第56話 まさかの配下に、そして新戦力
正直な話し、僕は吸血鬼の街ミストスの王であるマラガール王からは見限られ、武力蜂起をする予定だったらしい。
しかし現実は違っていた。
四獣四鬼を結界の外に待機させ、僕とエルとアグニスで、インベントリとアイテムボックスの中に押し込めるだけ押し込んだ、30万人分以上の食料を見て、マラガール王は驚愕の念を隠しきれずにいた。
それもそうだ。何とかするから待っていてくれと言って、一時間もしないうちに──タックルホース1500頭、ビッグウルフ1500匹、山ほどもある大きさのマウンテンコブラ1匹、ハイオーク1500匹、フレイムタイガー2000匹、サハギン5000匹、合わせて、食料の魔物が1万1501匹。
これで充分30万人分の飢えた吸血鬼の食糧になるのだが、迷惑料として、さらにコカトリス1万羽。これには流石の王も頬が緩んでしまった。
というか、今さっきアグニスから聞いたのだが、このミストスは、街であり、夜は王都なのだそうだ。
うーむ。何とも解りにくい──なので僕は、いっそのこと、テレサヘイズ内の領地にある独立吸血鬼国家にして、ミストスは昼も夜も王都にして欲しいと頼むと、益々笑顔になる王様であった。
当たり前の話だ。マラガール王は夜だけの仮の王だったのが、正真正銘の一国の王になったのだから。
っと、そんなことよりも。訊かなくてはいけない事がある。
腹が減っているからと言って、解体もせず、そのまま貪り食うのは、流石にまずいと思い、この街には商人ギルドの解体屋がいるか尋ねると、何といるそうだ。
そして、早速、解体屋に行き食料の魔物、合わせて2万1501匹を見せると、腰を抜かし──急いで、まだ暴血鬼になっていない吸血鬼を呼び、急ピッチで解体作業が始まった。
他の吸血鬼たちが暴血鬼を何とか抑えていると、どんどん解体屋が捌いた肉を街の広場に持って行く。その瞬間、何と生肉の状態で暴血鬼たちが食べ始めた。
「あ、あのお……王様。生のまま食べてますけど、止めなくていいんですか?」
「ん? おお、そうか。人間は知らぬのか。本来吸血鬼が空腹になると、野生の獣や魔獣を捕まえて、その場で食べるのだよ。だから生肉でも焼いた肉でも平気なのだ。それよりも有難うございます、ピーター教皇様。本来なら、責任は元エンジェルヘイズにある所を助けて頂き、誠に感謝します」
あれ? 急に空気変わったぞ。
でもねぇ、あんな姿見たら、助けなくちゃ。元王の尻拭いだが──今は自国の民なのだから。
まあ、もう独立しちゃったから、自国の民じゃないけど……。
「えぇっと、その、王様。当たり前の事をしただけなので、そんな畏まらないで下さい」
「いえいえ、暴血鬼と化した者たちを見てください。自我が戻り元の吸血鬼に皆が戻っていく──王であるのに、自国の民を守れず暴血鬼にしてしまった私は、王失格だ。それにピーター教皇様。貴方様のお力を試すような真似をしてしまい大変申し訳ない。出来れば、私をピーター教皇様の麾下に加えてもらえないだろうか?」
は? 麾下? それって僕の家来になるって事じゃん!
