第99話 四凶会議と、リリーゼの憂鬱
僕は一ヶ月後に開かれる大祭りの準備で、一番の問題だった1000万台の屋台の仕事を、誰に頼むかと言う悩みが解消し、だいぶ肩の荷が下りた。
だが、レッサーデーモンは眠らず、朝も夜も仕事をして、夜に眠っているモンテスの住人たちから、騒音で眠れないと苦情が来たので、急いでレッサーデーモンに夜は仕事をしないように命令した。
どうやら悪魔は眠らないらしい。まあ、そんな事もありつつ、レッサーデーモンを1000万匹も召喚してから、一週間が経った。
テレサヘイズの首都である、巨大城郭都市モンテスの野外では、驚くほど早く屋台が出来上がっている。
まだ目標の1000万台の屋台には届かないが、この調子でいけば、あと二週間ほどで完成するだろう。
うむ。順調だ。
しかし、レッサーデーモンの器用さには驚愕した。
なぜなら、僕が屋台で出す様々な料理を、レシピを見て完全に再現し、味も申し分ない。たこ焼きの作り方も完璧だった。あのクルクル回す作り方は相当難しいのに……恐るべし悪魔。
さらに寿司だ。こればっかりは無理だと思っていたが、非の打ち所が無い握り方で、米もネタも強すぎず弱すぎず、崩さずに丁寧に握った。しかも、かなり早い……恐るべし悪魔。
ちなみに、寿司のネタはデッドリークロコダイルである。つまりワニ寿司だ。そして僕がまたレシピを作り、今度は刺身に挑戦させてみると、これがまた薄く、そして綺麗に、ワニの刺身を作った。それも普通の刺身では無く、皿の上に花のような形で盛り付けしている……恐るべし悪魔。
とまあ、屋台の問題と、屋台の出し物の料理の問題も解決した訳である。後は三週間後に控えている大祭りを待つだけだ。
そして僕がこの一週間、何をしていたかと言うと、至高者さんに訊き、せっせと花火を作っていた。
試し打ちは、もちろん夜のバルルマヌルの大砂漠まで行って、盛大に打ち上げ見事、上空で円形に広がる綺麗な花火が完成した。
それを、完全復元の権能を使い、量産しまくっていたのだ。
待つのが祭りとは言うが、やはり準備している時が一番楽しいな。
後は、着物と甚平だが、僕がリンに作り方のレシピを渡すと、大急ぎで作ってくれた。そして、これを完全復元の権能で量産しまくっていたのである。
かなり忙しい一週間だったが、充実した一週間でもあった。
今更だが、どうやら僕は、時間に追われている方が好きな性格のようだ。
さてと、残り三週間か、この時間で祭りに必要な物を考えねば。
出し物の景品とかは──人によって喜ぶ物と、貰っても喜ばない物があるんだよな。
アランだったら、リコが作った力作の刀剣が景品だったら喜ぶが、戦わない市民が貰った所で嬉しく無いだろ。むしろ、ラーメンやハンバーガーなどを無料で貰える引き換え券とかの方が喜ばれるだろうな……。
かと言って、景品を人に合わせて変えていたら、景品の意味が無い。
うーむ、難しいな──ん? 何だ? この途轍もないオーラは。
僕は常に、気配感知のスキルを行使しているので、その途轍もないオーラが真っ直ぐ、この巨大城郭都市モンテスに向かって来るのが解った。
しかも何てスピードだ。これは……上空から向かって来ている。だが、このオーラを僕は知っている。これはリリーゼのオーラだ。
僕は急ぎ、教皇宮殿の中庭まで行き思念伝播で、教皇宮殿の中庭に降りるように伝えた。だが、リリーゼが一人で来るなんて初めてだな。何かあったのか?
そして数分後、リリーゼが大急ぎで上空から中庭に降りた。
「そんなに急いでどうしたんだ? 祭りだったら、まだ三週間後だぞ」
リリーゼは息を切らしながら言った。
「ち、違うのだピーターよ。わ、妾はピーターに謝りに来たのだ!」
「うーん……何だかよく解らないけど、立ち話しもなんだし、取り敢えず客間で聞くよ」
そして、リリーゼと一緒に客間に行き、メイドさんが紅茶を淹れてくれた。
「えっと、それで何だったか──ああ、謝るとか言ってたな」
リリーゼはメイドさんが淹れてくれた紅茶を一気に飲み干すと、語り始めた。
「そうだ。すまぬピーター!」
「いや、いきなり謝られても、何がなんだか解らないんだけど」
「実は三日前に、一年に一度の
……え? それって謝ることか?
