第79話 ピーターの決意と、静かなる大虐殺の始まり
フォオレの帝都に転移すると、街の大広間を囲んで国民たちが俯き悲嘆に暮れていた。僕は嫌な予感がして、大広間に向かったが、国民が余りに多く前に進めない。
「聞け! 全ての国民たちよ! 我らの前線を救い、リリーゼ様の盟友でもあるピーター様が通れぬではないか!」
シャユーの言葉だった。その威厳のある言葉に、大広間を囲んでいた国民たちは道を開けた。
僕は急ぎ大広間の中央に行くと──驚くべき光景を見た。戦いで傷だらけになったリリーゼと
溢れ出す感情を抑え、何とかシャユーに語りかけた。しかし、シャユーも戦場での戦いでボロボロになっている。まずはシャユーから、傷の手当てをしないと。
僕はインベントリの中からエリクサーを出し、シャユーに飲むように渡した。
「こ、こんな貴重なものを……」
「そんな事はどうでもいい。まずは、お前が先に傷を治せ」
そう言うと、シャユーはエリクサーを飲み干し、体中の傷が完治した。
そして僕はシャユーに訊かなくてはならない。
「なあ、シャユー? ところでリリーゼはまだ生きて……戦死なんて嘘だよな……? だってあの……あのリリーゼが──」
リリーゼが戦死したなんて、まだ……どうしても信じられない自分がいた。どうか誤報であって欲しい……だから、一筋の希望でシャユーに質問したが、僕が最後まで言葉を伝える前に、シャユーはゆっくり首を横に振った。
「シャユー。もしかして……リリーゼと一緒に横たわってる……四聖天の三人も戦死したのか……?」
「そ……そうです……」
その瞬間、僕は地面に頽れた。嘘だろ……? あのリリーゼが……あの四聖天が、一体なぜ……?
すると、シャユーが語り出した。
「レイジヘイズの第二攻撃は、マギアヘイズの呪詛を得意とする、厄災の枢機卿ことテイゲンの部隊もいたのです。我ら翼亜人や人間の弱点は、呪詛の呪わしスキル、カーズスキルです。さらに我らが雷属性に対する弱点も知っていて──」
「いや待て! 雷の攻撃なんて、避けられるだろ!」
「重力結界です。テイゲンは前線全体に重力結界を張り、我らの動きを鈍らせたのです」
全て計算しての第一と第二の波状攻撃。
すぐに僕が帰還しなければ、こんなことには……。
「どんな事があっても、ピーター様は我らの盟友です。どうか、今は冷静に」
「シャユー。お前だけでも生き残って良かった。だが、なぜお前だけ無事だったんだ?」
「お恥ずかしながら、リリーゼ様が前線で戦死した事を知り、私も戦死してでも名誉ある戦いを望みましたが。ライマ様に、お前が死んだら誰がピーター様に現状を伝えるんだ? と言われまして、すぐに前線を離脱しフィオレの帝都に戻り、急ぎテレサヘイズに報せを送るように警備隊に伝え、私はテレサヘイズの援軍を待っていることしか……できませんでした……」
「そうか……でも、お前だけでも生き残ってくれて、良かった。ちゃんとライマからの命令を全うしたんだな」
その言葉に、今まで気丈に振る舞っていたシャユーの瞳から、堪えきれないほどの大粒の涙が溢れた。
しかし、僕には現状を変えられる権能がある。
大宮殿さん。さっきは命令してすまなかった。そして僕は、リリーゼと四聖天の三人を救いたい。確か治癒之大精霊の権能を行使すれば、僕の命と引き換えに、蘇らせる事ができるんだよな?
【伝えます。確かに個体名ピーター・ペンドラゴンの命を代償にすれば、蘇らせることも可能です。しかし確率は2パーセントにも満たないと予測されます】
おい。2パーセントって。それじゃあリリーゼたちが蘇らないで、僕も死ぬ最悪の結末が待っているんじゃないか?
【伝えます。治癒之大精霊を
んじゃあ、早くそれを!
