第9章 富国強兵の道
第82話 条約の締結と、富国強兵の第一歩
マギアヘイズとダミアンヘイズとの不可侵条約は、意外にもあっさり終わった。つまり条件付きで提示した五年間の不可侵条約は、結ばれたのだ。
決め手となったのは、やはり戦死したはずのリリーゼと
マギアヘイズは、リリーゼがいないリリウヘイズとテレサヘイズの同盟など、すぐに破棄され我が国がリリウヘイズを見捨てると思っての、不可侵条約の申し出だった──が、僕の出した条件に違和感を感じてリリウヘイズの情報をかき集めたところ、リリーゼと四聖天が生きていたので、マギアヘイズの計画が破綻したのだ。
リリーゼと四聖天がいる限りリリウヘイズは落とせない。その現実を、誰よりも身に染みて理解しているのがマギアヘイズだ。そして、戦死したと思っていた、リリーゼと四聖天が生きている。
つまり条件付きの条約など結べないと言って、下手にリリウヘイズに手を出せば、リリーゼと四聖天を相手にしなくてはいけない。さらにテレサヘイズの援軍が来れば戦況は泥沼化する。なので条件付きの条約を結ぶしかない。マギアヘイズにとって今回の不可侵条約は、情報不足による手痛い誤算だった。
なぜなら、自分から条約を結ぼうと言ったのに、「リリーゼと四聖天が死んだから、すぐにリリウヘイズを落とせると思ったけど、やっぱり生きてたから不可侵条約は無しで」なんて言ったら、世界中からの笑い者になってしまう。
そんなわけで、僕がリリーゼたちを生き返らせ、ルストにすぐさま帰還し、条件付きの条約を伝えたら、なんと次の日には条約が結ばれてしまった。
なぜ急に、不可侵条約を結びましょうと言って来たのか、敵さんの思惑は簡単である。もし仮にマギアヘイズとダミアンヘイズの両国と僕が、不可侵条約を結んでしまえば、リリーゼがいない弱ったリリウヘイズを一気に攻め落とせると思ったのだろう。
さらに僕が情に流されて、マギアヘイズがリリウヘイズに攻め込んだ時に、リリウヘイズに加勢してしまえば、条約を破った事になってしまうのだ。
そんなことをすれば、どうなるか。マギアヘイズは世界中に情報を流すに決まっている。
テレサヘイズは条約を守らない非常識な国であると。すると、そんな非常識な国は潰してしまえと言わんばかりの、大義名分ができてしまう。
つまり、どこの国も気軽に攻めて来れる。
そう──ハンバーガーを買いに行くぐらい気軽にだ。
嗚呼、ハンバーガー食べたいな〜。
まずはバンズ──つまりパンから作らなければ……。
「教皇様!」
ピノネロがノックもしないで、急に自室に入ってきた。
「うわっ! ちょっと〜ビックリしたよ。朝からどした?」
「未開拓でしたテレサヘイズの土地の地図を、持って来ました。軍都建設の為にと」
「あぁ〜その件ね。もう始まってるよ。昨日の夜に、タイタンとイクシオンと10万人の吸血鬼に土地の調査に行ってもらって、500万人規模の大都市ができるように、なるべく平地を探してもらってる。邪魔な場所は、タイタンが平地にしてくれると思うよ」
それを聞いて、なにやら唖然としているピノネロ。
うーむ、これはきっと、早朝に僕に提案して、ミニ会議をしたかったんだろうな。
ごめんなピノネロ。僕って結構、その場のノリで動いちゃうタイプなんだ。
「で、では私の地図は?」
「え? ありがたく貰うよ。見落としがあるかもだし。そんなことよりも、土地や街があっても……兵士がいなくちゃ話しにならないよね〜?」
ピノネロを試すように言う僕。我ながら、何だか悪い性格になったな。
「それですか……実は私も困っていて。どこから徴兵すればいいのやら……不可侵条約を結んでしまった以上、他国に攻め入り兵士を確保することが……」
「できるんだなぁ〜それが」
「はぁ!? どうやってですか!? どこにそんな場所が!?」
なんか、朝っぱらからグイグイ来るな。つーかテンション高いって。
「実は、ピノネロには戦術的に実感が湧かないだろうけど。リリーゼが死んだ報せを聞いて、単身でリリウヘイズに行ったんだよ。そしたら、なんか魔王竜にならないとリリーゼを生き返らせる事が出来ないらしくて、その魔王竜になる条件が人間の魂50万人分だったんだ。だから50万人分の魂を集めて魔王竜になった」
「ま、まさか……教皇様は単身でその50万人の兵士を?」
「いやいや20万機のバーラーもいたし。前線で戦おうと思ったら、敵兵が100万人いたんだ。だから、盟友リリーゼの仕返しだと思って、全部倒してきた」
その話しを聞いたピノネロは、目を細めて頭を抱えている。
「いいですか教皇様! 教皇様が亡くなられたら、この国は終わってしまうんですよ! それなのに、いつも無茶ばかりして……何だか朝から疲れましたよ……」
「でもさ、なんか魔王竜になったら、前よりも魔獣や、魔人や、竜や、吸血鬼や、悪魔に好かれてるみたいな感じがあるんだよね。これで皆が仲良く暮らせる国に前進できたわけだ──っと、まあ冗談はこれぐらいで。宝の山を見つけちゃったんだよ、単身でリリウヘイズに行ったら。その宝の山とは、レイジヘイズです」
「────まさかっ!?」
「そう! そのまさか! 条約の申し出があったって事は、今のレイジヘイズはマギアヘイズに見捨てられて、また前の三大スラムに戻ってる可能性が高い。そして僕が単身で100万人の兵士を殺したから、テレサヘイズは怖いって噂が広まってる可能性も高い。さらにスラムって事は衣食住に困ってる可能性も高い。そして、そいつらの中で強い奴を探して、500万人規模の軍都で屈強な兵士として、訓練すれば……」
「五年を待たずして──大軍勢が完成すると」
「その通り! 拍手必要?」
「いえ別に」
あっそ。ノリが悪いやつ。
「ですが、相手は野盗も同じですよ。誰が使者としていくんですか?」
「使者なんて堅苦しい奴は必要ないよ。力には力、荒くれ者には荒くれ者だよ。一応、監視の為に僕もいくけどね」
「と、申しますと?」
ピノネロはこう言う単純な、力任せの考えには弱いようだ。
「いるじゃん! うちにも荒くれ者がさ! 二人も!」
「ま、まさか……あの悪魔二人を……連れて行くのですか?」
「そうだよ。なんか僕が魔王竜になったら、召喚した時よりも、好かれてる感じだし。まあ、何とかなるでしょ」
そう言って僕が笑ってると、ピノネロは何だか余計に疲れたのか、フラフラと歩きながら、僕の自室から退出してしまった。
あれ? 結構この作戦上手くいくと思うんだけどな。
まあ、やってみないと始まらないってね。
そして僕は、教皇の格好ではなく、いつもの普段着に着替えて朝食に向かった。今度リンにジャケットも製作してもらおうと思いながら。
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