第98話 祭りのお知らせと、屋台準備


 さて、とうとう我が国であるテレサヘイズの全国民に、巨大城郭都市モンテスの完成記念お祭りを知らせる日が来たのだが──僕は思案していた。


 それは、3000万人を全員お祭りに参加させたら、いったい誰が屋台で料理や出し物をするのかと言うことだ。


 それも、屋台の数も半端ではない。大祭りになるから、1000万ぐらいの屋台が欲しい所だが……そうすると、1000万人の国民が祭りに参加できなくなる。


 この祭りは全国民に日頃の感謝も込めて開催する、大祭りなのだ。全員が参加できなければ意味が無い。さてと……どうしたものか。


 それにだ。屋台の出し物である、料理の作り方も教えなければいけない。まあ、屋台を設置する作業は一ヶ月ぐらいかかるから、それまでに、我が国の街の全てに伝書鳩で伝えれば大丈夫だ。


 本当は六怪ろっかいのドラゴンたちに頼めば、すぐに終わるが、教えとは言え、まだドラゴンを見て恐怖する国民も多数いると思うので、伝書鳩にしようと思っている。


 まあ、六怪のドラゴンたちにも仕事があるから、この方法が一番だと思う。なので急ぎ、ピノネロに思念伝播でテレサヘイズにある街の全てに、首都である巨大城郭都市の野外で一ヶ月後に行う、首都完成記念のお祭りのお知らせを伝書鳩で伝えて欲しいと頼んだら、すぐに実行しますと言ってくれた。


 その後で、リリウヘイズのリリーゼたちに、祭りのお知らせを伝書鳩で送るのを忘れていたので、慌ててピノネロにまた思念伝播を使い、そのことを伝えると、リリウヘイズにも伝書鳩を送ると言ってくれたのだが……何だか少し溜息混じりだったのは、僕の気のせいでは無いと思う……。


 だがこれで、お祭りのお知らせは大丈夫だな。

 テレサヘイズの全国民とリリウヘイズのリリーゼにも、ちゃんと伝えた。


 つーか、マジで1000万の屋台を誰にお願いするかだよな……。


 僕が自室で思案していると、扉をノックする音が聞こえた。


 「誰だ?」


 「私です。テネブリスです」


 「は? お前には、ちゃんと仕事があるだろ! サボって僕の所まで来たのか?」


 「いえ。ピノネロさんから、今日の仕事は無いので自由行動を許されました。なのでご主人様であるピーター様に会いに来たのです」


 来なくていいよ……でも、テネブリスもちゃんと仕事してるし、追い返すのも可哀想だ。


 なので、自室に入れてやった。


 「おお。ここがピーター様の自室ですか。なんと美しい……」


 「で? 何しにきたの? 護衛は必要無いよ。それよりも今は忙しいから、一人にしてくれない?」


 「お忙しいと言うのは、例の祭りのことでしょうか?」


 「え? なんでお前が祭りの事を知ってるの?」


 「先ほどピノネロさんから、教えて頂きました」


 あぁ〜。思念伝播をピノネロに送った時か。まあ、もう伝書鳩で国中に大々的に発表するし、別にテネブリスが知っていても不思議じゃないか。


 あっ! そうだ、テネブリスなら1000万の屋台の問題を、解決できるかもしれないぞ。


 こいつは最古の淵源えんげんの悪魔だ。1000万ぐらい悪魔を従えているかもしれない。


 「なあテネブリス。お前ってさ、自分より下級の悪魔を従えてたりする?」


 「申し訳ありません。私は悪魔を従えておりません。それに淵源の悪魔は誰も、悪魔を従えていないのです。眷属にすることは可能ですが、眷属として認めるだけの力がある悪魔がいないもので……」


 「そうか……いないのか……祭りの屋台で、1000万ぐらいの人手が欲しいから、お前なら配下に凄い数の悪魔がいると思ったんだが……どうしたものか……」


 僕が落胆していると、テネブリスから思わぬ言葉が出た。


 「ピーター様は、祭りに必要な命令に逆らわぬ、1000万もの悪魔の配下を探しているのですね。それでしたら、問題ないかと」


 ま、マジで? でもテネブリスが僕に嘘をつくとは考えられない。


 「じゃあ、どうすればいいのか、教えてくれ」


 「では、ご説明致します。ピーター様が悪魔召喚で、下級のレッサーデーモンを召喚すれば宜しいのです。ピーター様の魔力なら1000万匹の数を召喚しても問題ないかと」


 「ちょっと待て、魔力で悪魔召喚する時は、どんな悪魔が召喚されるか解らないだろ」


 「仰るとおりです。しかし、魔力の消費を抑えれば、下級のレッサーデーモンを召喚することは可能です」


 テネブリスは簡単に言っているが、実際の所どうなんだ? また淵源の悪魔を召喚したりでもしたら、面倒なことが増えるだけだぞ。

 僕が渋い顔をしていると、テネブリスが不安そうに質問してきた。


 「私の提案に、何かご不満でも?」


 「いや不満じゃないよ。実際に1000万匹のレッサーデーモンを召喚すれば、問題は解決する。だけど、本当に召喚できるか、まだ不安なんだ」


 僕がテネブリスに言うと、またしても思わぬ言葉が出た。


 「ピーター様は魔王竜に進化したと言う事を、ソルとルーナに聞きました。でしたらご心配には及びません。魔王竜となられたピーター様は、悪魔召喚をする際に、心の中で召喚したい悪魔を念じればいいだけなのです。ただし、下級と言っても、1000万匹のレッサーデーモンなので、魔力をかなり消費することになります」


