第103話 遂に始まった、テレサヘイズの大祭り


 いよいよ昼過ぎ──さてと、お祭り開始のスピーチをするか。


 祭り会場に集まった数千万人の前でスピーチか。

 正直な所、これはかなり緊張するな。

 物見台の上に立ち話すのか。


 「え〜。今回、皆に集まってもらって──」


 おい……よくよく考えたら、これだけの数だ。巨大拡声器でも無いと声が届かないぞ。


 しかも、なんか僕の話しを聞く空気じゃなくて、すでに何を食べるかの雑談をしている。


 仕方ない。思念伝播で伝えるか。


 (「皆、聞こえるか? 今日は集まってくれて有難う! この祭りは、巨大城郭都市モンテス完成記念の祭りで、テレサヘイズの国民全員とドラゴンの里のドラゴン全員に、特別ゲストとして四凶のリリーゼとダエージュ、そしてリリウヘイズの四聖天ししょうでんのライマ、リョクイ、セーギュー、シャユーたちも参加してくれている。まあ、四凶と聞いたら怖くなるかもしれないが、二人は僕の大事な盟友だ。テレサヘイズの国民に危害を加えるような事は無い! それでだ……こんなスピーチをダラダラしているのは嫌いだから、皆! 今日は食って飲んで大騒ぎするぞ!!」)


 僕の思念伝播のスピーチが終わると、会場は大音声に包まれた。


 『うおおおおお! ピーター様万歳!!』


 そして始まった大祭り、この日の為に一ヶ月もかけて、完成した巨大祭り会場では、誰もが好きな食べ物を口にして、誰もが飲みたい酒を呷っている。


 しかし、会場にリリウヘイズのバンスがいないので、リリーゼに訊いたら、バンスは警備隊長だから国の警備を任せたらしい。だが、バンスも祭りに行きたいとリリーゼに言ったそうだ。


 その言葉は虚しく却下された。流石は絶対君主制の国だ。リリーゼの言葉が絶対なのだと痛感した。可哀想にバンス……今度何か美味い飯をご馳走してやろう。


 しっかしまあ、皆よく食って、よく飲むな。

 育ち盛りの子供でもあるまいに。それに、急いで食べても食材は山程あるから、無くなる心配なんて無いってのになぁ。


 しかし、意外や意外。皆ステーキや焼き肉に飛び付くと思ったが、焼きそばや、たこ焼きに夢中になっている。まあ、たこ焼きの中身はタコじゃなくてキングスパイダーの、なんちゃってカニ焼きなんだけどね。


 きっと、タレの香りよりも、ソースの香りに誘われたのだろう。


 焼き鳥やラーメンやハンバーガーも飛び付くように、皆が食べている。


 さらに、皆の興味が向いたのは、ワニの寿司にワニの刺身だ。

 和食の文化が無い、この世界で。寿司や刺身はかなり珍しかったのだろう。そして味も気に入られ、皆が上機嫌になって食べた。


 だが、結局最後は魅惑のタレを使った、ステーキや焼き肉に落ち着いた。さらに甘味物を珍しがって、皆が食べている。


 カキ氷に、リンゴ飴に、水飴に、クリームソーダに、クレープだ。

 どうやらリリーゼは甘味物が好きらしく、レシピを寄こせと、何度も言われた。仕方がないので、レシピは今度、リリウヘイズに行った時に渡すと言ったら、まるで子供のような笑顔で、はしゃいでいた。


 何だか四凶のイメージが、僕の頭の中で崩壊していくぞ。


 さらに、酒の種類も豊富に揃えた。強い酒から弱い酒まで。


 ここでも最初は、ビールが人気だった。

 国民はいつも生ぬるいエールばかり飲んでいるので、キンキンに冷やしたビールは格別だったのだろう。


 さらにワインに、ブランデーに、ウイスキーに、テキーラに、ウォッカに、ラムに、ジンに、リキュールに、日本酒や焼酎まで用意した。


 ダエージュの為に物質創造で、巨人用のグラスも作ったが、これにはダエージュも喜んでいた。しかも、そのグラスの中に、なみなみとラム酒を注ぎ一気に飲み干したのだ。


 さ、流石は四凶……僕が同じ事をしたら、その場で倒れるだろう。


 いや〜平和って素晴らしいな〜。


 そんな事を考えていたら、もう夕暮れになっていた。

 時間経つの早いな……準備するのは、かなり大変だったのに。


 「おい坊主! 今日は貴様が主役であろう! こっちに来て余と共に酒を酌み交わそうぞ!」


 「悪い! ちょっと用事があるんだ!」


 すまんダエージュ。僕にはやる事が。


 「ピーターよ。あんなバカと一緒に飲む必要はないぞ。妾と一緒に飲もうではないか」


 「ごめんリリーゼ! ちょっと用事があるんだよ!」


 すまんリリーゼ。だから僕にはやる事が。


 「教皇様。私と──いえ、なんでもありません」


 あ、ピノネロは何かを察して、自分から引いてくれた。


 『ピーター様! 我々と是非一緒に酒を!』


 「ちょっと今は……悪いな!」


 今度はドラゴンかよ。だから僕にはやる事が。


 『ピーター様! 我らと一緒に酒を飲みましょう!』


 「これからちょっと、用事があるんだ。今度にしよう!」


 四獣四鬼しじゅうしきまで。つーか、タイタンの奴、鉱石しか食べないとか言ってたのに、酒は飲むんかい!


