第83話 強力な人材を探す為、レイジヘイズの敵情視察


 えっと、お弁当は──物質創造でいいか。

 ではでは、朝食も済ませた所で、さっそく敵情視察という名の兵士勧誘をする為、レイジヘイズに向かいますか。


 本当はエルとアグニスも連れて行きたい所だが、二人には農林大臣の仕事があるし、あまり荒っぽい事は好きじゃないみたいだから……今回は荒っぽい事が大好きな悪魔二人を連れて行く事にした。


 「おーい! ソルとルーナ! そろそろレイジヘイズに出発するけど、お弁当の準備は終わったか?」


 「弁当? 俺ら悪魔はメシは食わねーぞ。自然界の魔素を常に吸収してるからな。まあ、それがメシの代わりだ」


 「え? ゴハン食べないの? 勿体無いなぁ〜」


 ソルもルーナも僕の言葉の意味が理解できず、二人とも考え込んでしまった。


 「なあピーター。俺ら悪魔は別にメシを食わねー訳じゃないぞ。食う必要もないし、美味いと思った事もない。なのに、何で勿体無いんだ?」


 「アタシも魔獣の肉とか食べたことあるけど、美味しくなかったよ。ピーターは不味い肉が好きなの?」


 こいつら……何も解ってないな。

 よし! 今日の昼飯はラーメンだな。きっとこれから、毎日ゴハンを食べるようになるぞ。


 「じゃあ今日のお昼は、僕が美味いものを食わせてやる!」


 「おっ! じゃあ期待してるぜピーター」


 「アタシも楽しみにしてる!」


 ふふふ、楽しみに待っていなさい──じゃなくて!

 いけない、いけない。本題からズレてしまった。悪魔に食事の素晴らしさを解らせる為に、レイジヘイズに行くのではない。敵情視察──と言うか、強い兵士を勧誘しに行くのだ。


 そして僕は、すぐさまレイジヘイズの前線に向かうため、転移魔法陣を作りソルとルーナを連れて、瞬間移動した。


 瞬間移動した先は、もちろん僕が大地を溶かし、辺り一面を焼け野原に変えた場所である。

 てか、今はどうなってるんだろう? また敵さんが前線で、待機しているのだろうか。


 しかし、目的地まで転移して、眩い閃光が薄れていき前線全体を確認すると──焼け野原が目の前に延々と広がり、誰もいなかった。


 しかし、自分で焼け野原にしたのだが──なんとも酷い有様だな。

 まだ地面が埋み火となり、完全に火が消えていない。

 あの時は……あまり後先の事を考えずに大技を連発してしまったが、ここまで被害が大きいとは。


 我ながら、やり過ぎてしまった……。


 だが、僕の後悔とは真逆に、ソルとルーナは笑っていた。


 「やるじゃねーかピーター! 流石は魔王竜に進化するだけの事はあるな!」


 「本当だよ! やるね〜ピーター!」


 「え? これ僕がやったって、まだ言ってないぞ! なんで判ったの?」


 「この辺全体にピーターの魔力を感じるからだ。魔力の残滓なんてもんじゃねえ。強い魔力がそこら中に漂ってる。おかげで魔素も充分取り込めた」


 「アタシも充分、魔素を貰ったよ。ありがとね〜」


 悪魔って僕の魔力が解るのか──と言うか、僕の魔力で召喚したのだから、解るのかな? まあ、そんな事はどうでもいい。人がいないなら、こんな場所にいても仕方がない。つーか、前線に誰もいないって事は、やっぱり傀儡の共和国は、内部崩壊したのかな?


 「おいピーター! 人間の気配がするぜ。ここから真っ直ぐ50キロメートルぐらいの場所だ!」


 ほえ〜、悪魔ってそんな事まで解るのか。


 【伝えます。個体名ソルはエクストラスキル、気配感知のスキルを行使しているので、人間の気配を感知することに成功しました。ちなみに個体名ピーター・ペンドラゴンも天上之至高者の権能の一つに、気配感知があります】


 それ先に言ってよ! んで、真っ直ぐ50キロメートルか。

 よし、飛翔幻舞ひしょうげんぶで──って待てよ。悪魔って空飛べるのか?


 「なあ、ソルとルーナは空飛べるの?」


 「当たり前だろ。飛翔幻舞のスキルがあるからな。つーか、お前が俺らを召喚した時、空飛んでたろ」


 あっ……言われてみれば。


 「アタシもそのスキル持ってるよ!」


 うんうん、ルーナも普通に飛んでたよね……。

 と言うか飛翔幻舞のスキルを二人とも。やはり淵源の悪魔だけの事はあるな。


 そして、三人で飛翔幻舞のスキルを使い、前方50キロメートル先まで飛ぶと──いるわ、いるわ、敵さんがウジャウジャいた。10万人ぐらいはいるぞ。でも、なんだろう? 喧嘩しているのか? 何やら揉めているぞ。まあ、そんな事はどうでもいい。取り敢えず地上に降りよう。


 僕とソルとルーナが地上に降りると、僕ら三人を無視して敵さんたちが口論に夢中になっている。ていうか、僕らは空から降りて来たのに、気が付いてないのかよ。


 「だから! 首都のアヴィドは俺らトルソーのもんだ! アヴィドには食い物も水もあるんだ! 誰が渡すか!」


 「何言ってやがる! もう共和国は終わったんだ! 一番数が多い、俺らコンキスタがアヴィドを貰う! 食い物も水も俺らが独占するんだよ!」


 大人数が睨み合うような形で左右に分かれ、二つのグループのリーダらしき奴が、前に出て口論していた。


 二人とも脳みそが筋肉──いや、臓器まで筋肉になっているんじゃないかと思うほど、筋骨隆々の長身だ。これは幸先がいいのではないか? こいつらみたいなのを集めて、数百万の軍勢を作れば、我が国の戦力が他国にも負けないほど増強するぞ。


しかし──なぜ二人とも上半身が裸なのだろう。下半身はちゃんとズボンを穿いているのに。まあ、いいか。


 問題は──この口論の内容だな。声が大きいから丸聞こえなのだが……どうやら、僕の思った通り共和国は崩壊しているようだ。

 今の問題は、こいつらが首都と言っている、アヴィドを奪う三つ巴のケンカの対処だが……どうしたものか……。


 「なあピーター。こいつらを今、目の前で100人ぐらい殺せば、俺らの言うこと聞くんじゃねーか?」


 「え?」


 「あっ! それ賛成! じゃあアタシは200人ぐらい殺すね!」


 「は?」


 いやいやいや待って待って、殺したら兵士にできないじゃん!


 「おいコラ……今の言葉……聞こえたぞ……」


 「ああ……俺も聞こえた……。誰が俺らを殺すって? デカい口で吠えてんじゃねーぞ!」


 マズい……口論しているリーダー二人と目が合った……。


 仕方ない。手荒な真似は極力避けようと思っていたが、誰も殺さずに力の差を見せないと。

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