第100話 四凶の一人、巨人王ダエージュ登場


 まさかあのリリーゼが、我が国が滅亡するかもしれない大問題を、起こすとは思わなかった……。


 四凶の中でリリーゼの数十倍の強さを誇る、巨人王ダエージュと深淵王グドルーの二人が僕の敵になるなんて。


 リリーゼだって最上位の星創せいそう級の力があるのに、その数十倍……。

 想像したく無いぞ。


 二人同時に攻めて来たら、完全に終わるぞ。


 せっかく祭りの問題が終わったかと思ったのに。何でリリーゼの事が好きなダエージュとグドルーの前で、自分の婚姻相手はピーターだと言うんだよ。


 しかも、その二人って嫉妬深いんだろ? これ完全に攻めて来るじゃん。


 一応だが、六怪ろっかいのドラゴン全員と、四獣四鬼しじゅうしきの全員と、吸血鬼のアグニスとボデガスの二人と、アランと、悪魔たちに伝えたが……皆、少し怯えていたな。


 あのテネブリスも表情が硬くなっていた。


 どんだけ恐ろしいんだ? そのダエージュとグドルーは。


 何だかなぁ……僕の知らない場所で、厄介事を増やさないでくれよ。


 ん? なんだ? この異常なオーラは。真っ直ぐモンテスの街に向かって来るぞ。まさか、もう攻めて来たのか? しかも上空からだ。


 人数は一人か。でも、リリーゼを超える尋常ではない異常なオーラを放っている。


 僕はすぐに教皇宮殿の外に出て、飛翔幻舞ひしょうげんぶのスキルを使い、巨大城郭都市であるモンテスの街から少し離れた場所まで飛び、上空で待機した。


 すると、巨大な純白のペガサスに跨った、軽装鎧を纏い真紅のマントを羽織った巨人が僕の方に向かって来ている。


 よく見ると、筋骨隆々のとんでもない大きさの巨人だ。

 あのタイタン並みに──いや、もしかしたら、タイタンよりも大きいかもしれない。


 さらに燃え立つように、炯々と光る真っ赤な両目の瞳孔と、それに負けぬ程の、熾火のような真紅の短髪と長い揉み上げ、その揉み上げの下には真紅のヒゲが生えており、アゴ全体にヒゲを蓄えている。


 この圧倒的な存在感は、きっとリリーゼが言っていたダエージュに違いない。


 そして、巨大なペガサスに跨った鋭い眼光の巨人が僕の前に立つと、開口一番、まるで大地の底が揺れる程の、大きな野太い声で言った。


 「余は巨人王ダエージュである! もしや貴様がリリーゼが言っていたピーターとやらか?」


 「ああ。そうだよ。でも我が国で暴れられたら国民に被害が出る。決闘なら、どこか誰もいない広い場所で──」


 僕が最後まで話し終わる前に、ダエージュは語り出した。


 「そうか……。おい坊主! よくやった! でかしたぞ! 余が婚姻するリリーゼを復活させたそうだな!」


 なに? 何だか戦いの空気では無いぞ。しかもコイツ、リリーゼを自分のお嫁さんだと思ってるのか? 確かリリーゼの話しでは、何度も婚姻を断っているとか聞いてたけど。


 「お前。もしかして決闘しに来たんじゃないのか?」


 そう言うと、ダエージュは僕を凝視して大笑いした。


 「決闘? なぜ余のリリーゼを復活させた貴様と、決闘などするのだ? 余は貴様に礼を言いに来たのだぞ」


 は? 礼? どう言う事だ?


 僕が首を傾げていると、ダエージュは跨っているペガサスの後ろに積んだ、大袋を手に持った。


 「これは坊主に渡す褒美だ。遠慮せずに受け取れ!」


 「いや、受け取れも何も、ここは上空だぞ! 受け取る前に、まずは地上に降りないと」


 僕がそう言うと、ダエージュも納得して一緒に地上に降りた。


 地上に降りたダエージュは、跨っていたペガサスから下馬し、僕の目の前に立った。その巨大さは、僕の想像を遥かに上回っている。ペガサスに跨っている時も巨大さを誇っていたが、下馬し直立したダエージュは、明らかにタイタンよりも大きい。


 ダエージュの巨大さだけで、威圧されそうな程だ。


 「では改めて、坊主! これは余からの褒美である!」


 そう言って、手に持っていた大袋を地面に置いた。

 僕がその大袋の中身を見ると、溢れんばかりの金銀財宝が入っていたのだ。


 「お、おい。こんなにたくさんの宝物を本当に貰っていいのか?」


 「くどい! 余が褒美として坊主に渡したのだ! 黙って受け取れ!」


 「じゃ、じゃあ遠慮なく貰うよ」


 そして僕は、インベントリの中に、ダエージュが持ってきた、金銀財宝が大量に詰まった大袋を入れた。


 しかし、リリーゼは確かに、ダエージュとグドルーに自分が婚姻するのは、僕だと言ったはずなんだが……まあ、その場に僕は居なかったから、何とも言えないけど。リリーゼが嘘をつくとも考えにくい。


