第72話 旧世界と新世界


 さてと、お持て成しの為に地上に降りますか──よっと。


 あっ、まずい。何も考えてなかったから、繁華街に急に空から降りてしまった。


 うう、周りの視線が痛い。今から気配遮断のスキルは……遅いよな。


 まあ、急に空から人が降りてきたら驚くよな。


 「おいピーター。貴様の街は素晴らしいな……翼亜人を見ても、誰も逃げないのだな」


 周りの視線よりも、リリーゼの方が驚いている。


 「え? まあ、うちの国家の教えは差別禁止だから」


 「いや、だとしてもだ。教えだけでは人は動かん。一番上に立つ者の姿を見て国民は動くのだ。ピーターよ。貴様はよき為政者なのだな」


 「そうかなぁ……てか、何で翼亜人を見たら逃げるの?」


 僕の問いに首を傾げるリリーゼ。


 「貴様は何も知らないのか? 翼亜人と言ったら、全ての人種の敵だろ。妾が翼亜人帝国を立ち上げた際に、全世界に発した言葉は、我々は我々だけで生きていく。他の人種が我が国に介入することは許さん。もし介入した際は命は無いものと思え。という言葉だ」


 「でもさ、別に良くない? 誰も逃げないってことは、差別されている訳じゃないし、怖がってもいないってことだよ」


 僕が言うのも何だが、軍神オーディンと剣聖アランのコンビによる治安維持や、六怪と四獣四鬼たちの治安維持も大きいだろうな。

 それに、テレサヘイズはリリウヘイズと、真の同盟国家になったと国中に伝えた効果も大きいだろう。


 「てかさぁ、こんな場所で立ち話しもアレだし、早くラーメン食べに行こうぜ!」


 「あ、ああ。そ、そうだな」


 何か逆にリリーゼの方が動揺しているな。その前に、真の同盟国になったから、テレサヘイズの国民が翼亜人を見て怖がるか偵察しにきたのか?


 うーむ、まあいいか。そんな事よりも朝飯をまだ食べて無いから、早くラーメンを食べに行こう。朝から豚骨は重いから僕は塩ラーメンにするか。


 そして、リリーゼと四聖天ししょうでんの四人をラーメン屋まで連れて行き、五人に豚骨ラーメンを振る舞うと──毎度の如く大絶賛された。


 「な、何だこれは! こんなにも美味なるものを、貴様らは毎日食しているのか?」


 「毎日は流石に太るから──たまにかな?」


 と言っても一週間に五回ぐらいは通っている僕です。

 だがどうしたものか、餃子にチャーハンも振る舞いたいが──それではメインの肉が食べれなくなるな。


 「ん? どうしたピーター? 何を考えておる?」


 「いやね、ラーメンの他にも──」


 「あるのか!? この店に美味なるものが!」


 すっごいガッツいてくるな。さては、相当ラーメンがお気に召したようだ。


 仕方ない、肉は夜でも食べられる。餃子とチャーハンを追加注文しよう。


 そして、テーブルに並べられた餃子とチャーハンも完食し、なんと、また豚骨ラーメンを注文するリリーゼ。


 「ギョーザも美味であったし、チャーハンも美味であった。しかし、このトンコツラーメンとやらは、格別だな」


 あんまり食べると太るよ。と、言いたかったが──後が怖いので、やめておいた。


 「うむ。朝食はこんなもので良いか。肉は昼だな」


 昼に肉っすか──じゃあ夜は?

