第76話 作戦と、悪魔召喚


 正直な話し、このまま戦っていてはジリ貧の消耗戦になるのは、火を見るより明かだ。なので、僕は大きく迂回して、敵の背後を取る作戦を考えたわけだが──そうすると、右翼がガラ空きになる。


 なので、ここはマラガール爺さん──じゃなくて、マラガール公から授かった、真祖之加護を行使してみようと思った。


 ぶっちゃけ中身がどんな権能なのか、大体は解るんだけど……悪魔召喚の権能がいまいち解らない。だから大宮殿さんに教えてもらおう。


 大宮殿さん。悪魔召喚ってどんな権能なの?


 【答えます。アルティメットスキル、真祖之加護の権能の一つ、悪魔召喚とは、人間の肉体や魂を供物とすることにより、召喚されます。ですが例外もあり、権能を行使した者の魔力でも可能です】


 なんか物々交換みたいだな。だが、死んでしまった右翼戦線のリリーゼ配下の兵を供物にするなんて、無理に決まってる。


 ここは僕の魔力でなんとかしないと。

 てか、悪魔一人じゃ少しだけ心配だ。ここは二人召喚しておくか。


 あれ? 所でどうやって召喚すればいいんだ?


 【伝えます。悪魔召喚の権能は、自身の魔力で顕現させる場合、どのような悪魔が召喚されるかは不明です。加えて、自身の脳内で悪魔を顕現させたいと強く念じることで、悪魔召喚されます】


 強く……念じるのか。

 やるだけやってみるか。悪魔よ来い──────ん? 来ない?


 でも何か凄い魔力が減ってる感じがするんだけど……。


 「俺を呼んだのはお前か?」


 「相変わらず偉そうだね〜太陽の悪魔! いや〜受肉するなんて何千年ぶりか忘れちゃったよ。てかアタシに魔力をくれてありがとう!」


 「はぁ? 偉そうなのはお前もだろ! 月の悪魔!」


 何か僕の背後で男性の声と女性の声がする──召喚成功なのかな?

 僕はゆっくり後ろを振り返ると、二人の悪魔? 人間? まあよく解らないけど。人の姿をした男性と女性がいた。


 男性の方は長身痩躯の、二十代の若者ぐらいかな?

 しかし、よく見ると鍛え上げられた肉体に、燃え滾るような真紅の長髪をなびかせ、赫赫としてギラついた真っ赤な双眸の男性だ。さらに額には真紅の鉢金をしている。


 服装は──悪魔らしいのか解らないけど、無数の小さな白いドクロが横一列にビッシリ並んだ首飾りをしている。と言うか、何で半裸に黒のレザージャケットを着ているのだろう。ズボンと靴は普通に黒のレザーパンツを穿いて、先の尖った黒い革靴を履いている。


 首飾りを強調させたいからなのかな?


 女性の方は──これは何と言っていいのか。元気な美少女で金髪碧眼のショートヘアの、十代ぐらいの女子高生にしか見えない。

 なぜなら、その服装が女子高生の制服そっくり──と言うか、そのまんまだからだ。


 白い長袖のワイシャツに黒いミニスカート。おまけに赤いネクタイまでしている。

 後は……いや、まあ。個人の趣味や服装に意見するわけではないが。正直なとこ、女子高生の制服姿の上に軍服のマントを纏うのは、どういうセンスなのだろうか?


 これが悪魔のセンスなのかな?


 僕が二人を見て、本当に悪魔なのかと思いを巡らせていると、二人の方から自己紹介してきた。


 「俺に魔力を与えて受肉させたのは、お前だよな? 俺は太陽の悪魔だ。宜しく」


 「アタシは月の悪魔ね。その前にキミって強いんだね! まさか淵源えんげんの悪魔の太陽と月を、両方一気に魔力で受肉させるなんて!」


 よ、喜んでいるのか?

 てかその前に、悪魔召喚は成功したみたいだが、何かイメージと違うな。もっと、従順な下僕的なものを想像していたが──懐かしい友人に出会った時みたいなノリだ。つーかエンゲンの悪魔ってなんだ?