「なあリリーゼ。悪いんだけど……言ってる意味が解らないぞ。生き返ったんだからそれで良いじゃん。それよりも僕は四凶会議の方が気になるんだけど」
「四凶会議など、単なる世間話だ。それよりも重要なのは、妾の戦死と、お主が妾を生き返らせた事……それを、ダエージュとグドルーの前で話した事がマズいのだ。あの巨人のバカと、深淵のアホはいつも会議の時に、婚姻しろと言ってきて、会議はいつも二人のケンカで話しもできぬのだ。はぁ……全くあの二人は、妾は婚姻などせぬと言っておるのに」
あの……その言葉……そっくりそのままお返しします。
と言うか、何でマズいんだ?
「まあ、何度も同じ事を言って悪いんだけど。その巨人さんと深淵さんの事は解った。でも、何で僕に謝るんだ?」
「それなんだが……その二人は嫉妬深いのだ。つまり、妾を生き返らせたお主に嫉妬しておる。ダエージュとグドルーが、あの戦火の中に参戦しておったら、妾が死ぬ事もなかった。だが二人とも、その戦火があった事を知らず、参戦できなかった事に歯噛みしておった。しかし、お主は援軍に来て妾たちと戦い、戦死した妾を生き返らせた……それに嫉妬しておるのだ。すまぬピーター」
「ごめん……理解力が無いから、また訊くんだけど……何で謝るの? 生き返ったんだから、それで良いじゃん」
そう言うと、リリーゼは少し頬を赤くして言った。
「だから……つい言ってしまったのだ! 妾が婚姻すると決めた相手は、妾を生き返らせたピーターだと!」
「え? ちょっと待って。その嫉妬深い四凶の、巨人さんと深淵さんの前で……そんな事を言ったら……」
「だから謝りに来たのだ! すまぬピーター! きっと、あの二人の事だから、お主と決闘をしに来るだろう……」
「は!? 申し込むんじゃなくて、いきなり決闘が始まるの?」
「ああ。奴らは加減を知らぬ……お主に会いに来た瞬間に、決闘が始まるのは火を見るより明かだ」
「え? ちょ! おい! これから祭りがあるんだぞ! そんな危ない奴ら、相手にしてる余裕なんてないって!」
「だから何度も言う。すまぬピーター」
リリーゼは俯いてしまって、いつもの威厳など欠片も無い。
だがもう過ぎてしまった事だ。文句を言っても始まらない。
来るなら、相手になってやるしか、なさそうだな……。
「所でさ、その巨人さんと深淵さんは、リリーゼよりも強いの?」
「ああ……妾の数十倍は強い。巨人のダエージュは、大地を薙ぎ倒し。深淵のグドルーは、大地を海の底に沈める」
冗談じゃねーぞ! 何でこのタイミングで、そんな危ない奴らを相手にしなくちゃならないんだ!
「では妾は、リリウヘイズに戻る。死ぬなよピーター」
「え? ちょっと! 一緒に戦ってくれるんじゃないの?」
「妾もそうしたいが、今は戦火に備えて勇猛な戦士にする為に、毎日訓練させている。妾はその訓練の指揮を執っているので、お主の街で、ダエージュとグドルーが来るのを、待ち構えている余裕が無いのだ」
「じゃあ、もしダエージュとグドルーが来たら、僕が一人で戦うの?」
「そう言う事になる。本当にすまぬ、ピーター」
そう言って、リリーゼは客間の窓を開くと、外から涼しい風が入って来た──そして、純白の六枚の翼を広げると、そのまま天高く飛び立ってしまった。
おいおいおい。これから祭りだってのに……リリーゼの数十倍の強さだと? シャレにならないっての!
しかも、これだけ頑張って改革して、国民が笑って暮らせる、住み良い街を作ってる最中何だぞ!
もし街を破壊されるような事があったら、無辜の国民に被害が及んでしまう。
それだけは、断じて避けねば。
四凶のダエージュとグドルーか……どんな奴らかは知らないが、僕はこの国の教皇だ。
テレサヘイズの代表として、絶対に国民だけは守らなくては。
やれやれ……これから祭りだと言うのに、とんでもない大問題が発生してしまった。
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