第57話 夢にまで見たスキルを獲得、その名も物質創造


 さ〜てと、戦後の事後処理も解決したし、瞬間移動のスキルで転移魔法陣を作り、ルストの王宮の中庭に帰還した我らズッコケ──じゃない、エルとアグニスと僕の最強トリオと、結界の外で待機してもらってた、頼りになる四獣四鬼の面々も夜の宴が楽しみでしょうがない様子だ。


 タイタンも今日は大橋建造をお休みしてもらって、宴に参加してもらおう。


 そして何故、一旦ルストに帰還したかと言えば、今回の戦争で一番の活躍をした功労者である参謀総長ピノネロを宴に呼ばなくてはと思い、ルストに帰還した次第です。


 それと、ウーグも連れて行かないと。今まで色々と助けてもらってきたからね。そんな事を考えながら、参謀会議室まで戻る僕。


 「あっ! ピーター様! ミストスの蜂起はどうなりましたか?」


 自分の力ではどうしようも無い事態に、焦る気持ちは解るが──ピーター様か。前はずっと教皇様って言われてたから、少しは打ち解けたのかな?


 「大丈夫だったよ。ただの蜂起の原因は食糧難だったから、すぐに解決してきた」


 まあ、ミストス周辺の生態系が崩れないかどうかの方が、僕は心配だが……。


 「あり得ないです……戦後の事後処理で一番大変な食糧難を、すぐに解決だなんて……しかし、ミストスは今回の戦争に関わっていなかったはず、なぜミストスで食糧難の問題が発生したのですか?」


 「あぁ、そのことね。早い話がゴーヌ王が超デカい爆弾残して死んだから、今回の蜂起が起こったんだよ。あいつマジで、とんでもない事しやがったんだ。100万人分の兵糧が足りないから、夜には兵糧をすぐ返す約束をミストスの元王に言って、ミストスの元王がそれを承諾して、街の食糧の殆どを渡しちゃったんだ。そこで問題が発生したんだよ──」


 ピノネロはそこまで聞くと、もう全ての原因が解り深く俯いている。


 「つまり、私がその裏事情をゴーヌ王から聞かされないまま、殺してしまったので。本来ならミストスの街に返ってくるはずの食糧が返って来なくなり、食糧が殆どない状態に陥り飢餓が原因で蜂起したと──誠に申し訳ありません。今回のミストスの蜂起は私の責任です。この首一つで済むなら、今すぐ──」


 「おーい! なんでそうなるんだよ!! お前は今回の戦争で一番活躍したじゃないか。悪いのは全部、あのアホのゴーヌ王だよ。それにミストスの元王も食糧問題が解決して、今日の夜は宴会だって言って、僕たちを是非! 宴会に招待したいって言ってくれたんだ!」


 「は、はぁ。宴会ですか……」


 あれ? ピノネロ君。宴会は苦手なのかな?


 「ウヒョー! 宴会っすか! 楽しみっすね!」


 ウーグはいつも通りだな……。


 「なぁ、ピノネロ。気が乗らないなら、無理強いはしないけど。宴会苦手なの?」


 無理強いしたら、パワハラになっちゃうからね。せっかく参謀総長になってくれたのに、宴会一つで互いの信頼関係が崩れるのは避けたい。


 「いえ、違うんです。先程からピーター様が、ミストスの王を、元王と仰られているので、違和感が……」


 「ああ〜、そう言うことね。なんか知らないけど、気に入られて、僕の配下になるって言い出してさ、私はもう王では無い! とか何とか言い出して、面倒になったから、公爵の爵位を授けたんだ。だから今は王じゃなくてマラガール公になった。因みにミストスの街の30万人の吸血鬼も僕の配下になって、有事の際は助けてくれるって言ってたし。人間は夜勤の仕事は体がメッチャ疲れるから、ミストスの街から10万人の吸血鬼が、このルストの街に戦力として来て、夜間警備隊をしてもらう約束もしてきた。ぶっちゃけ戦争よりも疲れたよ」


 それを聞いて、溜息をつきながら呆れるピノネロ。


 「全く、貴方という方は……破天荒というか、何というか……しかし、10万人の吸血鬼の軍は大きな戦力拡大になります。ミストスの蜂起を武力行使して鎮圧せず、蜂起の問題を一国の教皇様自ら先頭に立ち、問題を解決させ蜂起を鎮静化させたから、このような大きな成果を挙げられたのです。流石はピーター様」


