第8章 動き出す世界と、煉獄の戦火

第71話 改革中に、思わぬ来訪者


 いや〜いい朝だ。鳥もうるさく無いし、さてと、今日も街がどれほど発展しているか、見にくとしましょうかね。でも何か、凄く大事なことを忘れているような……。まあ、いっか。


 僕が早速、ガリョー四兄弟のリンに新調してもらった、黒のノースリーブのパーカを着て、自室を出ようとすると──突然、肩で息を切るウーグがノックもせずに慌てて入ってきた。


 「ぴ、ピーターさん! 助けて欲しいっす! シヴァさんに立法府で定めた法律を見せたら、全部却下されたっす!」


 おかしいな──確かシヴァの役目は立法府で定めた法律が、上手く機能しているかの仕事のはず。定めた法律に採否の権限は与えて無いのだが。


 「おいウーグ。因みに、その却下された法律は持ってきているか?」


 「え? もちろんすよ。手に握りしめている紙が、却下された法律っす!」


 「解った。ちょっと見せてくれ」


 あの真面目な四獣四鬼のシヴァが、却下を出すほどの法律とは一体なんなんだろう。


 僕はウーグが持ってきた、立法府で作られた法律の紙を見た。


 『イタチの亜人は並ばずに公衆浴場を使える権限』


 『イタチの亜人は並ばずに無料で豚骨ラーメンを食べられる権限』


 『イタチの亜人は貴族用の娯楽施設でいつでも遊べる権限』


 「……おいウーグ! こんな法律は却下されて当然だろ! シヴァじゃなくても、誰だって却下するぞ! これ遠回しに自分だけ楽できる法律じゃねーか! 話しにならねーぞ! 却下だ! 却下! つーか、せっかくの目安箱が意味ないだろ!」


 「ちょ、ピーターさんまで酷いっすよ!」


 「酷くない! 酷いのはお前の非常識な法律だ! もう一回、街中の目安箱の中身を確認して、新しく法律を作りなおせ! つーかウーグ、相手が冷静なシヴァでラッキーだったんだぞ? これがキングベヒーモスやイフリートだったら、ぶん殴られてただろうな!」


 「お、俺っち。そんな酷い法律を作ってたんすか?」


 その言葉に、思わず朝っぱらから大声を出す僕。


 「当たり前だろ! だからシヴァは自分の仕事以外のことも、お前の為に却下してくれたんだ!!」


 「わ、解ったっす! もっと平等な法律を作って、シヴァさんをギャフンと言わせて見るっす!」


 そう言って、僕の実室から走って立法府まで行くウーグ。てか、ギャフンってなんだよ。なんかあいつ……努力の方向性が間違っているぞ。


 ったく、朝から大声出させるなよ……。


 「って、ああああああああ!! ウーグ戻ってこい!!」


 「ど、どうしたっすかピーターさん! 朝から大声出して! 俺っちは早く、立法府に行かないといけないっす!」


 朝から大声出してるのは、お前もだろウーグ。てか思い出した!


 「おいウーグ! 突然だけど、この街の商人ギルドと情報屋ギルドはどうなった!?」


 今度は僕が慌ててウーグに質問した。


 「え? それなら、ピーターさんから国務大臣にするって言われた時に、親戚のウバラ・ガースにすぐ連絡して、商人ギルド長と情報屋ギルド長を任せてるっすよ。何かまずいっすか?」


 「え? ああ。そうなんだ、いやいや、何もまずくないよウーグ君。呼び止めてごめんごめん。早くシヴァをギャフンと言わせないとな」


 「そうっすよ! シヴァさんをギャフンと言わせる為に、早く立法府に戻らないといけないっす!」


 そう言うと、また僕の自室から走って立法府に行くウーグ。

 というか……危なかった〜。情報屋ギルドは別に良いとして、商人ギルド長不在はまずいよな。


 てかウーグのやつ、意外と仕事早いな。もしかして、あいつふざけてる感じに見えて、実はかなり優秀なんじゃ……まあ、完全にギルドのことを忘れていた僕も悪いんだけど。


 しっかし朝っぱらから焦ったな。

 何か冷や汗までかいちゃったし──風呂でも入るか。


 【伝えます。ルストの街に急速接近する、星創級、神代級、伝説級の五つの強大なオーラを放つ生命体を感知しました。高速解析を行使しますか?】


 え? え? もちろんYES!