【伝えます。現状の魔力総量では、治癒之大精霊を生贄にしても、魂魄反魂の権能を行使するだけの魔力が不足しています。なので魔力総量が現在の数十倍になる、魔王竜への進化を推奨します】
解った。じゃあ今すぐ魔王竜に進化だ。
【伝えます。魔王竜になる為には、50万人分の人間の魂を刈り取り、消費することが必要です。この条件を満たさない限り、魔王竜に進化することは不可能です】
50万人分の魂──ちなみに、レイジヘイズの兵士たちの数は解るか?
【答えます。兵士の数までは、解りませんが。レイジヘイズの総人口は約1000万人です】
そんなにいれば余裕──いや待て、罪も無い子供や女性まで殺してしまっては、それこそ魔王だ。何か良い方法は……。
【伝えます。レイジヘイズの前線には兵士が集まっている可能性が非常に高いので、まずは、レイジヘイズの前線に向かうことを提案します】
まずは敵地偵察ってわけか。
まあ、流石にレイジヘイズも前線に女性や子供を連れて来ているとは、考えにくい。そうと決まれば即行動だ!
「おいシャユー! もしかしたら、リリーゼと四聖天の三人が蘇るかもしれない。今はまだ、絶対とは言えないが、僕を信じてくれ!」
驚愕するシャユーではあるが、僕の力を信用してくれたのか、話をまともに受け入れてくれた。
「死者蘇生など、まるでお伽話のようですが。このシャユー! ピーター様の言葉を信じます!」
「じゃあ、シャユーは残った国民を全て帝都内に待機させるのと、リリーゼと四聖天の三人を帝城の中にある、帝王の間に連れて行ってくれ!」
「承知しました。して、ピーター様はどちらに?」
「僕か? 僕はレイジヘイズの前線を潰しに行く!」
そう言って、僕は
流石に大陸だけのことはある、遠くから見ても、その広大な大地がどこまで続いているのか解らない。
そしてだ、レイジヘイズの前線だが──なんて数だ。
元々は三大スラムの全てを纏めたから、人口的には多いんだろうけど。
大宮殿さんも総人口が1000万人って言ってたし。
だが僕に迷いはない。本当は枢機卿のテイゲンも殺し、その魂を魔王竜になる為の糧にしたかったが、マギアヘイズの軍は見当たらない。
だったら、レイジヘイズの前線にいる軍隊を一掃し、総勢50万人分の魂を得るだけだ。
見たところ、前線には100万人ほどの大軍勢で守備している。
レイジヘイズもマギアヘイズに騙され、踊らされていただけとは思うが。だからと言って、僕の盟友を殺していい理由にはならない。
悪いが、僕が魔王竜に進化する為の糧となってもらう。
まずは最初の一手だが、密集した縦隊が邪魔だな。
これは大人気ないが、リリーゼを殺した僕の怒りの八つ当たりでもある。だが、文句は言うなよ。テレサヘイズやリリウヘイズに相談もせずに、マギアヘイズの傀儡国になり、突然攻撃を仕掛けてきたお前たちは、僕を心の底から怒らせた。
ガキ臭いと言えばそれまでだが、どうしても僕の中での怒りを、冷静に抑える事ができないのだ。すでに僕の頭の中は憤怒の念に駆られ、心の中は怒気の激情に支配されてしまっている。なので手加減など出来る訳がない。
まずはリリーゼのアルティメットスキル、虚空之加護の権能の一つ、
僕は右手の掌を敵前線に向けて言い放った。
「嵐よ、吹き荒れろ。天破黒風!」
すると、前線部隊の真上に黒い雲が現れ、人間など簡単に上空に散らす、砂塵の大旋風が巻き起こり、見る見るうちに前線部隊は大嵐に飲み込まれた。
しかし、これはまだ、今から始まる一方的な僕の大虐殺の始まりに過ぎない。
レイジヘイズには恨みはないが、リリーゼと四聖天の三人を蘇らせる為、魔王竜に進化するのに必要な50万人分の魂を狩り尽くしてやる。
そしてこれから、僕の一方的な大虐殺が始まった。
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