第84話 誰も殺さず服従させる、魔王竜の力
「アヴィドの事は後だ! まずはこの、ふざけた三人を殺すぞ! コンキスタのアドム様に舐めた口を利いた事を、あの世で後悔しな!」
「偉そうに命令してんじゃねーぞアドム! この大バカ三人を殺すのは、トルソーのリーダーのプレース様だ! テメーらにトルソーの恐ろしさを思い知らせてやる!」
えっと、今の会話を聞くと、トルソーのリーダーがスキンヘッドで、やたら背が高く、よく見ると意外と優しそうな黒い瞳のプレースで。
コンキスタのリーダーがプレースより少し背は低いが、かなり筋肉がある体格で、鋭くギラついた黒い瞳に、黒色の癖毛の長髪が目立つアドムか。
と言うか、いかにも荒くれ者でございますって感じの会話だ。聞いてるだけで知能指数が下がりそうだぞ。しかも二人とも若いなぁ、二十代前半ぐらいか?
て言うか、こいつら何も考えないで、突進してくるぞ。しかも手にナタを持っていやがる……どっからそのナタを出したんだよ……。
だが流石は三大スラムだ。リリウヘイズよりも好戦的だな。原始人みたいなこいつらを、兵士にして訓練で鍛えるのは、骨が折れそうだ。
その時、耳を塞ぎたくなるような大声が、誰の耳にも届いた。
「待て! テメーら! 今日こそテメーらを殺して、ヒドゥンのリーダこと、このドリマ様がアヴィドを貰う!」
うわ〜。原始人がまた増えた。
しかも、その声の方を見遣ると、数万の手下を従えて突進して来ている。
それと、やっぱり武器はナタだ。
このスラムにはナタ以外の武器は無いのか?
因みにこのドリマって奴も筋骨隆々の長身である。それに金髪碧眼の短髪で、鋭利な刃物みたいな瞳が特徴的だが、上半身だけなぜか裸だ。リーダーは上半身を裸にしなければいけないルールでも、あるのだろうか?
しかも、コイツも若いな。二十代前半ぐらいにしか見えない。
「おいピーター。コイツらを見てると、バカすぎて悲しくなるんだが。いっそのこと、全員殺すか?」
「そうだね〜。それがいいね!」
「ダメ! それはダメ! せっかくこの原始人の大陸──じゃなくて、レイジヘイズに来た意味が無くなるよ! 強い奴をスカウトして、兵士にするのが今回の目的なんだから!」
とは言っても、こんな原始人たちが本当に兵士になれるのか疑問だ……。とにかく、誰も殺さずに力を見せないと。
「なあソル。ちょっと頼みがあるんだけど。誰も殺さずに、上空にお前の権能を見せれば、この場の全員が大人しくなって力の差を痛感すると思うんだ。だから、何か一発、ドカンと大きな権能を披露してくれないか?」
「まあ、最初からそうするべきだったよな。じゃあデカい花火をここにいる猿どもに見せてやるか」
ソルは相手を威圧するかのように腕組みをし、薄らと笑みを浮かべ言い放った。
「よく見ろ猿ども! これが力の差だ!
瞬間、上空で巨大な炎の渦が、生き物のように暴れまわり虚空を炎が支配した。
凄いな、リリーゼの炎の技みたいだ。
【伝えます。個体名ピーター・ペンドラゴンは能力複製の権能により、個体名ソルのアルティメットスキル、天道之呪炎魔の権能の一つ、爆呪焔焦を獲得しました】
今度は、淵源の悪魔の権能まで、能力複製してしまった。しかもアルティメットスキルだったのか。もしあの大技をこの原始人たちに行使したら、一瞬で燃やし尽くして殺すだろうな。
だがこれで、力の差が解っただろう。
「テメーら! あんな見せかけだけの炎に、ビビるんじゃねーぞ! アヴィドを手にするのは、このドリマ様だ!」
うわ〜全然止まらない。
しかも、見せかけって……ソルに言ってはいけない発言をしやがったぞ……。
「もうこうなったら、俺らも全員で突撃だ! アドム様の力を思い知れ!」
おいおい! 違う意味で原始人の心に火がついちゃったぞ!
「テメーら! 俺たちも行くぞ! 全員プレース様に続け!」
だあああ!! もうメチャクチャだ!
「おいルーナ。もういい。コイツら全員、凍らせちまえ」
「まかせろソル!」
「いや、ちょっと待って! まだ何か、解決策があるかもしれないだろ!」
「んなもん無いな。爆呪焔焦を見ても突撃する猿どもだぜ? こんなバカどもが、兵士になれるわけ無いだろ」
まあ、僕もそう思うけど……。
至高者さん! 何か解決策は無い?