 【伝えます。星創級の個体名はリリーゼ、神代級の個体名はライマ・テンジンモン、伝説級の個体名はそれぞれ、リョクイ・テンジンモン、セーギュー・テンジンモン、シャユー・テンジンモンです】


 は? なんでリリウヘイズの女帝リリーゼと、四聖天ししょうでんの奴らが急に来るんだよ。


 【伝えます。このままですと、残り3分27秒でルストの街の上空まで接近されます。全能之結界者による防御結界を行使しますか?】


 いや〜。まあ一応リリーゼは同盟国だし。今はNOで。


 そして、僕も飛翔幻舞ひしょうげんぶのスキルを使い、上空で待機することにした。


 しかし、なんでいきなり──っと、なんか人影が見えてきた。と、思ったら余りの速さで接近されたので、僕は吹っ飛んだ。


 「悪い悪いピーター! 思わず吹っ飛ばしてしまったでや!」


 「いや、別にそのことは良いんだけど、来るなら来るって前もって言ってくれよ!」


 するとリリーゼが僕に近づき、言い放った。


 「妾は女帝。好きな時に、好きなように振る舞うのだ」


 はいはい、そうですか。


 「んで、何か大事な要件でもあるのか? 今は改革に忙しいんだけど」


 「いや何、貴様が自国を発展させるために、馬車馬の様に毎日働いていると聞いて、様子を見にきたのだが──なんだその姿は? いつもの教皇の姿ではないな」


 おっ、流石はリリーゼ。すぐに気がついてくれた。てか教皇の姿から、急にパーカー姿になれば、誰でも気がつくか。


 「これはまあ、有事の際や、街中を見て回る時に軽くて便利だから、ドワーフに作ってもらったんだ。それに、教皇の姿よりも動きやすくて戦闘向きだし」


 その言葉を聞いてライマの瞳がキラキラと輝く。


 「おお! 戦闘向きか! じゃあ以前の決着を──」


 「やめい!」


 リリーゼの拳骨が、ライマの頭に直撃した。うわ〜痛そう。


 「痛ってええええ!! 何するんだよ! リリーゼ様!」


 「ピーターの国は妾の帝国の同盟国であり、その国家を纏めるピーターは妾の盟友だ。無闇な乱暴は控えろ」


 「わぁ〜ったよ。でも拳骨はないよな……」


 ライマが大人しくなったので、本題に入ろう。


 「何か話しの途中だったけど、リリーゼは何しにきたんだ? まさか同盟破棄ですか……?」


 それを聞くと呵々大笑するリリーゼ。


 「なぜそうなる。盟友と言ったばかりだろ。まあ、きた理由は噂に聞いた話しではあるが。貴様の国でとても美味な食事があると聞いてたので、来たまでのこと。それに、何やら客人を持て成す面白い場所もある様ではないか」


 ああ、要するに、リリーゼはラーメンやステーキや焼肉が食べたくてきたわけね。ついでに迎賓館の露天風呂や様々な娯楽施設を堪能したく、急ぎやってきたと。


 まあ良いや、リリーゼなら大歓迎! しかも四聖天のリョクイやライマからは、一方的にとは言え返り討ちにしちゃったから、今までのことは水に流して、楽しんで言ってもらおう。


 「所でリリーゼ。スープだったら、どんなスープが一番好きなんだ?」


 「ん? スープ? まあ濃厚で下の上でとろけるスープが一番好きだが」


 「解った。四聖天の皆は?」


 「「「リリーゼ様と同じだ!」」」


 ありゃ〜。やっぱり絶対君主制の国。リリーゼの前で、自分の好みは言えないか。


 「それと、この中で肉が苦手なやつはいるか?」


 「肉? 肉ならこやつらも、妾も大好物だ」


 「解った! ありがとう!」


 じゃあ最初は軽く、豚骨ラーメンをご馳走して、ステーキと焼肉はメインだな。


 「それじゃあ皆! ルストの街に行くから地上に──」


 「おっと忘れておった。貴様に手土産があったのだ」


 手土産? 一体なんだろう?


 「これを渡そうと思ってな」


 リリーゼから手渡しされた物は、世界地図だった。


 しかしだ、ルストの宝物庫で見た世界地図とは違っていた。

 大きな違いはなかったが──前に見た地図よりも、大陸の数が増えていたのだ。


 一体どういう事なのだろう?


 まあいい、地上に降りて食事をしながら、この世界地図について詳しく訊いて見るとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る