第12章 戦争までの一年間

第114話 マギアヘイズの暗部と、ピノネロとの戦略会議


 いや〜、やっぱり自室のベッドで寝るのはいいね〜。

 なんせ三年ぶりに自室のベッドで──その時、窓が揺れる音がしたかと思うと、強烈な暴風で窓が割れた。


 「な、なんだあああ!?」


 もしや敵の襲撃か?


 「ピーター! やっと戻って来たのじゃな! 妾は寂しかったぞ」


 リリーゼの声がしたかと思うと、壊れた窓からリリーゼが猛烈な勢いで飛んできた。


 「おお! あの祭り以来、三年間も会えなかったが。何とも精悍な姿になったものじゃのう」


 「おい……その前に朝っぱらから、僕の自室の窓を壊すなよ……。しかも何か少し口調が変わってないか?」


 リリーゼは僕の言葉に対し、誇らしげに語った。


 「よくぞ気が付いた! 流石は妾の将来の夫であるピーターじゃ。この口調は、ピーターの嫁になるので、今までよりも威厳を出す為に、少し口調を変えたのじゃ」


 こいつは三年間……僕がいない時に、そんなくだらない事を考えていたのか。

 しかも、威厳の前に壊れた僕の自室の窓を何とかしろよ。


 「それで、何か重要な用事があるから、スッ飛んで来たんだろ?」


 「ん? 妾はやっとピーターが戻って来たから、顔を見にきただけじゃ」


 「は? そんな事で、朝っぱらから来たのか?」


 「当たり前であろう。三年じゃぞ! お主の顔を見たくて、すぐに来たのじゃ。だが、元気そうじゃな。これで心配事は無くなった。では、妾は今後の戦争の会議があるので、リリウヘイズに戻る。さらばじゃピーター」


 そして純白に輝く六翼の翼を広げ、リリーゼが壊した僕の自室の窓から飛び立っていった。


 「おいこら! 待てリリーゼ! お前が壊した僕の部屋の窓を、何とかしろ!」


 だが、その声も虚しく、リリーゼの姿は上空で芥子粒のようになっていた。つまり僕の声など届く訳がない。


 あいつ……三年ぶりの僕の部屋の窓を壊しやがって。

 と言うか、リリーゼは今後の戦争の会議とか言ってたな。


 僕も早くピノネロを執務室に呼んで、会議をしなくては。

 ピノネロと執務室で会議をするのも、三年ぶりか……。


 うおっと、いけない。そんな事よりも、早く思念伝播でピノネロを呼ばなくては。


 僕はすぐにピノネロに思念伝播で、マギアヘイズの事で大事な会議があるから、執務室に来るように伝え、僕も普段着に着替えると、急ぎ執務室に向かった。


 執務室に行くと、すでにピノネロがマギアヘイズの情報書類を、テーブルの上に乗せて、佇立しながら待っていた。


 「ごめんごめん、遅れちゃった。てか、座ってていいのに」


 「では失礼します」


 そう言うと、僕に一礼してから椅子に座った。


 何だかピノネロも、この三年間でかなり成長したような雰囲気がする。


 「教皇様に言われた通り、三年間で集められるだけの、マギアヘイズの暗部を調べました。やはり、教皇様が三年前に仰っていた通り、かなりの組織がありました。昨日の新たな仲間紹介の時に思ったのは、もし教皇様が三年かけて強力な仲間を集めなければ、確かにテレサヘイズは崩壊していたと思います。そして、こちらがマギアヘイズの情報を集めた資料です」


 ピノネロはテーブルに乗せてある、マギアヘイズの資料を僕に渡した。


 てか、この資料……凄い量だな。

 取り敢えず、加速思考の権能を使って見ないと、日が暮れるから、権能を行使するか。



 ────なるほどね。


 と言うか、よくここまで情報を集めたな。


 まず、マギアヘイズの兵士たちが無尽蔵にいる理由である。


 これは、マギアの教えに、戦争で死んだ者は天国に行ける教えがあるからだ。まあ、これは僕も知ってる。大事なのは、この捻じ曲がった教えが一体どこから生まれたかだ。


 どうやら、マギアヘイズにはマギア協会とマギア教会が存在し。全ての主導権を握っているのがマギア協会らしい。そして、協会からの教えを教会が国民に広めている事が解った。


 このマギア協会の本部があるのが聖都ラマードであり、会長を務めるのが、ドグマ・サルバトーレだ。簡単に言うなら、教皇国マギアヘイズのアマーロ・バルバレス教皇を裏で操る悪の親玉である。


 つまり教皇国と言っても、真の権力を握っているのはアマーロ・バルバレス教皇では無く、マギア協会の会長なのだ。


 そしてマギアヘイズでは、兵士たちの事を、ディルア青年団や神聖隊と呼び、若く強い兵士で構成されている。

 若い理由は、捻じ曲がった教えを疑いもせず信じる、純真無垢な心を利用しているからだろう。


 さらに、マギア教会はマギアヘイズ内の、神聖都市テンプルムにある三つの神聖教会の総称であり、神聖教会と言っても裏の顔はマギアヘイズ内において、暗部の最も重要な拠点がある教会なのだ。