【答えます。個体名ピーター・ペンドラゴンのアルティメットスキル、魔王竜之威光の権能に魔竜覇気があります。魔竜覇気を行使すれば、この場にいる全員を戦意喪失させる事が可能ですが、行使しますか?】
マジで? YES!
すると、僕の体中から黒と紫の色が混じり合った、悍ましいオーラが辺り一面に迸った。
その勢いは凄まじく、誰もが地面に膝をつき戦意を失い、余りの恐怖に身震いしている。
「なあ……ピーター。そのオーラを俺たちにも向けるのは……やめてくれ……」
「アタシも……こんな恐ろしいオーラは……初めてだよ……」
ヤバい……ソルとルーナにも魔竜覇気を行使してしまった。
僕はすぐに、ソルとルーナに向けた魔竜覇気を消した。
「ふぅ。悪魔が恐怖するなんて考えられねえぜ。とんでもねえオーラ出しやがって、恐怖で気を失うかと思ったぞ」
「アタシもだ。こんなオーラは二度と味わいたくないよ……」
「ごめん二人とも、初めて使った権能だから、コントロールが上手くできなかった」
まさか淵源の悪魔まで恐怖する権能だとは。しかしまだ、僕にはやるべき事がある。そう、この原始人のリーダーたちを懐柔させなくてはならない。
取り敢えず、恐ろしさは充分伝わっただろう。
「お前ら全員! 争うのはやめろ! そして僕の配下になれ! 配下にならなかったら、その恐怖を味わい続けることになるぞ!」
三大スラムのリーダーである、アドムと、プレースと、ドリマは、ガクガク震えながら、なんとか首を縦に振ろうとしているが──身震いのせいで、首がグルグル回っている。
これ以上はヤバいな……すぐに魔竜覇気を消さないと。
僕は急いで魔竜覇気を消すと、三人のリーダーたちは、首の骨が折れるんじゃないかと思うほど、首を縦に振り続けている。
「もういい! じゃあ三人のリーダーは僕の前に来い!」
すると、三人とも全力で走って僕の前に来て、なぜか正座している。
まあいいや、この方が力の差が他にも伝わるだろう。
「所で、お前らなんで争ってたんだ? それに共和国はどうなった?」
すると、コンキスタのリーダーであるアドムがまず、口を開いた。
「争っていた理由は、首都のアヴィドを誰が独占するかで争っていました。それと共和国ですが、マギアヘイズからの支援がなくなり、すぐに国は崩壊しました」
その後も、アドムの話しは続き、プレースとドリマは静かに正座していた。
どうやら、そのアヴィドと呼ばれている首都は、マギアヘイズが作った食べ物や水の物資を溜め込んだ街だそうだ。この西の最果ての大陸全体は不毛の大地で、どこまでも荒野が続いている。
なので、食料や水が殆どないこの大陸で、食料と水を確保出来ない事は生死に関わる問題なのだ。そこにマギアヘイズが現れ傀儡国にする為に食料や水を支援し、レイジヘイズ共和国を作らせた訳である。
早い話が、マギアヘイズが三大スラムを、自分の操り人形にする為に食料や水を支援しレイジヘイズ共和国を作らせ、ダミアンヘイズから大量に調達したバーラーを元レイジヘイズ共和国に送ったのだ。
その見返りにマギアヘイズが要求した事は、元レイジヘイズがマギアヘイズの代わりに、リリウヘイズと代理戦争をすることである。
しかし、不可侵条約を結んでしまった今となっては、元レイジヘイズは邪魔なだけなので、支援が無くなり、共和国は崩壊し、以前の三大スラムに戻り、マギアヘイズの置き土産であるアヴィドの街を奪う争いをしていた訳だ。
なんと言うか、どこに行ってもマギアヘイズの名前が出てくるな。悪い意味で。
そこで僕が思いついた提案がある。
それは、この三大スラムの全ての住人を、テレサヘイズに移住させることだ。
表向きは難民を受け入れる形にすればいい。その情報を世界中に向けて大々的なニュースにすれば、我が国は三大スラムを救った国として、評価も上がり、三大スラムの住人全てを養うだけの財力があることも、世界中が知るだろう。
まあ、これは個人的なことだが……僕が怒りに身を任せて、三大スラムの住人100万人を大虐殺してしまった、罪滅ぼしでもある。
なので最初は総人口1000万人のスラムが、今では総人口900万人になってしまっている。
だが、900万人の移住も大変だ。嫌だとは言わないだろうが、どんな答えが返ってくるのだろうか想像できない。が、僕はこの際なので、単刀直入に聞いてみた。
「あのさぁ、お前らアヴィドの街を占領しても、いつかは食料や水が尽きるだろ? だったらこんな不毛な大地で生活するより、僕の国に移住して生活しないか? ちゃんと働けば衣食住は約束するぞ」
