第78話 次なる作戦会議中に、信じがたい急報
急ぎルストに帰還すると、ボデガスの陽光遮断結界で街の中は夜になっている。10万人の吸血鬼も結界内の上空を飛び回り、警備していてくれている。
僕は淵源の悪魔に、執務室で待っていて欲しいと頼み、思念伝播でボデガスと会話した。
(「ボデガス聞こえてるか?」)
(「ハッ! 問題なく聞こえています」)
(「悪いんだが、現状を知りたい。急いで街の大広間まで来てくれ!」)
(「仰せのままに、ピーター様!」)
思念伝播での会話が終わると、数秒でボデガスがやってきた。
「早速訊きたい。国民の避難は完了しているか?」
「はい。全ての国民は住居に入り、外出は控えるように伝えてあります」
よし。国民は大丈夫か。これからは、非常事態用のシェルターも作らないとな。
残るは──まだ攻めて来てはいないが、マギアヘイズの前線とダミアンヘイズの前線だな。
まずはピノネロに思念伝播を送り、状況を確認しないと。
(「ピノネロ! 僕だ! 今の現状を教えて欲しい!」)
(「それが──全く動きがありません。敵兵士も一人もいない状況です。ここは一旦、新しく作戦を考えるべきかと進言します」)
敵兵が一人もいない──何かの罠か? だが、あのピノネロが撤退を申し出たと言うことは、すぐには攻めて来ない可能性が高いと言うことか。
(「解った。今すぐそっちにいく!」)
僕は有事の際に備えて、この一ヶ月の間に、自国の中を
なので、現在ピノネロが死守する前線にもすぐに転移できるが、問題は傭兵団を常備軍にし、教皇直属の勅令隊にする事に成功はしたのだが、その数は5万人だ。ピノネロはアランだけなら平気だが、僕に大規模な転移魔法陣が作れるか……しかし考えていても何も解決しない。
僕は急ぎピノネロが指揮を執る、対マギアヘイズの前線に向かうべく、転移魔法陣を作り、瞬間移動した。
そしてピノネロの言うことは、正しかった。転移し辺りを確認すると、見渡す限りの平地には静かな風だけが吹いていた。確かにこんな場所に陣取っていても意味がない。一度、ルストに戻らなかければ。
しかし、五万人が入れる大規模な転移魔法陣か──だが作るしかない。5万人の勅令隊だけ、こんな場所に残すわけにもいかないからだ。
僕はありったけの魔力を込めて、転移魔法陣を作ると、何とか勅令隊も入れる大規模な転移魔法陣の作成に成功した。
そのまま、全員でルストの街に一時帰還し、次はダミアンヘイズだ。
ただ、ここで僕のミスに気がついた。ダミアンヘイズに向かわせた、
僕は暫しの間、思案し。六怪のファフニールに思念伝播を飛ばすことにした。
(「ファフニール聞こえるか! ピーターだ! 戦況を教えて欲しい!」)
(「ハッ! 戦況は……非常に申しずらいのですが。相手のダミアンヘイズに全く動きがありません。バーラー1機すら飛んでいません。このまま前線に留まりますか?」)
(「いや、すぐに僕がそっちに言って、全員ルストの街に帰還させる」)
(「解りました」)
おかしい、僕の考えでは、敵は包囲網を作っている。これは相手にとって絶好の機会のはずなのに──だが、とにかく六怪と四獣四鬼の元に向かい、転移魔法陣でルストに帰還させよう。
幸い、5万人の勅令隊を転移させる、転移魔法陣の作成には成功している。なので六怪と四獣四鬼ぐらいなら、そこまでの大規模な転移魔法陣を作る必要は無い。
急ぎ転移魔法陣を作り、ダミアンヘイズの前線に向かったが、やはり前線はマギアヘイズと同様に、誰もいない物静かな平地が広がるだけだった。僕はそれを確認すると、急ぎ転移魔法陣を作り、六怪と四獣四鬼を連れてルストの街まで転移魔法陣で瞬間移動した。
残るわミストスにいるアグニスと、ドラゴンの里にいるエルだな。
僕はアグニスには、自分でルストに戻ってくるように伝え、エルには思念伝播を使い、エルもルストの街まで僕の転移魔法陣で瞬間移動させ、これで全員が集まった。
10万人の吸血鬼には、一時的に待機してもらうために、ボデガスに頼み、全員を住居に戻らせ、陽光遮断結界を解除させた。そして、足早に主要メンバーを集め再度、執務室に向かう。
まだ敵の出方が不明なので、また作戦会議をするためだ。
今回の作戦会議にはソルとルーナにも参加を頼む、総勢26名の作戦会議となった。
ぶっちゃけ悪魔にとっては、国土防衛など興味の対象外ではあると思うが、今は強大な力を持つ二人の悪魔の力が必要になる。
しかし、大きな問題であるマギアヘイズは、なぜ動かないのだろうか?
