第81話 リリーゼと四聖天の復活、そして不可侵条約の道へ


 僕はフィオレに到着すると、すぐさま帝城の中にある、帝王の間まで行った。リリーゼとライマとリョクイとセーギューは帝王の間で、痛々しい傷跡を残し横たわっている。

 帝城に向かう際、未だ悲しみに打ちひしがれている国民が、大広間に集まっているのを見た。中には泣き叫ぶ者まで……。


 「シャユー! どこだ?」


 僕がシャユーを呼ぶと、帝王の間の奥から慌てて飛び出してきた。


 「ピーター様! その……どうなりました?」


 僕はシャユーを安心させる為に、笑って答えた


 「大丈夫! 全員ちゃんと生き返る! それに敵の前線も潰してきた!」


 「ほ、本当に一人で敵の前線を……それよりも、生き返ると言うのは、本当なんですか?」


 「ああ。その為に敵さんの所に行ったんだ」


 シャユーは意味が解らず首を傾げているが、こんな場所で話していても始まらない。


 至高者さん。早速だけど治癒之大精霊を生贄にして、目の前の四人を生き返らせたいんだ!


 【了解しました。治癒之大精霊を生贄にし、これより魂魄反魂こんぱくはんごんの権能を行使します】


 至高者さんとの会話が終わると、横たわっている四人の胸の上に、光り輝く小さな球体が現れた。


 その小さな輝く球体が、ゆっくりと四人の胸の中に入って行く。

 すると──リリーゼ、ライマ、リョクイ、セーギューが、今まで長い眠りについていて、やっと目が覚めたように薄目を開けた。


 「ぴ、ピピ、ピーターさん!! リリーゼ様が! 母上が! リョクイとセーギューが!」


 「ああ……成功だ!」


 するとリリーゼが立ちあがろうとしたが、まだ体の傷が酷く立ち上がれないので、僕が肩を貸した。


 「嗚呼……ピーターにまた会えた……」


 そりゃこっちの台詞だよ。無茶ばっかりしやがって。

 でも、本当に良かった。


 「おかえり……リリーゼ」


 そう言うとリリーゼは微笑みながら返した。


 「ただいま……ピーター」


 すると、四聖天ししょうでんの三人も起き上がり始めた。


 「おいおい。こっちも重症だでや!」


 「いや〜あそこまで〜追い詰められるとはね〜」


 「次に会った時は容赦しねーからな!」


 生き返って早々、元気がいいねぇ。


 僕は四人分のエリクサーをインベントリから──インベントリから──インベントリの中に入ってねぇ!

 ぬお! 僕としたことが! ルストの街の病院の中に、殆ど置いてきてしまった!


 【伝えます。治癒之大精霊の権能の一つ、万能霊薬を使えば、エリクサーと同じ効果が得られますが、行使しますか?】


 もちろん──って! 治癒之大精霊は生贄にしちゃったから、使えないでしょ!


 【伝えます。生贄にする前に、バックアップを取っておいたので、治癒之大精霊は使用できます。万能霊薬の権能を行使しますか?】


 もちろんYESで! つーか、そう言うことは早く言ってよ!


 すると四人の手の中に、青い液体が入った小瓶が現出した。


 「それはエリクサーと同じ効果があるから、飲めばすぐに元気になるぞ」


 それを聞いて、迷わず最初に飲んだのはライマだった。


 「うお! 体中の傷が治って行くでや! 流石はピーターでや!」


 それを見て、残りの三名も万能霊薬を飲み干した。


 「こ、これは。妾の傷が癒えていく」


 「本当でだね〜これは凄いね〜」


 「これでまた、あのふざけた機械とも戦えるぜ」


 「みなさん! ピーターさんにお礼をまだ言ってませんよ! ピーターさんが貴方たちのことを、生き返らせたんですから!」


 シャユーが顔を真っ赤にして怒っている。


 「そ、そうだったのか。妾はいつもキサ──お主に助けられいるな。礼を言うぞピーター。貴様らも! ピーターに礼を言わぬか!」


 「「「ピーター様! 有り難うございました!!」」」


 一度死んでも、女帝の貫禄は健在だな。


 「よし! 妾は決めたぞ! ピーターと婚姻を結ぶぞ! 文句があるものはいるか?」


 「「「「いません!!」」」」


 おいおい! なんでそうなるんだよ! ちょっと戦争で助けただけでしょ!

 そんな事で、気に入られたのか? 少し軽すぎません?