 「ピーター様! どうか我らと一緒に! ピーター様が喜ぶカクテルを、このテネブリスがお作りします!」


 「そうだぜピーター! 俺らと飲もう!」


 「そうだそうだ! クリームソーダ! ギャハハハ!」


 「お前らには悪いけど、これから大事な用事がるんだ! すまん!」


 テネブリスとソルは、まだシラフだが、ルーナは結構出来上がっている。


 それからも、色んな奴らから、酒を一緒に飲もうと言われた。


 吸血鬼の長であるマラガール公や、ボデガスや、吸血鬼たち。

 アグニスも意外と酒が強いみたいで、水の用にビールをガブガブ飲んでいる。


 アランからも誘われた。アランと一緒に酒か……前に一緒に酒を飲んで、僕はアランの前でぶっ倒れたんだよな。


 アヴィドの皆からも誘われて、断るのが大変だった。

 そして、アドムとドリマとプレースは酒を飲むと、いつも以上に威勢がよくなり、昔の三大スラム時代の話しで、誰が一番強いかケンカが始まりそうだったが、流石はこの荒くれ者を束ねるアランだ。


 暴れそうな三人をゲンコツだけで止めた。しかも頭にだ……アランのゲンコツか、想像するだけで、かなり痛そう。


 まあ、これで、あの三馬鹿も酔いが醒めるだろう。


 しかしだ、ウーグ三兄弟やガリョー四兄弟たちから誘われないな。


 僕がちょっと、ウーグやリコを探すと、全員酒を飲んで寝ていた。


 どうやら、こいつらは酒に強くないらしい。


 今回解ったのは、四凶や、ドラゴンや、吸血鬼や、魔物や、魔人や、悪魔は酒に強いが、人間や亜人は、そこまで強く無いと言う事である。


 ついでに言うなら四聖天の四人も酒を飲んで寝ていた。


 例外を言えば、ピノネロがかなり酒に強い事と、アランやアヴィドの皆も酒に強い事だ。


 アランやアヴィドの皆が酒に強いのは解るが、まさかピノネロが酒豪だとは思わなかった。


 子供たちは、クレープを食べたり、クリームソーダを飲みながら、金魚すくいや、輪投げや、お面や、水風船に夢中になっている。


 何だか転生前の自分が、まだ子供だった頃を思い出すな。


 しかも、クレープとクリームソーダは子供に大人気だった。祭りが終わったら、街の中にクレープの店と、クリームソーダの店も作るか──って、それ普通に喫茶店になるんじゃ……。


 おっといけない。最後の出し物の準備をしなくては。

 僕が皆からの誘いを断ってでも、この出し物は成功させねば。


 僕が至高者さんに訊きながら、せっせと作って、バルルマヌルで試したアレだ。


 そう花火! てか、少しお腹が空いてきたな。

 でも今日は、僕の為の祭りでは無く、いつも我が国で仕事をしてくれている、全国民を労うための祭りなのだ。


 僕は急いで教皇宮殿に向かい、自分用に作った、教皇以外は立ち入り禁止の工房に行った。


 数にして50万発の花火だ! 今回の祭りで、一番作るのに苦労したのが花火だったので、皆には上空を彩る、僕の最高傑作の花火を見てもらいたい。


 まあ、工房には50万発もの花火を置くスペースなど無いので、工房に行きインベントリに入れてある花火を一つ出して、状態を確認したのだ。


 打ち上げる場所は──なんか色々と使い道を間違っているが……考えた結果、大聖堂の屋上から打ち上げることにした。


 そして、工房から出ると、僕は急ぎ大聖堂の屋上まで行った。

 理由は、皆が酒を飲みすぎて、花火など眼中に無い状況になってしまう前に、早く花火を天高く打ち上げたかったからだ。


 まあ、この祭りが終わったら、戦争の準備で忙しくなるからな。

 今日はとっておきの花火を打ち上げて、少しでも平和な気分を我が国の国民に、満喫してもらわなくては。


 すでに寝ている奴らもいるけど……。


 まあいいや。それじゃあ、どんどん打ち上げますか!


 僕は昨晩、大聖堂の屋上に設置した煙火筒に花火玉を入れ、天高く打ち上げる。


 打ち上げられた花火は、決して権能では再現できない、夜空が爛々と煌めく世界を作り上げた。


 夜空を彩る色鮮やかな、50万発もの円形に広がる巨大な花火が、漆黒の空を美しく染め上げる。


 それは、永遠に終わらない平和を告げるような、ひと時の輝きだった。


 この瞬間の平和だけは誰にも奪えない──そんな気持ちにさせる、静寂の夜空に響く打ち上げ花火の音が、優しく夜空を抱いている。


 祭り会場にいる誰もが、幽々たる大空にばら撒いた宝石のように、色取り取りに輝く花火を見て、興奮しながら心を奪われていた。


 だが、50万発の花火も、永遠では無い。


 気がつくと、花火の輝きは消え、夜空はまた漆黒の出番になっていた。


 しかし、花火を作って良かった。少しでも皆に楽しんでもらおうと努力した甲斐があったものだ。


 そして、その後も祭りは続き、真夜中まで巨大城郭都市モンテスの野外は、国民たちの笑い声で溢れていた。



 第10章・完

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