強い敵は恐怖の対象になるが、マギアヘイズはそれに加えて、余りに不気味だ。一体何を考えているのか、見当もつかない。
だが、ここは解らないなりに知恵を絞って、作戦会議を開くしかないのだ。
「では、これからまた作戦会議を開こうと思うのだが、まず僕が単身でレイジヘイズに向かい、リリウヘイズに援軍に行った事を話そうと思う」
僕はリリウヘイズに単身で向かい、レイジヘイズの数千機にもなる異常な数のバーラーの事を伝え、それらを全て無力化させた事も伝えた。
すると、ソルとルーナが話しに割って入ってきた。
「凄かったぜ。ピーターの権能は。太陽の俺でも予想してなかった、灼熱の権能を持っていやがる」
「そうそう。あの攻撃は面白かったよ。アタシも攻撃をやめて観戦しちゃったから」
二人の言葉にボデガスは、言葉を失っていた。いや、言葉ではなく二人の存在というべきだろう。
「ひ、一つだけお伺いしたいことが……もしや、貴方様たちは淵源の……」
「なんだ、俺たちの事を知ってる奴がいるのか。そうだぜ、俺らはピーターに悪魔召喚されて顕現した、淵源の悪魔だ。俺は太陽の悪魔。ピーターからソルって名前をもらった。宜しく」
「アタシは月の悪魔だよ。アタシもピーターからルーナって名前をもらったんだ」
その言葉を聞いて、六怪と四獣四鬼は、言葉を失っている。
何だ? どうしたんだ?
【伝えます。淵源の悪魔は
星創級!? 早く言ってよ! 星創級って言ったらリリーゼと同じじゃん!
ていうか、こんなに皆が怯えてたら、会議にならないよ! 何か良い方法はないの?
【答えます。帝王之魅了の権能の一つ、絶対命令を行使することを推奨します】
あれか──あんまし仲間内で使いたくないが、仕方ない。
確か強く念じるんだったよな──六怪と四獣四鬼は淵源の悪魔に怯えず、普段どおりにしろ!
僕の絶対命令の権能が行使され、六怪と四獣四鬼の怯えが止まった。
しかし星創級の悪魔だとは──本当にとんでもない悪魔を召喚してしまった。
「ピーター様、一つ訊きたいのですが、数千機のバーラーを単身で相手にし壊滅させ、さらに淵源の悪魔まで召喚して帰還し、お体に不調はないのですか?」
オーディンの発言だった。よし、絶対命令の権能がちゃんと機能しているな。淵源の悪魔にもビビってないみたいだし。
「まあ、最初はとんでもない数だと思ったけど、何とかなったよ。というか、バーラーを相手にするよりも、悪魔召喚で使った魔力の減少の方がキツかったかな」
「それはそうでしょうとも。何せ淵源の悪魔を召喚なさるとは恐れ入りました。しかし、流石ですな。単身で援軍に行き、単身で敵軍を壊滅とは」
お? なんか和やかなムードになってきたな。
すると、またもや、近衛兵団長が肩で息を切りながら入ってきた。
というか、まだ近衛兵団長の名前を訊いてなかったんだよね。
凄い今更感があるけど、訊いてみるか。
「まあまあ落ち着いて、所でまだ近衛兵団長の名前を訊いてなかったんだけど、教えてくれるかい?」
「え? は、はぁ。私はランドンと申します!」
ランドンっていうのか。いつも名前を訊くタイミングがなかったから、なんかスッキリした。
「でだ、ランドン君。いつも慌てているが、今回はどういったことだ?」
「申し上げます教皇様! 今入ってきた情報によると、敵国レイジヘイズが第二の攻撃を仕掛け……その、ですから……」
何だ? 今回の報告は何か言いずらそうな感じだけど。
というか、レイジヘイズは壊滅したはずなのに。まだ予備戦力を隠していたのかよ。
「ランドン君。ゆっくりで良いから続けてくれ」
「は、はい。レイジヘイズの第二の攻撃で最高指揮官である、リリーゼ様が……せ、戦死しました! では、私は失礼します!」
は? あのリリーゼが戦死……。おい……何かの冗談だよな?
あれ? 体中が熱いぞ……。
【警告します。異常なまでの竜王覇気の暴走を確認。この場にいる全てのものが萎縮し恐怖しています。速やかに竜王覇気の暴走を──】
黙れ……。
「教皇様……信じ難いお気持ちは解りますが……」
「ピノネロ。黙れ……」
何だこの溢れ出す怒りは……自分でもコントロールできない。
そして、僕は静かに転移魔法陣を作り、リリーゼの帝城と帝都があるフィオレまで単身で瞬間移動した。
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