 その時である、タイミングよくエルから思念伝播が来た。


 (「ピーター様! 緊急会議です! すぐに執務室に戻ってきて下さい!」)


 (「お、おう! 解った! 緊急なんだな?」)


 (「それよりもピーター様。まだ、お怒りなんですか?」)


 (「え? なんで?」)


 (「だって、リリーゼ様が戦死されて、誰も近づけないほどだったんですよ」)


 (「あぁ〜そのことね。怖がらせて悪かった! リリーゼならちゃんと生き返らせたから問題ないよ!」)


 (「は? え? 生き返らせた? 意味がよく……」)


 (「まあ、細かい事は戻ってから話すよ。すぐに執務室に行くから、待っててくれ!」)


 そして、思念伝播は終わり……リリーゼの方を向くと、結婚式はどうするかなどの、話し合いを四聖天としている。


 この場は早く退散した方が良さそうだな。

 僕はそそくさと、ルストまでの転移魔法陣を作り、別れの台詞だけ言って、逃げるようにその場を去った。


 「じゃ、じゃあ僕はまた緊急会議があるらしいから、自分の国に戻るね。皆ちゃんと生き返って良かった良かった! それじゃあ!」


 「あっ! 待つのだピーター! 妾とお主の婚姻を──」


 そして、すぐさまルストの街に転移し、執務室に向かった。


 「いや〜遅れてごめんよ〜」


 『この度は、魔王竜への進化! おめでとうございます!』


 え? なにこれ? 何で僕が魔王竜に進化したって知ってるの?

 でも、人間のアランや、亜人のウーグ三兄弟や、ピノネロや、ドワーフのガリョー四兄弟は、なんのこっちゃって顔してるな。


 てか、驚くべきは。あの自由奔放な悪魔のソルとルーナまで、頭を下げている……。魔王竜ってそんなに凄いのか?


 【伝えます。魔王竜とは、この世界を誕生させた存在であり、魔王と竜をこの世に生み出したのも魔王竜です】


 世界を誕生させた存在!?

 お、おい……何でそんな、ど偉いモンに進化しちゃったんだよ……。

 つーか、もう人間じゃなくなったのか?


 【伝えます。魔王竜は唯一無二の存在であり、姿形までは、はっきりとしていません。ですが個体名ピーター・ペンドラゴンは現在、人間の姿をしています】


 あの……至高者さん? それ答えになってないような……。


 「あの、教皇様。宜しいでしょうか?」


 ピノネロだった。


 「ん? ああ、大丈夫だよ」


 「戦死なされたリリーゼ様の事などは、エル様より聞きました。無事に蘇り何よりです。どのような手段で、などと言う話しは後ほどにして、教皇様がご不在の時にマギアヘイズとダミアンヘイズの両方から、理解できない申し出がありました。両方の国から一方的な五年間の不可侵条約を結ぶと言う内容です」


 「はぁ!? 宣戦布告じゃなくて、不可侵条約!? それって休戦って事だよね? でも五年間の条件付きって事は、一時的な休戦か」


 「そうです。なので教皇様の決断待ちと言う形で、両国には条約の件を待つように伝えてあります」


 はっきり言ってレイジヘイズは、テレサヘイズがダミアンヘイズに向かわないようにする、傀儡国家だ。もしかして、レイジヘイズが使えないと思って、新たな手段に出たか? しかも今回リリーゼが戦死したのはレイジヘイズの力では無く、マギアヘイズの力が大きい。


 だとすると、マギアヘイズは自分たちで作った傀儡国家のレイジヘイズを、捨てた可能性があるな。しかも、五年間の不可侵──その五年間で何をするつもりだ?


 でも、考え方を変えれば、これは我が国の強兵期間が伸びた事にもなる。実際、一国の教皇一人に前線を壊滅させられた弱小国に、マギアヘイズがこれ以上の支援をするとも考えられない。


 「よし! んじゃあ条約を結んじゃおうか! そんでもってテレサヘイズの真ん中に、大きな土地があったでしょ。そこを五年間のうちに巨大軍事都市の軍都にしよう。これは逆に、五年間も時間があるんだからチャンスだよ!」


 それを聞いたピノネロは驚きもせず、ただ頷くだけだった。


 「できれば……目標は500万人ぐらいの兵士を育てる」


 誰もが、僕が正気を失ったと思っている中で、ピノネロの意見だけは違った。


 「私は教皇様の意見に賛成です。条約を結び、この五年間で富国強兵に邁進するべきかと」


 「ただし条件が一つだけある。マギアヘイズとダミアンヘイズは、リリウヘイズとも五年間の不可侵条約を結ぶこと。それが無理なら条約は結ばない。誰か意見のある人は?」


 『────────』


 「いないようなので、今回の緊急会議はこれまで」


 僕が出した条件にピノネロが少し笑ったように見えたが──まあ、いっか。

 そして、最後にピノネロが条約について纏めてくれた。


 「では。教皇様の条件付きで、と言う事で両国には不可侵条約の件を、私が伝えておきます」



 斯くして、誰もが想像していなかった大虐殺の果てに、僕が魔王竜に進化し、戦火の中で戦死したリリーゼや四聖天を蘇らせた戦争は、ひとまず幕を閉じたのであった。



 第8章・完

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