 「え? そんな凄い事したのか? てか、そんなに褒めるなよ〜照れるだろ〜」


 「そうっすよ。ピーターさんは褒められると、すぐに調子に乗るクセがあるっす」


 おいウーグ。お前だけ宴会には呼ばないぞ。と、言いたい所だったが、本当の事を言われてしまったので、黙っておいた。


 「まあ、とにかく、武装蜂起は避けられて、しかも吸血鬼軍団の戦力も手に入ったんだ。今日はパァ〜っと宴会だ! それじゃあ今日は夜まで各々、自由時間とする。日が落ちたら、また王宮の中庭まで集まるように。はい解散!」


 そして各自が自由行動を取ることになり、僕はなぜかアグニスと、街で買い出しに行くことになった。


 理由は、宴会の席での酒の調達と、塩である。

 どうやら吸血鬼は生肉も平気で食べられるが、今ミストスの街には塩が無い。その理由は、ゴーヌ王が塩まで借りパクして、そのまま死んだからだ。


 なので王宮での食事に慣れてしまったアグニスにとって、味気ない肉は食べられないそうだ。なのでせめて塩だけでも──と、思ったが。何と宴会用の大量の酒は調達できたが、塩が市場のどこを探しても売ってなかった。


 元エンジェルヘイズとの戦争が始まり、商人たちが塩の値上がりを予測して、買い占めてしまったらしい。


 「どうするのよ! 塩が無い肉なんて食べられないわよ! ピーター! 何とかしなさい!」


 「何で僕に文句言うんだよ! 買い占めた商人たちに言えよ! 別に塩抜きでも空腹なら美味しく──ん? おいアグニス。お前ユニークスキルに空想具現ってスキルがあるだろ? あれで塩を具現化できるんじゃね?」


 そう言うと、アグニスは何とも渋い顔をして言った。


 「確かに可能だけど──アレは強い想像力が必要なのよ……なんていうか、私は現実主義だから、あのユニークスキルは使い勝手が悪いのよね」


 「でもほら! せっかくのスキルなんだから、使ってあげなきゃ! 塩味じゃないと、嫌なんだろ?」


 「はいはい解りました。でも期待はしないでよね!」


 そしてアグニスは両目を閉じて、お祈りのポーズをするように両手を組んだ。


 すると! アグニスの足元にサラサラと、数十グラムほどの塩が具現化された……。


 「ほら! やっぱりこうなる! これじゃあ一人前の量にもならないわよ……スキルの相性って重要よね」


 【伝えます。能力複製により、個体名アグニス・ミルディアンのユニークスキル、空想具現を獲得しました。続けて伝えます。空想具現を獲得したことにより、ユニークスキル、オーバーラックと空想具現を統合し、アルティメットスキル、支配者之天運を獲得できますが、進化させますか?】


 遂にオーバーラックがアルティメットスキルになるのか! もちろんYES!


 【統合完了。ユニークスキル、空想具現と、ユニークスキル、オーバーラックが統合進化し、アルティメットスキル、支配者之天運を獲得しました。続けて伝えます。支配者之天運を獲得した事により、以前伝えた物質創造の権能を行使できるようになりました】


 「…………」


 「どうしたのよ? ブルブル震えて」


 「き、き、来たあああああああああああああああああああ!!」


 「ちょ、こんな人前でいきなり大声出さないでよ!」


 「おいアグニス! 塩の問題は解決したぞ。ついでに言うなら、塩味以外で超美味い肉が食えると約束する!」


 アグニスは、僕の頭がおかしくなったのではと、呆れ返った顔をしているが、きっと僕の事を神様だと崇めるだろう。


 【伝えます。支配者之天運の権能の一つ、物質創造は、使用者の想像力に深く影響します。より正確に、より精巧な想像力があれば、それだけ自身が想像した物を、物質として具現化できます】


 大丈夫だって! 妄想力──じゃなくて、想像力なら自信があるから。


 さあ、来たぞ来たぞ。今日の宴会は大革命が起きるな。

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