「いや、なんていうか、マラガール王はこの国を支配しています。お話しは嬉しいですが、他の吸血鬼が黙っていないんじゃないかと思うのですが……」
「何を仰りますか。他の吸血鬼たちが、ピーター教皇様を見る目を、よく見て下さい。貴様らに問う! 暴血鬼となった者も聞けい! 私はただ飢えて行くのを見ているだけの暗君だ! 私は今誓った! 吸血鬼の国を捨て、私はピーター教皇様の麾下に入る! 不服の者は前に出よ! 承服する者は拳を上げよ!」
うっるさ! 急に耳元で大声出さないでよ、お爺ちゃんの王様。なんだ? 発作か? ていうか、声が大きすぎて、最後の方は何を言ってるのか聞き取れなかったぞ。
すると、僕の目の前で異様な光景が広がった。
吸血鬼たちが、一斉に拳を上げたのだ。そして『ピーター教皇様万歳!!』と、その場にいた全ての吸血鬼たちが大声で叫んだ。
30万人の吸血鬼の大音声に、地面が揺れている。
僕は一体何が起こったのかアグニスに訊くと、どうやら王様は僕の家来になるそうだ──って、何だよそれ!
「おいアグニス。どうしよう! お前、吸血鬼なんだし、ここはお前の故郷なんだし、とにかくどうにか出来ないか?」
「別にいいんじゃないの? 皆アナタについて行くって言ってるんだから。一国の教皇なら、難民だと思って受け入れてあげなさいよ」
「別にそれは構わないけど、吸血鬼のルールとか僕は知らないぞ……! それに王様を家来にするとか、しかも僕よりも歳が上だし、上っていうか、ほら、見ればどっちが威厳たっぷりか解るだろ?」
しかし僕の言葉は、アグニスには届いていないようだった。
「何を言ってるのか、よく解らないけど。アナタはこの国の王でさえ出来なかった難事を解決して、民の蜂起まで王は止められなかったのに、アナタは力づくで鎮圧しないで、ちゃんと食料問題に着手して、見事ミストスの蜂起を鎮静化させたじゃない。どっちを主君として選ぶか、目の前の吸血鬼たちを見れば、わかるでしょ?」
「うっ……。まあ、なんか僕の名前を叫んで、盛り上がってるみたいだけど……」
この状況──非常に気まずい。食料だけ置いて帰るはずだったんだが。
もう一度、王様に訊いてみるか。
「あの、マラガール王。本当に、ぼ──私の配下になり、私に従うのですか?」
「そう申しましたが。まさか、ピーター教皇様は吸血鬼がお嫌いなのですか?」
「いやそうじゃなくて──今まで王様だった貴方が、自分で言うのも何ですが、こんな小僧の下につくなんて、王としてのプライドが許さないのでは?」
すると、まるで神を崇めるかのように──穏やかに、それでいて恭しく語り出した。
「私は何度も言いますが、暴血鬼になってしまった吸血鬼一人も救えない暗君でございます。そして、ピーター教皇様に出会い、その懐の広さを知り、是非ピーター教皇様の下で心血を注ぎ、テレサヘイズが誰にとっても幸せに暮らせる国家運営の一助になればと思っている次第でございます。そして今日から私は王ではありません。名も無きピーター教皇様の手足でございます」
「は、はぁ。それは嬉しい限りです。で、でも。ピーター教皇様はやめて下さい。何だか恥ずかしくて、ピーターでいいですよ。それと今日からマラガール殿は王ではなくなった。代わりに爵位を授けます。今日からマラガール公爵とし、わ──僕はマラガール公爵をマラガール公と呼びます。それと、これは教皇命令です。マラガール公はミストスの街を守るように。それと、もっと気軽に接してくれ」
マラガール公は、不思議そうに僕を見て言った。
「で、ではピーター様。恐れ多い事ですが質問が一つ……私が授爵し公爵となりミストスの街を守ると言うのは、今までと何も変わっていないような……」
うっ……! 痛いところを突かれた。このままのノリで帰ろうと思ったのに。
「いやいや、多いに違うよ。じゃあ──マラガール公の配下の吸血鬼10万人を、ルストの街の夜間警備隊にしようと思う。それに人間の兵士よりも、吸血鬼の方が夜目が利くだろ? そして残りの20万人の吸血鬼は、マラガール公の下でミストスの街を守ってくれ! 全員がルストの首都に来たら、誰がこんな立派な王宮を守るんだ? だからマラガール公には、ミストスを守るように命じる。そして有事の際は一丸となって、ミストスの20万人の吸血鬼も戦争に参加すること。以上」
はぁ……食料調達よりも疲れたぞ。まあ、これで納得してくれるだろう。
「解りました。ではミストスの中から、腕に覚えがあるものを10万人ルストの街に向かわせ、私はこのミストスの街を守護する務めを全うし、有事の際は総出で粉骨砕身する事をピーター様に誓います。つきましては、少しでもピーター様のお役に立ちたいので、もし宜しければ、ピーター様に真祖之加護を授けさせて頂いても宜しいでしょうか?」
な、なぬ!? 加護だ、と? いや、それってマジで嬉しいけど、いきなり吸血鬼になっちゃうの? そこんとこどうなんだろ?