すると三人のリーダーは急に涙を流し始め、アドムが二人の代わりに話し始めた。
「ほ、本当に……俺らみたいな無法者が全員……移住しても、いいんですか?」
「いや、僕の国に来たら無法者は卒業してくれ。それに我が国は法律があるから、もし法を無視して乱暴行為をしたら、ちゃんと刑罰を受けさせるからな。それに僕の国の警察や裁判官は怖いよ。でも、無法者を卒業して働きながら国民たちと仲良くするなら、僕は是非、お前たちを僕の国に移住させたい。それと、何度も言うが、衣食住には困らないし、困らせないように僕も最大限の努力をする。どうする? 僕の国に来るか?」
「い、行きます! 行きたいです! こんな場所から移住できるなら喜んで働きます! 無法者も卒業します! お前らもそれでいいよな?」
アドムが、横に正座しているプレースとドリマに語りかけると、二人とも首を縦に振って大泣きしている。
やっぱり、こんな場所で生活するなんて、誰だって嫌だよな。
そして僕が現在、屈強な兵士を育てる為に、腕に覚えがある強い者を500万人ほど探している事を伝えると、アドムがすぐに答えた。
「この三大スラムは力だけが正義の国です。なので腕に覚えがある強い者が溢れているので、500万人なんてすぐに集まります」
マジか! よし、これで500万人を屈強な兵士にする為に鍛え上げるぞ。残りの400万人の人たちには、ちゃんと仕事を与えないとな。
僕があれこれ考えていると、アドムが質問してきた。
「あのう……所で、まだお名前と移住する国を、訊いて無かったんですが……教えて頂けますか?」
「僕の名前はピーター・ペンドラゴン。国を支える教皇をやってる。それで国の名前は神聖魔教国テレサヘイズだ」
「ピーター・ペンドラゴン教皇……ま、まさか!? あのドラゴンと魔物の国の!?」
マギアヘイズめ……コイツらに余計な事を言いやがったな。
「まあ、確かにドラゴンも魔物もいるな。でも僕の国は差別禁止だから、人間だろうがドラゴンだろうが魔物だろうが、一緒に仲良く暮らす。それが国の教えだ。だから、別に怖がらなくて平気だぞ? それともドラゴンや魔物と一緒に暮らすのは嫌か?」
「いえいえいえ、そんな事はありません! では今日から争いと無法者を卒業し、私たちは教皇様の下で手足となり働かせて頂きます!」
「よし! 解った! じゃあこの三大スラムの住人全てをテレサヘイズにすぐ移住させるから、この大陸に住んでいる者たち全員を集めてくれ。僕はここで待ってるから」
「「「解りました教皇様!」」」
そう言うと、三人のリーダーたちは、急いで大陸中の全ての住人を集める為に、駆け足で去って行った。
「なんだかんだで、上手く行ったな。ピーター」
「アタシもビックリ! 一人も殺さないで上手く行くなんて」
二人とも力づくで仲間にすると思っていたので、誰も殺さずに懐柔させた事に心底驚いている。
だが、本当に驚くのはこれからだ。
時間はちょうど、お昼ぐらいだな。じゃあ、悪魔さんにゴハンの美味しさを知ってもらうか。
僕はすぐに物資創造の権能を使い、豚骨ラーメンを現出させた。
「ソル君。ルーナ君。ちょっと来てくれ」
「ん? なんだよピーター」
「ゴハンを一度も美味しいと思ったことが、無いんだろ? だから僕が美味しいゴハンを作った」
まあ、作ったと言うより、創造したんだけど……まあ、別にいいや。
「だからメシはいらねーよ」
「そんなこと言わずに、一口だけ食べてみてよ」
「仕方ねえな、一口だけだぞ────ッ!?」
おお! 良い食べっぷりだね〜美味くて言葉も出ないか。
「ちょっとピーター。アタシも食べてみたいんだけど」
「大丈夫。ルーナの分もあるから。はい、食べてみ」
「じゃあ……頂きます────ッ!?」
は、早い! ルーナの奴、もの凄い速さで食べている。食べていると言うよりも、麺ごと飲んでいるぞ。
「「おかわり!」」
やっぱりそうなるか……はいはい解りましたよ。作りますよ。
この日、ソルとルーナは豚骨ラーメンの美味しさを知った。
多分これから毎日ゴハンを食べるようになるだろう。
やっぱりゴハンを食べないのは勿体無いよね〜。
「「ピーター! おかわり!」」
「って、まだ食べるんかい!」
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