 おっと、その前に世界地図のことで、訊くことがあったんだ。


 「なぁリリーゼ。さっき貰った世界地図だけどさ。実はこの国にもあるんだけど──何か違うんだよね」


 「違うとは何がだ?」


 「僕の国にある世界地図は大陸の数が少ないんだ。でも、リリーゼから貰った世界地図は大陸の数が多いんだよ」


 「それは旧世界の地図であろう。2000年前の魔王と勇者の戦いで地形も随分と変わってな。今では新世界と呼ばれる、妾が貴様に渡した世界地図がこの世界の本当の姿だ」


 だから宝物庫でずっと眠っていたのか。

 普通、世界地図だったら、いつでも判る場所に模写して飾っておくもんな。


 「付け加えるなら、貴様の国に来たのは観光の他に、警告とまでは言わないが、伝えるべき事があって来たのだ。貴様の東側の国にダミアンヘイズ第三帝国があるが、地図をよく見てみろ」


 僕はリリーゼに言われるがままに、地図を広げた。


 「このダミアンヘイズ第三帝国よりも東に位置する国が、クーロンヘイズ内の反政府組織ラヴィーネが独立し、新たな武装独立国家として誕生したラヴィーネヘイズだ。さらに、そのクーロンヘイズよりも東に、大きな大陸がある。その大陸は元はクーロンヘイズの植民地であったが、ラヴィーネの反政府運動の内乱に乗じて、革命家と呼ばれるシャークールが植民地の大陸を奪い占拠しているらしいが──この革命家はかなり頭がいいのであろうな。一番東の大陸の情報が全く無いのだ」


 言いながら、残ってる餃子を食べるリリーゼ。

 ラヴィーネヘイズ……仲良く……できないよな〜。だって反政府組織が作った国なんだもん。


 どうして皆、いざこざが好きなのかねぇ。

 まあ、そんな事言ったら僕の目の前のリリーゼさんもそうか。


 てか待てよ。どっかで聞いたことある名前が……確かウーグの奴が前に、四凶の中に革命家がいるとか何とか──だとしたら、かなり危険な大陸と言うことか。


 てか、リリウヘイズの西側は誰も住めない、過酷な土地ではあるが、その先の西の最果てに大陸があるな。


 「なあリリーゼ。この西側の最果ての大陸も、僕の持ってる、旧世界の世界地図には無かったんだけど、どんな国なの?」


 「国?」


 そう言うと、リリーゼは大笑いした。


 「いやいやすまん、国とは大きく出たものだと思ってしまって、つい笑ってしまった。この大陸は国では無い。世界から見捨てられた大陸と呼ばれている、ガルズ三大スラムが密集している大陸だ」


 「世界から見捨てられたって、誰も助けないのか?」


 「まあな。最初は罪人の流刑地であったが、罪人が増えすぎて、三つの派閥に分かれ巨大なスラムと化した。そんな場所なんて誰が助ける気になる?」


 リリーゼの問いに何も答えられなかった。

 もし改心するのであれば、我が国に連れて来てもいいと、一瞬だけ思ったが。よく考えれば、あのマギアヘイズでさえ手を出して植民地化しない大陸だ。きっと、僕が想像している以上に危険なスラム大陸なのだろう。


 「さてと、腹も満たされた所で……ピーターよ聞いたぞ。貴様なにやらコソコソと温泉を宿を作っているそうだな」


 「あぁ迎賓館のこと?」


 「そう! その迎賓館に妾を連れていけ!」


 「別にいいけど、食べてすぐお風呂に入るのは──」


 「細かい事を気にするでない! 妾の事は妾が決める!」


 へいへい。じゃあ次はお風呂ね。

 でもその前に、やるべきことがあるんだよね。


 「ちょっと、ここで待ってて、この世界地図を行政府の長官に渡して来るから!」


 「仕方ない。早くするのだぞ!」


 「解った。じゃあすぐ行って、すぐ戻って来るから!」


 そして僕は急ぎ、行政府にいるピノネロに新世界の世界地図を渡した。

 ピノネロはその世界地図を見ると、瞳を輝かせて喜んでいた。


 たかが、世界地図ぐらいで大袈裟だと思ったが、ピノネロは行政府長官ではあるが、どちらかと言えば有事の際の参謀総長であり、大軍略家だ。


 ピノネロにとって、世界情勢を知る事は、金銀財宝よりも価値のあることなのだろう。


 おっと、こんな事を考えている場合では無い。早くリリーゼの元に急がねば。そして僕は踵を返して、リリーゼと四聖天が待つラーメン屋に走って行くのだった。

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