第77話 迂回作戦で、大急襲


 僕は急ぎ、右翼の戦力を淵源の悪魔のソルとルーナに任せ、大きく迂回し敵の背後を取り、僕とリリーゼ軍の挟撃で、レイジヘイズのバーラー軍を一掃する作戦に出た。


 思念伝播でリリーゼと四聖天ししょうでんの四人には挟撃作戦のことは伝えたが、なんとリリーゼから、無茶だけはするなと言われた。あのリリーゼが人の心配をするなんて驚きだ。僕とリリーゼは、本当に盟友になったのだと再認識した。


 って、考えてるヒマなんて無い。早く迂回しなくては。

 この場合、迂回と言っても、敵がバーラーなので探知されないように、とんでもなく遠い場所から、ぐるりと迂回しなくてはいけない。


 まあ、光の速度で行けば余裕ではあるが──その前に、あの悪魔二人は、ちゃんと仕事をしているのか気になったので、少しだけ右翼を確認すると、そこら中で大爆発が起こっていた。


 す、凄いな……淵源えんげんの悪魔って。


 まあいい、これで後顧の憂いを断つことができた。

 それじゃあ迂回作戦開始だ! と言っても数秒で敵の背後まで、大きく迂回して背後を取った。


 さて、お掃除タイムと行きますか!

 気配遮断スキルが、機械にも通用するのか解らないが一応した所、何とバーラーは僕の存在に気がついていなかったのだ。


 この戦闘情報は大きいぞ。


 そして、またリリーゼに思念伝播を送った。


 (「リリーゼ! 僕だ! 迂回作戦は成功した! 今から敵の背後から攻撃するから、挟撃の形を取ってくれ!」)


 (「解った! それで一番後方のバーラーの数は、どれぐらいか解るか?」)


 あっ、まずい。迂回の事ばかり気にして、敵の数を確認するの忘れてた!


 【伝えます。最後方部隊のレイジヘイズのバーラーの数は、およそ2000機ですが、より正確な数値を解析を行うのであるなら、記憶の大宮殿の権能の一つ、高速解析の権能の行使を推奨しますが、行使しますか?】


 もちろんYESだ!


 【解析完了。敵は最後方と後方に分かれています。さらに最前方と前方の四列横隊を組んでいます。それぞれのバーラーの数を伝えます。最前方1500機、前方1000機、後方1500機、最後方2000機です】


 全部合わせると6000機、一体全体マギアヘイズの財力は、どこから湧いて出てるのかねぇ。


 でも後ろのバーラーが合わせて3500機で、尚且つ後ろには味方もいない。これってリリーゼとタブル激灼陽炎げきしゃくようえんの合わせ技で、一気に壊滅できるんじゃね?


 【伝えます。個体名リリーゼは激灼陽炎が使えません。理由は後方部隊が控えているので、被害が味方にも出る恐れがある為です】


 僕が右翼で、激灼陽炎が使えなかったのと同じか。


 【伝えます。個体名ピーター・ペンドラゴンが、敵前方を攻撃するなら、後方に味方がいないので被害を出さずに、激灼陽炎を行使できます】


 でもさ、あの大技は何発もホイホイ撃てるもんじゃ無いでしょ。


 【伝えます。解決策としては、アルティメットスキル、真祖之加護の権能の一つ、炎殺氷結えんさいひょうけつで後方のバーラーのエンジンを凍らせ戦力を無効化させ、その後に激灼陽炎を放つことを推奨しますが、炎殺氷結を行使しますか?】


 何だか今日は大宮殿さんが、やたら張り切っているような感じがするけど、とにかくYES!


 【さらに伝えます。記憶の大宮殿の権能の一つ、加速思考を行使することを推奨します】


 ん? 加速思考?


 【答えます。加速思考とは、体感速度を引き延ばし、思考する時間を延長する権能です。個体名ピーター・ペンドラゴンは現在5000倍まで思考時間を延長できますが、行使しますか?】


 うーん、じゃあ最初は怖いから10倍からでお願いします。


 すると、僕の両手が氷のように冷たくなった。咄嗟に本能だけで行動しようと思ったが、思考時間が増えたからなのか──今後の考えを熟考できた。


 まずは、両手に集まった冷気を最後方に向けて放つ、そしてバーラーの出力エンジンの動力源を凍らせ、2000機のバーラーの機能を無力化させる。後方のバーラーも同じようにし1500機のバーラーの機能を無力化させる。最後は、後ろから前方1000機、最前方1500機、合わせて2500機を激灼陽炎で破壊する。


 頭の中でのプランは決まった。後は試すだけだ。


 頼むから全部凍って無力化してくれよ。

 僕は冷たくなった両手の掌を、最後方のバーラーに向けて放った。


 その技は僕が想像していたよりも強力で、まさに荒れ狂う猛吹雪がトルネードとなって、加速度的に冷気が強まり一瞬でマイナス100度にまで達した。


 その猛吹雪のトルネードの急襲に、最後方のバーラー2000機は大混乱になり、100機、200機、300機と、次々に動力源が無力化され出力エンジンからエネルギーが消失し、下の大湿地帯に最後方のバーラーが全て急降下して落ちていく。


 異変に気がついた後方の1500機のバーラーも、余りの速さの急襲に対処できず、猛吹雪のトルネードの中で、動力源が凍りつき1500機全てのバーラーを無力化させることに成功し、無力化したバーラーは何もできず、ただ下の大湿地帯に急降下して落ちていった。


