞ」


 「ピーター様! 待って下さい! 話しはまだ──」


 僕はテネブリスの話しを無視して、続けた。


 「次に紹介するのは六大守護聖魔の六名です。まずはフェンリルです」


 「我れがフェンリルである。殺したい奴がいたら、いつでも言ってくれ。我れが咬み殺して食ってやろう」


 『……』


 だから、また空気が……。


 「え〜。フェンリルでした。次はサイクロプスです」


 「私がサイクロプスだ! 粉々にしたい奴がいたら、いつでも手助けするぞ!」


 『……』


 も、もう頼むからやめて……。


 「さ、サイクロプスでした。次はエキドナです」


 「私がエキドナだ。毒殺したい者がいれば力になろう」


 『……』


 だから、やめろっての! 空気が〜会議室の空気が〜凍る〜。


「え、エキドナでした。次はマディーンです」


 「私がマディーンだ。ピーターから聞いたが、この国の教えは仲良くする事らしいから、魔物である貴様らを聖なる力で、浄化させる事はしないので安心してくれ」


 『……』


 もう……名前だけ言って終わりでいいから、余計な事は言わないでくれ……。


 「ま、マディーンでした。次はアレキサンダーです」


 「私がアレキサンダーだ。私もマディーンと同じ意見である。誰も聖なる力で浄化せぬから安心するのだぞ」


 『……』


 強い奴らって……空気読めないのかな?


 「あ、アレキサンダーでした。そして最後は、セラフィムです」


 「私がセラフィムだ。本来なら魔の者は誅殺している所だが、ピーターの教えに従い、仲良くしようではないか」


 『……』


 嗚呼……終わった……。


 「あの……えっと……六大守護聖魔の皆様たちでした。皆、拍手!」


 あれ? さっきよりも拍手が小さい。


 もう、こうなったら! 絶対命令を行使する!


 この場にいる者は、六大守護聖魔に盛大な拍手をしろ!


 すると、会議室が割れんばかりの拍手の響きに包まれた。


 つーか、マジで空気を読んだ発言をしてくれ!


 「しかし、教皇様。三年間と言う長き月日の間に、これだけの頼もしい仲間を、お一人で集めるとは、このボデガス。感服いたしました」


 ボデガス君。もっと褒めていいのだよ。


 「私もです。ですがピーター様の事がご心配で、このテネブリスもご一緒にバルルマヌルに行こうと──」


 テネブリスの話しは長くなるので、無視をして先を続けた。


 「因みに、六大守護聖魔の役職は戦争の前線で戦ってもらう事です。きっと皆の助けになってくれると思う」


 僕が言うと、また割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

 つーか、逆にうるせー!!


 「と言うか、本当はせっかく会議室に全員集まってくれたから、この三年間の話しを聞きたい所だけど。今日は皆が仕事中なのに、急に集まってもらったから、積もる話しもたくさんあると思うけど、ここで解散しようと思う。僕が不在だった三年間の話しは、また今度ゆっくり聞かせてくれ。以上」


 そして、会議室に集まってもらった、我が国を支える者たちは、自分の仕事に戻っていった。


 何か、いつも新しい仲間を紹介する時って、空気が凍りつくんだよな……。


 「してピーターよ! 我らはこれから、何をすればいいのだ?」


 ザルエラだった。


 「ん? 自由行動でいいよ。三閻羅の役職は護衛だけど、常に一緒にいる必要ないし。何かあったら思念伝播で護衛をしてくれって伝えるよ。それに六大守護聖魔の皆も、この街で自由行動してていいよ。あと、困ったことがあったら、すぐに思念伝播で伝えてくれ。でも、これだけは絶対に忘れるな。ちゃんと街の皆と仲良くすること。以上──ごめん! まだあった! この街にいる時は、小さいままでいてくれ! 元の大きさになるのは、街の外で頼む!」


 『解った! ピーター!』


 また息ピッタリだな。

 なんだかんだで、こいつら仲良しなのか?


 僕は、三閻羅と六大守護聖魔が会議室から出て行くのを見届け、会議室には僕一人になった。


 まあ、これで、戦争の時に大活躍してくれる強い仲間が、さらに集まった。

 しっかし、本当に三年もかかっちゃったな。


 残り一年か……この一年をどうするかで、今後の我が国の未来が変わるだろう。平和ボケしている時間はない。


 それに戦争になれば、ピノネロは参謀総長だ。

 つまり、これからの戦略を、ピノネロと一緒に考えなくてはならない。


 だが……取り敢えず今日の所は、教皇宮殿に戻って……少し休もう。



 第11章・完

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