 おや? 流れが変わったぞ。魔王竜になったら、自分の魔力で召喚したい悪魔を選べるのか。流石は最古の淵源の悪魔だけあって、物知りだ。


 と言うか、至高者さんに訊けば一発で問題解決していたような……まあ、いいか。そうと決まれば、早く街の外に出て悪魔召喚をしよう。


 ついでに、1000万匹もいれば屋台の準備も頼めるぞ。


 僕はすぐに街の外に出て、悪魔召喚を始めた……そして、なぜかテネブリスまで一緒に来ている。


 「なあテネブリス。何でお前までいるんだ?」


 「私は忠実なピーター様の下僕ですから。時間がある時は、いつもピーター様のお側におります」


 まあ、今回はテネブリスが問題を解決してくれたから、鬱陶しいけど、許すとしよう。


 「解った解った。今から1000万匹のレッサーデーモンを召喚するから、少し離れてろよ」


 そう言うと、一礼して僕から離れた。


 さて、心の中で念じるんだよな。

 1000万匹のレッサーデーモンよ、現れろ。


 僕が念じると、地面に巨大な召喚陣が浮かび上がり、黒煙が立ち昇っている。


 そして魔力が半分ほど、一気に減ったかと思うと、黒煙が薄れると同時に、眼前にある巨大な召喚陣から夥しい数の、二本の角を生やし背中にコウモリのような翼がある、ヤギの顔をした筋肉質な長身の人型の悪魔が現れた。


 その光景を見て、テネブリスは微笑しながら拍手をしている。


 「素晴らしい。これほどの数のレッサーデーモンを見るのは、私でも初めてです。流石はピーター様。この数なら戦争でも役に立つでしょう」


 確かに戦争でも活躍してくれそうだが、テネブリスがレッサーデーモンと言っていたから、本当に召喚は上手くいったのだろう。


 「なあテネブリス。レッサーデーモンって知能の方はどうなの?」


 「下級ですが問題ありません。上位の悪魔ほどではありませんが、悪魔なのでレッサーデーモンと言えど人間並みの知能はあります」


 「それを聞いて安心した。これで問題解決だな。ありがとうテネブリス」


 僕が笑顔で言うと。テネブリスは地面に倒れた。


 「おっ、おい! どうしたんだ?」


 「い、いえ。あまりの喜びに、一瞬だけ気を失ってしまっただけです」


 「そ、そうなんだ……」


 まあ、テネブリスのことは放っておいて。この1000万匹の──と言うか、本当に1000万匹いるのか?


 【伝えます。個体名ピーター・ペンドラゴンが、悪魔召喚で召喚したレッサーデーモンの数は、1000万匹です】


 うおっ! 僕が質問する前に伝えてくれた。流石は至高者さん。


 しかし、この数は多すぎるだろ。一人ずつ説明していたら日が暮れる……どうやって全員に屋台の準備を説明すればいいのか。


 それに、焼きそばや、たこ焼きとかのレシピも渡さないと。


 またしても僕が腕を組んで、考え込んでいると、テネブリスが質問してきた。


 「どうなさいましたかピーター様。悪魔召喚は完璧でしたよ」


 「いや、それは良いとして、どうやったら1000万匹もいるレッサーデーモンに早く命令できるのか、考えてたんだ」


 「なるほど。それでしたら、1匹のレッサーデーモンに伝えれば宜しいかと。レッサーデーモンは情報を共有しているので、1匹に命令すれば、残りの全てのレッサーデーモンに命令が共有されます」


 「そうなの? それを聞いて安心したよ」


 「悪魔のことで解らない事がありましたら、出来る限りお力になります」


 「解った! それじゃあ、1匹のレッサーデーモンに命令してみるよ」


 僕はすぐに、1匹のレッサーデーモンに、祭りに必要な屋台の作り方のメモと、屋台で出す料理のレシピを渡し、一ヶ月以内に1000万台の屋台を完成させて欲しいと頼み、当日の祭りの日は屋台で働いて欲しいとも頼んだ。


 最後に、絶対に人間や亜人など、自分よりも弱い者に危害を加えないように、強く命令した。


 すると、解りましたと言って、1000万台の屋台に必要な道具や資材を集める為、1000万匹のレッサーデーモンたちが同時に羽ばたき、飛んでいった。


 ふぅ……これで、何とか屋台の問題も解決したな。


 それに、レッサーデーモンたちが屋台で働いてくれるから、国民全員が祭りを楽しむことができる。


 今日ばっかりは、テネブリスに感謝しないと。

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