 気がつくと、炎殺氷結から繰り出される冷気のトルネードは、マイナス200度にまで達し、この技の恐ろしさを敵も僕も思い知らされた。


 そして、誰に教えてもらった訳でもなく、なぜだか無意識に広げた掌を閉じることで、炎殺氷結のトルネードは完全消滅したのだ。


 さてと、後方のバーラーは全て片付けた。最後のお掃除は──前方と最前方のバーラー2500機だ。


 僕はリリーゼに思念伝播で、今から激灼陽炎を放つから後退するように指示を出すと、すぐに応じて後退してくれた。最初は挟撃作戦のつもりだったが、リリーゼもかなり疲労困憊している。ここは僕がやるしかない!


 それに加速思考により体感速度を引き延ばし、考える時間が増えたので、理想的な形で後方の敵を驚くほど早く無力化できたことに、リリーゼも驚いていた。なので、前方の敵も僕に任せて欲しいと伝えると、二つ返事で頼まれ、最後に「貴様に全て任せてしまい、すまない」とまで言われてしまったので、「気にするな」とだけ言っておいた。


 まあ、僕はまだまだ余力があるし。いっちょやりますか!


 僕が右手を天高く上げて掌を開き言い放つ。


 「激灼陽炎!」


 すると、まさにリリーゼと初対面した時と同じ、半径15メートルほどの、煮え立つ真っ赤な業火の火球が掌の上に現出した。


 太陽と同じエネルギーか。これって一歩間違えたら大惨事になるんじゃないか?


 【伝えます。現在の威力ですと、個体名リリーゼの軍にも影響が出ます。影響が出ないまでの大きさに縮小しますか?】


 当たり前でしょ! YESだよ!


 すると火球の大きさが、半径5メートルほどになった。

 随分とまあ小さくなったけど──大宮殿さんが言うんだから、間違いはないだろう。そして僕は激灼陽炎の火球を、前方のバーラー2500機に向けて、天高く上げた右手を勢いよく振り下ろし言い放った。


 「熱々の太陽を食らえ! 激灼陽炎!」


 すると、まさに焦熱地獄と言っても過言では無い光景が、あたり一面に広がった。火球が大爆発を起こしたかと思うと、爆炎が2500機全てのバーラーを包み込み、炎炎がバーラーを1機も残さず溶かし尽くす。


 最後には廃すら残らず、2500機のバーラーは上空の中、業火に抱かれて消滅したのだ。


 こ、こりゃ……無闇に使わない方が良い技だな。


 何だか我ながら、恐ろしくなってしまった。


 そうだ! 一応確認しないと、大宮殿さん! リリーゼの軍に影響がないか、高速解析してくれ!


 【伝えます。解析の結果、個体名リリーゼ、及びその配下の軍全ては無傷です】


 良かった。まあこれでレイジヘイズのバーラーは、全て無力化できた。


 残るは、大湿地帯に落ちたバーラーたちだが──全て底なし沼に呑まれ、ブクブクと沈んでしまっている。


 これで何とか、レイジヘイズとの戦闘も終わった。残りは、自国に戻って状況確認だ。

 僕はリリーゼに思念伝播で、すぐに自国に戻らなければいけない事を告げ、右翼の負傷したバンス率いる軍の救護をするように伝えた。


 よし。帰りは──どうしようか? 転移魔法陣で、ルストの街まで瞬間移動するか、それとも一番厄介なマギアヘイズの前線に向かうべきか──お! 加速思考で思考を10倍にしたから、また考える時間が増えたぞ。


 さてどうするか。


 「おーい! 右翼は守ったぞ! それよりも凄いなキミの技は! アタシは強い者が好きだ! これからも仲良くしような!」


 すっかり忘れてた、悪魔召喚したルーナがまだ帰っていない。


 「俺もあの技は気に入った。同じ技を使えるように少し訓練するか」


 あれ? ソルも帰って無い。


 「あのさぁ、右翼を守ってくれてありがとう。じゃあお願いも終わったし、これでさよならだね」


 「「はぁ!?」」


 「ちょっとキミ! ていうか名前訊いてなかった!」


 「ピーターだけど」


 「ピーター! キミは何も悪魔召喚の事を理解してないよ!」


 「はぁ……。いや悪魔召喚って、一時的に助けてもらう権能だろ?」


 すると、ソルが溜息をついた。


 「解ってないな。悪魔召喚は悪魔と契約することだ。ピーターは自分の魔力を供物にして、俺とルーナを顕現し受肉させた。つまりこれは悪魔のルールで契約みたいなものだ。ピーターが死ぬまで俺とルーナはこの世界に顕現し続ける。だからお前が俺らの主人ってことだ。まあ、仲良くしようぜ。ピーター」


 「そうそう。仲良くしようピーター!」


 なんかすぐ帰ると思ったのに、とんでもない悪魔を二人も仲間にしてしまった。


 て言うか、今はそれよりも、まずはルストに帰るとしよう。国民が全員非難できているか確認するためにもだ。


 そして、僕はすぐさまルストまでの転移魔法陣を作ると、新たな仲間である、淵源の悪魔のソルとルーナを連れて、急ぎルストに転移し帰還した。

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