「あのぉ……加護は嬉しいんですが、その加護を授かると吸血鬼になっちゃうとかじゃ、ないよね?」
「いえいえ、吸血鬼にはなりません。ただ、真祖の権能が行使できるようになるだけです」
【伝えます。真祖之加護とは、覚醒真祖となった
え? マジ?
【マジです。そして吸血鬼にはなりません】
なんか、大宮殿さん、今ちょっとフランクな感じがしたけど……まあ、いいか。
いよっし! これから聖属性のスキルをガンガン使ってくるマギアヘイズと戦うんだし、ここは有り難く加護を授かるとしましょうか。
「で、では。その真祖之加護を僕に授けて下さい」
そう言うと、マラガール公はニッコリと微笑んで、僕の頭の上に右手の掌を乗せた。
「ピーター・ペンドラゴンに真祖之加護を授ける」
ん? 何も変化を感じないが。
【伝えます。個体名ピーター・ペンドラゴンは、アルティメットスキル、真祖之加護を授かりました】
え? おい。真祖之加護ってアルティメットスキルだったの!?
【伝えます。加護は全てアルティメットスキルに該当します】
そうだったのか……これで加護が三つも……というか、最近……補助系のスキルばっかり使ってるような……。たまにはデカい花火を上げる感じで、強力な攻撃スキルとか使いたいよな〜。
【伝えます。スキルの行使は花火ではありません。無闇に強力な攻撃スキルの行使は有事の際まで、控えて下さい】
わ、解ってるよ〜。何となく思っただけだって。
というか、まだお礼がまだだったな。
「マラガール公。貴重な加護を授けてくれて感謝するよ」
「そんなことはありませんよ、ピーター様。これからは、何か不測の事態などが起こった時は、我々を頼って下さい。出来る限り、ピーター様のお役に立てるよう励みます」
「うん、解った。ありがとう。マラガール公」
「つきましては、今日の夜は残った食材で宴会でもと思っているのですが、もし宜しければピーター様や、その御一行様にも是非参加してもらいたいのです……それと、話しは変わって、アグニス。貴様は必ず参加するように」
「は、はい! マラガール公様!!」
アグニスの奴、相当ビビってるな。まあ、ここが生まれ故郷で、そこの元王に命令されれば、ビビるよな。
しかし、宴会か、いいね〜乗った!
「解った! じゃあ夜になったら、皆で宴会だああああ!」
そして僕は、暴血鬼化した者が全員吸血鬼に戻り、太陽の日差しに当たらないように、全員家の中に入るのを確認してから、張っていた陽光遮断結界と神聖多重結界を解いた。
はぁ……なんか偉い人との話し合いって、かなり疲れるな。
でも──やっと宴会だああああああ!!
加護もまた増えたし、武装蜂起も沈静化できた。
何とか教皇としてこの国を守れた。これも全部、エルやアグニスや四獣四鬼の皆のおかげだな。
それに、10万人の吸血鬼軍団が我が国の首都である、ルストの夜間警備隊になってくれるのは、大助かりだ。
しかし、戦争って事後処理が一番大変だって言うけど、本当だな……。
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