 一番考えられるのは、たとえリリーゼが婚姻する相手を決めていても、諦めていないと言う事だ。まあ、ダエージュは欲しいものは奪ってでも手に入れるように見えるから、多分この考えは間違っていないと思う。


 「おお! そうだ忘れておった! 今日から坊主の国と同盟し、余と坊主は盟友になる。異論あるまい!」


 「は? 何でそうなるの?」


 「何でだと? 決まっておろう。坊主が余のリリーゼを生き返らせたからだ。余は貴様を気に入った! それとも余と盟友になるのは嫌か?」


 「嫌じゃ無いけど……なんか突然すぎて」


 僕の言葉を聞くと、ダエージュは呵々大笑して話した。


 「物事は常に突然起こる。それに対して、すぐに対応する決断力がなければ、国の頂点である王を名乗ることは出来ないのだ!」


 まあ、確かにそうなんだけどさ。それが難しいんだよ。


 「して、どうなのだ? 余と盟友になるのか?」


 ここは、断る理由も無いし。それに相手は四凶の一人のダエージュだ。同盟を結び盟友になるのは悪い話しではない。


 「解った! 同盟を結んで、僕とダエージュは今日から盟友だ!」


 「相分かった! では盟友である坊主に、余から加護を授けてやろう! おい坊主! 貴様の名はピーターだけか?」


 加護? マジで? ダエージュから加護を貰えるのか。

 てか、なぜにフルネームを訊くんだ? まあ、別にいいか。


 「違うよ。僕の名前は、ピーター・ペンドラゴンだ」


 「うむ! では始めるぞ! ピーター・ペンドラゴンに巨人之加護を授ける!」


 ん? 何だか以前よりも体力が上がったような……。


 【伝えます。個体名ピーター・ペンドラゴンは、アルティメットスキル、巨人之加護を授かりました】


 おお。加護が四つになったぞ。


 「これで正真正銘の盟友となったな。所でだ、あの深海の引きこもりのグドルーは来ておらんのか?」


 「来てないよ。その前に、グドルーって引きこもりなの?」


 「ああ。奴は一年に一度の四凶会議の時以外は、深海の中で引きこもっている」


 ふ〜ん。出不精なんだ。じゃあ僕の国に、攻めて来ることも無さそうだな。


 でも怖い奴だったらどうしよう。ちょっとダエージュに訊いてみるか。


 「あのさぁ。ちょっと訊きたいんだけど。グドルーって怖い奴なの?」


 「何? グドルーが怖い奴だと? 馬鹿げた事を言うな。アイツは寡黙だから勘違いされやすいが、怖い奴では無いぞ。それに坊主がリリーゼを生き返らせた事を、喜んでおった!」


 そうか……良かった。怖い奴じゃ無いのか。

 あっ! そうだ。せっかく盟友になったんだから、ダエージュも祭りに招待するか。


 「なあダエージュ。三週間後に、僕の国の首都のモンテスで、お祭りをするんだけど、ダエージュも来る?」


 ダエージュは祭りと聞いて、興奮している。


 「祭りとな! もちろん余も参加するぞ! 所でモンテスとやらは、あの遠くに見える城郭都市で相違ないか?」


 ダエージュが、指を差す方角を見遣ると、巨大城郭都市モンテスがあった。


 「ああ。あれがモンテスだよ。じゃあ三週間後に祭りをするから、詳しい事は、後で伝書鳩を送るね」


 「うむ! 助かる! ではまた三週間後に会おうぞ!」


 そう言って、ダエージュは巨大ペガサスに跨がり、ペガサスが助走する為に地面を踏みしだき、上空に飛び立って行った。


 踏みしだかれた後の地面は、蹄の跡が深く残っている。


 やれやれ……せっかく平地にしたのに。

 僕はすぐに空想言語実現の権能を行使して、巨大ペガサスが踏みしだいた地面を平地に戻した。


 そして、急ぎモンテスの街に戻り、南のダエージュの大陸に伝書鳩を送る為、思念伝播を使い、ピノネロに頼んだ。


 するとピノネロは、僕が四凶のリリーゼだけでは無く、ダエージュまで盟友にして、同盟を結んだことを聞き度肝を抜いていた。


 まあ、ピノネロの気持ちは凄く解る。僕だって今でも信じられない。


 だが安心もしている。もしダエージュが怒りに身を任せて、大暴れしていたらと思うとゾッとする。


 はぁ……しかしこれで、祭りは無事に行うことが出来るだろう。

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