 【伝えます。淵源の悪魔とは、この世界が誕生した時に生まれた、根源的存在の悪魔です】


 え? マジ? そんなヤバい奴を二人も……。


 【さらに伝えます。淵源の悪魔は全部で九人います。それぞれ、太陽の悪魔、月の悪魔、星の悪魔、水の悪魔、光の悪魔、闇の悪魔、土の悪魔、火の悪魔、風の悪魔です。今回、悪魔召喚で召喚された悪魔は、太陽の悪魔と月の悪魔です】


 何か……ど偉い悪魔を召喚しちゃったな。


 「あのさぁ、所で訊きたいんだけど……お前たちって僕が召喚した悪魔だから、僕の命令に従うの?」


 「俺は条件次第だな。嫌な命令だったら、はっきり無理だって言うぜ」


 「アタシも太陽と同じかな〜。上から偉そうに命令されたら、逆に命令した奴を殺すと思う」


 おい! 冗談じゃねーぞ! なんだこの自由な悪魔は!

 ちゃんと魔力の供物もやったのに。でもまあ一応頼んでみるか。


 「あのさぁ、これは命令って言うかお願いなんだけど。今戦争中で、この場所を死守する奴が誰もいないんだ。だから頼む! この場所を敵から守って欲しい!」


 「ふ〜ん。敵ねえ。それはつまり、俺たちに攻撃してくる馬鹿どもを、殺せばいいのか?」


 「ま、まあそうかな。でも敵って言っても機械なんだけど。バーラーっていう」


 「おお! バーラーってあのポンコツの? まだいたんだ。昔、太陽と一緒にどっちが一度にたくさんのバーラーを倒せるか勝負したけど、ぜ〜んぶ跡形も無く壊しちゃって、勝負の決着がまだなんだよね。いいよ。バーラーをぶっ壊してあげよう!」


 「俺も久々にバーラーをぶっ壊して、月との勝負を終わらせないとな。んじゃここで、月と一緒にバーラー壊しをしてやるよ」


 はぁ……なんとか話しが纏まったか。というか、その前に太陽の悪魔とかって呼べばいいのか?


 「なあ、ちょっと訊きたいんだけど、お前らって名前とかあるの?」


 僕の問いに不思議な表情をする、太陽の悪魔と月の悪魔。


 「名前なんてねーぞ。悪魔に名前が必要なのか?」


 「アタシもそう思う」


 「いや、でも名前ってあった方が便利って言うか、なんていうか」


 「それじゃあ、お前が決めればいい」


 「アタシも賛成!」


 えぇ〜丸投げかよ……。そうだな〜、太陽の悪魔か──英語だとサンだけど……何かイメージがな……そう言えば確かラテン語で、太陽ってソルだったな。


 「じゃあ決めた! 今から太陽の悪魔の名前をソルって呼ぶ!」


 「ソルか……まあ悪くねえな。それでいいぜ」


 「あっ! 太陽ばっかりズルい! 早くアタシの名前も考えてよ!」


 今度は月か──月、ムーンは、ありきたりか。じゃあ月もラテン語にするか。えっとラテン語で月は……確か……あっ! ルーナだ。


 「月の悪魔の名前も決まったぞ! 月の悪魔の名前はルーナだ!」


 「ルーナ……」


 しまった、気に入らなかったか……。


 「うん! 良い! じゃあアタシの名前は今日からルーナね!」


 何だよ、気に入ってたのか。やれやれ疲れる二人組の悪魔だ。


 「じゃあこの場所は任せた。僕は他に行くとこがあるから!」


 「「任せろ!」」


 そこは息ぴったりなのかよ。まあいいや、結構魔力が減ったけど、いざとなったらインベントリに入れてあるエリクサーもあるから、大丈夫だろう。


 さてと、悪魔召喚にかなり時間を使ってしまったから、早く迂回作戦を開始しなくては。

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