 その三つの教会はそれぞれ、フドゥラ教会、アズラク教会、アフマル教会と呼ばれている。


 この三つの教会の暗部は、マギア協会内にある監視庁と呼ばれる、全ての暗部を監視し管理する非戦闘員の暗部だが、暗部の中で最大の機関であること。加えて、捻じ曲がった教えを作る機関でもあり、その機関の最高権力者が、ドグマ・サルバトーレなのだ。


 そして、監視庁の本部があるのは、聖都ラマードのマギア協会本部である。


 僕は暗部全体の組織図を見て、改めてバルルマヌルで新たな仲間集めをした事が、我が国の崩壊を防ぐことに繋がると思った。


 なぜならば、想像していたよりも、暗部の組織が大きかったからだ。


 まず、暗部の最大機関の監視庁。これは、全ての暗部組織を監視し管理する機関である。


 それから断罪庁に、執行庁に、粛清庁。


 これらは全てマギア協会にとって、マギアヘイズ内を掌握する機関であり、断罪庁の長官は、以前ドラゴンの里で戦った、首斬り大司祭ことレオニダス・ドレイクだ。


 だが、執行庁長官と粛清庁長官までは調べても、まだ不明であった。


 しかし、それぞれの役割は判明した。


 断罪庁は、マギアヘイズにとって邪魔な者を力で排除する機関。


 執行庁は、捻じ曲がった教えを教会に伝え、全国民に広めさせ、兵士を集める機関。


 粛清庁は、マギアヘイズ内の不穏分子や危険分子を全て殺し、誰もマギアヘイズの教えに逆らわないようにする機関。


 さらに、その暗部よりも危険な、より深い虐殺専門や殺戮専門の暗部が四つ存在することも判明した。


 通称・邪悪な嚢と呼ばれる、マレボルジャ。


 通称・邪悪な爪と呼ばれる、マラブランケ。


 通称・邪悪な尾と呼ばれる、マラコーダ。


 通称・番犬と呼ばれる、マスティーノ。


 以上の四つである。

 

 この中で、マレボルジャの指揮官は知っている、ドレイクと同じく、ドラゴンの里を襲った、厄災の枢機卿ことテイゲンだ。


 しかし、残りの三つの暗部組織の指揮官は不明とのことだった。


 さらに何故、マギアヘイズが亜人を奴隷にしたり、翼亜人を撲滅しようとしている理由も解った。


 マギア協会の機関は、自らを神に選ばれた純種人じゅんしゅじんであると主張し、マギアの教えにも自分たちの事を二ウェウスロイドと呼ぶように教え、マギアヘイズの国民全員が神に選ばれた純種人だという事も教えている。


 そして、その教えに一番邪魔な存在が亜人なのだ。


 亜人は、人間よりも力や教養に優れている者が多い。


 翼亜人である、リリウヘイズの国民や、ピノネロがいい例である。


 つまり亜人を野放しにしていると、自分たちが劣等種族となり、地位が脅かされる事になるので、亜人を奴隷にしたり撲滅したりしようとしている訳だ。


 何とも馬鹿げた考えである。


 ここまでの事をまとめると。

 マギアヘイズにあるマギア協会が、全ての悪の元凶であると解った。


 つまり、マギアヘイズの教会は、協会が作った捻じ曲がった教えを、疑いもせず教えている、盲目的な集団と言える。


 その盲目的な集団を作り上げたのが、マギア協会の執行庁と粛清庁なのだ。



 ────────



 「ありがとうピノネロ。ここまで情報が集まるとは、はっきり言って思ってなかった。何だかマギアヘイズって、全国民がマギア協会に騙されてる可哀想な国に思えてきたよ」


 「私も同意見です。さらに、ここまで闇が深い宗教国家だとは思いませんでした。三年前に教皇様が直感で、このままではテレサヘイズが崩壊すると仰って、三年もバルルマヌルで、強大な力を持つ仲間集めをしていなかったら、一年後に崩壊を待つだけでした。いつもながら、教皇様の先見の明には、驚かされっぱなしです」


 まあ、褒めてくれるのは嬉しいけど……正直、まだ戦力不足な気がするんだよな……。


 「なあ、ピノネロ。これも直感なんだけど、まだ戦力が足りない気がするんだ。だから、この一年で、出来るだけ戦力を増やそうと思う」


 「では、またバルルマヌルに?」


 「いや、バルルマヌルで仲間にしたい奴らは全員集まった。残りは、仲間集めじゃなくて、テレサヘイズの有事の際に戦ってくれる仲間を、強くしたいと思うんだ」


 ピノネロは三年前とは違い、僕の意見に反対しなかった。


 「解りました。では教皇様のお考えの通り、この一年で、よりテレサヘイズの軍事力を高めて下さい」


 「おう! 任せなさい!」


 そして、僕とピノネロの三年ぶりの会議が終わった。


 しかしここまで、マギアヘイズの暗部が多いとは。


 だが、これは三年間の調べで解った情報だ。きっと、まだ隠している事があるに違いない。


 いざ戦争になった時の為に、残りの一年間で軍事力をさらに上げなくては。

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